~ある程度喘息に移行しやすい患児を見分ける方法: APIを知ってましたか?~

【文献名】
A Clinical Index to Define Risk of Asthma in Young Children with Recurrent Wheezing, Am J Respir Crit Care Med Vol 162. pp 1403-1406, 2000.

【要約】
方法
1246名の幼児とその家族を対象としたThe Tuscon Children’s Respiratory Studyと呼ばれる長期の前向き研究におけるデータを利用した。
親の喘息の既往及び2、3、6、8、11、13歳それぞれの時点での子供の呼吸および健康状態を親に質問紙で確認している。
2、 3歳の時点での喘鳴の有無とその程度(とても稀~ほぼ毎日までの5段階)で確認し、いずれかの時点で喘鳴が聞かれたら”early wheezer”とし、程度のスケール3以上で喘鳴があれば”early frequent wheezer”とした。また、6、8、11、13歳の時点で、医師によって一度でも喘息と診断されたかあるいは診断されなくても3回以上の喘鳴があれば “active asthma”とした。

Majorクライテリア:
 1.医師により診断された両親いずれかの喘息の病歴
 2.医師により(2、3歳の時点で)診断されたアトピー性皮膚炎
Minorクライテリア:
 1.医師により(2、3歳時点で)診断されたアレルギー性鼻炎
 2.(2、3歳の時点での)上気道感染と関係しない喘鳴
 3.(平均10カ月の時点での)4%以上の好酸球増多              (以上Table1)

厳密なAPIとしてはearly frequent wheezerであって、Majorクライテリアの1/2を満たすか、Minorクライテリアの2/3を満たす場合を陽性とした。
緩いAPIとしてはearly wheezerであって、同様にMajor1/2、Minor2/3を満たすものを陽性とした。

結果
緩いAPI陽性の場合は、陰性の場合にくらべて6、8、11、13歳の時点で2.6-5.5倍active asthmaになりやすく、厳密なAPI陽性の場合は、陰性の場合に比べて同様に4.3-9.8倍active asthmaになりやすい(Table5)。
厳 密な基準では特異度(=active asthmaを呈さない就学児がAPI陰性である割合)は6、8、11、13歳どの時点でも96%以上と高く、6、8、11、13歳のうち少なくともどれ か一つの時点でactive asthmaとなる陽性的中率(=API陽性の幼児が就学期にactive asthmaを持つ割合)は76%である(Table6)。
陰性的中率(=API陰性の幼児が就学時にactive asthmaを持たない割合)についても厳密な基準あるいは緩い基準ともに84%以上と高い。

【開催日】
2010年7月7日

~関節リウマチの早期診療~

【文献名】
(1) Patients with suspected rheumatoid arthritis should be referred early to rheumatology. BMJ 2008;336:215, doi: 10.1136/bmj.39381.597454.AE, (Published 26 January 2008)
(2) レジデントノート(2010年4月号 vol.12-No1、2010年5月号 vol.12-No3)

【要約】

The clinical problem
 関節リウマチは成人の1%に存在し、進行性の関節障害をきたす。
  DMARDsによる治療は関節障害や長期的な機能に対して明確に有効であることが示されており、近年、可能な限り早期のDMARDsによる治療が言われて いる。ガイドラインでも症状出現から6週間以内の診断、12週間以内のDMARDsによる治療開始することが推奨されている。
 しかし、実際の臨床では50%程度の患者しかその期間に治療開始となっていない。

Evidence for change
<早期治療の利点> 
  ある12のメタ分析(6つのRCT、6つのコホート研究)では、DMARDsの治療の遅れと早期リウマチ患者(2年以内)のレントゲン所見の進行性に関連 性をみとめた。 早期リウマチ患者に対し、早期治療群とそれ以上治療まで時間のかかった対照群(平均9カ月の治療の遅れ)では、その3年後には早期治療群 は治療まで時間のかかった対照群よりも33%進行が抑制されていた。 また、あるメタ分析(14のRCT)では、最もDMARDsに反応性が高いのは症状 出現から1年以内の患者であると示された。
<どれくらいまでの期間が早期か>
 症状出現後12週が免疫組織学的に区別されるため、その期 間までがDMARDS開始期間として推奨される。 DMARDsによる治療を開始したあるコホート研究では、3カ月以内に治療を開始した群20症例と12 カ月以内に治療を開始した群20症例では、3か月以内に治療を開始した群の方が3年間の追跡で著明に臨床症状、レントゲン所見で効果があった。これらの発 見はとても期待できる結果であったが、今後しっかりとした大規模RCTが望まれる。

Barriers to change
 リウマチ 患者のうち、3か月以内にリウマチ専門医を受診する割合は約半分であり、関節リウマチの明確な診断クライテリアがないため、早期診断はすべての医者にとっ てチャレンジングなものである。多くの患者の関節痛が間欠痛であったり、他方ではNSAIDSによってマスクされている。しかし、近年抗CCP抗体などの ように多くの臨床症状が出現する前に有効な検査が開発されている。

Hou should we change our practice?
炎症性関節疾患が疑われたり、緊急でリウマチ専門医への紹介が考えられる患者においては、炎症性関節疾患があるかどうかを明確にしなければならない。これは、リウマチ因子やレントゲン写真でしばしば正常の場合があるため、これらの結果を待たずに行われるべきである。

関節リウマチの診断(2009 ACR/EULAR共同提案)

100623

【開催日】
2010年6月23日(水)

~無症候性のABI低下患者へのアスピリンは血管イベント予防に効果がない~

【文献】
F Gerald R. Fowkes, Jacqueline F. Price Marlene C. W. Stewart at el: Aspirin for Prevention of Cardiovascular Events in a General Population Screened  for a Low Ankle Brachial Index. JAMA; 303 841-848, 2010.

【要約】

結論
 無症候性のABI低下患者におけるアスピリンは血管イベントを減少させない。

論文のPECO
P:
50-75歳で心血管疾患を持っていない男女28980人にABIを行い、0.90以下だった3350人をトライアルへ。
E:
アスピリン100mg
C:
プラセボ
O:
Primary;    初回の致死的・非致死的心血管イベント、脳卒中、血管再灌流の治療
Secondary; ①上記のPrimary+狭心症+間欠性跛行+TIA ②総死亡

妥当な文献か?二重盲検のRCTでITT分析されている。追跡期間の中央値は8.2年

メリット・デメリットの程度は?
Primary、Secondary共に、介入群と比較郡にて有意差を認めなかった。
                   Hazard Ratio    RRR     NNT
Primary endpoint      1.03(0.84-1.27)     -0.3%    -333
Secondary endpoint
 ①全ての血管イベント   1.00(0.85-1.17)     0.1%     840
 ②総死亡           0.95(0.77-1.16)     0.6%     169

Adverse eventとしては、Major hemorrhage(脳出血、SAH、消化管出血、その他)が介入群の方がHR 1.71(0.99-2.71)で多かった。
NNHは125

【開催日】
2010年6月16日

~BNPに基づいて治療を行っていくことは心不全管理に有用か?~

【文献】
Pfisterer M et al. BNP-guided vs symptom-guided heart failure therapy: the Trial of Intensified vs Standard Medical Therapy in Elderly Patients With Congestive Heart Failure (TIME-CHF) randomized trial. JAMA. 2009 Jan 28;301(4):383-92.

【要約】
背景
心 不全の治療において、Nt-BNPに基づいて行う治療が症状に基づいて行う治療よりも優れているかどうかは定かではない。種々の研究があるようだが、どれ もサイズが小さかったり、フォローアップ期間が不十分であったり、詳細が論文に記載されていなかったりと問題があった。
さらに高齢者は心不全の症状も顕在化しにくくあてにならない。それにもかかわらず薬に対しての有害事象なども多いため非常に治療が難しいが、高齢者に対する心不全管理に対してのエビデンスも乏しい。

目的
心不全において、Nt-BNPに基づく治療と症状に基づく治療の結果を18か月で比較すること。

デザイン,セッティング,患者
randomised controlled multicenter trial
対象者…収縮障害性心不全(EF<45%)であり、NYHA2度以上で1年以内に心不全で入院歴があり、Nt-BNPが正常上限の2倍以上である60歳以上の患者499人。Baselineに差はない。
(強いて言えば、年齢別の比較で75歳以上のほうが
症状が重症であり、BNPも高値であるにもかかわらず、EFが良いくらい)
追跡期間…18カ月
場所…スイスとドイツの15か所の外来診療センター
期間…2003年1月~2008年6月

介入
NYHA2度以下の症状に抑えるように治療していく群(症状に基づいた治療群)
BNPが正常上限の2倍以内とNYHA2度以下に保つよう治療していく群(BNPに基づいた治療群)
(75歳未満では 400pg/ml以下、75歳以上では、800pg/ml以下)

結果
Primary end point
・Hospital free survival(在宅生存率)はBNPに基づく心不全治療群と症状に基づく治療群とで同等(41% vs 40%;HR,0.91[95% CI,0.72-1.14];P=0.39)
・18か月にわたる追跡期間中のQOL測定基準は改善したが、2群間の改善は同等であった。
Secondary end point
全年齢における比較
・HF Hospital free survival(心不全に関する在宅生存率)で両群間に差があった
(72% vs 62%;HR,0.68[95% CI,0.50-0.92];P=0.01)
年齢別(60-75歳、75歳以上の2群)における比較(Figure6,7.)
・60~75歳においてBNPに基づく治療群で結果が改善したが、75歳以上では改善しなかった。(P<0.02)   結果とは...在宅生存率,死亡率、心不全に関する在宅生存率 <参考> 心不全に対する治療的介入率  Baseline1カ月3か月6か月 sympton-guided group77%61%53%52% BNP-guided group86%95%91%90% しかし、症状の改善も、BNP値も両群とも有意差がなかった。(Figure3.) 症状の程度(NYHA分類)とBNP値との関係性についてFigure4.に記載があるが、かなり幅があることが分かる。これによりBNPに基づく治療群では薬物の利用される率が増えてしまうことを示唆する。 有害事象に関して 両群間に有意差なし。(腎機能障害、低血圧も有意差なし。)  しかし、年齢を加味すると、 75歳以上の患者で10.5% vs 5.5%; P=0.12 60-75歳の患者で3.7% vs 4.9%; P=0.74 結論 BNPに基づく心不全治療群は症状に基づく治療群と比較し、臨床的なアウトカムやQOLを改善しなかった。 【開催日】 2010年6月9日

~帯状疱疹後神経痛の新薬リリカは効果があるのか?~

【文献】
 Dworkin et al: Pregabalin for the treatment of postherpetic neuralgia A randomized, placebo-controlled trial.Neurology: 2003;60;1274-1283

【要約】
(目的)
帯状疱疹後神経痛の治療にプレガバリンの効果と安全性を評価するため
(方法)
帯状疱疹の発疹が治癒して3カ月以上痛みがある帯状疱疹後神経痛の患者に対して、二重盲検でプレガバリンとプラセボを8週間投与して比較したRCT。
173人の患者をランダムに割りつけてプレガバリンかプラセボで治療した。
Ccr>60の患者に600mg/日、30<Ccr≦60の患者に300mg/日投与。
主要な効果尺度:最終7日間の疼痛の程度の平均値。
副次的なエンドポイント:他の疼痛の尺度、睡眠障害、QOL、気分、患者と医師の全体的改善率(ratings of global improvement)。

(結果)
・プレガバリン治療群はプラセボ群と比較して痛みが相当軽減した(エンドポイント平均値:プレガバリン群3.60、プラセボ群5.29、p=0.0001)。治療の初日から治療期間を通して、プレガバリン治療群の疼痛は著明に減少した。
・McGillのPain Questionnaireのtotal score,sensory score,affective scoreでも同様に著明な改善がみられた。
・疼痛の平均値が30%以上減少したという患者の比率はプレガバリン群は63%、プラセボ群は25%。疼痛の平均値が50%以上減少したという患者の比率はプレガバリン群は50%、プラセボ群は20%でp=0.001であった。
・睡眠は、プラセボ群と比較してプレガバリン群は改善した(p=0.0001)。
・global improvementは医師、患者両方ともにプレガバリン群はプラセボ群と比較して有意な差があった(p=0.001)。
・最大投与量でプレガバリンはプラセボと比較して、軽度から中等度の副作用がより多く見られたが、受け入れられるものであった。

(結論)
帯状疱疹後神経痛の治療にプレガバリンは安全で、プラセボと比較して疼痛、睡眠障害を緩和するのに対して有効で、全体的な改善もみられる。

【開催日】
2010年6月2日(火)

~心不全へのβブロッカーの使用法~

【文献】
Wilson S C: Use of beta blockers in heart failure due to systolic dysfunction. UpToDate ONLINE18.1, 2009.

【要約】
● 収縮不全による心不全の患者にβブロッカーを使用する場合には、特にカルベジロール、酒石酸メトプロロール、ビソプロロールがHFによる入院を減らし、生存率を改善するエビデンスが出ている。
● βブロッカーの使用はある特定の患者;虚血性と非虚血性のいづれの心筋炎、安定したⅣ度の心不全、女性、黒人、糖尿病のある患者、高齢者にも有用であるというエビデンスがある。
●  最近、または以前に心不全があり、LVEF<40の患者には、βブロッカーによる治療が推奨される。(Grade 1A) 臨床医はrandomized trialsで有用性(全ての原因における死亡率を減らすことを含む)が証明されているβブロッカー(カルベジロール、酒石酸メトプロロール、ビソプロ ロール)を選択するべきである。
● 治療を開始する前に、患者には浮腫がないか、あっても軽度の状態でなければならない。βブロッカーの治療は、退院する前の安定した患者に使用すべきである。
● βブロッカーの治療はACE阻害薬やARB、アルドステロン拮抗薬と併用することにより、ますます有効性が増す。
● 一般的にはβブロッカーが導入される前に、ACE阻害薬が先に導入されている。βブロッカーが先に導入されている文献は限られている。
● 治療はごく少量から始め、目的の量までもしくは症状に限界がくるまで(心不全症状の悪化、症候性の低血圧、50回/分以下の徐脈)、決まった期間で倍量にしていかなければならない。(2週もしくは3週毎など)開始量と目標量は以下のとおり。
● カルベジロール(アーチスト)では開始量3.125mg2x、目標量が25~50mg2x(最大量は体重85kg以上の人が適応)
● 酒石酸メトプロロール(セロケン、ロプレソール)は開始量12.5mg1xまたは25mg1xで、目標量は200mg/日
● ビソプロロール(メインテート)は開始量1.25mg1x、目標量が5~10mg1x
● 治療目標量に到達するために全ての努力を行わなければならない。しかし、最良ではないにしても、低用量でも利益があるようなので、高用量が使えない場合でも投与されるべきである

【開催日】
2010年5月26日

~この腰痛,長引いて医師を手こずらせる?~

【文献】
Roger C, Paul S: Will This Patient Develop Persistent Disabling Low Back Pain? JAMA; 303(13) 129501302, 2010. (Rational Clinical Examination)

【要約】
(この文献の目的)
 腰痛が長引いてこじれやすい患者を予想できるここのリスクファクターの有用性とリスク予想ツールをシステマティックにレビューすること。

(データソース)
MEDLINE,EMBASE。
(文献のInclusion Criteria)
発症して8週以内の腰痛患者をProspectiveに経過を追い、長引いてこじれてしまう腰痛の予測因子をlikelihood ratios(LRs)を計算できる形で評価しているもの。

(結果)
20の文献、10842人の患者が今回のsystematic reviewに含まれた。
<検査前確率>
過去のプライマリ・ケアセッティングにおけるリサーチでは急性の腰痛の
休職や失業保険に対する検査前確率: 11%(3~6か月後),11%(1年後)
長引く疼痛や生活機能低下,複合アウトカムに対する検査前確率: 26%(3~6か月後),21%(1年後)
<個々のリスク因子>
①人口統計的な因子(年齢、性、教育レベル、喫煙、体重)はそれぞれLRは1前後であり有用とは言えない。
②職業関連の因子
初診時にすでに失業保険を受け取っている患者では1年後のLRは1.4。
初診時に仕事に対する満足の低い患者では1年後のLRは1.5。
身体的にハードな仕事の患者では1年後のLRは1.4。
③健康状態
全体的な健康度の低い患者ではLR 1.6(3~6か月後),1.8(1年後)
精神疾患を持つ患者ではLR 1.9(3~6か月後),2.2(1年後)
過去の腰痛のエピソードではLRは1前後であり、有用ではない。
④診察所見
初診時の強い痛み LR1.7(3~6か月後),1.3(1年後)
初診時の生活機能低下 LR1.4(3~6か月後),2.1(1年後)
不適切な対処行動(痛みに対する不安を避けるような行動パターン) LR2.2(3~6か月後),2.5(1年後)
初診時神経根の症状 3~6か月後,1年後ともにLRは1.4
Nonorganic sign(身体的な痛みとは思えない身体所見)が認められる患者 LR2.5(3~6か月後),3.0(1年後)
<リスク予想ツール>
いくつかの文献は独自にリスク予測ツールを提案していたが、利用を推奨するほどの十分なエビデンスは得られなかった。

(限界)
それぞれの文献がそれぞれにリスク因子を定義し、「こじれた腰痛」とういものを定義していること。
LRを計算できない多くの研究が解析から除かれていること
腰痛の真の原因については言及していないため、そのうちのいずれかが「長引く、こじれた腰痛」と関連している可能性があること。(実際には痛みの原因を特定することは難しいため非現実的な話ではある)
解析法がそれぞれの文献でずれがある。

【開催日】
2010年5月26日

~薬剤溶出性ステント挿入後の抗血小板薬併用の期間~

【文献】
 S.-J. Park and others: Duration of Dual Antiplatelet Therapy after Implantation of Drug-Eluting Stents. N Engl J Med 2010; 362:1374-82. 

【要約】
<背景>
 薬剤溶出性ステントを留置した患者に対して、抗血小板2剤併用療法を12か月を越えて行った場合の潜在的な利益とリスクは明らかでない。
<方法>
 Patient: 薬剤溶出性ステントを留置した虚血性心疾患の既往のある患者。
 Exposure: アスピリンに加えてクロピドグレルを併用投与する群。
 Comparison: アスピリンを単独投与する群。
 Outcome: 心筋梗塞または心臓が原因の死亡に差があるか?
  この研究はREAL-LATEとZEST-LATEというランダム多施設の二つの試験にエントリーされた患者を融合したもの。治療に関してはオープンラベ ルだが、データ集積と解析はブラインド化している。ITT解析にて、2剤併用群で99.4%、アスピリン単独群で99.3%がフォローされている。

<結果>
 追跡期間の中央値19.2カ月。2年後の主要転帰の累積リスクは2剤併用群で1.8%、アスピリン単独群で1.2%だった。(ハザード比1.65、95%CI0.80-3.36、P0.17) 
 心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、結構再建術の再施行の必要性、重大な出血、全死因死亡の各リスクには両群間で有意差は認められなかった。
  しかし2剤併用群ではアスピリン投与群と比べ心筋梗塞・脳卒中・全死因死亡の複合リスク(ハザード比1.73、95%CI0.99-3.00、 P0.051)と、心筋梗塞・脳卒中・心臓が原因の死亡の複合リスク(ハザード比1.84、95%CI0.99-3.45、P=0.006)について、有 意でないものの上昇がみられた。
<結論>
 薬剤性ステントを留置した患者に抗血小板2剤併用療法を12か月を超えて行っても、アスピリン単独療法を行った場合と比べて、心筋梗塞・心臓が原因の死亡の発生率の低下に有意な有効性は認められなかった。
 これらの結果については、より長期の追跡を行う大規模な無作為化試験にて、確認あるいは反証する必要がある。

【開催日】
 2010年5月19日

~心筋梗塞の2次予防~

【文献】
Recent developments in secondary prevention and cardiac rehabilitation after acute myocardial infarction. BMJ Mar 2004; 328: 693 – 697; doi:10.1136/bmj.328.7441.693

【要約】
心筋梗塞後の患者では、(1)抗血小板薬、(2)ACE阻害薬、(3)スタチン、(4)βブロッカー のルーチンの使用が大規模臨床試験にて推奨されている。
(1)抗血小板薬
・ 最近のある無作為試験において、アスピリン低用量(75-150mg/日)の使用は二次予防に有効であることが示された。500-1500mg/日の高用量使用はより有効というわけではなく、副作用である胃腸障害をきたす。
・ Clopidogrel 75mg/日はアスピリンアレルギーや胃腸障害のある患者の代替療法として有効であるが、高価である。
・ Clopidogrelをアスピリンに9ヶ月追加する治療は急性冠症候群の患者においてさらに心血管イベントを下げるが、出血のリスクが増加するためルーチンで用いるべきでない。
(2)ACE阻害薬
・ 心筋梗塞後のACE阻害薬使用は、心機能低下症状のある患者や左室機能障害をきたしている患者に推奨されているが、最近の2つの無作為試験では全ての患者において突然死や心血管イベントを優位に減らしたという結果であった。
(3)スタチン
・ スタチンは、心筋梗塞後の患者において心血管イベントや突然死のリスクを減少させる。これは女性や65歳以上の患者に適応となるが、ある無作為試験では性別、年齢、治療前のコレステロール値に無関係という結果であった。
(4)βブロッカー
・ βブロッカーは死亡率、心筋梗塞再発率を減少させる。2つの研究ではβブロッカーを使用することによって心機能を維持されることが確認されている。
・ 最近のある大規模なシステマティックレビューでは、うつ病のリスクを著明に増やすわけではなく、倦怠感や性機能障害のリスクを軽度上昇させるにとどまった。
・ コクランレビューでは軽症から中等度の呼吸器疾患をもつ患者において、短期間の治療の間は呼吸器状態を悪化させないと結論づけており、喘息やCOPD患者 におけるβブロッカーの禁忌について疑問がでてきている。そして、心不全や高血圧、不整脈の患者においてβブロッカーを使用する利点は欠点よりも大きいと 結論づけた。
・ ある研究では喘息やCOPDをもつ心筋梗塞後の患者において、βブロッカーを使用している患者では40%の死亡率の減少が報告され、心不全の患者や80歳以上の患者で有益であることが示された。
・ 最近のある研究では、重度の末梢動脈疾患をもつ患者にβブロッカーを使用すべきであるが、重度ではない末梢動脈疾患においてはあまり有効ではないと示している。
組織的ケア
・ 最近の研究では、心血管疾患の二次予防において組織的ケアが有効であるという結果がでている。プライマリケアと病院の良いコミュニケーション、多面的な業務が一般的に成功するテーマである。
・ 診療所での看護師による心筋梗塞の二次予防も予後の改善を認める可能性がある。
心臓リハビリテーション
・ 心臓リハビリテーションの目的は、患者の機能を適切なものにすることと生活の質を上げること、心血管イベントの再発を防ぐことである。
・ 包括的なリハビリテーションプログラムには、運動トレーニング、行動変容、精神的サポートが含まれる。
・ 最近のコクランレビューでは、心臓リハビリテーションを行った場合に致死率において27%の減少を認めた(オッズ比0.73)。
心理社会的介入
(1)禁煙
・  冠動脈疾患を持つ患者が禁煙した場合、心血管イベントの再発を50%減少されるという研究がなされているが、禁煙する利点のでるタイミングやリスク減少 の割合は、現在議論されているところである。最近のシステマティックレビューでは、冠血管疾患を持つ患者が禁煙した場合、致死率を0.64に減少させた。
・ 禁煙は、冠血管因子を持つ全ての患者において最優先事項である。プライマリケア医にとって、生活習慣の改善、とくに禁煙を成功させることは挑戦である。
(2) 心理学的プログラム
・ 心筋梗塞後、うつ病は一般に生じやすい。大うつ病は15-20%の患者で生じ、大うつ病にならなくとも同様のうつ症状をきたすことも多い。
・ 心筋梗塞後のうつ病や社会的サポートの欠如は致死率を上昇させるが、その正確なメカニズムは知られていない。
・ 最近の研究において冠血管疾患を持つ患者に対して認知行動療法や抗うつ薬を使用したが、29ヶ月後のfollow upにおいても心筋梗塞の2次予防に対して有意な改善を認めなかった。

【開催日】
2010年4月28日(水)

~ラクナ梗塞の2次予防に有効な薬剤は何か?~

【文献】
Gotoh F, et al.: Cilostazol stroke prevention study: a placebo-cintrolled double-blind trial for secondary prevention of cerebral infarction J Stroke Cerebrovasc Dis. 9 (4): 147-57, 2000.

【要約】
(この研究の目的)
本研究の目的は、多施設、無作為、プラセボ比較対照、二重盲検臨床試験を用いて、脳梗塞の再発におけるシロスタゾールの効果を検証することである。
(この文献のPECO)
P:脳梗塞発症後1~6か月以内の患者
E:シロスタゾール100mg1日2回投与
C:プラセボ
O:脳梗塞の再発を予防できるか?
(方法)
期間は1992年4月~1996年3月において脳梗塞発症後1~6ヶ月の患者を対象とした。
シロスタゾール100mg 1日2回投与群とプラセボ投与群に、無作為に割り付けた。
Primary endpointは脳梗塞の再発。最終的に、1095人の患者が登録。うち1052人が残り、シロスタゾール投与群526人、プラセボ投与群526人に割り振られた。
Base lineに有意な違いはなかった。脳梗塞の種類では、シロスタゾール投与群/プラセボ投与群で、ラクナ梗塞が75.0%/73.8%と最も多い割合を占め た。内服期間は632.2±467.7日/695.1±456.3日であった。最終的にプロトコール通り投薬を受けた続けた患者は、シロスタゾール投与群 で250人(追跡率250/544=46%)、プラセボ投与群では279人(追跡率279/548=50.9%)であった。
(結果)
(evaluable population評価可能な集団)1052人の中で121人が血管イベントを生じた。
非致死的なものは48人/69人、致死的なものは0人/4人であった。
シロスタゾール投与群でも脳出血のリスクを上昇させなかった。
脳 梗塞が再発(Primary endpoint)した患者は、シロスタゾール投与群では30人/889.6人年で(3.37%/年)あった。一方プラセボ群では57人/986.0人年 (5.78%/年)であり、RRR41.7% [CI],9.2% to 62.5%(P=.0150)、NNT41.5であった。
また、1067人のITT解析でもRRR42.3% [CI],10.3% to 62.9%(P=.0127)であった。
さ らに、subgroup解析で脳梗塞のタイプ別におけるラクナ梗塞の発生はシロスタゾール投与群で20人/673.8人年(2.97%/年)、プラセボ投 与群で39人/743.4人年(5.25%/年)であり、RRR43.4%[CI],3.0% to 67.0%(P=.0373)、NNT43.9であった。

【開催日】
2010年4月21日(水)