胃がん健診目的の胃内視鏡検査

―文献名―
Hamashima C, et al. A Community-Based, Case-Control Study Evaluating Mortality Reduction from Gastric Cancer by Endoscopic Screening in Japan. PLoS One. 2013;8(11):1-6.

―この文献を選んだ背景―
 9年ぶりに本邦の胃がん検診ガイドライン(GL)が改定された。2005年GLは胃内視鏡検査は推奨グレードIで、対策型検診としては薦められず、任意型検診においては△であった。
 今回の2014年GLでは、胃内視鏡検査は推奨グレードB、対策型検診、任意型検診とともに推奨。検診間隔は2-3年。と変更されている。http://canscreen.ncc.go.jp/
 胃カメラ検診を推奨する根拠となった元論文の一つを選びHCFMの皆様のご意見を伺ってみたいと考えた。

―要約―
【目的】
 胃内視鏡検査によって胃がん死亡率の減少を評価すること

【方法】
 内視鏡での胃がん検診を導入している鳥取と新潟を対象とした症例対照研究
 ・症例群:死亡診断書とがん登録より2003-2006年に鳥取県内の4都市と2006-2010年の新潟市において胃がんで死亡した患者を抽出した。(条件:40-79歳、他疾患を除外、診断日不明を除外)さらに、地区の情報から内視鏡検診歴を確認できるものを症例群とした(Figure 1)
 ・対照群:疾病がない期間が確認でき、同じ移住地で、性別、年齢を条件に割り当てた。
 検診(胃内視鏡検診か胃X線検診)を受診した群を胃がん診断日より12.24.36.48ヶ月にわけて、検診なし群とオッズ比を計算した。Conditional ロジスティック回帰モデルを利用した

【結果】
 症例群は410人(男性288・女性122)で対照群は2292人。
 症例群(胃がん死)で36ヶ月以内に胃内視鏡検診を受けていたのは10.8%、対照群では14.3%が胃内視鏡検査を受けていた。その際の胃がん死亡のオッズ比は0.695(CI 0.489-0.986)であった。他の群では有意差は認めなかった。(Table 2)

【結論】
 胃がん診断日より36ヶ月前に内視鏡検診をうけた人では検診なしと比較して胃がん死亡を30%減少する。

【開催日】
2015年8月5日(水)

リーダーシップを体系的に学ぶための入門書

―文献名―
リーダーシップ3.0 〜カリスマから支援者へ〜.小杉俊哉.祥伝社.2014

―要約―
カリスマ型のリーダーは必要なのか?現場の第一線が自律的に働き価値を提供したり提案をあげたりすること(ボトムアップ)、中間管理層が活発な議論と組織の上下左右に対して働きかけ活性化すること(ミドルアウト)がなければ組織は立ち行かないことは自明である。このような状況をもたらすためのリーダーシップがリーダーシップ3.0である

<時代によるリーダーシップの変遷>
・リーダーシップ1.0:権力者がヒエラルキーの頂点に立ち、指示命令による中央集権的に組織を支配する。画一的なサービスの大量提供には向いていてるが、多様なニーズに応える柔軟性がない

・リーダーシップ1.1:各事業部に責任者を置き、そこに権限を委譲して責任を持たせることで組織全体をコントロールする。しかし事業部内で現場とマネジャー間の対立を深め、階層による厳格な管理、効率重視による賃金のみによる動機付けは従業員の独創性を削いでいった。またトップから各事業部に下った指示にフィードバックをかける仕組みがなかったため、急激に変化する環境に対応しきれなくなった

・リーダーシップ1.5:権力によって率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど協調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する。従業員がわくわくするものを見つけ出し、意図的にそれを持続させたり、終身雇用、年功序列、労使協調に代表される手法で価値観を一体化させたりする。いわゆる企業戦士が登場した。しかし当初は有効だった価値観に基づく行動パターンが形骸化した。退職したもの、職を失ったものはその瞬間、収入以上のものを失うこととなった。また個人の目的が不要、あるいはいかにそれを組織に合わせるかが問われた。また組織重視のためコンプライアンスの低下をもたらし、CSR(企業の社会的責任)が問われる事件が頻発した。

・リーダーシップ2.0:いわゆる「変革のリーダーシップ」。組織の方針を提示し、大胆に事業領域や組織の再編を行い、競争や学習を促し、縦割りの部門間、社員間の交流、活性化により組織を変革する。経営コンサルタントを雇い、新たな経営戦略を策定し実行した。しかしカリスマ個人の力量に依存するところが大きく、破壊的イノベーションには対応しにくい。またカリスマに依存し社員が受け身になる。トップが答えを持っていないと企業全体をミスリードしてしまう。経営コンサルタントに依存するとどの企業も同じような分析になり、差別化できない。

<リーダーシップ3.0>
  生まれた背景:外部環境が急激に変化する中で、企業のトップの最大の課題は、いかに新しいビジネスモデルを作るかに尽きる。そのためには1)アンラーニング(成功体験の否定)、2)ベンチャー思考(想像性を発揮しリスクをとる)、3)非連続性の発想、である。今まではトップ20%の人材と信頼関係を作っていればよく、下位の人材は入れ替えれば良いという考え方が主流であったが、これらを達成するためには、顧客により近い現場のリーダーに権限を渡し、トップは彼らを支援し、そこで彼らが活躍できるような場にすることが必要になる。つまりトップ20%だけでなく、全社員に対して注目する必要があるという認識がなされるようになってきた。ここから、人間を機械とみなすのではなく、個人のコンピテンシー(業績者には単にスキルや知識があるだけでなく、「良好な対人関係の構築力」「高い感受性」「信念の強さ」など複数の特性が見られる)、いわゆる人間力を重視していくこととなる。上下関係ではなく、社員を社内顧客として扱う。リーダーシップをあえて一言で表すなら「信頼」(by トーマス・ピーターズ)とも言われるようになった。

  支援者としてのリーダーシップ3.0:リーダーは組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を涵養する。と同時に個人個人とも向き合い、オープンにコミュニケーションを取り、働きかけて組織や個人の主体性、自律性を引き出す。組織全体をそのような場として整える。コミュニケーションは、組織の階層を通じて行うこともあれば直接現場の担当者に対して行うこともある。またそのコミュニケーションの対象は必ずしも社内に限らず、社外の参画意識を持った人々とのコラボレーションも促す。このようにして組織自体や組織内外の人々に対して支援することによってリーダーシップを発揮する。組織全体の価値創出のために個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて一体となれる組織が実現され、個人個人が自律的に動くことで優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。その点在する個人が事業に共鳴し参画意欲とともに集まり組織化され、試行錯誤を繰り返し、既存の情報を自分たちの目的に合うように新しく組み直し、新しい製品、サービス、生産システム、経営システムを作り出せれば、それがイノベーションとなる。
  リーダーのコミュニケーションは、メンバー一人一人と向き合う双方向性が必要になる。コラボレーションを絶えず促すような動きを、リーダー自身がとる必要がある。その点から人間性や人間味も非常に重要になる。
  サーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ)、羊飼い型リーダーシップ(リンダ・A・ヒル)、コミュニティシップ(ヘンリー・ミンツバーグ)、オープンリーダーシップ(シャーリーン・リー)、コラボレイティブ・リーダー(ハーミニア・イバーラ)、第5水準のリーダーシップ(ジェームズ・C・コリンズ)なども、このリーダーシップ3.0を示している。
  裏付ける理論:マネジメント2.0、場の理論とマネジメント、モチベーション3.0、マーケティング3.0、U理論などもリーダーシップ3.0を支持する内容となっている。

<3.0リーダーに必要とされるもの>
 要素1「ビジョンを持ち語る」

 要素2「リーダーになる」:ビジョンを持っている、情熱を持っている、誠実である、信頼を得ている、好奇心と勇気を持っている

 要素3「ミッションを持つ」:自分のギフトに気づき、それをミッションに生かす

 要素4「他者を支援するという自然の成長に従う」:40代に訪れると言われる「中年の危機」を迎えると今までの勝ちパターンが使えなくなる。そこで新しい自分のアイデンティティを確立する必要がある。そこで将来世代の幸福に対する関心が生まれる。

 要素5「人間力を磨く」:人を惹きつける独特の雰囲気、確固とした人生哲学や豊かな人間性、周囲の人を熱気に巻き込んで実現する人心掌握、社会的善を経験的に知っている、無理な目標を「できるかもしれない」と思わせる影響力、遊びも尋常でなく多様な人間を通して審美眼が磨かれている、場の状況を読み適切に対応することで他人の共感を呼び起こす

 要素6「仮面をとる」:リーダーは弱さを見せていい。自分の弱点を受け入れ、他者の不完全さも受け取る。フォロワーはリーダーが完璧であるからついていこうと思うのではない。ふとリーダーの弱みや人間的なところを見た時、なんとかこの人の足りない部分を支えたい、この人に成果をあげさせてあげたいとついてくる

 要素7「ファシリテートする」:場を提供し、フォロワーが自律的に動くように支えるためには、リーダーがファシリテーターの役目を果たすことが必要。問題解決アプローチではなく、ポジティブアプローチで。

 要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」:なぜやるのかを伝え、どうやるかは任せるのがエンパワーメント。どうやるかも指示するのが権限移譲。

 要素9「動機付けを行う」:外発的動機付けは機能しなくなっている。内発的動機付けとして「人と協力すること」、「仕事内容そのものに満足」、「自分で選択できるということ」がある。上司の期待と、任せられるという責任感が動機付けになる。

【開催日】
2015年8月5日(水)

患者はどの健康リスクをどのくらい重要と考えているか~構造化された評価からみる健康リスクの患者自身が選ぶ項目と優先度~

―文献名―
Phillips SM,at el.Frequency and prioritization of patient health risks from a structured health risk assessment.Ann Fam Med. 2014 Nov-Dec;12(6):505-13.

―この文献を選んだ背景―
 我々は日々時間がない中で外来診療をしているが、なかなか行動変容にまで結びつけることができないで不全感を抱いてはいないだろうか?効率よくアプローチする手段はないだろうか?今回、それに関するアイデアの一つとなりうる論文を紹介したい。

―要約―
【目的】
 頻度と患者が記述した変化への受け入れを記述し、プライマリケアでの13の健康リスク因子の重要性を議論すること。

【方法】
 9つのプライマリケア診療所の患者1707人がMOHR(My Own Health Report)  trialの一環でgeneral(一般的な)、behavioral(行動上の)、psychosocial(心理社会的な)リスク因子を報告した。BMI、健康の状態、食事、身体活動、睡眠、薬物使用、ストレス、不安または心配、抑うつである。我々はそれぞれの回答をat riskかhealthyに分類した。また、患者が変化するための準備ができているか、かつ/もしくは、ケア提供者と同定されたリスク因子について議論したいと思っているかを示した。患者が最も重要と考えている変える備えがあるリスク因子を1つ選んでもらった。因子ごとや因子間の回答された頻度の解析や患者背景ごとや施設間での多様性を検討した。

【結果】
 患者は平均5.8個(SD=2.12;rage,0-13)の不健康な行動と心理的なリスク因子を持っていた。約55%の患者が6個以上リスク因子を有していた。患者は1.2個について変えたいと考えており、0.7個議論したいと考えていた。最も一般的なリスク因子は不適切な「果物/野菜摂取」(84.5%)、「過体重/肥満」(79.6%)であった。患者は「BMI」を改善したいと考えている人が最も多く(33%)、次いで「抑うつ」(30.7%)であり、議論したがってたのは「抑うつ」(41.9%)、「不安、もしくは心配」(35.2%)であった。結論として、患者は最も重要視していたのは「健康状態」であった。

【結論】
 プライマリケアにおけるルーチンの包括的健康リスク評価でおそらく行動と心理社会的な健康リスクの多くを同定できる。患者の優先度を確認することによって、ケア提供者と患者とが診療をより良くマネジメントでき、行動変容につなげていけるものと考える。

【限界】
 ・ランダム化されていない。一般化可能性も限界がある。(様々な診療圏、患者規模など診療所選択には
  配慮しているが)
 ・その後、医師などへ情報が行き、ケアに活かされるなどの流れが十分患者に伝わっておらず、回答が
  不十分になった可能性がある。
 ・既往歴、通院歴、患者医師関係などを確認していない。
 ・横断研究であるが故、日々の生活を含んだコンテクストや患者医師関係等のリスクを把握できて
  いない。 
 ・時間変化、最終的なMOHRを用いた結果を評価できていない。
 ・リスクの数が多すぎた可能性がある。

―考察とディスカッション―
 家庭医の外来は扱うプロブレムの多さもあり十分な時間はない。その中で患者の関心事、潜在的な問題にしっかりと効率よくアプローチする必要性は大きい。今回、この文献では彼らが健康リスクと考えている事項をピックアップすることができ、かつ改善したいと考えているリスクや、医療者と相談したいと考えているリスクが浮き彫りになった。これは米国の研究であり、全てを目の前の患者にあてはめることは難しいが、一考に値する。また、これらの質問を診療所だけで施行し、介入を行うだけではなく、保健師や他の団体と協力しながら活用することも考えると良いと思われる。

 みなさんならこの情報をどのように活用できそうですか?

【開催日】
2015年7月22日(水)

健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の有効性

―文献名―
Alexander C Ford, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMJ. 2014 May 20:348:g3174.

―要約―
【目的】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に除菌治療を行うと、プラセボや無治療と比較し、胃癌発症を減らせるか。

【方法】
 Systematic review and meta-analysis of RCT

【情報源】
 Medline、Embase、Cochrane(~2013年12月)、会議録(2001~2013年)、関連研究の参考文献。言語による制限なし。2人の独立した研究者で評価し、不一致あれば合意形成。

【採用基準】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の胃癌発症減少効果を調べたRCT。除菌治療は最低7日間。対照群はプラセボまたは無治療。追跡期間が最低2年間。

【主要アウトカム】
 除菌治療による胃癌発症減少効果(RR:relative risk)

【結果】
 1560文献が検索され6件のRCTを採用、Random effects modelで結果が統合された。除菌治療群3294名中51名(1.6%)、対照群3203名中76名(2.4%)に胃癌が発症し、RR0.66(95%信頼区間0.46-0.95)で有意差があった。研究間の異質性なし(I2=0%、P=0.60)。除菌治療効果が生涯続くと仮定すると、NNT16(中国人男性)からNNT246(アメリカ人女性)と人種性別によって幅あり。なお、日本人男性NNT16、日本人女性NNT23であった。

【限界】
 妥当性の高いRCT(Cochrane handbookによる評価)は6件中3件のみ。除菌レジメンが研究間で異なる。有害事象の検討はされていない。

【結論】
 アジア人健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療は、胃癌発症予防効果あり。

【開催日】
2015年7月22日(水)

長期尿道カテーテル留置患者の閉塞

―文献名―
DJ Stickler and RCL Feneley. The encrustration and blockage of long-term indwelling bladder catheters: a way of forward in prevention and control. Spinal cord (2010)48, 784-790

―この文献を選んだ背景―
 訪問診療を受ける患者には尿道留置カテーテルが挿入されている人も少なくない。そのなかで閉塞を繰り返して頻回の訪問看護での出動となったり、医療材料の供給で規定を超える数が必要となって自己負担いただく事例が多い。その原因について調べたところこの論文にあたった。

―要約―
目的
 細菌のバイオフィルムの結晶によってFoleyカテーテルが硬い層で覆われ、閉塞するかを説明した文献を概観することで、長期膀胱内カテーテル留置をうける患者のケアのなかでこの合併症を制御するための戦略を導き出す。
方法: 1980年から2009年12月までに発表された文献のPubMedの広範な検索を‵バイオフィルム´‵泌尿器へのカテーテル法´‵カテーテル関連尿路感染症´‵尿路結石´の語を用いて行い、妥当な論文を探し出した。

Nature of encrustration
 カテーテルに付着した結晶の分析からストルバイトとアパタイトの2種類が中心ということが示された。電子顕微鏡での解析は多数の桿菌が結晶生成に関連していることがわかった。培養の結果、ウレアーゼ産生菌が主体となっていた。ウレアーゼが触媒となってPHをあげ、リン酸マグネシウムとリン酸カルシウムの結晶化が引き起こされる一方で細菌のバイオフィルムが形成される。このプロセスはカテーテルを閉塞するまで続く。Proteus mirabillisの感染が実験上でも疫学的にも主因となっていた。

Controlling the rate of crystalline biofilm formation
 P.mirabillis感染を受けたカテーテル挿入された患者の前向き研究ではカテーテル閉塞が起こるまでの時間は2-98日と幅があった。閉塞を決める重要な要因は尿PHと同定され、pHが高ければ高いほど、カテーテル閉塞まで長くなる。P.mirabillis感染モデルの実験結果ではpHが8.3を超えるとバイオフィルムの結晶は形成されなかった。健康なボランティアでの研究では単純に水分量を増やしクエン酸摂取でpHを上げることができる。

Epidemiology and pathogenesis of P.mirabillis infections
 長期カテーテル留置を受ける44%の患者でP.mirabillisが尿検体から同定されている。留置カテーテルは膀胱結石の重大なリスクとなっており、Chenらは脊髄損傷患者1336人のコホートの病歴を解析し、受傷後最初の1年でカテーテル挿入されてない人と比べて9倍のリスク上昇と報告している。Fenelyらによると膀胱鏡検査の結果、カテーテル閉塞する62%で膀胱結石が発見され、膀胱結石が見られた90%の患者にP.mirabillis感染が起こっていた。

結論
 カテーテル挿入された尿路への出現を発見次第の抗生剤加療によるP.mirabillisの除去は、多くの患者のQOLを改善させ、カテーテル閉塞の合併症を管理するうえで現状の資源の浪費を減らせるかもしれない。すでに慢性的に閉塞し、結石形成している患者に対しては、抗生剤治療はバイオフィルムの結晶内に細胞が潜むことから効果的である見込みはない。クエン酸飲料と飲水量増量といった戦略は膀胱結石除去するまでカテーテル問題をコントロールできるかもしれない。

【開催日】
2015年7月15日(水)

リーダーシップと人との関係

―文献名―
ロナルド・A・ハイフェッツ/マーティ・リンスキー 著.竹中平蔵 監訳.第4章 政治的に考える in 「最前線のリーダーシップ」.p111-144.ファーストプレス.2007.

―この文献を選んだ背景―
 マネジメント・ケース・カンファレンスにおいて、リーダーには以下の2つのスキルが求められると感じた。問題の所在をあぶりだすスキルと、適応を推進するスキルである。適応を推進するのはリーダーにとっても危険を伴う行為である。このJournal Clubでは、リーダーがある程度のリスクヘッジをしながら適応を推進するために必要な5つの方法のうち、今回のケースにいくらか関連があると思われた「政治的に考える」という方法を紹介する。

―要約―
政治的に考えるうえでの6つの根本的な視点
 成功するリーダーに共通するすぐれた資質の1つは、人間関係の大切さを理解する力だろう。とくに選挙で選ばれる政治家にとっては、人間関係は空気と同じくらい大切なものだ。政治家にとって、ある主張がもたらす利益やそれを進めるための戦略は、判断要因の1つでしかない。彼らは人脈を最重視する。相談でき、ともに目の前の問題解決に取り組むことができる人々のネットワークをつくり、それを大きくすることに労力を注ぐ。リーダーシップを発揮する際に「政治的に考える」上での6つの根本的な視点がある。1つは、あなたの側にいる人々との関係からの視点、もう1つは、反対の立場の人々との関係からの視点。そして残る4つは、自分の立場を明らかにせず慎重になっている人々を動かすための視点である。

視点1:パートナーを見つける
●パートナーは、あなた自身とその活動を助けてくれる。論理的な主張や証拠に頼るだけではなく、政治的な力も築ける。パートナーの口から自分とは別の見解を聞くことは、アイデアの改善にもつながる。
●変えることが最も困難なグループのなかにいるパートナーこそが、最も重要な役割をもたらす。
●パートナーがどこまでなら協力してくれるのかを把握するためには、彼らがすでに持っている協力関係やその協力相手に対する責任感の度合いを知っておく必要がある。

視点2:反対派を遠ざけない
●リーダーシップを発揮しながら生き残り、なおかつ組織を変えることに成功するためには、支持者とともに作業するのと同じくらい緊密に、反対の立場の人々とも一緒に作業に取り組まなくてはならない。
●不安を抱きながらそれを無視して進むよりは、その不安を、自らの脆弱要因であるとともに、反対はグループにいかに強い脅威を与えているかを示すシグナルととらえるべき。それは、やがて直面する抵抗の端緒であり,放置しておけば自体は悪化してしまう。

視点3:自分が問題の一部であったことを認める
●もしあなたが組織で責任ある役割を担っており、その組織に問題が起きているとすれば、あなたにも問題が起こった責任の一端があり、問題が手つかずになっている理由の一部があなたにあることはほぼ明らかである。あなたがもたらそうとしている変革の障害になりうる部分が、あなたの行動や価値観の中にもあると知っておく必要がある。たとえ人々をよりよい場所に導こうとしているとしても、自分がいまの状況に何らかのかかわりがあることを理解し、その責任を認める必要がある。
●あなたが誰かを非難したり、だれかに自分がやりたくないことをやらせていたりするとき、彼らにとって最も簡単な選択肢は、あなたを排除することだ。その問題は「あなた対彼ら」という構図になってしまう。しかし、もし彼らと一緒に問題を直視し、その問題に関する責任の一部を引き受けるのであれば、あなたは自分が攻撃されるリスクを軽減できる。

視点4:喪失を認識する
●人々は理由がはっきりしているのであれば、犠牲をいとわない。犠牲を払うだけの価値があるのかどうかを知る必要がある。しかし、希望にあふれた未来を示すだけでは不十分であり、変化に伴ってだれが何を喪失するのかを明確にし、それをしっかりと認識する必要がある。
●あなたが人々に求めている変化は困難なもので、人々にあきらめるように求めているものには大きな価値があることを認識し、それを明確に示す必要がある。彼らとともに悲しみ、喪失を記憶する。あなたが本当に理解しているということを人々に納得させるには、たいていの場合、声明よりもより目に見える、公式の何かが必要となる。例えば、人々に求める行動を自分がモデルとなって示すことなど。

視点5:自らモデルになる(上記参照)

視点6:犠牲を受け入れる
●もし人々が変化に適応できなかったら、取り残されることになる。そして犠牲者となる。これは組織やコミュニティが大きな変革をけいけんするときには、事実上、避けられない。適応できないか、一緒に進もうとしない人々は必ずいる。あなたは、彼らを守り続けるか、彼らを犠牲にしても前進するかを選ばなければならない。犠牲者を出すことに耐え切れないほどの苦しみを覚える人々にとっては、このようなリーダーシップは大変なジレンマである。しかし、これはリーダーの仕事の1つなのだ。
●犠牲者を出すことを受け入れるかどうかは、あなたが本気で取り組もうとしているかどうかを示すシグナルとなる。もしあなたが犠牲を出したくないというシグナルを発するのであれば、それは、態度を決めかねている人々に対して、あなたの取り組みは無視してもらって結構と言っているようなものだ。現実の危機無くして、なぜ人々が何かを捨ててまでいままでのやり方を変えようとするだろうか。

―考察とディスカッション―
 リーダーシップは諸刃の剣であり、用いる人間にも危険が伴う。また、適応の障害は人々の中だけではなく、自分の中にもあることを、リーダーは認識しておかなければならない。今回扱った内容はリーダーシップの要所のうちのほんの一部ではあるが、今回扱ったここまでの内容について、自分にも思い当たることはあるだろうか?あるとすれば、そうした場面で自分はどのような行動をとっているだろうか?そこにはどんな難しさがあるだろうか?自分のリーダーシップを振り返るきっかけとして活用いただきたい。

【開催日】
2015年7月15日(水)

敗血症の治療方針(Early goal-directed therapy:EGDT)は時代遅れなのか

―文献名―
Ling Zhang, Guijun Zhu, Li Han and Ping Fu .Early goal-directed therapy in the management of severe sepsis or septic shock in adults: a meta-analysis of randomized controlled trials:BMC Medicine (2015) 13:71

―要約―
【背景】
 The Surviving Sepsis Campaignガイドラインでは、early goal-directed therapy (EGDT) が、重症敗血症または敗血症性ショックの患者の致死率を下げる重要な戦略だとしている。しかしながら、その効果は不明である。

【方法】
 1966年1月から2014年10月までのMedline, Embase, the Cochrane Library, Google Scholar, Chinese database (SinoMed)といったデータベースにある文献を渉猟した。
重症敗血症または敗血症性ショックに対するEGDTに関する全てのランダム化比較試験について、システマティックレビューおよびメタアナリシスを行った。プライマリアウトカムとしては致死率、セカンダリーアウトカムとしてはICU滞在期間、入院期間、人工呼吸器管理、昇圧剤、輸液、輸血とした。Review Manager 5.2を用いて、相対リスク、95%信頼区間を算出した。

【結果】
 2011年~2014年までの10のRCT、4157人の患者を組み入れた。全ての研究で、EGDT群とコントロール群では致死率に有意差を認めなかった(RR 0.91, 95% CI: 0.79 to 1.04,P = 0.17)。異質性の検定ではχ2 = 23.65, I2 = 58%であった。サブグループ解析では、標準EGDT群(注1)は、修正EGDT群(注2)と違って、通常治療(注3)に比較して低い致死率だった(RR 0.84, 95% CI: 0.72 to 0.98, P = 0.03)。しかしながら、EGDT群は、早期に乳酸除去をした群と比較し、より高い致死率であった(RR 1.52, 95% CI: 1.06 to 2.18, P = 0.02)。最初の6時間で、EGDT群は通常治療に比較して、より昇圧剤が投与され、輸液され、輸血をされていた。ICU滞在期間、入院期間、気管挿管率、昇圧剤投与については有意差を認めなかった。

注1:標準EGDT…治療開始6時間以内のCVP8~12mmHg、平均血圧65~90mmHg、尿量0.5ml/kg/h以上、中心静脈酸素飽和度(ScvO2)70%以上を保つ方略
注2:修正EGDT…標準EGDTを簡素化したもの(CVP、ScvO2を計測しない)
注3:通常治療…元文献によるが、おおよそ輸液量、昇圧剤の使用量はEGDTに比べて少量

【結論】
 EGDTは、重症敗血症、敗血症性ショックの患者にとって生命予後を改善しないようである。EGDTは早期乳酸除去群と比較してより高い致死率であった。早期乳酸除去(※)をするEGDTについての、質の高いRCTが施行されることが望ましい。

※乳酸除去治療…おそらく持続的血液透析濾過治療(CHDF)のことを指す

【開催日】
2015年7月1日(水)

プライマリ・ケア看護師の担うべき役割と必要な能力

―文献名―
斜森 亜沙子, 森山 美知子.我が国のプライマリ・ケア機能を担う診療所における看護師の担うべき役割と必要な能力.日本プライマリ・ケア連合学会誌 38-2;2015;102-110

―要約―
【目的】
 プライマリ・ケア診療所において、診療所の果たすべき機能とそこで働く看護師の役割、必要な能力を明らかにする。

【方法】
 プライマリ・ケア診療所に勤務する医師6名と看護師11名を対象に、フィールド調査(面接法及び参加観察法)を実施し、質的機能的分析を行った。

【結果】
 プライマリ・ケア診療所には「外来機能」「在宅支援機能」「地域支援機能」の3つが抽出され、それを支える看護師の役割として「個人及び家族の健康を守る役割」「人々が住み慣れた場所で安心して療養でき/最期を迎えることを支援する役割」「地域の健康問題に対処する役割」、これらの機能を支える「診療所をマネージメントする役割」の4つのカテゴリーが、役割に対応する能力として9カテゴリーと、プライマリ・ケアを実践する専門職者に必要な4つの基本能力が抽出された。

【結論】
 診療所におけるプライマリ・ケア看護師は幅広い役割と能力が必要とされていることが明らかになった。

―考察とディスカッション―
 この論文で抽出された役割・能力は幅広いものであるが、どの項目も必要と思われるものであり、病院でのセッティングでは習得が困難なものと思われる。そのため、まずはこのような能力とそれを習得していくための教育の重要性をスタッフが認識することが第一かと思われた。今後、リハビリや栄養士など、他の職種にも同様の検討が必要と思われる。

みなさんの現場では、
 ・役割/能力の必要性を感じたことはありますか?
 ・特にどのような役割/能力を重点的に習得すべきと思いますか?

【開催日】
2015年7月1日(水)

医師における性別役割分担 ―診療時間と家事労働時間の男女比較―

―文献名―
安川 康介,野村 恭子,医師における性別役割分担 -診療時間と家事労働時間の男女比較-,医学教育,2012.8:第43巻,第4号,p.315-319

―要約―
【背景】
 日本における女性医師の数は近年増加傾向にあり、平成 22 年度の厚生労働省の調査によれば、全医師に占める女性医師の割合 18.9%、29 歳以下の医師では 35.9%となっている 。しかし、現在の医療現場において、女性医師が仕事と出産・育児を両立することは難しく、離職せざるを得ない女性医師は少なくない。日本医師会調査によれば、約 4 割の女性医師が休職・離職を経験しており、約 4 人に 1 人は 6 カ月以上の休業・離職を経験していた。同調査では、女性医師の 64.1%が女性医師としての悩みは「家事と仕事の両立」であると回答し、勤務形態が常勤以外の女性医師の 44.3%が常勤ではない理由として家庭と育児を挙げている。

【方法】
 平成21 年6 月の時点で都内某私立大学医学部同窓会に所属する会員1,953 人中、連絡先住所不明の607 人を除いた1,346 人(男性1,030 人 女性316 人)に自記式調査票によるアンケート調査を行った。
 調査内容は年齢、婚姻の有無、結婚年齢、配偶者の仕事(女性のみ)、子供の有無、主な所属機関、就労形態、「社会的には育児はまだまだ男性よりも女性の仕事である」に対する意識、週当たりの診療時間、週当たりの家事労働時間である。
 年齢、婚姻状況、子供の有無、就労状況、職場、診療時間と家事労働時間について性別で差があるか否か有意差検定を行った。

【結果】
 回収数は男性452 人、女性224 人、回収率はそれぞれ44%と71%であった。
平均年齢は女性が43 歳と男性(48歳)に比べてやや若く、婚姻率は男性が高く(67% vs 88%)、子供を持つ割合も男性で高かった(64% vs 78%)。婚姻している女性は159名(71%)おり、76%が男性医師を配偶者に持っていた。
 週当たりの診療時間については男性の中央値(IQR)が50 時間(40,60)であるのに対し女性では40 時間(30,55)と低かった(p<0.0001)。一方週当たりの家事労働時間については男性の中央値3 時間(0,8)に比べ女性の中央値は30 時間(15,42)であった(p<0.0001)。 【結語】 1)医師における性役割分担の実際について検討するため、都内某私立大学医学部同窓会に所属する医師を対象に、診療時間と家事労働時間に関する任意無記名の質問紙調査を実施した。 2)週当たりの診療時間は男性の中央値が 50 時間、女性では 40 時間と女性の方が短いが、週当たりの家事労働時間は男性の中央値 3 時間に比べ女性は 30 時間であった。 3)診療時間に家事労働時間を加えた労働時間は、男性医師よりも女性医師の方が長かった。 4)本研究では、医師という専門職においても性別役割分担が存在していることが認められた。 【開催日】 2015年6月17日(水)

認知・発達・関係性を統合してみる「self-authorship theory」

―文献名―
Sandars, J., & Jackson, B. (2015). Self-authorship theory and medical education: AMEE Guide No. 98. Medical teacher, (0), 1-12.

―この文献を選んだ背景―
 診療所での家庭医療教育を行う際に、学習者の個別性を評価して(学習者診断)、教育目標や方略をそれに合わせて変えていくことが重要である。我々の持つ学習者診断の枠組みの幅広さや深さが教育の幅広さ・深さに影響すると言えよう。今回は学習者を統合的に見る視点について解説した文献に出会ったため、紹介する。

―要約―
【背景】
 未来の医療職には、技術の進歩、疾患の複雑性、患者中心性、他職種連携などの背景から、知能的成長(cognitive maturity)だけでなく、文化的・心理的・社会的発達(development)が求められるが、competency基盤型教育だけではこうした側面の成長に対処することは容易ではない。知的成長の最も本質的な側面は、「意味を形成すること」、つまり、自分の周辺の様々な情報を受け取り、それを踏まえて自分が持っている前提を批判的に理解し、変えていくことである。個人としての発達は定義しにくいが、「Fully functioning person」に近づくための道のりと言える。Fully functioning personとは、自らの信念・価値を自覚しながら、それを用いて自発的な自己決定ができる人物と言える。こうした知的発達・個人的成長を統合してみる際の視点としてself-authorship theoryを紹介する。

【self-authorship theoryの特徴】
constructive-developmentalな視点からの理論である。Constructiveなので、学習に対しては「学習者が積極的に意味を作り上げる」という見方をするし、developmentalなので、時間経過を重視した見方をする。
実際の10代後半から成人期の学習者の観察に基づいた理論である
他の発達理論と比べるとより、統合的な複数の次元で学習者を分析した理論である

【self-authoshipの段階】
①Keganがはじめにself-authorshipを段階的に記述している。
 ・幼少期は人間は衝動的な感情を用いて、物事を分類する
 ・思春期早期になると、他人の影響を受けて形成した社会化した考えを用いて行動し、しばしば自分の行動を他人の影響のせいにする。
 ・思春期後期から20代早期には殆どの人が自分の意思決定や行動に個人として責任を持つようになる。こうした人たちはもはや他者に頼らない知識・信念・価値を持つようになっている。この段階をself-authoshipと呼ぶ
 ・最後に30-40代になって達成される段階として、自分自身がより広い世界の要素であるという理解を持つ段階がある。
②Magoldaが20代前半から30代後半までの追跡的な研究を行って、上記の段階の変容を研究している。
 ・特に、self-authoringのプロセスを進行させる刺激となるようなエピソードがあった。
 ・それを彼女は「crossroads」と呼び、自らが持つ世界観に対する内省を惹起し、未来に向けた新たな世界観を得るような刺激とした。こうしたcrossroadsは学生にとっては「驚き」の瞬間であり、例えば、他の文化圏からの人物と直面するとか、研究を実践に当てはめる困難さについての文献を読んだ、といった例があった。

【self-authorshipの3つの側面】
 Magoldaは、self-authorshipには三つの相互に影響する側面があるとした。人がself-authorshipを構築するまでの道のりの中でこの3つの側面それぞれにおいてどんな段階にいるかは、一人一人違うが、ある程度のパターンがあるということも記述した。
①cognitive dimension;how do I knowについての側面であり、知識の性質・限界・確実性についての認識を表している。人はまず知識を絶対的なものと見なすところから始まり、徐々により知識を不確実・グレーなものと見なす方向へ発達する。Self-authoredになると、様々な相反する多様な視点を理解しつつも、意思決定のために必要な「自分が取るスタンス」も選択できる。
②intrapersonal dimension;who am Iについての側面であり、他者の評価から形成した自己認識がよりそれに依存しない、内面化した信念・価値体系に基づいたアイデンティティの構築に至る。自己の現在のアイデンティティだけでなく、未来の専門家としてのアイデンティティまで形成することが必要となる。
③interpersonal dimension;how do I want to construct relationships with othersについての側面であり、他者が持っている多様性の理解から始まり、その多様性に対する許容性が有効な関係性には必要であると認識する方向へ発達する。それに基づいた成熟した関係性を構築するようになる。

―考察とディスカッション―
 この文献では、教育に適用するためのモデルとして、learning partnerships modelを取り上げており、以下の3つの教育経験を学習者に積ませることが学習者の知的成熟・人間的発達に重要としている。
 ・知識が(白黒・絶対的ではなく)複雑であること
 ・知識を構築する上で中心となるのは他ならぬ自己であること
 ・有効な学びには、多様な視点を共有して許容する必要があること
 この三つを伝えるための基盤として、学習者が安全にself-authorshipの段階を超えられるようなサポートと、超える必要性を生むようなchallengeの二つがあるとしている。

①上記の三つの要素を教える上で家庭医療の考え方はどのような関係があるだろうか?
②上記の三つの要素を伝えるために、皆さんは教育の上でどんな工夫をしているだろうか?

【開催日】
2015年6月17日(水)