小児の滲出性中耳炎へ私たちがなにを行えるか?

―文献―
Effect of nasal balloon autoinflation in children with otitis media with effusion in primary care: an open randomized controlled trial. CMAJ. 2015 Jul 27

―要約―
【背景】
 滲出性中耳炎は4-5歳で46%の有病率を有するありふれた疾患であるが、抗生物質や抗ヒスタミン薬を始めとする非手術療法では根拠に基づく治療法はないと言われている。そんななか鼻でバルーンを膨らませる自己耳管通気はプライマリケアで幅広く使われる可能性を秘めているが、その有効性を示す根拠はいくつかの病院セッティングの小さな試験に限られてきた。そこで私たちは、プライマリケアの場面でみつかった小児の滲出性中耳炎に対する自己耳管通気の臨床的有効性についての実用的試験での知見を報告する。

【方法】
 2012年1月~2013年2月までの英国の17のプライマリケアトラストのなか43の総合診療部門で患者を募った。学校に通う4-11歳の子供を適応基準としたうえで、過去3か月の難聴や耳に関連した問題の病歴を聴取し、滲出性中耳炎の確定に耳鏡とティンパノメトリーが実施され、片側ないし両側typeBを滲出性中耳炎と定義した(Table 1)。直近の中耳炎や手術の既往や予定、ラテックスアレルギーや直近の鼻出血を認める場合除外した。
上野先生図3
 介入の性質上、プラセボを用いることは不可能であり自己耳管通気を1日3回に通常ケアを加えた群と通常ケア群に割り付け、1ヵ月後・3ヵ月後にティンパノグラムと耳関連のQOL尺度であるOMQ-14を用いて評価を行った。

【結果】
 1235人の子供が適格基準に当てはまり、320人が無作為割り付けされた。脱落は1ヵ月後で8.4%、3ヵ月後で12.2%と良好に追跡されていた。通常ケア群と比べて、自己耳管通気を受けた子供では鼓膜聴力検査上の改善が多くみられ、1ヵ月後には補正相対リスク比で1.36(95%CI:0.99-1.88)、3ヵ月後で1.37(95%CI:1.03-1.83)となり、NNT=9だった。一つ一つの耳ごとに改善を見た場合は1ヵ月後でも有意な結果となった。3ヵ月後のOMQ-14の研究開始時からの変化の平均も自己耳管通気群でより向上が見られた。通常ケアとの補正変化量は-0.42ポイント(95%CI:-0.63 – -0.22)となった。
 開始1か月で89%の親が「ほとんど使用できた」、もしくは「毎回使用できた」と回答した。副作用には鼻出血の頻度がわずかな違いしかみられなかったが、上気道感染は治療群でより多くみられた(15% v 10%)ただ多くは軽度の熱のでない鼻風邪程度だった。
上野先生図4上野先生図5

【結論】
 この研究で若い学童期の子供の滲出性中耳炎への自己耳管通気はプライマリケアで実用的で、中耳の浸出液を排除し、耳に関連した症状と子供と親のQOLを改善させる有効性が示された。NNT9という数値は滲出性中耳炎治療の現状に利益をもたらす非侵襲的治療の選択肢と考えられ、OMQ-14の中等度の改善は重要で勇気づけられる結果となった。ひろく自己耳管通気が行われることで、現状の決め手に欠ける滲出性中耳炎に立ち向かえる日が来るかもしれない。

―考察とディスカッション―
 室蘭のセッティングでは急性中耳炎の治療に関わる機会は多いものの、症状に乏しく遷延した状態の滲出性中耳炎の診療に関わる機会があまりなかった。論文を読み、耳鼻科通院でなかなかよくならないという話を振り返ると滲出性中耳炎診療の限界と困難さをうかがい知るとともに、プライマリケアから新たなエビデンスを創出しようという気概を感じ、総合診療といいながら滲出性中耳炎を耳鼻科の領域として関わろうとしてこなかった自分に気づくことができた。

ディスカッションポイント
 ①滲出性中耳炎の診療経験とそこで得られた気づきはありましたか?Otoventは使えそうですか?
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 ②滲出性中耳炎のように根拠のある治療方針がなく、困った経験はありませんか?

【開催日】
 2016年2月3日(水)