【EBMの学び】アレンドロンからデノスマブへ

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年2月6日
【臨床状況のサマリー】
 89歳女性。歩行は問題なし。閉経後で、骨粗鬆症に対してビスホスホネート製剤(BP薬)を内服中。しかし認知症が進行しており、内服忘れなどが目立つようになってきた。近所に住む息子さんが早朝と朝食後に薬を運ぶようにしていたが、負担に感じていた。そんな折に、半年に1回の注射製剤(デノスマブ:プラリア®)があると聞いたため調べることとした。カルテでは2014年1月から当院フォロー。当院フォロー後からBP薬内服の記載あり。T-score -6.22。

 P;閉経後のBP薬を使用している女性
 I(E);BP薬からデノスマブへ変更した場合
 C;BP薬のままのときと比べて
 O;骨粗鬆症に関連する骨折の頻度が増えない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Effects of Denosumab on Bone Mineral Density and Bone Turnover in Postmenopausal Women Transitioning From Alendronate Therapy
  1.up to dateで「骨粗鬆症」を検索
  2.「Overview of the management of osteoporosis in postmenopausal women」の「Overview of available therapies」の項目に
    「Denosumab」あり。効果に関しては”Denosumab for osteoporosis”を参照する様に書かれていたのでリンクを参照。
  3.「Efficacy」の「Effect on BMD」に「After Alendronate」の項目あり。参照論文が一つあったのでそれを選択した。

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;アレンドロン酸70mg/wで6か月以上治療している55歳以上の閉経後女性
 I(E);デノスマブ60㎎皮下注+プラセボ内服
 C;プラセボ皮下注+アレンドロン酸継続
 O;12か月後のtotal hip BMDの変化率
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
  P:アレンドロン酸の量が異なる。日本では35mg/wが一般的。年齢について55歳以上は合致するが、Tableを参照すると、89歳という高齢女性は
    組み込まれていない。また全員がカルシウム1000mg/日、最低でもビタミンD400IU/日を内服しているが、これも合致しない。
  I,C:特に異なる点はなし。
  O: 立てていたアウトカムは骨折の頻度であったが、論文ではBMDの変化率であった。これは合致しない。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない)
   どう異なるか?:介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 T-score変化率はデノスマブで1.90%(95%CI 1.61-2.18%)
 アレンドロン酸で1.05%(95%CI 0.76-1.34%)
 変化率は0.85%(95%CI:0.44-1.25%)

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 上記は変化率の計算だったので、絶対値に換算(T-score -4.0とした場合)
  デノスマブ:0.076(0.064-0.087)
  アレンドロン酸:0.042(0.03-0.053)
  変化量は0.034(0.02-0.05)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 95%CI 0.44-1.25% であり、-0.35%をまたがない。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 適用すべき患者の年齢と骨密度検査値が論文のPatientとは違う。また、当院では橈骨遠位端でのBMD検査である。カルシウムやビタミンのサプリ内服もしていない。BP薬の内服量も違うということもあり異なる点は多いが、適応不能ではないと判断。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 アレンドロン酸よりは実行可能と思われる。保険適応の問題もない。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 アレンドロン酸35㎎は安くて314.7円。デノスマブ60㎎は28482円。
 1年が52週とすると、アレンドロン35㎎(16364円)、70㎎(32728円)。
 デノスマブ60㎎は56964円。金額的にはかなり差がある。更にデノスマブは長期予後・副作用が明らかでない。
 副作用は両群間に差はなかった。低カルシウム血症はデノスマブ群で1例見られたが、一時的なものであった。骨折については副作用として何例か報告されているが有意差はなし。
 FRAXを計算し、元々のT-score -6.22で、最大0.087上昇したとすると、Hip fracture 44%→46%になる。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 認知症のため、正確に評価は難しい。今後は施設入所も考えており、皮下注射があることで入所制限がかかる可能性も考慮する必要がある。通院が可能であれば早朝に起きて飲むよりは楽と思われる。患者は認知症のため、朝から薬を持って行っているのは近くに住む息子さんである。早朝と、朝食後の2回に分けて薬を持っていくのは負担になっており、導入は負担の軽減につながると考える。

付記
★FRAX(10年間の骨折発生リスクについて)WHO
転倒による顔面骨折既往歴あり
★アドヒアランスに関する論文
Influence of patient perceptions and preferences for osteoporosis medication on adherence behavior in the Denosumab Adherence Preference Satisfaction study
★8年間の追跡研究
The effect of 8 or 5 years of denosumab treatment in postmenopausal women with osteoporosis: results from the FREEDOM Extension study.
★非劣性試験と同等性試験について
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02971_04

【開催日】
2016年2月10日(水)