プレゼンスマネジメント

― 文献名 ―
 コーチングのプロが教える プレッゼンスマネジメント 「仕事は外見で決まる!」    日経BP社 2009.06

― この文献を選んだ背景 ― 
 保有している認定コーチングの資格更新のために受けたアドバンストコーチングのテーマの一つに「プレゼンスマネジメント」のセッションがあり、その内容をもう少し深めたいということで手に取った書籍。家庭医の診療やそれ以外の仕事にも役立てられそうなためここで紹介します。

― 要約 ―

 本書でいうプレゼンスマネジメントとは人間としての「ハードウェア(見てくれ、顔の作り、背の高さなど)」ではなく、ノンバーバルと言われる「ソフトウェア(視線、声のトーン、人との距離など)」を指す。よって、当人の努力次第でいくらでも改善できる要素であることが重要である。その外見作りを「プレゼンスマネジメント」とします。例えば、現在のアメリカの多くのビジネスリーダー、政治家などは自分にプレゼンスマネジメント専門のコーチをつけているとされています。彼らはどのように自分をみせるかをトレーニングされています。
 我々には無限の時間があるわけではなく、多くの人に、限られた時間で、信頼を勝ち取りビジョンを示さねばならない、そのためにプレゼンスをマネジメントすることが必要とされます。リーダーは内面だけでなく外見をつくることにも責任をもつべきです。
 本書では全11パートのレッスンから成り立ちますのでその要素を要約して抜粋します。

(1)「あご」の位置をマネジメントする
  × ・・・ あごを挙げて横目でみる(あげる・・・偉そう ずらす ・・・ 隠し事あり の印象)
  ○ ・・・ あごを下げてまっすぐみる

(2)「眼」をコントロールする
ポイントは3つ
 ① 多数が相手なら5秒ずつ眼を合わせていく。
 ② 眼の表情を知る(自身の感情の動きと眼の癖を知り、「優しい眼」を意識的に作れるようにする)
 ③ まばたきを適正化する(多すぎると落ち着きなし、少なすぎると威圧的な印象を与える)
 
(3)声で自分の話をマーキングする
 大事なポイントを声で表現するコツは3つ。淡々とした流暢な話は耳に残らない。
 ① 大きな声のポイント
 ② ゆっくりな声のポイント
 ③ 低い声なポイント

(4)距離を武器にする
 まずは自身のパーソナルスペースを知ること(相手にどこに立っていて欲しいか 癖を読む)
 基本は相手のパーソナルスペースを超えないところで。しかし決定的な緊張をもって話したい時はあえて超えて話す技術もある。

(5)相手の警戒心を緩める
 表情と声と言葉が紹介されています。
 表情:ソフトアイ・・・要は「優しげな顔」を意図的に作る
 声:ペーシング・・・相手と波長を合わせた声のトーンとする
 言葉:前置きして断定表現を避ける ・・・警戒心を緩めるためには有効。

(6)最高の「聞き姿」をつくる
 皆さんは自分の「聞き姿」を意識していますか?ポイントは7つです。
 視線、まばたき、口元、うなづきの頻度、姿勢、足の位置、手足のうごき

(7)最高の「話しかけ方」で相手の心をつかむ
 話しかけ方は「3つの輪」をイメージして話すことが紹介されています。
 第1の輪:自身一人が入っている輪。要は独り言レベル。・・・良くも悪くも注目を浴びます。
 第2の輪:自身と相手が入っている輪。パーソナルな輪・・・「思い」を語る際に有効です
 第3の輪:自身と聴衆皆が入る大きな輪。・・・客観的な情報やルールを多数に伝えるのに有効。
 状況に応じて、この輪を自在に使い分けられるようにするとよい。特に皆さんはきちんと「第2の輪」を使いこなせていますか?

(8)本当に伝えたい「素材」を探してから話す
 相手を引き込む話をしたい場合は、自身が感動したポイントがどこなのかを「探すこと」そして、それをなるべく具体的に「描出」すること、この2点が相手の心を動かすために重要です。
  × ・・・「海がとってもきれい」
  ○ ・・・「海面から30m下の海底がはっきり見えるんです」

(9)相手の存在を承認する「まなざし」を身につける
 「承認」はもちろん大事なのですが、ここでは「まなざし」の作り方として、相手を複眼的にみることを推奨しています(全人的に扱うのは家庭医としては得意技ですよね!)

(10)最高のパフォーマンスを作り出すための「儀式」を用意する
最高の心身状態に入るための儀式は知らずに持っていることも。言語化してみましょう。
例)イチローが打席に入るときの特徴的なバットさばき など。

(11)自分の軸を確立する
 最も難しく最も大切なこと。「リーダーとして(ここは様々に変化)最も大切としたいことは何か?」という質問に答えられるかどうかが指標。これがぶれるとおのずとプレゼンスもぶれてしまうため、常に問いを持ってプレゼンスをつくること。

― 考察とディスカッション ―
 今回はコーチングの一環で読み始めた書籍だが、家庭医のパフォーマンスでも十分応用のきく内容が多く、自身の外来やスタッフへ対し方を振り返るきっかけになった。ビデオレビューではよくノンバーバルのフィードバックがかけられることも多いと思いますが、さらに深いフィードバックとして今回の知識も活かせるのではないでしょうか。
 さて、皆さんは自身のプレゼンスマネジメントで意識していることはありますか?

開催日:平成26年2月12日

金銭的インセンティブは会社の業績を上げるか?

― 文献名 ―
 ジェフリー・フェファー.ロバート・I・サットン.「事実に基づいた経営」.155-190.東洋経済新報社.2006.

― この文献を選んだ背景 ―
  先日のFMS-EoでのHCFMを高機能組織とするためのハード面整備の議論の中で,人事考課の話題が言及された.医療の分野では人事考課という考え方について,どのような判断材料をもっているべきなのか.この点についての組織知を拡張したいと考え本文献を選択した.

― 要約 ―

【事例の紹介】
(事例の要約)「金銭的インセンティブは,単純で,明確で,誰もが納得し,ズルができない指標があって,どんなやり方をしてもその指標を上げることだけを考えればよい」という局面でこそ有効である.
1.サフェリテ・グラスの実践(アメリカの自動車用ガラスの最大手)
 金銭的インセンティブシステムで44%生産性が向上した.サファリテのいくつかの特徴はインセンティブシステム成功の重要な鍵と思われる.ⅰ)仕事は定型の作業として覚えることができ,独立して作業できる.チームワークは必要なく,個人ベースのインセンティブでチームワークが損なわれることはなかった.ⅱ)品質をモニターすることが容易であったため,従業員は仕事の質を犠牲にして早さを求める分けにはいかなかった.ⅲ)従業員のゴールは単純明快で一元的だった.ガラスを落とさないように気をつけながら,できるだけ早く組み込めばよかったのである.「出来高が簡単に測れ,品質の問題もすぐわかり,誰がやったか明確」ということが,個人のインセンティブを使うのに適していた.インセンティブシステムの失敗は,インセンティブが機能しなかったのではなく,機能しすぎた場合が多い.

2.ゴミ回収ドライバーにインセンティブシステム導入(ニューメキシコ市アルバカーキ市)
 「5時間で回収を終わったドライバーは,5時間分の時給と,3時間分のインセンティブ報酬を受け取ることができる」というもの.結果は,2002年に最もインセンティブ報酬を受け取った24人のドライバーのうち,15人は埋め立て場にいつも重量制限をこえたトラックで現れていた.また,気をつけていれば予防可能な事故が頻発するようになった.予想外の結果として,「安全性の低下,オペレーションコスト,法的責任,顧客不満の上昇」が認められた.

【金銭的インセンティブが行うこと】
1.インセンティブによる動機付け効果
 やる気が高まったとしても,上がるのは努力量であって,少なくとも短期的には能力まで向上するわけではない.努力量を上げさせようとする仕組みは,基本的に努力をすればするほど良い結果が得られることを前提としている.この仕組みは従業員がどうしたら仕事を効果的にできるかが分かっており,会社の仕組みや技術が業績の本当の問題ではない時に初めて機能する.
 金銭をやる気の源泉にする仕組みは,仕事の成果は個人次第であり,個人の行動が組織の業績につながることを前提としている.しかし,ある電力会社の幹部は報酬が会社の業績とリンクしていたのだが,電力会社のコストや単価は気温で決まり,フロリダの夏はあつければあついほど電力が消費された.この幹部はフロリダにやってきた夏に報酬が大幅アップした.彼は「フロリダの気候をコントロールできるならインセンティブシステムは有効だろう」と皮肉を漏らしていた.このように,もし業績が社員のせいでなかったり,社員の努力が業績につながらなかったりというように前提が成り立たなければ,金銭的インセンティブによってやる気が上がったとしても,業績には何の結果ももたらさないし,もたらしようがない.逆に,金銭的インセンティブを目指して一生懸命働いたのに,結果が出ないのを見た社員は,逆に欲求不満となりやる気をなくす.

2.社員に組織の価値感を示す情報効果
 社員は評価制度をみて経営が何を本当に重要と考えているのかを知る.インセンティブによって行動が協力にコントロールできるという面ではよいのだが,経営層がその行動の意味するところや,微妙な影響をよく理解していなければ裏目に出る.問題は,企業のビジネスモデルが,1つか2つの行動だけが重要だというような大変シンプルなものでない限り,典型的な金銭的インセンティブは何が重要かを伝えるには,単純すぎる限られたツールであるということだ.かといって,複数の基準があるインセンティブシステムは,複雑すぎて行動をうまくコントロールできない.個人の成績が複数の相互に絡み合った面を持ち,組織の業績を上げるために知恵と判断が必要な場合には,単純なシグナルは往々にして間違う.例え仕事が複雑でないとしても,社員がどのようにして目標を達成するか,すべての可能性を考えることは不可能である.仮にそれができたとしても,長くて分かりにくいルールや条件のリストができ,システムはあちこちが抜けて機能しなくなる.

3.正しい人材をひきつけ,間違った人材を排除する選別効果
 同僚と競争して勝つことに興味を感じる人材は,高い業績が高い報酬に繋がる会社を選ぶ.しかし,自社のインセンティブシステムにひかれて応募してきた者が本当に採りたかった人材かどうか別問題である.「金に釣られて入社する奴は,金に釣られて辞める」(タンデム・コンピュータ 元CEO トレイビッグ).また,インセンティブシステムは報酬格差を生むが,これは人間関係を壊すかもしれない.報酬や評価に格差をつけることは,成績が客観的に測定でき,かつ成績が共同作業でなく個人だけの努力の結果であるときに意味がある.正しい人材は必要な協力を行うべきであるという考えに基づけば,ちょっとした協力が不可欠な仕事の場では報酬格差はほとんどいつもマイナスの影響を与える.大学教員の調査では,学部内の給料の格差は,仕事の満足度の低下,協力の低下,研究生産性の低下に繋がっているとの結果もでている.29チーム,延べ1500人のプロ野球選手の調査では,基本給,過去の成績,年齢,経験の全てを勘案しても,選手間の格差が大きいチームほど選手の成績が悪いことが分かっており,格差の大きいチームほど勝率が低い.野球はメンバー間の調整や協力が比較的少ないにも関わらずである.

全ての組織でこの3つのメカニズムが働いている.しかし同時に,動機付け,情報を与え,ひきつけようとした社員に対して,予想外に業績を下げる効果が働くことも多い.金銭的インセンティブが業績を上げるというのは,危険な「半分だけ正しい」常識である.間違った報酬システムは,社員が「自分は公平に扱われているか」「組織が自分を本当に大切に考えているか」を理解するシグナルとなることを考えると,大変危険である.

― 考察とディスカッション ―

 医療には,①多職種による協力が不可欠,②目指すべき目標が複数あり複雑(経営指標,患者の健康,安全性,倫理的要素など),③これらにおいてやる気と目標指標達成の間に直線関係が必ずしも成立しない,④各職種の業務量が単純に医療機関の売り上げにつながるという関係にない,などの特徴がある.インセンティブシステムが人間関係を壊し,間違った行為(非倫理的,コンプライアンス低下)を誘発するリスクについて,十分検討しておかなければならないだろう.また,インセンティブシステムを各職種に適用しても医療機関の売り上げに直接結びつく構造にないため(i.e.診療報酬は医師の医療行為によって規定されているし,患者の動員は外部環境にも依存する),システムの原資を獲得する土台がないことにも留意が必要である.

開催日:平成26年2月19日

レボチロキシン(チラーヂンS)の内服時間

― 文献名 ― 
 Thien-Giang Bach-Huynh, Bindu Nayak, Jennifer Loh, Steven Soldin, and Jacqueline Jonklaas

Timing of Levothyroxine Administration Affects Serum Thyrotropin Concentration
J Clin Endocrinol Metab. 2009 October; 94(10):905-3912.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2758731/

― 要約 ―

Context: レボチロキシンは、食事による吸収阻害を防ぐため朝食前に内服されている。TSH濃度はレボチロキシンの効果の指標である。

Objective: レボチロキシンのTSH濃度に対する効果が、食事摂取と関連した内服のタイミングで変化するかを検討する
Design: 参加者はランダムに6つに振り分けられ、それぞれが8週間のレジメンを3ターム行うクロスオーバーデザインで実施される。3タームのレジメンはそれぞれ朝食前・就寝前・朝食時での内服。TSH・freeT4・freeT3濃度が各レジメンで測定される。
参加者のレボチロキシンの投与量は変更せずに実施された.
Primary outcomeは、他のレジメンと朝食前のレジメンとのTSH濃度の相違。

Setting: academic medical centerで実施された

Participants: 甲状腺機能低下症または甲状腺癌の治療のためレボチロキシンを内服している患者

Results: 65人の患者が参加。朝食前内服の平均TSH濃度は1.06 ± 1.23 mIU/L。朝食時内服の平均TSH濃度は有意に高かった(2.93 ± 3.29 mIU/L). 就寝前内服の平均TSH濃度もまた優位に高かった(2.19 ± 2.66 mIU/L)。

Conclusion: 朝食前以外のレジメンでは、TSH濃度が高く、またばらつきが大きかった。特定のTSHの目標値が望まれ、それにより医原性の潜在性甲状腺疾患を避けるならば、朝食前のレボチロキシン内服により最も狭い目標範囲でのTSH濃度が確保されるだろう。

― 考察とディスカッション ―

この研究では8週間のレジメンなので、長期間の効果は不明であった。
しかし、自分自身では飲みやすさから食後で処方してしまうことが多いので、調整がより困難な患者さんに対しては、朝食前(それが難しければ就寝時)に処方変更することを検討したい。

開催日:平成26年2月19日

教育者の12の役割 -組織と指導医個人の教育の振り返り・討論のために-

― 文献名 ―
 Ronald M. Harden and Joy
Crosby. AMEE guide No.20 The good teacher is more than a lecturer – the twelve
roles of the teacher. Medical Teacher. 2000;22:334-347

― この文献名を選んだ背景 ―
 我々は家庭医指導医として、日々家庭医療診療と同時に医学生・研修医教育にも当たっている。我々が自らの役割や活動を振り返る時に、家庭医療診療に関しては、ACCCCやPCCM/統合ケア/癒し、地域包括ケアといったように比較的なじみのある枠組みが多く、容易に自らの活動の全体像を思い浮かべることができる。しかし、医学生・研修医教育についてとなると、学習者の個別事例ベースの振り返りや、卒前・卒後という見方はあるものの、全体像や具体的活動を俯瞰する枠組みは意外になじみがないのではないだろうか。今後フェローシップにおける応用も考えている、教育者としての活動を俯瞰するにあたり有用なフレームワークを紹介したい。

― 要約 ―

・モデルの背景
 自己主導型学習、問題解決型学習といったカリキュラムの考え方や、ポートフォリオなどのパフォーマンス評価、ITなどの技術の影響など、医学教育において様々な変化が起こっている。特に学習者中心性を強調する流れは、教育者の役割を大きく変えつつある。こうした変化の中で、求められている教育者の役割が何なのかについてフレームワークを提案している。

・モデルの作成プロセス
3つの情報源、すなわち①ある医学校のカリキュラムの作成・実行において求められる教師のタスクの分析②12人の医学教育者の3ヶ月の日記とそこでの教師の役割についてのコメントを分析した研究③MedlineとTIME(Topics in Medical Education)databaseの検索で同定された教育者の役割についての文献と医学教育の教科書(Cox &Ewan(1988)とNewble&Cannon(1995)を含む)の分析 を統合してモデルを作成した。各々の役割が実際に教育者にとって重要かどうかについてアンケート調査によるRatingが行われ、実際にいずれの役割も重要であるという評価を得た。

・モデルの全体像;上記プロセスから、医学教育者の役割を12のカテゴリーに分類し、配置したのが図1のモデルである。個々の役割の説明の前に、全体像を簡単に説明する。まず、12の役割は医学の専門性を要するものと、教育の専門性を要するものに大きく分けられる。図の右側に医学の専門性を要する役割を、左側に教育の専門性を要する役割が分布している。同じように、12の役割は学習者に直接介入するために必要なものと、遠隔であるいは間接的に介入するために必要なものにも分けられる。図の右上により近くでの役割、左下がより遠くでの役割が分布している。

・個々の役割の説明;12の役割は6つのカテゴリーに分けられる。重要なのは一人の教育者が全ての役割を一人で発揮する必要な無いということである。個々の教育者に傾向や濃淡はあっても問題はない。また、個々の役割は完全に分割可能ではなく、同時に複数の役割を発揮する場面もある。

A情報提供者
1講師(lecturer);いわゆる「教室で行う講義」を実施する役割
2臨床あるいは現場の教員(Clinical or practical teacher);外来や回診におけるプリセプティングにおける役割。具体例として自身の臨床における思考過程を学習者と共有すること(ここにはreflective practitionerとしての能力も問われる)や病歴・身体診察を説明し、伝達することも含まれる。

Bロールモデル
3現場でのロールモデル(On-the-job role model);医師としての振る舞いを通じて教育する役割。具体的には、専門性に対する熱心さや臨床推論能力を示すこと、医師患者関係の構築、患者を全人的な視点で見ることができることなどが当てはまる。
4教育のロールモデル(Teaching role model);教育者として学習者に接する際の振る舞いや態度。

Cファシリテーター
5学習のファシリテーター(The learning facilitator);学習者の自己主導型学習や振り返りを促す役割。例えば話しやすい環境作りや、学習者の考えを引き出すこと、様々な学習資源・資料を学習者が使いこなせるようガイドすることも含まれる。
6メンター(Mentor, personal adviser or tutor);現場における教育や評価からは、離れた部分で学習者とかかわり、支援的な(そして、依存ではない)関わりから学習者の成長を促す役割。(※他の役割と一部重複する部分がある。)

D評価者
7学生の評価者(The student assessor);学習者に対して形成的・総括的評価を行う役割。
8カリキュラムの評価者(The curriculum assessor);カリキュラムを評価する役割。

E計画者
9カリキュラムの計画者(The curriculum planner);カリキュラム全体を計画し、実行する役割。
10コースの計画者(The course planner);コース(=カリキュラムの一部)を計画し、実行する役割。

F教材開発者
11教材の考案者(The resource material creator);ITをはじめとした技術の進歩により生じたものも含めて、様々な教育リソースを考案し、作成する役割。
12学習の手引きの開発者(The study guide producer);学習の手引き(学習者に学習目標や学習資源、学習の仕方や、自己評価の方法を伝える資料。初期研修の歩き方、的な本が該当。)を作成する役割。

― 考察とディスカッション ―

 著者は、このフレームワークを、指導医養成における評価やPF作成、指導医の生涯学習、組織としての教育者リソースの評価や、教育者を雇用する際の人財募集や契約に役立てられる可能性を述べている。
例えばこの図を見ながら、以下のような問いを討論してみると良いように思う。

Aフレームワークそのものに対して
 ・我々のコンテクストを考えた際に、この12の役割以外に何か思いつくものはあるだろうか?

B自らの指導医としての活動を振り返って
 ・指導医として、自分が最も行っている役割(そして、求められている役割)はどれだろうか?
 ・指導医として、自分が最もなじみのない役割(または、他の人に任せている役割)はどれだろうか?

C自らの組織を振り返って
 ・北海道家庭医療学センターにはどの役割がどの程度必要だろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も充実している役割はどれだろうか?
 ・北海道家庭医療学センターの指導層全体を見た時に、最も欠けている役割はどれだろうか?

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図1 教育者の12の役割

 開催日:平成26年2月12日

運動は下肢の変形性関節症患者の疼痛を軽減する

<文献名>
 Exercise Relieves Pain in Patients with Lower-Extremity Osteoarthritis
    2013 October 24 BMJ

<この文献を選んだ背景>
 
 変形性膝関節症の患者は日々の診療の中で多い。治療や痛みの軽減のための鎮痛剤、膝関節注射、大腿四頭筋訓練、減量という説明を行うが、他に推奨する何かがないかと思っていたため。

<要約>
 運動によって、膝関節や股関節の変形性関節症(osteoarthritis:OA)を有する患者の疼痛が軽減され、身体機能が改善されることを示すエビデンスが増えている。今回のメタアナリシスではランダム化試験60件(参加者8,200人超、フォローアップ期間の中央値15週)を対象として、運動介入が運動しない場合よりも有効であるかどうかが調べた。また、さまざまな運動介入の比較も行われた。
 膝関節のOAを有する患者に関する試験が44件、股関節のOAを有する患者に関する試験が2件、膝関節、股関節、その他の関節のOAを有する患者に関する試験が12件であった。評価の対象とされた運動の種類は、強化運動、柔軟運動、有酸素運動、およびこれらの運動の水中バージョンであった。疼痛の軽減(視覚的な疼痛尺度[visual pain scales])によって測定)については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の併用(強化運動と柔軟運動と有酸素運動の併用)、水中での強化運動、水中での強化運動と柔軟運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。疼痛が軽減する確率がもっとも高かったのは、水中での強化運動と柔軟運動を併用した場合であり、その次に高かったのは、強化運動のみの場合であった。身体機能の改善については、強化運動、強化運動と柔軟運動の併用、水中バージョン以外の各運動の併用で、運動なしの場合よりも有意に高い効果がみられた。

開始日:平成26年1月22日

生涯学習のための5つのドメインとその能力・資質とは?

<文献名>
Royal college of Physicians and Surgeons of Canada:CanMeds Train-the-Trainer Scholar-lifelongLearner Program.2008

<要約>
導入
生涯学習(Life Long Leraning)のコンポーネントは研修医教育から始まる以下の2つの現実として伝えること
 1つは「専門家は生涯を通じて変容することを求められること」
 もうひとつは「学習スキルと学習資源は変化し続けること」に基づいている。
 そして、生涯学習に必要な能力は「自己モニタリング」と「学習資源の活用」である。
良い臨床家であるための5つのドメインは、
 1 臨床を含めた業務において学習のマネジメントの方法や戦略を持っていること
 2 自分自身の業務を熟知・活用し、学習の優先順位が付けられること
 3 業務を向上させうる可能性やイノベーションのポイントを教えてくれるシステムを持っていること
 4 疑いや問いから質問を形成・変化させ学習機会に結びつけること
 5 継続的に自らの業務を評価し向上させること
である。これに沿ってドメイン毎に必要な能力や資質を以下の通り記載する

ドメイン1「(診療・教育・研究・経営全ての)業務に関する学習をマネジメントする」
  a情報リテラシー
    効果的な学習戦略(どのように学ぶかを知る)
  アクセスする雑誌・ウェブ・データベースを選定する
  何を深く読むか、何を入念に調べるのかを選択する
 
 b学習のマネジメント
    LLLのワークステーション(PCにあるもの)をセットアップする
  省察を投稿し学習ポートフォリオを作成し続けCVやMOCに連携させる
 
 c熟達化の認識
    CVを確立し維持する
  あなたのCVと活動プロフィールが免許や認証の維持と連携することを理解する
  免許や認証の維持のために要求されているものを埋める

ドメイン2「あなたの業務を知る」
  4つのドメイン:診療、教育、研究、管理、がある
 a専門家としての特定の役割と責務についての情報にアクセスし記録をつける
 b専門家としての学習ニーズを同定するために診療情報を活用する
  c持続的に専門家としての成長戦略を立案し修正するために診療情報を利用する

ドメイン3「(業務の)活動それぞれを探るようにチェックする(=Scanning)」
  a業務の範囲で発展段階にあるもの探り、新たな地平と創造を行う
  bガイドラインが診療に統合できるかをプロとして検証し、業務の範囲で根拠に基づいた創造と変化を行う
 cもはや効果的でなく、時に有害となっている古い診療を把握し止めること
  
ドメイン4「業務中の、業務についての、業務のための、問い・疑いから学ぶ」
 a生涯学習のために基礎となる不確実性の解決や解明の力を育成し理解する
 b疑問の生成や分類などのツール・戦略を同定し、個人や組織が公式化させた疑問になるために活用する
 c現実的な疑問の記録や継続的なログそして解決のためのカギとなる戦略を同定し、最終的に業務に組み込むための学習に具体化させる
 d日々の自然な業務と最終的には生涯学習として、個人と組織に探求を促進させる好奇心を再び持たせそれを醸成する

ドメイン5「業務評価と業務の向上」
 a個人のパフォーマンス、そして組織のパフォーマンス評価のためにどのようなツールが用いられているか?
 bそれらのツールはどのように個人の評価に用いられているのか?

 cその評価のプロセスではどのように活動を向上させ学びを促進させているか?

<考察とディスカッション>
 省察のメモは行っているものの、自然にとれる活動のログ(岡田先生でいうところのユビキタスキャプチャー)
についてはまだまだであると感じた。研究のためのセコムカルテの新たなシステム構築が行われているが、
個人の生涯学習にも活用できるための工夫も盛り込みたいと感じた。
 また学会レベルでこれらのシステムを構築することが生涯教育委員に求められており生きている間に完成
させたいとも痛感した。

開催日:平成26年1月22日

Episode of Care という考え方

- 文献名 -
 Episode of Care; A Core Concept in Family Practice
 Henk Lamberts,MD,PhD The Journal of Family Practice,Vol.42,No.2(Feb),1996

 - この文献を選んだ背景 -
 10月、ICPCを搭載した電子カルテシステムをオランダにて視察した。その際に「エピソード」として我々家庭医が扱う疾患を捉える概念を知ることができ、それが電子カルテシステムを利用したICPCデータベースの根幹を担っていることがわかった。それについてPubMedで調べている際に、この文献を見つけて読む事にした。

 - 要約 -
 
141008

 - 考察とディスカッション -
 家庭医療の学会である「日本プライマリ・ケア連合学会」の設立はイギリス・オランダから比べると40年以上遅い。本文献は16年前のものあるが、現在の日本における診療所プライマリ・ケアの記述研究へ重要な示唆を与えている。私たちが年齢や性別ごとにどのような健康問題を扱い、それがどのような診断になり、どのようにフォローされているのか。家庭医療診療所で提供されている医療そのものを記述するためには、ICPCと”Episode”が両輪になると感じた。それを発信していくことの宛先は、国民や住民、ひいては他の臓器別専門医や医療従事者など医療界の方達であり、包括性(幅広い臓器や心理社会背景も含めて)や継続性、不確実性などを客観的に示していくことになるであろう。皆さんはこのようなツールをつかってやりたい研究テーマなどはあるでしょうか?

 開催日:平成25年12月18日

① 小児期の肥満,その他の心血管リスクファクター,そして早期死亡 ② 炭酸飲料消費量の減量による小児期の肥満予防:クラスターランダム化試験

- 文献名 -
① Paul W. Franks, Ph.D., Robert L. Hanson, M.D., M.P.H., William C. Knowler, M.D., Dr.P.H., Maurice L. Sievers, M.D., Peter H. Bennett, M.B., F.R.C.P., and Helen C. Looker, M.B., B.S., 
Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death, 
N Engl J Med 362;6 nejm.org February 11, 2010
② Janet James, Peter Thomas, David Cavan, David Kerr, Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial, BMJ. 2004 May 22; 328(7450): 1236.

 - この文献を選んだ背景 -
上川町の保健師さんとの定例会議で小学生の肥満が話題になり,北海道ブロック支部の地方会でも別海町における小児の肥満対策の発表があったので,小児期の肥満について自分なりに調べてみた.まず,小児期の肥満が介入すべき問題なのか?ということと,介入する方略として論文にまとめられているものを調べてみた.研究デザインとしても興味深かったので,今回は2つの文献を取り上げた.

 - 要約 -
① Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death
BACKGROUND
The effect of childhood risk factors for cardiovascular disease on adult mortality is poorly understood.

METHODS
In a cohort of 4857 American Indian children without diabetes (mean age, 11.3 years; 12,659 examinations) who were born between 1945 and 1984, we assessed whether body-mass index (BMI), glucose tolerance, and blood pressure and cholesterol levels predicted premature death. Risk factors were standardized according to sex and age. Proportional-hazards models were used to assess whether each risk factor was associated with time to death occurring before 55 years of age. Models were adjusted for baseline age, sex, birth cohort, and Pima or Tohono O’odham Indian heritage.

RESULTS
There were 166 deaths from endogenous causes (3.4% of the cohort) during a median follow-up period of 23.9 years. Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of BMI were more than double those among children in the lowest BMI quartile (incidence-rate ratio, 2.30; 95% confidence interval [CI], 1.46 to 3.62). Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of glucose intolerance were 73% higher than those among children in the lowest quartile (incidence-rate ratio, 1.73; 95% CI, 1.09 to 2.74). No significant associations were seen between rates of death from endogenous or external causes and childhood cholesterol levels or systolic or diastolic blood-pressure levels on a continuous scale, although childhood hypertension was significantly associated with premature death from endogenous causes (incidence-rate ratio, 1.57; 95% CI, 1.10 to 2.24).

CONCLUSIONS
Obesity, glucose intolerance, and hypertension in childhood were strongly associated with increased rates of premature death from endogenous causes in this population. In contrast, childhood hypercholesterolemia was not a major predictor of premature death from endogenous causes.


② Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial
OBJECTIVE
To determine if a school based educational programme aimed at reducing consumption of carbonated drinks can prevent excessive weight gain in children.

DESIGN
Cluster randomised controlled trial.

SETTING
Six primary schools in southwest England.

PARTICIPANTS
644 children aged 7-11 years.

INTERVENTION
Focused educational programme on nutrition over one school year.

MAIN OUTCOME MEASURES
Drink consumption and number of overweight and obese children.

RESULTS
Consumption of carbonated drinks over three days decreased by 0.6 glasses (average glass size 250 ml) in the intervention group but increased by 0.2 glasses in the control group (mean difference 0.7, 95% confidence interval 0.1 to 1.3). At 12 months the percentage of overweight and obese children
increased in the control group by 7.5%, compared with a decrease in the intervention group of 0.2% (mean difference 7.7%, 2.2% to 13.1%).

CONCLUSION
A targeted, school based education programme produced a modest reduction in the number of carbonated drinks consumed, which was associated with a reduction in the number of overweight and obese children. 

 - 考察とディスカッション -
①の文献では,対象が限定されたコホート研究であり,一概に日本人の小児に適応することはできないが,人種の系統としては近いと考えられるため,小児期の肥満は介入すべき問題と考えられた.②の文献は,フェローで行う研究のヒントになりそうな研究デザインで,地域コミュニティケアの取り組みとしても興味深く感じられた.
そこで,各サイトでの小児期の肥満に対する取り組みなどについて,共有やディスカッションをしたいと思った.

開催日:平成25年12月18日