孤独とパーキンソン病リスク

―文献名―
Antonio T,Martina L,Selin K,et al. Loneliness and Risk of Parkinson Disease. JAMA Neurology. 2023;80(11):1138-1144.

―要約―
Introduction
孤独感とは、本人が求める社会的な関係と実際に感じる関係に隔たりがあるために生じる、主観的な苦しみと定義されている。身体的な健康だけでなく脳の健康にも悪影響は及び、精神疾患や神経変性疾患を発症するリスクが増加する可能性もある。実際に、孤独感の強い人はアルツハイマー病などの認知症リスクが高いことが示されている。しかし、孤独感とパーキンソン病の関係について検討した研究はまだ報告されていない。そこで著者らは、パーキンソン病の発症リスクと孤独感の関係を明らかにするために、住民ベースの前向きコホート研究を実施することにした。
Method
対象は、2006年3月13日から2010年10月1日に、UK Biobankに登録された38~73歳の参加者のうち、ベースラインで「あなたはしばしば孤独を感じますか」という設問に回答していた人。ベースラインで既にパーキンソン病と診断されていた人や、設問に「分からない」「答えたくない」と回答した人は除外した。主要評価項目はパーキンソン病の発症とした。追跡は2021年10月9日まで継続し、英国National Health Serviceの電子健康記録を調べて発症を確認した。 共変数として、年齢、性別、学歴、Townsend貧困指数、喫煙状態、身体活動量、BMI、併存疾患(糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓発作、PHQのうつ病スコア、精神疾患など)、同居家族の人数、家族や友人との交流頻度、社会活動の参加頻度、ポリジェニック・リスク・スコア(ある個人が持つ、特定疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子バリアントをスコア化して、病気の発症や進展を予測する手法)なども調べた。
Results
50万2505人のUK Biobank参加者のうち、条件を満たした49万1603人を分析対象にした。平均年齢は56.54歳(標準偏差8.09歳)、54.4%が女性だった。設問に対して、孤独を感じると回答した人は9万1186人(18.5%)、孤独を感じていなかった人は40万417人(81.5%)だった。両群の特性を比べると、孤独を感じていた人は、やや年齢が若く、女性が多く、健康に好ましくない習慣(喫煙や不活発など)の人が多く、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など)の保有率が高く、精神的な健康状態も不良(抑うつあり/精神科医受診歴あり)だった。平均値で12.33年(1.80年)、延べ606万2197人・年の追跡期間中に、2822人がパーキンソン病を発症していた。発症率は10万人・年当たり47だった。内訳は、孤独感がなかった40万417人ではパーキンソン病発症者は2273人(10万人・年当たり46)で、孤独を感じていた9万1186人では、549人(10万人・年当たり49)だった。パーキンソン病発症者は、非発症者に比べ高齢で、男性が多く、過去の喫煙者が多く、BMIが高く、PDポリジェニック・リスク・スコアも高かった。さらに、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中も多く、精神科医受診歴を有する患者も多かった。 孤独を感じていた人のパーキンソン病発症リスクは有意に高く、ハザード比は1.37(95%信頼区間1.25-1.51)だった。人口統計学的要因、社会経済的地位、社会からの孤立(独居、家族や親族と会う頻度が月1回未満、余暇活動と/または社会活動の頻度が週1回未満)、PDポリジェニック・リスク・スコア、喫煙、身体活動、BMI、糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、抑うつ、精神科医受診歴で調整しても、ハザード比は1.25(1.12-1.39)と引き続き有意差を示した。孤独とパーキンソン病発症の関係は、性別(交互作用のハザード比0.98:0.81-1.18)、年齢(0.99:0.98-1.01)、PDポリジェニックリスクスコア(0.93:0.85-1.02)の影響を受けていなかった。 孤独とパーキンソン病発症の関係は、ベースラインから5年間は有意にならず(ハザード比1.15:0.91-1.45)、5~15年後に有意になった(1.32:1.19-1.46)。
Discussion
 説明のつかない交絡因子や、不正確に測定された共変量による残余交絡によるものかもしれない。遺伝的要因や精神的健康状態のような共有の危険因子による可能性もあるが、ポリジェニック・リスク・スコア(多遺伝子リスクスコア)が関連を減弱させなかったという所見は、観察された関連において共有遺伝因子が実質的な役割を果たしているとは考えにくいことを示唆している。またPDの神経病理学的病態が、PDの前臨床期または前駆期における孤独感の増加と関連している可能性がある(因果の逆転)。実際にPDの非運動症状(例えば、抑うつ、疲労、不安、無気力)はPD患者によくみられ、疾患の初期に出現することがある。しかし、孤独感の増大はPD患者にとって懸念事項であるが、1件の横断研究では、PDの有無による孤独感の差はみられなかった。さらに、われわれの結果は、この逆の因果関係の解釈では関連を完全に説明できない可能性が高いことを示唆している。例えば、この関連はうつ病を考慮した後も残っており、このことは、この前駆症状との重複によるものではないことを示唆している。さらに、逆の因果関係から予想されることとは逆に、孤独感は最初の5年間はPDの発症と関連していなかったが、その後の10年間はPDの発症と関連していた。孤独が様々な経路を通じてPDの危険因子となりうる。しかし本研究では、潜在的な媒介因子となりうる共変量を幅広く検証した。孤独感を経験した人は、運動不足などの有害な行動をとる傾向があるが、2つの顕著な健康行動を加えても孤独感とPDの関連が変わらなかったことから、この経路が主要な役割を果たす可能性は低いと思われる。糖尿病などの慢性疾患を考慮すると関連は13.1%減弱したことから、孤独感は代謝、炎症、神経内分泌経路を通じてPDリスクの上昇に関連する可能性が高いと思われる。孤独とPDとの関連は、メンタルヘルス変数をモデルに含めることで最も減弱した(24.1%)。縦断的な証拠から、孤独とうつ病の間には双方向の関連があることが示唆されており、これらはPDのリスク上昇と共起し、その経路を共有している可能性が高い。それでもなお、我々の所見では、メンタルヘルス変数を考慮した後も孤独感はPDと関連していた。孤独が神経病理学的マーカーと関連しているかどうかを調べることは有益であろう。孤独は神経病理学的リスクと直接関連する可能性があり、PDの発症に寄与する神経変性過程に対する回復力を侵すことによって、PDのリスク増加にも関連する可能性がある。
 この研究の主な長所は、サンプルサイズが大きく統計的検出力が高いこと、追跡期間が長いこと、関連する危険因子を説明するための共変量が幅広いこと、健康記録に基づく診断が独立して確認できることである。限界として、この観察研究では因果関係や因果の逆転が観察された関連を説明しうるかどうかを決定できなかった。孤独感は「はい」か「いいえ」の単一項目で評価した。この尺度は信頼性が高く妥当であるが、多項目尺度と比較すると、単一項目による評価は誤差の分散を増大させ、孤独感とPDの関連を過小評価する可能性が高い。もう一つの限界は、入退院記録や死亡記録を用いていることであり、これは初期段階のPDを見逃す可能性が高い。追跡期間中にPDと診断されたにもかかわらず入院しなかった参加者がいる可能性があり、このような参加者は我々の解析ではPDでないと誤って打ち切られるであろう。これは、孤独とPDリスクとの関連を過小評価する可能性がある。しかし健康記録による確認は研究参加から独立しており、縦断的研究に典型的な減少バイアスを避けることができる。サンプルは比較的若いが、孤独感との年齢的な交互作用はなく、若い参加者を除外しても推定された効果量に影響はなかった。また、UK Biobankは代表的なサンプルではなく、回答率は5.5%であった。しかし、UK Biobankにおける危険因子との関連は、代表的なサンプルで見られたものと同様である。

【開催日】2023年12月13日(水)

高齢者の薬剤処方に関するBeers基準の更新

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
American Geriatrics Society 2023 updated AGS Beers Criteria® for potentially inappropriate medication use in older adults. J Am Geriatr Soc. 2023;71(7):2052-2081.

-要約-
高齢者における潜在的不適切処方(Potentially Inappropriate Medication: PIM)に関する米国老年医学会の基準Beers Criteria®は、1991年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の故Mark Beersによって開発され、定期的に更新されている。本基準は、ホスピスや終末期医療を除く、外来、急性期、施設入所などすべてのケア環境における65歳以上の成人に適用されることを意図している。
Beers Criteria®の目的は、
(1)薬剤選択を改善することにより、高齢者が不適切な薬剤(PIMs)にさらされる機会を減らすこと
(2)臨床医と患者を教育すること
(3)高齢者のケアの質、コスト、薬剤使用パターンを評価するツールとして機能すること である。

潜在的不適切処方は5つに分類される。(Tableは、添付PDF参照して下さい。)
1. 潜在的に不適切と考えられる薬剤(表2)
2. 特定の疾患または症候を有する患者において不適切な可能性のある薬剤(表3)
3. 慎重に使用すべき薬剤(表4)
4. 不適切な可能性のある薬物-薬物相互作用(表5)
5. 腎機能に基づいて投与量を調整すべき薬剤(表6)

Beers Criteria®は国際的に使用することができるが、特に米国での使用を想定して作成されており、特定の国の特定の薬剤については考慮が必要な場合がある。Beers Criteria®は、臨床上の意思決定を共有することに取って代わるのではなく、それを支援する方法として、思慮深く適用されるべきである。
高齢者への処方は、多くの要因、特に高齢者とその家族の嗜好と目標を考慮する複雑な努力であることが多いため、本基準は懲罰的な方法で使用されるものではない。

<個別の薬剤について特記>
●非弁膜症性心房細動およびVTEの長期治療におけるダビガトラン(プラザキサ®)の推奨は、アピキサバン(エリキュース®)などの代替薬と比較して、消化管出血および大出血のリスクが高いことを示唆するエビデンスがあるため、依然として「慎重に使用すること」としている。
●SGLT2阻害薬については、泌尿生殖器感染症および糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが増加するため、慎重に使用するよう助言する新たな基準が追加され、治療中の早期のモニタリングを推奨している。

<減処方deprescribing>
Beers Criteria®に基づく医薬品の処方を成功させるには、臨床医が単に高齢者に服薬中止を指示するだけでは不十分である。コミュニケーションギャップや誤解、患者が服薬中止に消極的で恐怖心を抱くこと、複数の臨床医間の調整、投与量の漸減、離脱症状、薬局への中止指示の伝達などが、起こりうる課題である。

【開催日】2023年10月4日(水)

早期アルツハイマー病におけるレカネマブ

-文献名-
C.H. van Dyck, C.J. Swanson, P. Aisen, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.

-要約-
【Abstract】
(背景)可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病における病理学的プロセスを開始または促進する可能性がある。レカネマブは、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者を対象に試験が行われている。
(方法)早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)で、ポジトロン断層撮影(PET)または脳脊髄液検査でアミロイドが認められた50~90歳の患者を対象に、18ヶ月間の多施設共同二重盲検第3相試験を実施した。参加者は、レカネマブ静脈内投与群(体重1kgあたり10mgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は、CDR-SB※注1(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;0~18点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヶ月時点におけるベースラインからの変化であった。主な副次評価項目は、PETによるアミロイド蓄積の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、0~90点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、0~1.97点;スコアが高いほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53点;スコアが低いほど障害が強いことを示す)のスコアである。
(結果)合計1795人が登録され、898人がレカネマブ投与群、897人がプラセボ投与群に割り付けられた。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2であった。18ヶ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(差-0.45;95%CI、-0.67~-0.23;P<0.001)。698人の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド蓄積の減少が大きかった(差-59.1センチロイド;95%CI、-62.6~-55.6 ※注2)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI、-2.27~-0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI、-0.074~-0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI、1.2~2.8、P<0.001)であった。レカネマブ投与により26.4%に急性注入反応(インフュージョンリアクション)が、12.6%にアミロイド関連画像異常;ARIA-E(頭部MRIでの浮腫性変化)が認められた。 (結論)レカネマブは、早期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月後の認知機能と機能の測定においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象と関連していた。早期アルツハイマー病におけるレカネマブの有効性と安全性を明らかにするために、より長期間の試験が必要である。(資金提供or研究協力:エーザイ(日)、バイオジェン(米)) ※注1:日本語版CDR(0.5点をMCI、1点以上を認知症として捉えることが多い。各スコアの合計=CDR-SB)
※注2:センチロイドはPETにおけるアミロイド集積量の評価法。若年正常陰性を0、軽度~中等度の典型的アルツハイマー型認知症の平均レベルを100として表現。50センチロイド以上がアルツハイマー型認知症確定診断病理例に相当すると推定されている。

【Introduction】
・アミロイドの除去が認知症の進行を遅らせることが示唆されている。
・抗アミロイド抗体の一つ(アデュカヌマブ、米国商品名:アデュヘルム)は、米国FDAから早期承認を受けている。
・レカネマブ(米国商品名:レケンビ)はヒト化モノクローナル抗体で、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合する。
・早期アルツハイマー病患者を対象に、レカネマブの安全性と有効性を検討する第3相試験を実施した。

【Methods】
・早期アルツハイマー病患者を対象とした18ヶ月間の多施設共同・二重盲検・プラセボ比較試験。
・レカネマブ群(10mg/体重kgを2週ごと投与)とプラセボ群に1:1に無作為割り付けした。
層別化:アルツハイマー病による認知機能障害、抗認知症薬の使用、アポリポ蛋白Eε4キャリアの有無、地理的特性。
・アルツハイマー病および統計学の専門家によるモニタリング委員会が、盲検化されていない安全性データをレビューした。
独立した医療チーム(試験割り当てグループを知らない)がARIA、輸液関連反応、過敏性反応を検討した。
臨床評価者は、安全性評価および試験割り当てグループを知らなかった。
・適格基準:アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症を有する50~90歳。アミロイド陽性はPETまたは脳脊髄液によるAβ1-42測定により判定した。
・評価項目:省略(Abstract参照)
・統計解析:無益性や有効性に関する中間解析は計画されなかった。有効性の解析は修正ITT解析(レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与され、ベースライン評価およびCDR-SB測定を少なくとも1回実施)により実施した。安全性の解析は、レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与された参加者集団で評価された。ARIA(アミロイド関連画像異常)は9, 13, 27, 53, 79, 91週目のMRIでモニタリングされた。

【Result(参加者)】 (Figure 1、Table 1参照)
・スクリーニング5967人、無作為化1795人(レカネマブ群898人、プラセボ群897人)、北米・欧州・アジアの235施設にて。
・追跡完了はレカネマブ群729人(81.2%)、プラセボ群757人(84.4%)。修正ITT解析は1734人で実施。
・ベースライン時の参加者の特徴は2群で概ね類似(平均71歳、CDR-SB 3.2/18点、MMSE 25.5点)。非白人が20%強。
【Result(評価項目)】 (Figure 2、Table2参照)※Table2は本ファイルでは省略
・主要評価項目であるCDR-SBはベースラインで約3.2点、18ヶ月後の変化量の補正平均はレカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(-0.45、95%CI、-0.67~-0.23、p<0.001)。 ※「認知症の進行を27%抑制」の数的根拠と思われる。 ・副次評価項目に関して、18ヶ月後の平均変化量は以下の通りであった。  (1) PETでのアミロイド蓄積:レカネマブ群-55.48センチロイド、プラセボ群3.64センチロイド(95%CI:-62.64~-55.60、p<0.001)  (2) ADAS-cog14スコア:レカネマブ群4.14点、プラセボ群5.58点(95%CI:-2.27~-0.61、p<0.001)  (3) ADCOMS:レカネマブ群0.164点、プラセボ群0.214点(95%CI:-0.074~-0.027、p<0.001)  (4) ADCS-MCI-ADL Score:レカネマブ群-3.5点、プラセボ群-5.5点(95%CI:1.2~2.8、p<0.001)

【Result(安全性)】(Table 3参照)
・死亡:レカネマブ群0.7%、プラセボ群0.8%。研究担当医によりレカネマブに関連すると判断された死亡例はなし。
・重篤な有害事象:レカネマブ群14.0%、プラセボ群11.3%。
→急性注入反応(インフュージョンリアクション)(レカネマブ群1.2%/プラセボ群0%)、ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常)(同0.8%/0%)、心房細動(同0.7%/0.3%)、失神(同0.7%/0.1%)、狭心症(0.7%/0%)。
・全ての有害事象:両群で発生率は同程度であった。
・投与中止に至った有害事象:レカネマブ群で6.9%、プラセボ群で2.9%。
・レカネマブ群で多かった有害事象は以下の通り。
・急性注入反応(インフュージョンリアクション):レカネマブ群26.4%、プラセボ群7.4%。大部分は軽度~中等度で、初回投与時。
・ARIA-H(出血性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群17.3%、プラセボ群9.0%
・ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群12.6%、プラセボ群1.7%
・頭痛:レカネマブ群11.1%、プラセボ群8.1%
・転倒:レカネマブ群10.4%、プラセボ群9.6%
・ARIA-Eの91%は軽度~中等度で、78%は無症状で、81%は発見後4ヶ月以内に消失した。
ただし参加者の2.8%に症候性ARIA-Eが認められた(症状:頭痛、視覚障害、錯乱など)。

※急性注入反応(インフュージョンリアクション):分子標的薬などの点滴時に一過性の炎症・アレルギー反応が起こされる病態。サイトカイン放出によると考えられている。主な症状は発熱、悪寒、頭痛、発疹、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショックなど。
※ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities):頭部MRIでのアミロイド関連画像異常のこと。浮腫性変化を伴うものをARIA-E(edema/Effusion)、出血性変化を伴うものをARIA-H(Hemosiderin deposition)と呼ぶ。

【Discussion】
・主要評価項目であるCDR-SBの18ヶ月後の変化量はレカネマブ群でプラセボ群より有利であった。副次評価項目も同様であった。
・CDR-SBスコアの臨床意義については確立されていないが、プロスペクティブに定義された治療差の目標を上回っていた。
・認知症ステージの進行のハザード比についても、プラセボよりもレカネマブが有利であった。
・レカネマブ群におけるARIA-Eの発症率は12.6%、ARIA-Hの発症率は17.3%であった。
ARIA-Eは一般に最初の3ヶ月間に発生し、軽度で無症状であり、4ヶ月以内に消失することが多かった。
ARIA-E(症候性・全て)の発生率は、いずれもApoE ε4ホモ接合体で最も高かった。
・研究限界:18ヶ月間の治療データしか含まれていない。COVID-19流行に伴う介入不実施、評価の遅延、疾患の併発などがあり、脱落率は17.2%に上った。ARIAの発生に関して、参加者や治験担当医師が試験群の割り付けを認識していた可能性がある。
・現在、各種の追加試験が計画・実施されている。
・結論:早期アルツハイマー病患者において、レカネマブは脳アミロイド蓄積を減少させ、18ヶ月後の認知機能および各種の評価項目についてプラセボと比較して中等度の低下・抑制を示したが、有害事象を伴った。早期アルツハイマー病患者におけるレカネマブの有効性と安全性を決定するためには、より長期間の試験が必要である。

【開催日】2023年9月13日(水)

低用量アスピリンの連日投与による鉄欠乏と貧血

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Zoe K McQuilten, et al. Effect of Low-Dose Aspirin Versus Placebo on Incidence of Anemia in the Elderly : A Secondary Analysis of the Aspirin in Reducing Events in the Elderly Trial. Ann Intern Med. 2023; 176(7): 913-921.

-要約-
●Introduction
・高齢者の貧血(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))は重要な健康問題。
・75歳以上の人の貧血の割合:約30%(入院患者例)、約12%(コミュニティベース)。
・高齢者の貧血の原因としては、鉄欠乏・腎性・慢性炎症性が多いが、1/3は原因不明。
・貧血は、機能障害・病的状態・死亡率と関連。ただし因果関係は不明。因果関係があったとして、貧血が健康に及ぼす潜在的な影響が介入可能なものなのかどうかも不明確。

・米国では約50%の高齢者が予防的にアスピリン内服していたが、最近の非推奨に伴い減少中。
・アスピリンの害は大出血、とりわけ消化管出血で、出血イベントは高齢者に多い。
・顕性出血とアスピリンの関係は明らかだが、貧血との関係を研究した報告はほとんどない。
・不顕性出血により鉄欠乏を起こし貧血となる可能性、一方で炎症を抑える機序で貧血に抑制的に働くかも。

・The ASPREE (ASPirin in Reducing Events in the Elderly)試験は、二重盲検、無作為、プラセボ対照試験で、70歳以上(*米国の黒人・ヒスパニックにおいては65歳以上)の健常者において、アスピリン100 mg内服群がプラセボ群と比較して、無障害生存期間を延長するかどうかを主要評価項目に置いた研究。(*大田注:結論としては延長させなかった。N Engl J Med 2018; 379(16): 1519-1528.)
・全参加者は毎年Hb値測定し、一部は試験開始時と3年後に生化学採血も実施。
・ASPREE試験のpost hoc解析(事後解析)の
主な目的)健常高齢者において、低用量アスピリンの連日投与が貧血の発症率に及ぼす影響を評価する
副次的目的)Hb値、Fer、鉄欠乏の変化に対するアスピリンの影響を探索する

●Method
・ASPREE試験について
2010年3月~2014年12月 市中在住の19114人組み入れ。オーストラリアのプライマリ・ケア提供者or 米国の臨床試験センターを通じて。*除外:貧血あり、出血の高リスク群(例:消化性潰瘍既往、食道静脈瘤)、アスピリンを二次予防で使用、他の抗血小板薬や抗凝固薬使用、心血管イベント歴、Af、予後5年以内が想定される疾患併存、認知症。*NSAIDs使用は必要最小限に限り許可された。
アスピリン群・プラセボ群を1:1に振り分け。年1回受診とカルテレビュー、定期的な電話での確認で補足。年1回採血。

・フェリチン:割付時と、3年後フォロー時の血液検体で可能な範囲で測定。

・アウトカムの定義
プライマリアウトカム:貧血の発症率(男性Hb 12.0 g/dl未満、女性Hb 11.0 g/dl未満 (WHOの定義))。
*毎年のHb値測定データを利用。
セカンダリエンドポイント:大出血(脳出血、有意な頭蓋外出血(輸血・入院・入院期間延長・手術を要した、死亡につながった))

・統計学的解析
-鉄欠乏の定義は、Fer <45 µg/Lを採用(米国消化器病学会)
-毎年Hb値測定し、貧血出現までの期間を分析するためにコックス比例ハザードモデルを使用。
-累積発症率の測定にはAalen-Johansen estimatorを使用(Kaplan–Meier estimatorのmulti-state (matrix) version)
-一次解析は調整なし、二次解析では貧血のリスクと関連し得る予後因子で調整(性別、年齢、人種、居住状況、喫煙、アルコール摂取量、eGFR、癌の既往(メラノーマ以外の皮膚腫瘍を除く))、糖尿病、CKD(尿Alb/Cr 30 mg/gCr以上 or eGFR 60未満で定義)、高血圧、NSAIDs使用、PPI使用)。
-ASPREE試験の一次結果では、プラセボ群と比較してアスピリン群では癌罹患およびステージIVの癌による死亡リスクが高かった→貧血リスクに対するアスピリンの効果が癌罹患とは独立しているかどうかを評価するために、試験期間中の癌イベントを競合リスクとして扱う感度分析を行った。
-アスピリンとHb値の経時的変化の関連を調べるために、予後因子で調整した多変量線形混合効果モデルを用いた。
-予後因子が欠損している参加者は、解析から除外した。
-アスピリンとFer値の関係を調べるために、線形回帰モデルを用いた。
-全解析はITTで。統計ソフトはR ver 4.0 or Stata/SE17を用いた。

●Results
・フォローアップ期間の中央値は各グループ、4.7年(四分位範囲(IQR):3.6-5.7年)。
・各群の特徴:大きな差はない(Table)

各群、平均74歳くらい、オーストラリア在住の白人種が8割強、癌の既往は2割、過去のアスピリン使用歴は1割、CKD 26%、ベースのHb値14.2 g/dl、高血圧74%、NSAIDs使用1割弱、PPI使用24%。

・貧血の発症率:アスピリン群では1000人年あたり51、プラセボ群では1000人年あたり43 と、アスピリン群で有意に高い
・5年以内に貧血を発症する可能性は、アスピリン群で23.5%(95%信頼区間:22.4%-24.6%)、プラセボ群で20.3%(19.3%-21.4%):HR 1.20 (1.12—1.29) ← 癌の発症に関する感度分析や、貧血リスクを上げる要素について調整後も有意なまま。(Fig. 2)

・Hb値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ5年当たり0.6 g/L低下(0.3-1.0 g/L)。(Fig. 3)
・Fer値は、アスピリン群で、プラセボ群に比べ3年目のFer値が45μg/L未満(31例)および100μg/L未満(32例)である可能性が高かった(それぞれ、465例[13%]対350例[9.8%]、1395例[39%]対1116例[31%])。(Fig. 4) (*大田注:Fer<45が、本研究での鉄欠乏の定義)
・試験期間中、465人(2.6%)が少なくとも1回の大出血を経験した: アスピリン群で273例(3.0%)、プラセボ群で192例(2.1%)であった。

●Discussion
・感度分析により、臨床的に重要な出血イベントの差は、貧血の発生やFer値の減少の全体的な差を説明するものではないことが示された。→アスピリン投与群における貧血リスク増加の原因としては、不顕性出血が考えられる。
・不顕性出血の機序としては、アスピリンによる血小板凝集低下作用のほか、COX-1阻害により消化管のプロスタグランジン産生を抑制し粘膜保護作用が低下することで、不顕性の消化管出血を起こすことが想定される。
・アスピリン内服は通常長期になることから、定期的な採血での貧血の評価が必要となるのではないか。

・本研究の限界
-貧血が年1回のレビューの間に試験外の医師によって発見され治療された可能性があり、貧血発生率の過小評価につながった可能性がある。
-臨床的に重大な出血の定義は、病院での治療例のみを含んでおり、外来で治療した重症の鼻出血のような他の出血事象は考慮していない。
-貧血の原因に関するデータはない。

【開催日】2023年9月6日(水)

高齢者における健康的なライフスタルと記憶力低下の関連性:10年間の集団ベースの前向きコホート研究

―文献名-
Jianping Jia,1 Tan Zhao,1 Zhaojun Liu, et al.
Association between healthy lifestyle and memory decline in older adults: 10 year, population based, prospective cohort study.
BMJ. 2023; 380: e072691

―要約-
【背景】
わかっていること:記憶力は日常生活の基本機能であり、年齢が上がるにつれて継続的に低下する。 記憶力低下の 多因子にわたる生物学的原因を考えると、遺伝的に記憶力が低下しやすい人であっても、最適な効果を得るためには、 健康的なライフスタイルの要因の組み合わせが必要かもしれない。記憶に影響を与える可能性のある因子として、加 齢、アポリポ蛋白 E(APOE)ε4 遺伝子型、慢性疾患、生活パターンなどの研究が行われている。

今回わかったこと:APOEε4 対立遺伝子を持つ人を含め、認知的に正常な高齢者において、健康的でポジティブな行 動の組み合わせは、記憶の低下速度を遅くすることと関連している これらの結果は、高齢者を記憶の低下から守るため の公衆衛生上の取り組みに重要な情報を提供するかもしれない。

【目的】 高齢者における記憶力低下を予防するための最適なライフスタイルプロファイルを明らかにする。
【デザイン】 母集団に基づく前向きコホート研究。
【設定】 中国の北、南、西の代表的な地域から参加者を集めた。
【参加者】 60 歳以上で認知機能が正常であり、2009 年のベースライン時に APOE 遺伝子型判定を受けた個人。
【主なアウトカム評価】 参加者は、死亡、中止、または 2019 年 12 月 26 日まで追跡調査された。健康的なライフス
タイルの 6 つの要因を評価した:
①健康的な食事(対象食品 12 品目のうち少なくとも 7 品目の推奨摂取量を遵守)、
②定期的な身体運動(中強度の 150 分以上または強度の 75 分以上、週あたり)、
③活発な社会接触(≧週 2 回)、
④活発な認知活動(≧週 2 回)、
⑤喫煙をしない、またはしたことがない、
⑥アルコールを飲まない。
参加者は、健康的なライフスタイルの要因が 4〜6 個あれば好ましいグループに、2〜3 個あれば平均的なグループに、0
〜1 個あれば好ましくないグループに分類された。記憶機能は WHO/University of California-Los Angeles Auditory Verbal Learning Test(AVLT※)で、グローバル認知機能は Mini Mental State Examination で 評価した。線形混合モデルを用いて、研究対象者の記憶に対する生活習慣要因の影響を調査した。

※AVLT:即時再生、短期遅延自由再生(3 分後)、長期遅延自由再生(30 分後)、長期遅延認識の測定を 行う。テストでは、評価者が 15 個の名詞からなる単語リストを読み、その直後に、参加者はできるだけ多くの単語を繰り 返してもらう。即時再生の得点は 0〜60 点、その他のテストの得点は 0〜15 点であった。標準 z スコアは、それぞれの 平均値と標準偏差のテストスコアに基づいて計算される。記憶機能の複合 z スコアは、各テストの z スコアを平均すること によって構成される。

【結果】
29,072 名の参加者(平均年齢 72.23 歳、女性 48.54%(n=14113)、APOE ε4 キャリア 20.43%
(n=5939)) が対象となった。10 年間の追跡期間(2009-19 年)において、好ましいグループの参加者は好まし くないグループの参加者に比べて記憶の低下が遅かった(0.028 ポイント/年、95%信頼区間 0.023-0.032、P< 0.001)。APOE ε4 のキャリアの中では、好ましいライフスタイル群(0.027、95%信頼区間 0.023 から 0.031)お よび平均的ライフスタイル群(0.014、0.010 から 0.019)は、好ましくないライフスタイルの人々よりも遅い記憶力低 下を示していた。APOE ε4 のキャリアでない人々では、好ましい群(0.029 ポイント/年、95%信頼区間 0.019〜 0.039)および平均群(0.019、0.011〜0.027)で、好ましくない群の参加者と同様の結果が観察された。APOE ε4 の状態とライフスタイルのプロファイルは、記憶力の低下に対して有意な相互作用を示さなかった(P=0.52)。 記憶力低下に対する各生活習慣構成要素の寄与を評価した。その結果、健康的な食事が記憶に対して最も強い影響を与え(β=0.016、95%信頼区間 0.014〜0.017、P<0.001)、次に活発な認知活動(β=0.010、 0.008〜0.012、P<0.001)、規則正しい身体的運動(β=0. 007, 0.005〜0.009, P<0.001)、活発な社 会的接触(β=0.004, 0.002〜0.006, P<0.001)、喫煙をしないまたはしたことがない(β=0.004, 0.000〜 0.008, P0.026)、飲酒しない(β=0.002, 0.000〜0.004, P0.048)の順だった(サプリメント表 6)。 【ディスカッション】 強み:この大規模な研究は、異なるライフスタイルプロファイル、APOE ε4 の状態、およびそれらの相互作用が、10 年 間の追跡期間にわたって縦断的な記憶の軌跡に及ぼす影響を推定した、我々の知る限り初めての研究である。その結 果、遺伝的に記憶力が低下しやすい人を含め、認知的に正常な高齢者では、健康的なライフスタイルが記憶力の低下 速度の緩やかさと関連していることが明らかになった。 このような変化のメカニズムは本研究では明らかにされていないが、脳血管リスクの低減、認知予備能の向上、酸化スト レスや炎症の抑制、神経栄養因子の促進などが考えられる。 弱み: ①ライフスタイル要因の評価は自己報告に基づいており、したがって測定誤差が生じやすい。 ②数名の参加者は、データの欠損やフォローアップ評価のために戻ってこないという理由で除外され、選択バイアスにつな がった可能性がある。 ③不健康な人は研究に参加しにくいので、不健康なライフスタイルを持つ人の割合は、我々の研究では過小評価された かもしれない。 ④我々の研究デザインの性質上、健康的なライフスタイルの維持が、研究への登録時点で既に記憶に影響を与え始め ていたかどうかを評価することはできなかった。 ⑤我々は、記憶機能全体を包括的に反映していない単一の神経心理学的検査を用いて記憶を評価した。 【結論】 健康的なライフスタイルは、APOE ε4 対立遺伝子がある場合でも、より緩やかな記憶力の低下と関連してい る。この研究は、高齢者を記憶力低下から守るための重要な情報を提供するかもしれない。

【開催日】2023年2月8日(水)

高齢者へのベンゾジアゼピン処方を減らす方法

―文献名-
Donovan T.Maust, Linda Takamine et al. Strategies Associated With Reducing Benzodiazepine Prescribing to Older Adults: A Mixed Methods Study. Ann Fam Med. 2022;20:328-335.

―要約-
【イントロダクションと研究の目的】
高齢者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)の安全性の問題は30年以上も前から知られている。 BZD処方を減らす様々な介入が行われてきたが、米国におけるBZDの使用量は横ばいが続いているが、米国のある退役軍人(VA)の団体の高齢者ではBZDの処方を2013年から2017年にかけて約1/2にまで減らしたという成功事例もある。この期間はVAPDSIという向精神薬の安全性と効果に関するQI活動が行われていた。その活動のフェーズ2(2015-2017)では1/3の医療機関が特に高齢者のBZD処方を減らすことを優先して取り組んだ。
この研究ではVAの医療機関内で適用された現実世界におけるBZD処方を減らす取り組みを調べるためにデザインされた。 第一に量的手法を用いてBZD処方減少というアウトカムにより各医療機関の順位付けを行った。BZD処方減に優先的に取り組む医療機関(priority facilities)がよりBZD処方の減少幅が大きいという仮説を立てた。 第二に量的研究の結果にある背景を知るために質的手法を用い、各医療機関で行われた具体的なBZD処方を減らすための方法を探った。

【方法】
量的手法の部
Veterans Health Administration Corporate Data Warehouseというデータベースを用いてVAPDSIのフェーズ2の期間BZDの長期使用者のコホートを作成した。各医療機関のBZD処方を患者1人、1日当たりのロラゼパム量に換算し経時的に計測。医療機関をBZD処方減に優先的に取り組むpriority facilitiesとnonpriority facilitiesに分類し後ほど結果の項で示すようなグラフに表した。
質的手法の部
量的手法の部で高い結果を得た医療機関(high-performing facilities)と低い結果にとどまった施設(low-performing facilities)複数をインタビュー調査の対象とした。医療機関選定には多様性を持たせるため施設規模や地理的な位置も考慮した。当初はpriority facilities から6施設、nonpriority facilitiesから6施設選定する意図があったが、その仮説に反して複数のnonpriority facilitiesが高順位を獲得しており、5施設加えてインタビューを行う事とした。各医療機関のPDSIの代表者に電話での半構造化インタビューを行い、BZD減量のためにどのような方法をとりそれはなぜ採用されたのか、障壁は何だったのかなどの情報をちょうしゅした.

【結果】
Table1:   患者の情報。
Table2:   全体の結果。
Figure1A: 医療機関毎のBZD処方の減少幅と順位をグラフ化したもの。
(Priority facility のみならず nonpriority facilityも上位にたくさん並んでいることが注目点)
Figure1B: インタビュー調査に選定された施設のみを表示したもの。
Table3:   インタビュー調査に選定された施設における取り組み。質的手法の部においてBZD処方減に積極的
に取り組んでいるかどうか、ではなく減量のためにどのような手法を選択しているのかで
high-performing facilitiesとなるかlow-performing facilitiesとなるかが分かれることが
示された。本研究ではそれを受動的手法(Passive Strategies)と能動的手法
(Active Strategies)とに分けた。

【ディスカッション】
本研究の限界
・ RCTではないため、特定の手法を用いることが医療機関の成果に帰する、という述べ方はできない。
・ 量的手法の部では地域の現場で観察されたBZDを計測したわけではないため、真に患者のBZD暴露が減ったかどうかを反映していない可能性がある。
・ 長期間のケアにおけるBZD処方を考慮していない。
・ 各医療機関のPDSI代表者にインタビューしたため、最前線の現場のスタッフが経験している手法を完全II反映していない可能性がある。
・ 退役軍人という集団で行った研究であり、この結果が非退役軍人のヘルスシステムや若い患者にまで一般化できるかは不明である。

【開催日】2022年11月2日(水)

生活習慣と非認知症余命の関係

-文献名-
Klodian Dhana, et al. Healthy lifestyle and life expectancy with and without Alzheimer’s dementia: population based cohort study. BMJ. 2022; 377:e068390. (doi: 10.1136/bmj-2021-068390)

-要約-
Introduction:
 近年、生活習慣の改善によるアルツハイマー型認知症(AD )の予防が注目されているが、これは生活習慣が認知機能の低下を遅らせ、ADのリスクを低減する可能性があるデータが増えてきたことに起因する
 しかし、良い生活習慣は認知症リスクの低減だけでなく寿命の延長にもつながり、寿命が延びれば高齢者が増える。認知症のリスクは年齢が上がるにつれて指数関数的に増加する
 ライフスタイルへの介入によって、ADを遅らせることは可能かもしれないが、全体の有病率や認知症とともに生きる年数は変わらないか、むしろ増えるかもしれない
 そうであれば、医療専門家、政策立案者等は将来の医療費とニーズを十分に計画する必要がある

Method
<研究デザイン、セッティング、ポピュレーション>
 本研究は、一般集団におけるアルツハイマー型認知症の危険因子を評価するためにデザインされた前向き集団ベースコホート研 究 で あるChicago Health and Aging Project(CHAP)内で行われた
– 1993年から2012年の間に、シカゴ南部に住む65歳以上全員が対象になり、全対象者の約78.7%の6,157名がenrollされ、2000年にsuccessive cohortsで4,645名が追加。Totalで10,802名がenrollされた
 認知機能評価は3年毎に最大6回実施され、AD freeはin homeインタビューと臨床評価の結果認定された
 今回の解析では2,110名のAD freeと339名のAD患者のtotal 2449名が対象となった。

<生活習慣因子のアセスメント>
 5つの生活習慣因子(①食事(Mediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay[MIND]食事スコア)、②認知的活動、③中~強度の身体活動、④禁煙、⑤中程度以下の飲酒)について、有する場合は1点, 有しない場合は0点でtotal 5点でスコアリング
– ①食事は、MIND score 上位40%(概ねMIND score >7.5)を1点とした
– ②認知活動は、過去~現在の読書、美術館訪問、カードゲーム、ボードゲーム(checkers)、クロスワード、パズルからなるcognitive activity scoreに基づいて、上位40%以上を1点とした
– ③身体活動はウォーキング、ガーデニング、体操、自転車、水泳である。週150分以上で1点
– ④喫煙については、今吸っていなければ1点
– ⑤飲酒は、男性は30g /日以下、女性は15g /日以下で1点(缶ビールなら2本or 1本)

<統計学的分析>
 Multistate life tableを用いた分析を行った
– AD free→AD、AD free→death、AD→deathの3つのそれぞれのtransitionパターンについて、生活習慣毎の男女別ハザード比を生存分析で分析
– 回帰モデルは年齢、人種、配偶者の有無、教育、APOE ε4変異の有無、併存疾患で調整
– 全人口に対する生命表と 、健康的な生活習慣因子の数(0~1、2~3、4~5点)ごとに3つの生命表を作成

<アルツハイマー型認知症の診断>
 Cognitive performance testの 2つ以上の機能の障害と、神経科医が判断する認知機能の低下がADの診断に必要とした
 AD診断は、NINCDS(National institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)およびADRDA(the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)のprobable Alzheimer’s diseaseの基準により判定


 アルツハイマー型認知症がある場合とない 場合の女性および男性の平均余命

(Martha C.M. et al., Alzheimers Dement. 2015 Sep; 11(9): 1015–1022. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011)

Result

Discussion
 本研究は、生活習慣因子の余命だけでなく非認知症余命に与える影響を考慮するための定量的データを供給するという意味で価値がある
 既存研究で教育レベルの高い人の非認知症余命が長いというstudyもあるが、今回は教育レベルで調整を行った上で、生活習慣等のリスクファクターの非認知症余命への影響に言及した論文であることも特徴
 Limitationとしては、①生活習慣因子の評価がbaselineしかできておらず、フォローアップ中には行われていないため、生活習慣のその後の変化や、認知症による生活習慣の変化を捉えられていない、②不健康な人はstudyに参加しなかったり参加までに死亡している頻度が多いと考えられ、不健康な生活習慣をもつ人々のpopulationを過小評価している可能性、③生活習慣の評価は自己申告制であること、等がある

【開催日】2022年10月12日(水)

高齢者における目標血圧のランダム化試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Zhang W, Zhang S, Deng Y,et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385(14):1268-1279.

-要約-
【背景】高齢の高血圧患者において、心血管リスクを低減するための適切な収縮期血圧の目標値は、依然として不明である。世界的な高齢化に伴い、恒例の高血圧患者における収縮期血圧の治療目標値を決定することは研究の争点となっているが、高齢者における収縮期血圧の目標値に関しては各国のガイドラインでは依然として移管していない。75歳以上の患者でもSPRINT試験において集中的な血圧コントロールにより心血管疾患の予防効果が観察されたほか、メタアナリシスでは収縮期血圧の目標値を130mmHgとすることで高リスク患者では心血管イベント及び死亡リスクが減少することが示された以峰で、高齢者における収縮期血圧の130mmHg未満への引き下げは慎重に行うべきだと示唆されている。
【方法】多施設共同無作為化比較試験(STEP試験:Strategy of Blood Pressure Intervation in the Elderly Hyper-tensive Patients)において,60~80歳の中国人高血圧患者を、収縮期血圧の目標値を110~130mmHg(集中治療)または130~150mmHg(標準治療)に無作為に割り付け、フォローアップ期間を4年と計画した。1、2、3カ月後にフォローアップの診察をうけ、その後は予定の48カ月までは3カ月毎で診察を受けることとした。薬剤調整は診察室血圧の測定に基づき行われた。一方で家庭血圧測定も実施し、スマートフォンアプリによる血圧管理効果も検証した。主要アウトカムは、脳卒中、急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症による入院)、急性虚血性心不全、冠動脈再灌流、心房細動、心血管系疾患が原因による死亡の複合とした。心血管疾患の10年リスクはFramingham Risk scoreを用いて推定した。

【結果】 対象となった9624例のうち、1113人(11.6%)が除外、8511例が試験に登録され、4243例が集中治療群に、4268例が標準治療群に無作為に割り付けられた。試験終了までに234例(2.7%)が追跡不能となった。患者のうち19.1%が糖尿病の既往があり、6.3%が心血管疾患の既往あり、64.8%がフラミンガムリスクスコア15%以上だった。1年後の平均収縮期血圧は、集中治療群で127.5mmHg、標準治療群で135.3mmHgであった。中央値3.34年の追跡期間中に、一次アウトカムイベントは集中治療群147例(3.5%)に対して、標準治療群196例(4.6%)に発生した(ハザード比,0.74;95%信頼区間[CI],0.60~0.92;P=0.007)。主要転帰の個々の要素についても、集中治療群が有利であった。脳卒中のハザード比は 0.67(95% CI,0.47~0.97)、急性冠症候群は 0.67(95% CI,0.47~0.97) であった。急性心不全 0.27(95% CI, 0.08~0.98) 、冠動脈再灌流 0.69(95% CI, 0.40~1.18) 、心房細動 0.96(95% CI, 0.55~1.68) 、心血管死 0.72(95% CI, 0.39~1.32 )であった。安全性および腎機能に関する転帰は,低血圧の発生率が集中治療群で高かった(3.4%vs2.6%、P=0.03)ことを除き,両群間に有意差はなかった。

【ディスカッション】高血圧の集中治療は、心血管ベントの発生を有意に減少させ、ほとんどの副次的転帰についても良好な結果が得られた。一方であらゆる原因による死亡リスクは有意差は無かった。STEP試験もSPRINT試験はともに集中的な血圧コントロールが心血管系疾患の予防に有効であったが、両試験に大きな相違点がある。SPRINTでは診察室血圧は自動化されたシステムで行われすべてのプロセスで試験担当者は立ち会わなかったが、STEPではオシロメトリック電子血圧計を使用し訓練を受けたスタッフが診察室で血圧測定した。またSPRINTでは糖尿病患者は除外されている(髙石注:50歳以上の心血管リスク因子を有する非糖尿病患者を対象に、強化療法(目標SBP<120mmHg)と標準療法(目標SBP<140mmHg)とを比較)。両試験は脳卒中既往者を除外している。STEP試験とSPRINT試験のあらゆる原因による死亡や心血管死亡リスクの差は、試験の意義と適格基準、血圧の目標値、地理的位置、試験集団の人種的・民族的背景の違いによって部分的に説明されるかもしれない。STEP試験はサンプルサイズが大きく、慢性疾患を併せ持つ多様な患者層、高い追跡調査率、家庭血圧のモニタリングの使用などが長所である。試験の限界は中国の人口の90%以上を占める漢民族のみを対象としていること。今後は民族による無作為化の層別化が課題だろう。またFramingham Risk scoreは博仁を対象に作成されており、中国人成人の心血管系リスクを過大評価する可能性がある。
【結論】高齢の高血圧患者において,収縮期血圧の目標値を110~130mmHg未する集中治療は,130~150mmHg未満とする標準治療よりも心血管イベントの発生率が低いことが示された。


Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
介入を中止した患者は,収縮期血圧の目標値や降圧剤に関連する副作用のため試験介入を中止したが,追跡調査には参加した。追跡不能となった患者は、連絡が途絶え、ある追跡訪問から試験終了まで主要アウトカムに関するデータが確認されなかったものである。データの解析はITTアプローチに基づいて行われた。追跡不能となった患者も解析に含め、データは最後の追跡訪問の時点で打ち切った。

Figure 2. OfficeSystolic Blood Pressure Measurements.
平均投薬回数は、患者1人あたりの各診察時に投与された血圧降下剤の数に基づいている。

Figure 3. Cumulative Incidence for the Primary Outcome.
主要転帰は,脳卒中,急性冠症候群,急性心不全,冠動脈再灌流,心房細動,心血管系原因による死亡の複合とした。Fine-Gray 分布ハザードモデルを用いて計算し,臨床施設を調整。挿入図は、同じデータを拡大したY軸である。

【開催日】2022年3月2日(水)

Inappropriate treatments for nursing home patients at the end of life / May 2021

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Honinx E, Van den Block L, Piers R, et al. Potentially Inappropriate Treatments at the End of Life in Nursing Home Residents: Findings From the PACE Cross-Sectional Study in Six European Countries.J Pain Symptom Manage. 2021;61(4):732-742.e1. doi:10.1016/j.jpainsymman.2020.09.001

―要約―
Introduction
ヨーロッパでは、65歳以上の高齢者の最大38%が老人ホームで亡くなっている。ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランドの老人ホームでPACE(Palliative Care for Older、高齢者のための緩和ケア)の横断的研究を行った。

目的
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合を推定し、国による違いを分析すること。

Method
研究デザインとサンプリング
老人ホームの死亡した入居者を対象とした横断的な調査を、2015年に6つのヨーロッパの国(ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランド)で、比例層化無作為抽出法を用いて実施した。各国の老人ホームは、地域(州やその他の大きな地域)、種類、ベッド数(国の中央値以上/以下)で層別され、国全体をカバーするように無作為にサンプリングされました。

データ収集
過去3カ月間に死亡した入居者の概要と、それぞれの主要な回答者(スタッフ、すなわち、ケアに最も関与している看護師/ケアアシスタント、管理者/運営者、GP)のリストを各施設が提供した。これらの人々には、匿名コードと、完全な匿名性と守秘性を保証する添付文書が付いた紙のアンケート用紙が送られ、アンケート用紙はエクセルファイルを使ってモニターする研究者に直接返却された。自分が知っている限りで、これらの治療が人生の最後の週に行われたかどうかを尋ねられました。

測定方法
本研究で、不適切な治療とは、期待される健康上の利益(寿命の延長や痛みの軽減など)よりも、負の影響(死亡率や症状の重さなど)が大きい」治療や投薬を指す。
人工経腸栄養(経腸栄養、経管栄養TPN)、輸液、蘇生、人工呼吸、輸血、化学療法・放射線療法、透析、手術、抗生物質、スタチン、抗糖尿病薬、新規経口抗凝固薬を対象とした。

Results
調査対象者の特徴
死亡時の平均年齢は、ポーランドで81歳、ベルギーとイギリスで87歳となっていた(表1)。入院者はほとんどが女性で、ポーランドの63.5%からイングランドの75%までの範囲であった。入所者は主に老人ホームで死亡した(ポーランドでは80%、オランダでは89.3%)。認知症は、フィンランドで最も多く(82.5%)、イングランドで最も少なかった(60.2%)。死亡時の疾患としては、悪性がん(42.9%)であったイングランドを除き、すべての国で重度の心血管疾患が最も多く報告されました(ベルギー34.7%~ポーランド55.7%)。機能的および認知的状態が最も悪かったのはポーランド(BANS-S平均スコア21.9)で、最も良かったのはイングランド(BANS-S平均スコア17.5)であった。

6カ国における、人生の最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合の違い
最後の1週間に少なくとも1つの不適切な治療を行った割合は、ベルギーの19.9%からポーランドの68.2%まで差があった(p<0.001)。人工的な栄養補給や水分補給は、ポーランドで最も多く(54.3%)、オランダでは最も少なかった(2.7%、p<0.001)。ポーランド(48.6%)とイタリア(24.5%)では輸液が最も多く使用されていた(p<0.001)。経腸栄養剤は主にポーランド(17%;p>0.001)で投与されていたのに対し、経管栄養はイタリア(21.5%;p>0.001)で多く使用されていました。すべての治療法のうち、抗生物質の使用が最も多く、ベルギーの11.3%からポーランドの45%まで、すべての国で使用されました(p<0.001)。
リスク因子調整の結果、これらの差は住民の特性によるものではなく、各国の適切なケアの違いを反映したものであると考えられた。

Discussion
ほとんどの治療法の存在割合は、国によって統計的に有意に異なっていた。

研究の強み
医療制度や緩和ケアの文化が異なる欧州6カ国の322の老人ホームの1,384人の入居者のデータを含めることができた。リスク調整を行うことで、本研究の結果が国ごとの存在割合の違いを反映しており、入居者の特性の違いに影響されていないことが確認されました。

研究の限界
①調査データから、特定の治療法が「不適切」な場合を推測することはできず、治療が行われた時点では、ある治療が不適切であるとは考えられなかったかもしれない。
②データは看護師個人から収集したため、リコールバイアスの可能性があります。
③治療の開始時期や臨床的な適応についての情報を収集していない。
④治療法によっては大量の欠損データ(最大で24%)があった。 → 不完全な症例と完全な症例の回帰帰納法による感度分析を行いました。その結果、主に同様の結果が得られ、欠損データの影響は小さいことがわかりました。
⑤入居者が病院で死亡した場合、老人ホームは人生最後の1週間の病院での治療に関する情報を持っていない可能性があり、これが過小評価につながる可能性があります。→ 病院で死亡した入居者は全体の15%に過ぎないことから、これによるバイアスの可能性は小さいと思われます。

臨床的意義
国による違いが大きいことから、文化的な違いを考慮して、介護施設のスタッフやGPが治療の意思決定や終末期の認識を行う際に役立つガイドラインを作成する必要がある。介護施設における事前のケアプランは、入居者、親族、介護者が将来のケアの目標や好みを話し合うのに役立つ可能性があるため、より大きな注意を払う必要がある。最後に、終末期のケアに関する会話や終末期のケアの身体的側面に関するスタッフのトレーニングが必要である。今回の結果は、政策立案者やその他の意思決定者が、老人ホームにおける終末期ケアの適切性を向上させるための公衆衛生政策や介入策を策定する際に利用することができ、また、国境を越えて優良事例を交換することができます。

Conclusion
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における不適切と思われる治療の存在割合は、抗生物質の使用が一般的であったことを除いて、ほとんどの調査対象国で低かった。イタリアとポーランドでは,すべての治療がより多く行われており,特に人工栄養・輸液と抗生物質の投与が多かった。これらの違いは、法律、ケア組織、文化、緩和ケアに関する介護施設スタッフの知識や技術など、国ごとの違いを反映している。

【開催日】
2021年10月6日(水)

ビスフォスフォネート製剤中止のメリットとデメリット

―文献名―
Dennis M. Black 「Atypical Femur Fracture Risk versus Fragility Fracture Prevention with Bisphosphonates」 N Engl J Med 2020;383:743-53.

―要約―
Introduction:
ビスホスホネート製剤は,大腿骨近位部骨折および骨粗鬆症性骨折の減少に有効である.しかし非定型大腿骨骨折への懸念からビスホスホネート製剤の使用が大幅に減少しており,大腿骨近位部骨折の発生率が上昇している可能性がある.非定型大腿骨骨折と,ビスホスホネート製剤およびその他の危険因子との関連には重大な不確実性が残っている.

Method:
カイザーパーマネンテ南カリフォルニアの医療システムに加入しており,ビスホスホネート製剤の投与を受けている 50 歳以上の女性を研究対象とし,2007 年 1 月 1 日から 2017 年 11 月 30 日まで追跡した.主要転帰は非定型大腿骨骨折とした.ビスホスホネート製剤の使用を含む危険因子に関するデータは電子診療録から取得した.骨折は X 線写真で判定した.解析には多変量 Cox モデルを用いた.リスク・利益プロファイルは,関連する非定型骨折と予防されたその他の骨折とを比較する目的で,ビスホスホネート製剤の使用期間 1~10 年でモデル化した.

Results:
女性 196,129 人のあいだで,非定型大腿骨骨折は 277 件発生した.多変量補正後,非定型骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間に伴って上昇し,3 ヵ月未満の場合と比較したハザード比は,3 年以上 5 年未満で 8.86(95%信頼区間 [CI] 2.79~28.20)であり,8 年以上で 43.51(95% CI 13.70~138.15)まで上昇した.その他の危険因子には,人種(アジア人の白人に対するハザード比 4.84,95% CI 3.57~6.56),身長,体重,グルココルチコイドの使用などがあった.ビスホスホネート製剤の中止は,非定型骨折リスクの急速な低下と関連した.ビスホスホネート製剤の 1~10 年間の使用中の骨粗鬆症性骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は,白人では非定型骨折リスクの上昇をはるかに上回ったが,アジア人では白人ほど大きくは上回らなかった.白人では,使用開始後 3 年の時点で大腿骨近位部骨折は 149 件予防され,ビスホスホネート製剤に関連する非定型骨折は 2 件発生したのに対し,アジア人ではそれぞれ 91 件と 8 件であった.
非定型大腿骨骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間とともに上昇し,ビスホスホネート製剤の中止後速やかに低下した.アジア人は白人よりもリスクが高かった.非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,ビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続した.(カイザーパーマネンテほかから研究助成を受けた.)

Discussion:
第一に、治療を受けた大部分がアレンドロネート(アクトネル)であったため、他のビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブなど、他の薬剤や製剤に推論を広げることはできませんでした。第二に、ビスフォスフォネートの曝露を含む共変量の評価は、カイザーパーマネンテの会員期間に限定されているため、コホートに参加する前の会員期間が短い人のビスフォスフォネートの累積曝露量が過小評価されている可能性がある。第三に、今回のリスク・ベネフィットの比較は、骨折の数のみに基づいている。より完全な比較を行うには、コストに加えて関連する罹患率や死亡率を考慮する必要がある。非定型大腿骨骨折後の死亡率は、データは限られているが、股関節骨折後よりも低い。1~5年間の治療による骨折減少のモデルは、無作為化臨床試験による強力なエビデンスベースを持っているが、5年以上になるとエビデンスベースはより限定される。確認された大腿骨骨折の約16%については、X線写真が得られなかったか、判定に不十分であったため、非定型骨折の真の発生率が過小評価されている可能性がある。第四に、黒人の非定型大腿骨骨折は2件のみであり、この集団での推論を妨げるものであった。

【開催日】
2021年7月14日(水)