COPD患者における一般診療所での呼吸機能検査の妥当性

-文献名-
T R Schermer, et al. Validity of spirometric testing in a general practice population of patients with chronic obstructive pulmonary disease (COPD). Thorax. 2003 Oct; 58(10): 861–866. doi: 10.1136/thorax.58.10.861

-要約-
Introduction:
近年プライマリケアの現場で呼吸機能検査の使用が急速に増大している。実践ガイドラインではCOPDの管理に呼吸機能検査が中心的な役割を示すことを示唆しており、患者のほとんどはプライマリケアで診断治療がされるため、これらのガイドラインは一般診療所に密接に関連している。
呼吸機能検査の有効性(もしくは信頼性)は呼吸器疾患の診断、モニタリング、マネジメントを行うための前提条件で、実際に広く使用されているが、プライマリケアの環境で呼吸機能検査の有効性は証明されていない。
過去の研究では、一般診療所で得られた呼吸機能検査の測定指数は検査室で得られた値に比べ、十分な検出がされていないことが示されており、妥当性が不十分であると示唆されている。しかし、これらの報告はいずれもpeer review(査読)がされておらず、今後さらなる研究が必要とされている。今回の研究の主な目的は、一般診療で行われた呼吸機能検査の結果が、検査室で行われた結果と、一致した検査結果を示すかどうかを評価することである。

Method:
研究には、4つの検査室(大学に2つ、総合病院に2つ)と149人の一般開業医(GP)と185人の検査助手からなる61の一般診療を対象とした。検査室における呼吸機能検査を「ゴールドスタンダード」測定と設定した。
一般診療所における患者は以下が選択された。
年齢は30〜75歳、喫煙者もしくは過去に喫煙歴がある中で、COPDの臨床的定義(「過去2年間に少なくとも3ヶ月間は、日中の咳嗽もしくは呼吸困難がある」)を満たし、気管支拡張薬投与後のFEV1の結果が40-90%、および(または)気管支拡張薬投与後のFEV1/FVCが予測値未満(男性で88%、女性で89%)を示しており、GPによってCOPDと診断された患者を対象としている。重度の併存疾患、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性発疹の既往のある患者は除外された。
研究が実施される前に、一般診療所のGPと検査助手には呼吸機能検査実施におけるトレーニングプログラムを受講させた。プログラムは、2.5時間のセッションを1か月の間隔で2回受講する。セッションの内容は、Thoraxの Webサイトで入手できるものとした。
研究データの収集は1998年12月から2001年1月まで行われ、一般診療所および検査室にはすべて、同じ電子呼吸機能検査計と肺活量測定ソフトウェアが装備された。各研究被験者は、一対の呼吸機能検査が実施された。最初の検査は常にいずれかの検査室で行われ、2回目の検査を一般診療所で行った。2つの検査の間隔が30日を超える被験者は、分析から除外された。研究途中に急性増悪があったケースの測定スケジュールは臨床的な改善が認められた6週間後まで延期された。
被験者は、一対いずれの呼吸機能検査においても、検査前8時間の短時間作用型気管支拡張薬と12時間の長時間作用型気管支拡張薬を控えるように指示され、呼吸機能検査を実施する15分前に、スペーサーによる気管支拡張薬(エアロゾル化サルブタモール400μg)の投与がされた。各テストでは、少なくとも3回の強制呼気操作が行われ、FEV1とFCVの結果の合計が最も高い操作が保存され、分析に使用された。

Results:
61の診療所の内訳は、21(34%)がソロプラクティスであり、35(58%)はグループ診療、5(8%)は学術集中ヘルスケアセンター?である。全体の65%の施設で研究前より呼吸機能検査が導入されていた。Table1には今回の特性が記載されている。トレーニングプログラムの出席率はGPで57%、検査助手で78%でした。61の施設の中で2施設はGPが検査を行い、59は検査助手が実施していた。

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Primary outcomeは、一般診療所と検査室におけるFEV1(一秒量)とFCV(努力肺活量)値の純粋な差の平均とした(ΔFEV1、ΔFCV)。1年目と2年目の研究アウトカムに大きな差はなかった。
また単純な差の平均と別に、調整された推定値も算出された(外れ値の影響を配慮され、最小値付近5%データと最大値付近5%データを除外して計算する5%トリム平均が行われた)。調整された推定値は単純な差の平均値より、(ごく軽度だが)高いことがわかった(Table2)。さらには研究1年目、2年目ともに、すべての診療所で測定した値のほうが、検査室での値よりもFEV1、FCVともに高く算出されていることがわかった(Table3)。この結果は診療所と検査室での呼吸機能検査の測定値に不一致があることを示唆している。
ΔFEV1、ΔFCVの値のばらつきについては、体系的な変化はみられなかった(Figure1,2)。

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Discussion:
今回の研究結果は、一般診療所の呼吸機能検査の品質と「ゴールドスタンダード」の手順で行われる検査室の呼吸機能検査の品質を加味して、納得する結果であった。
一般診療所の呼吸機能検査の平均値を一貫して観察したところ、再現性の割合については、診療所も検査室も同じであった。しかし上述した通り、診療所と検査室の呼吸機能検査の測定値自体の一致は限定的であったため、この結果は診療所と検査室の測定値の結果を同様のものとして扱うことは避けるべきであるということを示唆していることがわかる。

また今回の研究自体は診療所と検査室での呼吸機能検査のパフォーマンスを比較することを目指したものである。
検査のパフォーマンスは検査実施者の関連する因子によって大きく影響を受ける。被験者への指導の質、呼吸機能検査の再現性など多岐にわたる。比較における潜在的なバイアスを抑えるため、検査器具を同様のものを使用する工夫などは行ったが、被験者の気道過敏性や日内変動など個人因子は調査結果に影響を与えた可能性はある。被験者の繰り返し行う検査による学習効果も完全に影響していないとは言い難いが、この点に関しては、過去にCOPDの診断を受けている患者で呼吸機能検査の経験があり、理解力を有する方を対象に行っているため、個々の学習曲線は横ばいになっていると推定される。

(結論)
トレーニングされた一般診療所で得られたCOPDの管理に関連する呼吸機能検査の検査結果は、認定された検査室で測定された値よりもわずかではあるが統計的に高い値が出ていると結論付けた。
しかし再現性については、一般診療所と検査室に差がないことから、プライマリケアの現場で呼吸機能検査の実施が、すでに広く行われていることを支持するものであった。
ただし、上記の通り、診療所と検査室での値は不一致であることも示唆されたため、測定値の評価を入れ替えして使用することは避けるべきである(初回を診療所で測定して、フォローを検査室で測定するような行為)ことも示唆された。
プライマリケアの環境で呼吸機能検査を実施することを奨励することは、実践するスタッフのトレーニングが十分であれば、妥当性のあるものと考える。

【開催日】2020年2月5日(水)

薬剤溶出ステントを用いたPCI後の抗血小板薬2剤治療の期間

-文献名-
Duration of dual antiplatelet therapy after percutaneous coronary intervention with drug-eluting stent: systematic review and network meta-analysis. BMJ 2019; 365: l2222

-要約-
【Introduction】
アスピリンとP2Y12受容体阻害剤(チクロピジン、クロピドグレル)を使用した2重抗血小板療法(DAPT)は、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者ケアの基礎となっている。薬剤溶出ステント(DES)移植後の患者に対するDAPTの推奨期間は、急性冠症候群(ACS)では12ヶ月以上、安定した冠動脈疾患の患者では6ヶ月となっている。だが、DES技術の改良と強力なP2Y12受容体阻害剤の出現により、DAPTから単一の抗血小板療法へ切り替える最適なタイミングは議論の余地がある。
過去の研究では、12ヶ月以上のDAPTは、3~6ヶ月のDAPTと比較して非優越性が証明された。さらに、DAPTの期間が短い方が、出血に関連した死亡率の低下により、全ての原因による死亡率が低くなった。にも関わらず、研究では短期DAPTが従来の標準期間に取って代わることができるとは結論づけられなかった。さらに、3ヶ月のDAPTがACS患者の虚血リスク増加と関連していることも示唆された。
本研究ではネットワークメタアナリシスにより、DAPTの継続期間をより定量化し、包括的な評価を行った。

【Method】
データベース:Medline、Embase、Cochrane Library for clinical trials、PubMed、Web of Science。ClinicalTrials.gov、Clinicaltrialsregister.euも検索した。
基準:対象者はDESを使用したPCI後にDAPTを受けた成人(18歳以上)。介入はDAPTの候補期間(短期;6ヶ月以下、標準期間;12ヶ月、長期;>12ヶ月)。他の候補期間との比較を行った。結果には死亡、心筋梗塞、脳卒中、出血が含まれる。除外基準:≦1ヶ月のDAPT、非無作為化試験の分析、横断研究、症例報告・症例シリーズ、進行中の試験、または元の研究のデータが不十分な場合。

【Results】
2010年~2018年までの17の研究、46,864名の参加者が含まれた。DAPTの最短期間は3ヶ月で、最長期間は48ヶ月。全体として13,234名の参加者が短期DAPTに、18,473名が標準期間DAPTに、15,157名が長期DAPTに割り当てられた。全てのランダム化比較試験で、完全な臨床的および人口統計学的特性が報告された。
短期DAPTと比較して、長期DAPTは大出血(オッズ比1.78、95%信頼区間1.27~2.49)、非心臓死(オッズ比1.63、95%信頼区間1.03~2.59)が多くみられた。標準期間DAPTは出血率の高さと関連していた(オッズ比1.39、95%信頼区間1.01~1.92)。他の主要エンドポイントでは顕著な差は見られなかった。感度分析により、短期または標準期間DAPTと比較して、18ヶ月以上のDAPTでは非心臓死および出血リスクがさらに増加することが明らかになった。サブグループ解析では、新しい世代のDESが移植された患者では、長期DAPTで短期DAPTよりも全ての原因による死亡率が高くなった(オッズ比1.99、95%信頼区間1.04~3.81)。ACSに対して新世代のDESを使用された患者について、短期DAPTは標準期間DAPTと同様の有効性と安全性を示した。

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Fig2:Network meta-analysis results of all endpoints between two pairs of duration of DAPT

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Fig3:Network meta-analysis results of all endpoints between two pairs of duration of DAPT

【Discussion】
DAPTの最適な期間は、個人の虚血および出血のリスクを考慮に入れる必要があるが、この研究は、直接および間接比較からの根拠を組み合わせて、DESを使用したPCI後のほとんどの患者で短期DAPTを考慮することができることを示唆している。
本研究の限界として、第一にクロピドグレルをベースにDAPTの期間を評価したため、プラスグレルやチカグレロールなど他のP2Y12阻害剤を適用した場合は結論が異なる可能性がある。第二に、プールされた定義で異なる試験の結果分析を行った点である。第三に、心臓死など、いくつかの試験ではいくつかのエンドポイントが報告されなかったため、頻度主義とベイズ主義の枠組みでの結果のわずかな相違が部分的に説明された可能性がある。

【開催日】2019年12月11日(水)

COPD急性増悪に対するCRPに基づいた抗菌薬使用

-文献名-
Allan S et al. COPD Exacerbations — A Target for Antibiotic Stewardship: N Engl J Med 2019; 381(2): 111-120.

-要約-
◎背景
CRPの測定は、COPDの急性増悪の患者に害を与えることなく、抗菌薬の不必要な使用を減らせるのではないかと考えられている。

◎方法/研究デザイン
▼イギリス国内の86施設で行われた、多施設共同、非盲検ランダム化比較試験。
▼40歳以上の男女でCOPDの診断を既に受けている患者のうち、対象施設の総合診療科の医師によりCOPD急性増悪とする旨の診断が下った者が対象
▼急性増悪の基準は
(1) Athonisen Criteria=呼吸困難の増悪、痰量の増加、膿性痰の増加の1項目以上
(2) 症状持続が24時間~21日以内
▼患者を以下の2群に割りつける。
① CRPを参考にして治療方針(抗菌薬使用)を決定する群、② (CRPを測定しない)通常ケア群。
CRP参考群の、抗菌薬使用の基準は
CRP<2mg/dLで抗菌薬使用推奨せず、
CRP=2~4mg/dLで膿性痰の臨床症状に基づいて判断
CRP>4mg/dLで抗菌薬使用推奨
(※ あくまでも「推奨」であって、使用を否定するものではないことに注意。)
▼割り付け1週後・2週後に電話での聞き取り、4週後に対面式での聞き取りを実施。
 6ヶ月後にも質問紙を郵送しての聞き取りを実施した。
▼Primary Outcome…
4週間以内に抗菌薬投与が行われたか
割り付けの2週間後のCOPDに関連した全身状態はどうか (※ 非劣性試験)

◎結果
▼ 1319人が登録され、649人を2群に割り付けた。
▼ 抗菌薬使用率は、①CRP参考群=57.0%、②通常群=77.4%
  初回診察時に抗菌薬を使用した群は、①CRP参考群=47.7%、②通常群=69.7%
▼ 2週間後のClinical COPD Quesionnaire値はCRP参照群で-0.19点であり、通常群に対する非劣性が証明された
▼ 有害事象
 4週間のフォロー中に通常群のうちの2名は死亡したが、本研究との関連は薄い
 6ヶ月の追跡期間中に、CRP参考群で延べ35回、通常群で延べ34回の入院が起きている
 肺炎の発生、抗菌薬による副作用については2群間で有意差は認められなかった。

◎考察
▼ 1319人が登録された中で、649人が抽出されているのだが、その記載が曖昧(というかない?)
▼ CRP採血をしたというそのことが、COPD関連の健康状態に影響を及ぼしている可能性はないか?
▼ CRPやプロカルシトニン値の確認によってCOPDの急性増悪時の抗菌薬使用率を減らしたというエビデンスは存在し、メタアナリシスもあるが、その中に示されている研究はすべて規模が小さく、またエビデンスの質も低いものであることに留意することは必要である。
▼ 本研究でのCRPの位置付けはあくまでも参考値という点には留意が必要。完全にCRPのみで治療方針を決定したわけではない。

◎結論
プライマリ・ケアセッティングにおいて、CRPを参考にしたCOPD急性増悪に対する抗菌薬処方は、害を及ぼすことなく、抗菌薬の使用率を下げる可能性が示唆された。

【開催日】2019年11月13日(水)

A群溶連菌咽頭炎への5日間の抗生剤治療

-文献名-
Gunilla Skoog Stahlgren, et al.Penicillin V four times daily for five days versus three times daily for 10 days in patients with pharyngotonsillitis caused by group A streptococci: randomized controlled, open label, non-inferiority study. BMJ 2019; 367:l5337

-要約-
【Introduction】
スウェーデンにおいて、A群溶連菌咽頭炎に対する治療レジメンは、ペニシリンV 1000 mgを1日3回、10日間となっている。この治療期間は他の国と同じだが、投与量と総曝露量(30 g)は比較的多い。
抗菌薬治療の理由は、主に急性リウマチ熱や糸球体腎炎などの重篤な合併症を避けるためであるが、これらの状態は現在、高所得国では非常にまれなものとなっている。
今日、高所得国での治療の主な理由は速やかな症状の臨床的治癒をはかることであり、また、腹膜炎、膿痂疹、蜂巣炎、中耳炎、副鼻腔炎などのまれな合併症を防ぐことにもなる。
2008年のメタ分析では、A群レンサ球菌咽頭炎の患者へより短期間の治療(5~7日)を行った場合、10日間の治療に比べて臨床的成功と細菌学的根絶の可能性が低いことが示された。
この研究での1日総投与量は750~1600mgの範囲で、1日2回または1日3回だった。薬物動態および薬力学としては、βラクタム系抗生物質の有効性は血清中の非結合薬物濃度の最小阻害濃度を超える時間に依存しており、その決定要因は用量と投薬頻度である。
1日4回800mgの投薬レジメンは、1日3回1000mgと比較してより良いものとなる。短いレジメンでのリスクは、臨床的治癒と微生物学的根絶の割合が低いことだが、治療期間を短縮すると副作用が少なくなり、患者のアドヒアランスが向上し、ヒト微生物叢への影響が少なくなり、抗生物質の総使用量を減らし、患者と地域社会の薬物費用を削減できる。
本研究の目的は、適切な臨床効果を維持しながら、ペニシリンVの総暴露量を削減できるかどうかを調査することである。A群レンサ球菌による咽頭扁桃炎患者において、ペニシリンV800 mg 1日4回5日間の治療は、現在の推奨用量である1000 mg1日3回10日間に劣らないという仮説のもと、非劣勢試験を行った。

【Method】
デザイン:オープンラベル、ランダム化非劣勢試験。2015年9月~2018年2月の期間、スウェーデンの17の医療センターにて実施。
対象:6歳以上で、3~4のCentor criteria(38.5°C以上の発熱、リンパ節腫脹、扁桃の白苔、咳の欠如)、およびA群レンサ球菌の迅速抗原検査陽性となった患者をinclusion。重病の兆候を示した場合、またはペニシリンに対する過敏症を有していた場合、少なくとも15 mgのプレドニゾロンによる免疫調節治療を受けていた場合、過去1ヶ月間に咽頭扁桃炎の抗生物質を投与されていた場合(再発)、またはinclusionから72時間以内に抗生物質治療を受けた場合は除外。
介入:ペニシリンV 800 mgを1日4回5日間、現在の推奨用量1000 mgを1日3回10日間と比較。40 kgまでの子供は、体重に応じて投与量を調整した(10-20 kg:投与量250 mg、20-40 kg:投与量500 mg、治療群に関係なく)。
主要アウトカム:抗生物質治療の終了後5〜7日での臨床的治癒(主要な残存症状または咽頭扁桃炎または症候性再発の臨床所見のない完全な回復として定義)。二次アウトカムは、治癒試験で採取した培養による細菌学的根絶、症状緩和までの時間、再発の頻度、合併症および新たな扁桃炎の発症、有害事象のパターン。

【Results】
患者(n=433)は5日間(n=215)または10日間(n=218)のレジメンにランダムに割り当てられた。プロトコルごとの母集団の臨床的治癒は、5日間のグループで89.6%(n=181/202)、10日間のグループで93.3%(n=182/195)だった(95%信頼区間-9.7~2.2)。
細菌学的根絶は、5日間のグループで80.4%(n=156/194)、10日間のグループで90.7%(n=165/182)だった。5日と10日のグループで、それぞれ8人と7人の患者が再発し、6人と13人の患者が合併症を発症し、6人と13人の患者が新たな扁桃炎を発症した。症状が緩和されるまでの時間は5日間のグループで短かった。有害事象は主に下痢、悪心、および外陰膣障害だった。10日間のグループでは発生率が高く、有害事象の期間が長かっ
た。

【Discussion】
A群レンサ球菌咽頭扁桃炎において、ペニシリンV5日間1日4回の治療は、10日間1日3回の臨床結果に劣らない事が分かった。細菌学的根絶は5日間の治療グループで低かったが、症状が解消するまでの時間は短かった。グループ感の1ヶ月以内の再発数に統計的有意差はみられなかった。最後のフォローアップでは、5日間の治療グループで新たな扁桃炎の発症と合併症の数が少なかった。また、5日間のグループで報告された有害事象はより少なく、有害事象が生じている期間がより短かった。
ペニシリンV5日間1日4回の治療は、現在の10日間のレジメンに置き換えられる可能性がある。

【開催日】2019年10月9日(水)

CPAP療法のアドヒアランス向上に対するエスゾピクロンの短期使用の効果

-文献名-
Christopher J. et al. Effects of a Short Course of Eszopiclone on Continuous Positive Airway Pressure Adherence. 17
November 2009 Annals of Internal Medicine Volume 151 • Number 10

-要約-
Introduction:
未治療への閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)へのCPAP療法の導入は日中のQOLの向上や心血管イベントの発症抑制につながる可能性があり、第一治療選択として推奨されている。
CPAPを新規に導入した患者のうち、約50%が最初の1年以内、ほとんどが最初の1か月以内に使用を中止している。
長期的なアドヒアランスの信頼できる唯一の予測因子は、短期的な持続陽圧呼吸療法(CPAP)を遵守することである。
短期的な治療の遵守を改善することを目的とした戦略は、CPAP療法の成功に合理性があると考えられる。
理論的には、徹底した患者教育、定期的なフォローアップ、およびデバイスの快適性の向上(たとえば、加温加湿器、より適切なマスクの使用)により成功率が増加すると推定されている。
しかしこのような集中的なサポートや技術的介入は、実際の臨床で一貫性、確実性を持って実施されていない。
どのような患者がCPAP療法の長期継続に移行するかを予測し、CPAP療法導入時2週間の非ベンゾジアゼピン鎮静催眠性(エスゾピクロン)を使用するほうがプラセボよりも長期的なCPAP療法のアドヒアランスを改善するかどうかを判定するための研究を行う。

Method:
2007年3月から2008年12月までに新規にOSASと診断され、以前にCPAP療法を受けていなかった18歳から64歳の患者を対象にした。
OSASはすべての患者で、夜間の睡眠ポリグラフ検査に基づいて診断され、またすべての睡眠ポリグラムは、研究調査員および著者によって評価された。診断を確立し、無呼吸低呼吸指数を使用して、米国睡眠医学アカデミーの基準に従ってOSAの重症度を定義した。
催眠薬を長期間使用している患者、1晩に2杯以上のアルコール飲料を摂取している患者、および肝機能障害または研究の完了を妨げる重度の精神疾患のある患者、妊婦を除外した。

エスゾピクロン3 mgを就眠前に服用する群(n 80)、プラセボ群(n 80)を無作為に割り当てた。
ランダム化は、コンピューター化されたプログラムを使用して実施された。薬局には最終データが収集されるまで、無作為化と盲検化を維持した。
CPAPを開始するすべての患者に包括的な教育プログラムに参加し、適切なマスクフィッティングを行った。CPAP自体は全員が同じモデルを使用した。
治療に対する臨床反応を評価するために、1か月後に評価が行われた。また必要に応じて、追加のフォローアップが提供され、圧力の変化、漏れの評価、マスクの変更、
または適切な睡眠衛生などの調整と教育を含む非薬理学的介入は、より良いアドヒアランス向上のために個別化されている。この研究に登録されたすべての患者は、3ヶ月および6ヶ月の治療後にも評価を受けた。
Primary outcomeとして測定したものは、24週目のCPAP療法の遵守であった。
詳細には、使用された夜間の割合、全調査の夜間の平均夜間使用時間、CPAPが使用された夜間の平均時間を計算した。
また、「CPAPの定期使用」ができているかの割合を比較した。これは全体の70%以上使用割合があり、かつ1晩で4時間以上の使用ができているものと定義した。
上記の測定にはCPAPユニットに統合されている「スマートカード」からCPAP使用の客観的な測定値を取得した。
登録時(ベースライン)およびCPAPを開始してから1、3、6か月後に測定された変数をすべて収集した。さらに1か月、3か月、6か月にスマートカードを収集し、
ダウンロードしたデータを1週間単位で毎晩記録および分析をした。
Secondary outcomeは、CPAP中断率と症状の改善率を測定した。
症状の指標には、エプワース眠気尺度(ESS)スコア、疲労感、睡眠アンケートの機能的結果の変化をベースラインと研究の終わりとの間で比較して決定した。

Results:
登録された160人の患者のうち、154人が治験薬を受け取り、分析された。登録された患者のうち、1、3、6ヶ月で追跡調査を行い、その時点で150、136、および120人が対象となった。2つのグループの患者のベースライン患者特性は類似しており(Table1)、治験薬から報告された副作用も稀で、グループ間で差はなかった(Table2)。
JC西園1
JC西園2

エスゾピクロン群は、全体の64.4%でCPAPを使用し、プラセボを投与された患者では45.2%であり、エスゾピクロンによりCPAP療法の遵守が改善された。またエスゾピクロン対プラセボのグループで、全調査の夜間の平均夜間使用時間は3.57対2.42時間、CPAPが使用された夜間の平均時間は4.05対3.02時間であった。

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参加者がスマートカードを返さなかったために欠落したデータは、1週目で2%(154人の患者のうち4人)から24週目で22%(34人の154人の患者)であった。欠測データは任意の週にグループ間で均等に分配された。
CPAPの定期使用を中断するまでの期間も、エスゾピクロンよりもプラセボの方が短く、平均期間は、プラセボ群で13.3週間、エスゾピクロン群で17.6週間であった。
さらには、CPAPの使用により、主観的な改善がもたらされた。ベースラインと比較して、ESSスコアはエスゾピクロン群で22.7%減少し、プラセボ群で7.6%、疲労は10.2に対して17.7%減少した。および睡眠アンケート機能スコアの機能的結果は9.4%に対して12.6%増加した。

【開催日】2019年9月4日(水)

軽度高血圧を有する、心血管リスクの低い患者に対する降圧薬投与の功罪

-文献名-
James P. Sheppard et al. Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension: JAMA Internal medicine. 2018; 178(12): 1626-1634.
-要約-
◎背景
心血管リスクを低い、軽度の高血圧患者の薬物療法を支持するエビデンスには決定的なものが存在しない。以前の論文は有効性を保証するに至っておらず、ガイドラインでも矛盾が指摘されていた。

◎目的
心血管リスクの低い、軽度の高血圧患者における降圧治療が、死亡や心血管疾患のリスクを下げるかを確認すること。

◎研究デザイン
後ろ向きコホート研究。1998年1月から2015年9月までの間に、未治療の軽度の高血圧(未治療下で140-159/90-99mmHg)を有する18歳から74歳までの患者が対象。既に心血管リスクを有しているものは除外し、途中で関心outcomeを発症したものは除外した。
※ 心血管リスクとは、心血管イベントの既往、左室肥大、心房細動、糖尿病、慢性腎臓病、若年での冠動脈疾患の家族歴、である。
Primary Outcomeは全死亡率、Secondary Outcomeは①心血管イベントによる入院もしくは死亡、②癌による死亡(Negative control)、③有害事象(低血圧、失神、徐脈、電解質異常、転倒、急性腎障害)である。

◎結果
▼ 19143人の治療群と未治療群に分け、追跡期間中央値は5.8年であった。降圧治療と死亡率の間に有意な証拠は診られなかった(HR=0.88~1.17)。心血管疾患との関連性にも有意差なし(HR=0.95~1.25)。
一方で、治療群では、低血圧(HR=1.30-2.20)、失神(HR=1.10-1.50)、電解質異常(HR=1.12-2.65)、急性腎障害(HR=1.00-1.88)のリスクと関連性を有した。
▼ 治療群における年齢、血圧、降圧薬の種類と、死亡率もしくは心血管イベントの発生率には有意差なし。

◎考察
▼ 過去、これらのoutcomeについて、(降圧による)有意な差を見いだせなかったとする研究や、ハイリスク群での研究はあったが、それに答える研究となっている。
▼ 新しいACC/AHAガイドラインにおける、低リスク群の軽症高血圧に対して降圧を促すことで、心血管イベントを減少させうるとするサジェストに異議を唱える結果となった。
▼ また、降圧薬の長期投与が各種の有害事象と関連していることにも言及できた。
▼ 一部有害事象は、電子媒体の不充分な記載によるところもありそうで、例えば入院まで至らなかったり主治医に報告がなされなかったりした転倒のイベントは拾えていない。
▼ 医療機関に報告がなされないようなイベントは患者個人が重要だと認識していなかったり、secondary outcomeは診断バイアスがかかっている可能性もある(治療中の患者は有害事象をより報告しやすくなるなど)。
▼ 残余交絡(residual confounders)に伴い、治療群をよりリスクの高い群とみなした可能性は否定できない
▼ propensity scoreを使用したマッチングを行っており、risk factorの記録の際にバイアスが生じている可能性もある
▼ サブグループ解析において、女性における心血管イベントの発生や、ACEi投与と心血管イベントの発生との間に関連性があるかもしれないと示されているが、重要な交互作用が考慮されていない点には注意が必要。
▼ 追跡期間の中央値が5.8年であり、より長く観察を続けた際に、薬剤投与を続けることの利点が示される可能性はある。

◎結論
測定が不可能な交絡による影響がある可能性を考える必要はあるものの、心血管リスクの低い、軽度の高血圧症の患者における治療を支持する結果は得られず、有害事象のリスクが増加しているという結果を得た。心血管リスクの高い患者で施行された試験の結果を、リスクの低い患者に一般化するガイドラインに従う場合、医師は注意すべきであることを示唆している。

(図1) 患者の特性について
JC201906富田1

(表2) 結果
JC201906富田2

(図1) 各群、イベントごとの発生割合
JC201906富田3

(図2) 有害事象の発生割合
JC201906富田4

(図3) サブ解析における治療の有効性の評価
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【開催日】2019年6月12日(水)

日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンス

-文献名-
Yamada S, Kabeya Y, Noto H. Dietary Approaches for Japanese Patients with Diabetes: A Systematic Review. Nutrients 2018; 10(8): 1080.
-要約-
【背景】
食事療法は糖尿病のマネジメントにおいて重要である。米国糖尿病学会(ADA)では地中海食、dietary approaches to stop hypertension(DASH)、ベジタリアン食、糖質制限食などいくつかの食事療法を推奨している一方で、日本糖尿病学会(JDS)では1965年以来、エネルギー制限食のみを推奨している。JDSガイドラインの食事に関する勧告は86の研究に基づいて報告されているが、そのうち83は日本人の2型糖尿病患者を対象にした研究ではなく、残りの3つもエネルギー制限食の有効性を示した研究ではない。
【目的】
日本人糖尿病患者の管理に対するエネルギー制限食(および炭水化物制限食)の影響を解明する。
【方法】
MEDLINE、EMBASE、JAMASのデータベースから検索
除外基準:(1)外国人データ、(2)非糖尿病患者データ、(3)他の食事療法アプローチ、(4)未発表データ(科学会議でのみ発表された要約を含む)、(5)症例シリーズや症例報告など、評価には不適切な研究
Funnel Plotなし(定量的データ分析は実施していない)
Mindsの勧告に従ってバイアスを評価
Yamada S、Kabeya Yのふたりで評価(意見の相違は議論およびNoto Hへの相談で解決)
【結果】
エネルギー制限食の評価:2つのRCTをレビュー(いずれも糖質制限群V.S.エネルギー制限群、nはそれぞれ24、66)
・エネルギー制限群は糖質制限群より6か月後のHbA1c改善において劣っていた。
・片方のRCTではエネルギー制限群の方が糖質制限群よりもエネルギー摂取量が高く、エネルギー制限の正味の影響は評価不能
糖質制限食の評価:3つのRCTをレビュー(上記2つに加えて、糖質制限群V.S.糖質非制限群、n=15)
・糖質制限群は糖質非制限群に比べて持続血糖モニタリング(CGM)における食後血糖の改善に優れていた。
・糖質制限食は、日本人の2型糖尿病患者における限られたエビデンスによって支持される。
【結語】
①日本人糖尿病患者に対する食事療法のエビデンスはほとんどない
②JDSが推奨するエネルギー制限食は科学的根拠に裏付けられていない → より大規模な試験が必要
③短期間のアプローチでは、糖質制限食はエネルギー制限食より効果的 → より洗練された設計の試験が必要

JC2019後藤

【開催日】2019年6月5日(水)

75歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与の是非

―文献名―
Rafel Ramos, et al. Statins for primary prevention of cardiovascular events and mortality in old and very old adults with and without type 2 diabetes: retrospective cohort study. BMJ 2018;362:k3359.

―要約―
【背景】
75歳以上の高齢者に対する心血管疾患(CVD)あるいは心血管死の二次予防目的でのスタチン投与は一定確立されている。一方で、75歳以上、とくに85歳以上の高齢者に対する一次予防目的でのスタチン投与はエビデンスが不足している。
【目的】
スタチンが75歳以上の高齢者のCVD発症あるいは全死亡の一次予防に寄与するかどうか評価する。
【方法】
後ろ向きコホート研究
【セッティング】
スペインの大規模データベース「Database of the Catalan primary care system (SIDIAP)」の2006-15年分
【主要アウトカム】
CVD発症と全死亡
【結果】
臨床的にCVDの既往がない46,864名(平均77歳、63%は女性、追跡期間中央値5.6年)が登録された。(Fig.1)
糖尿病がない被検者のスタチン使用によるハザード比は、75-84歳ではCVD発症0.94 (95%CI 0.86-1.04)、全死亡0.98 (0.91-1.05)、85歳以上ではCVD発症0.93 (0.82-1.06)、全死亡率 0.97 (0.90-1.05)だった。糖尿病がある被検者のスタチン使用によるハザード比、75-84歳ではCVD発症0.76 (0.65-0.89)、全死亡0.84 (0.75-0.94)、85歳以上ではCVD発症0.82 (0.53-1.26)、 全死亡1.05 (0.86-1.28)だった。(Table.4)
同様に、年齢によるsplinesを用いた連続スケール効果解析で、糖尿病のない74歳以上の被検者におけるスタチンのCVD発症と全死亡に対する利益欠如を裏付けた。糖尿病がある被検者では、スタチンのCVD発症と全死亡に対する予防効果が示されたが、この効果は85歳以上では実質的に減少し、90歳以上では消失した。(Fig.2)

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【開催日】2019年5月22日(水)

2型糖尿病における心血管及び腎機能の1次予防/2次予防に対し用いられるSGLT2阻害薬

―文献名―
Thomas A Zelniker, Stephen D Wiviott, et al. SGLT2 inhibitors for primary and secondary prevention of cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis of cardiovascular outcome trials. Lancet 2018 Nov 9.

―要約―
◎背景
SGLT2阻害薬に関しては、2型糖尿病の患者の心血管イベント発生に対するいくつかのランダム化比較試験が行われている。2型糖尿病患者を対象としたSGLT2阻害薬の無作為化対照試験に関して系統的レビュー並びにメタアナリシスを実施した。’18年9月24日までに公開された試験に関し、PubMed及びEmbaseを検索している。有効性の結果は、主要な有害な心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心血管死)、心血管死もしくは心不全による入院、腎臓病の進行を含んでいる。

◎結果
▼ 3つの試験(① EMPA-REG OUTCOME、② CANVAS program、③ DECLARE-TIMI 58)を対象とした
① Zinman B, Wanner C, Lachin JM, et al. Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. N Engl J Med 2015; 373: 2117–28.
 42カ国、590施設で、18歳以上、BMI≦45kg/㎡、eGFR≧30を満たす患者
② Neal B, Perkovic V, Mahaffey KW, et al. Canagliflozin and cardiovascular and renal events in type 2 diabetes. N Engl J Med 2017; 377: 644–57
 30カ国で、HbA1c 7.0~10.5%、30歳以上で症状を有する動脈硬化性の心血管疾患を持つか、50歳以上で心血管疾患のリスク因子を2項目以上満たす患者
③ Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP, et al. Dapagliflozin and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes. N Engl J Med 2018; published online Nov 10. DOI: 10. 1056/ NEJMoa1812389.
 (対象患者に関する情報を検索できず)

・合わせて34322名の患者(うち60.2%が動脈硬化性の心血管イベントを有している)のデータを収集した。平均年齢は63.5歳、35.1%は女性であった。3342名に有害な心血管イベントを、2028名に心血管死もしくは心不全に因る入院を、766名に腎臓病の進行を認めた。
・主要な有害な心血管イベントを11%減らしたが、その効果は動脈硬化性の心血管疾患を有している患者にのみ有意差がみられ(HR=0.86(95%CI=0.80-0.93))、リスクファクターは有するが動脈硬化性の心血管疾患を有しない患者にはみられなかった(HR=1.00(95%CI=0.87-1.16))。
・心血管死もしくは心不全に因る入院を23%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。
・心筋梗塞のリスクを11%下げ、心血管死は16%下げるとするデータは得られたが、高い異質性がある(I2=79.9%)。
・脳梗塞のリスク低下には寄与しない(HR=0.97(95%CI=0.86-1.10))。
・腎臓病の進行、末期腎不全、腎死のリスクを45%減らし、それは動脈硬化性の心血管疾患を有しているか否かに関わらず同様の効果がみられた。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.56(95%CI=0.47-0.67)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.54(95%CI=0.42-0.71)。
・SGLT2阻害薬の効果の大きさは基準の腎機能によって変わり、より深刻な腎機能を有している患者では、心不全に因る入院を大きく減らす一方、腎臓病の進行を抑える効果はより小さくなる。eGFR<60の群では心不全による入院は40%減少させるも、腎臓病の進行抑制は33%にとどまった。一方eGFR>90の群では心不全による入院は12%の減少にとどまるが、腎臓病の進行抑制は56%に達した。
・SGLT2阻害薬は全原因死を15%減少させるとする結果は出たが、異質性が高い(I2=75.2%)。動脈硬化性の心血管疾患を有する患者ではHR=0.83(95%CI=0.75-0.92)、リスクファクターのみを有する患者ではHR=0.90(95%CI=0.77-1.05)であった。同様に、心不全の既往を有する患者ではHR=0.80(95%CI=0.67-0.95)、心不全の既往を有しない患者ではHR=0.88(95%CI=0.80-0.97)であった。
・肢切断や骨折のリスク増加は1本の試験のみで示されているが、いずれについても異質性がある。糖尿病性ケトアシドーシスのリスク増加に関しては、プラセボに較べてSGLT2阻害薬がHR=2.20であったが、イベントの発生率自体は1未満/1000人年と低い。

◎考察
・SGLT2阻害薬は、心不全による入院や、腎臓病の進行に対する相対的なリスク軽減に大きな影響を与えることが判明した。一方で、臨床的な効果は、使用する患者の特性に依存し、深刻な心血管イベントのリスク軽減は、既に動脈硬化性の心血管疾患を有している患者のみに明らかで、動脈硬化性の心血管疾患を持たない患者群に対しては効果は認められなかった。ただし、心不全に因る入院に関しては、動脈硬化性の心血管疾患の有無や心不全の既往の有無に関わらず明らかかつ同等の効果がある。腎臓病の進行に関しても、より悪い水準の腎機能を有する患者にSGLT2阻害薬を使う方が、腎機能の悪化への効果が少ないが、心不全による入院の減少に大きく寄与する結果となった。
・概して、SGLT2阻害薬は、真菌性の生殖器感染のリスクを上昇させることを除いては、忍容性が高く、一般的に安全な薬だと捉えられる。糖尿病性ケトアシドーシスのリスクを上げうるが、その割合は極めて低く、充分な患者教育と注意を払うことでリスクを下げることができる。脳卒中に対する安全警告があったが、現時点でのメタアナリシスではそのリスクは示されなかったし、肢切断や骨折に関しては1つの試験でしかリスク上昇は認められなかった。
・今回の研究の限界として、個々の特定のデータというよりは、むしろ研究レベルでのデータの集合を用いたこと、対象とする患者の基準が、検討した研究間でわずかながら異なること、さらに動脈硬化性の心血管疾患や心不全の既往がその患者にあるか否かは、研究者側の報告によっており、一部の患者はこれらの疾患の明確な診断を受けていない可能性があることが挙げられる。

◎結論
・動脈硬化性の心血管疾患や、心不全既往の有無に関わらず、2型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬を考慮して良いと思われる。

※資料一覧
20190320富田1
3つの臨床試験の詳細。使用されているSGLT2阻害薬は、それぞれエンパグリフロジン(ジャディアンス®)、カナグリフロジン(カナグル®)、ダパグリフロジン(フォシーガ®)。

20190320富田2
(図1) 心筋梗塞、脳梗塞、心血管死に関するメタアナリシス。

20190320富田3
(図2) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、動脈硬化性の心血管疾患を持つか、
リスクファクターのみにとどまるかの観点から検討したメタアナリシス。

20190320富田4
(図3) 心不全に因る入院及び心血管死に関して、心不全既往の有無で検討したメタアナリシス。

20190320富田5
(図4) 腎機能の悪化、末期腎不全、腎死に関して、動脈硬化性の心血管疾患の有無の観点から
検討したメタアナリシス

20190320富田6
(図5) (A)腎機能低下、末期腎不全、腎死について、(B)心不全に因る入院について、
(C)大きな心血管イベントについて、それぞれ腎機能の観点から検討したメタアナリシス

【開催日】2019年3月20日(水)

急性鼻副鼻腔炎,急性細菌性鼻副鼻腔炎の診断に有用な病歴,身体所見

―文献名―
Mark H. Ebell, Brian McKay, et al. Accuracy of Signs and Symptoms for the Diagnosis of Acute Rhinosinusitis and Acute Bacterial Rhinosinusitis. Annals Fam Med 2019; 17:164-172.

―要約―
【背景と目的】
過去の急性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関するシステマティックレビューは全て15年以上前のものであり,2変量メタ解析のような最新の統計分析的手法を用いていない.本研究の目的は急性鼻副鼻腔炎や急性細菌性鼻副鼻腔炎の臨床診断に関する包括的なメタ分析を行うことである.
【方法】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う外来患者を対象とし,感度と特異度を測定し十分な情報を報告している研究をMedlineで探索した.検索された1649の研究のうち17の研究が組み入れ基準(inclusion criteria)に合致した.急性鼻副鼻腔炎は評価が確定されている参照基準(レントゲン,超音波エコー,CT)により診断され,急性細菌性鼻副鼻腔炎は副鼻腔穿刺による膿汁の証明または細菌培養陽性により診断した.病歴や身体所見の精度の見積もりを測定するために2変量メタ解析を用いた.
【結果】
副鼻腔炎を臨床的に疑う患者において,画像的に確定診断された急性鼻副鼻腔炎の有病率は51%,副鼻腔穿刺により確定診断された急性細菌性鼻副鼻腔炎の有病率は31%であった(Table2).

20190320山田1

急性鼻副鼻腔炎を最もよくrule inできる臨床所見は中鼻道の膿性鼻汁(陽性尤度比[LR+] 3.2),全体的な印象(LR+ 3.0)であった.最も良くrule outできる所見は全体的な印象(陰性尤度比[LR-] 0.37),transillumination(副鼻腔の透過照明)が正常であること(LR- 0.55),先行する気道感染がないこと(LR- 0.48),鼻汁がないこと(LR- 0.49),膿性鼻汁がないこと(LR- 0.49)であった(Table 3).

20190320山田2

限られた情報に基づくが,急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子は全体的な印象(LR+ 3.8,LR- 0.34),悪臭症(息の悪臭)(LR+ 4.3,LR−0.86),歯痛(LR+ 2.0,LR- 0.77)であった(Table4).

20190320山田3

Clinical decision ruleがいくつか提案されているがどの研究においても前方視的に有効性が確認されてはいなかった(Table5).

20190320山田4

【結論】
臨床的に急性鼻副鼻腔炎を疑う患者において急性細菌性鼻副鼻腔炎は約1/3しか認められない.全体的な印象,悪臭症,歯痛が急性細菌性鼻副鼻腔炎の最良の予測因子であった.C-reactive proteinや尿検査をもちいたClinical decision ruleは有用である可能性があるが,前方視的な有効性の確認が必要である.

【開催日】2019年3月20日(水)