駆出率の低下を伴う心不全の薬物治療の系統的レビューとネットワークメタアナリシス

―文献名―
Tromp J, Ouwerkerk W, van Veldhuisen DJ, Hillege HL, Richards AM, van der Meer P, Anand IS, Lam CSP, Voors AA. A Systematic Review and Network Meta-Analysis of Pharmacological Treatment of Heart Failure With Reduced Ejection Fraction. JACC Heart Fail. 2022 Feb;10(2):73-84

―要約―
Introduction: アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEi)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬(BB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRAスピロノラクトン,セララ,ミネブロ)が駆出率低下型心不全(HFrEF)の薬理学的治療の基礎として確立された。この10年間で、サクビトリル/バルサルタン(ARNi アーニー®️エンレスト)とイバブラジン(®️コララン)が追加され、HFrEFに対する治療の選択肢が増えた。過去1年間に発表された試験の結果では、ナトリウム-グルコース共輸送体2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジン(®️ジャディアンス)およびダパグリフロジン(®️フォシーガ)、可溶性グアニラーゼシクラーゼ刺激薬であるベリシグアト(®️ベリキューボ)、心筋特異的ミオシン活性化薬であるオメカムチブメカルビルによる治療がHFrEFの予後をさらに改善できることが示された。
最近の臨床試験の結果は、治療の順序を決めたり、最も有益な薬物療法の組み合わせを決定したりすることはできない。ネットワーク・メタアナリシスでは、治療効果の総和の差を比較するために、異なる治療法の組み合わせ間の比較が可能である。治療の最適な累積効果に関する情報は、医師と患者が共有する治療方針の決定に役立つ。基礎となる仮定は、治療には相加効果があるということである。ARNi、SGLT2i、ベリシグアト、オメカムチブメカルビルについては、潜在的に異なる疾患経路を標的としているため、これはもっともらしい。そこでわれわれは、HFrEFに対する薬物療法の治療効果を推定し比較するために、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った。

Method:EDLINE/EMBASEとCochrane Central Register of Controlled Trialsを用いて、1987年1月~2020年1月に発表されたランダム化比較試験を対象に系統的ネットワークメタ解析を行った。アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、β遮断薬(BB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、ジゴキシン、ヒドラジン-硝酸イソソルビド、イバブラジン、アンジオテンシン受容体-ネプリライシン阻害薬(ARNi)、ナトリウムグルコース共輸送体-2阻害薬(SGLT2i)、ベリシグアト、オメカムチブメカルビルを対象とした。
心不全を有する成人集団(18歳以上)に限定された。転帰に大きな影響を与える可能性が高い診断を併発している患者が集団全体に含まれている場合(例、心筋梗塞後の左心室機能障害のある患者、または糖尿病患者のみを含む試験)、研究は除外された。心不全の急性期の患者を治療する研究や、同じ薬剤グループ内の薬剤を比較する研究は除外された。(Figure 1)
主要アウトカムは全死亡であった。さらに、心血管(CV)死亡と心不全(HHF)による入院、CV死亡のみ、および何らかの理由による薬物中止の可能性の複合転帰を分析した。二次解析では、2つの心不全集団(BIOSTAT-CHF [BIOlogy Study to TAilored Treatment in Chronic Heart Failure]およびASIAN-HF [Asian Sudden Cardiac Death in Heart Failure Registry])で得られた生命年を推定した。

Results:95,444人の参加者を対象とした75の関連試験を同定した。ARNi、BB、MRA、SGLT2iの併用が全死亡の減少に最も有効であり(HR:0.39、95%CI:0.31-0.49)、次いでARNi、BB、MRA、ベリシグアト(HR:0.41、95%CI:0.32-0.53)、ARNi、BB、MRA(HR:0.44、95%CI:0.36-0.54)であった(Central Illustration A)。心血管死またはHFによる初回入院の複合アウトカムについても結果は同様であった(ARNi、BB、MRA、SGLT2iのHR:0.36、95%CI:0.29-0.46、ARNi、BB、MRA、オメカムチブメカルビルのHR:0.44、95%CI:0.35-0.56、ARNi、BB、MRA、ベリシグアトのHR:0.43、95%CI:0.34-0.55)(Central Illustration B)。
ARNi、BB、MRA、SGLT2iを投与された70歳の患者において、二次解析で無治療と比較して追加的に得られると推定された生命年数は5.0年(2.5~7.5年)であった(Figure 3)。

Discussion:異なるHF試験が実施された期間はかなり長く、バイアスが生じた可能性がある。しかし、主要アウトカムと多くの副次的アウトカムにおける異質性のP値は有意ではなく、このことが結果に有意な影響を及ぼさなかった可能性を示唆している。中止に関する結果は、ランダム効果モデルを用いたにもかかわらず、かなりの異質性を示した。これは中止の定義の違いによるものかもしれない。したがって、これらの結果は慎重に解釈すべきである。最後に、治療効果の推定に影響を及ぼす可能性のある非薬理学的装置の使用は考慮していない。

Figure 1. Overview of Study Selection Schematic overview of study selection.

Central Illustration. Relative Risk Reduction of Different Pharmacological Treatment Combinations for Heart Failure
Combination of treatment effect on all-cause mortality (A), cardiovascular (CV) death or heart failure (HF) hospitalization (B), or CV mortality (C). ACEI = angiotensin-converting enzyme inhibitor; ARB = angiotensin receptor blocker; BB = beta-blocker; Dig = digoxin; H-ISDN = hydralazine–isosorbide dinitrate; HF = heart failure; IVA = ivabradine; MRA = mineralocorticoid receptor antagonist; PLBO = placebo; SGLT2 = sodium glucose cotransporter-2 inhibitors.


Figure 3. Estimated Average Lifetime Graphs

【開催日】2024年3月13日(水)

救急医療におけるトラウマインフォームドケア介入 システマティックレビュー

―文献名―
Brown T, Ashworth H, Bass M, Rittenberg E, Levy-Carrick N, Grossman S, Lewis-O’Connor A, Stoklosa H.
Trauma-informed Care Interventions in Emergency Medicine: A Systematic Review.
West J Emerg Med. 2022 Apr 13;23(3):334-344.
doi: 10.5811/westjem.2022.1.53674. PMID: 35679503; PMCID: PMC9183774.

―要約―
Introduction:
<背景>
 トラウマにさらされることは、救急の患者や医師にとって非常に一般的な経験です。薬物乱用・精神保健サービス局 (SAMHSA) は、トラウマを「個人が経験する身体的または精神的に有害または生命を脅かす出来事、一連の出来事、または一連の状況であり、個人の機能的、精神的、身体的、社会的、感情的、spiritualなwell-beingに永続的な悪影響をもたらすもの」と定義しています。このトラウマの定義には、個人的(例:交通事故、愛する人の死)から、対人的(例:対人暴力[IPV]、差別、虐待)、社会的(例:自然災害、パンデミック、テロ攻撃)な経験まで含みます。新しい出版物では、この定義を、構造的トラウマ (人種差別、性差別など) にまで拡張して明示的に取り上げています。
 患者は、上記で定義したタイプのトラウマを抱えて救急外来を受診することがよくあります。急性のトラウマを患っている患者は、多くの場合、過去のトラウマ体験の生存者です。病院ベースの暴力介入プログラムに参加している、暴力の経験者を対象とした調査では、対象の100%が少なくとも1つのACEs(逆境的小児期体験)を経験していることが判明しました。
 トラウマを経験した人の中には、救急医療の経験が再トラウマになったり、過去の経験のトリガーになったりする人もいます。トラウマの生存者は、感情の調節不全(強い感情を制御するのが困難)、過剰警戒(脅威を感じやすくそれに対し過剰に反応しやすい)を経験する可能性があります。実行機能と感情制御の間の密接な相互作用により、患者と医療チームの両方に影響を与える可能性があります。同様に、過覚醒により、救急医療の多忙な環境や介入処置に耐えがたくなる可能性もあります。

 救急医療環境には、臨床医と多職種にとって、直接的および二次的なトラウマの潜在的要因が複数存在しています。COVID-19のパンデミックは、最前線の医療従事者やスタッフに二次的なトラウマへの曝露による被害が及ぶ可能性があることを実証しました。救急医療で勤務するスタッフも、職場での暴力を高率に経験しています。

<重要性>
 トラウマインフォームドケア(TIC)は、医療現場での再トラウマ化を防ぎ、患者と臨床医の両方の回復力を促進することを目的としたフレームワークです。それは次の 6 つの原則に基づいています。1) 安全性、2) 信頼性と透明性、3)ピアサポート、4) 協力と相互作用、5) エンパワーメント、発言権、選択、6) 文化的、歴史的、ジェンダーの問題。トラウマインフォームドケアは、プライマリケアと救急医療 (EM) を含む専門ケアの両方における臨床ケアへのアプローチとして採用されることが増えています。2012年、米国司法長官の、暴力にさらされた子どもに関する国家対策委員会は、すべての救急医療センターに TIC を提供すること、また、トラウマを経験している患者と接するすべての臨床医に TIC の訓練を受けることを求めました。トラウマインフォームドケアは、患者にとっては臨床上の利点があり、スタッフにとっては仕事の満足感が得られる、費用対効果の高い介入であることが示されています。しかし、救急医療で見られるトラウマの計り知れない負担と患者と臨床医にとっての TIC の利点にもかかわらず、TIC は依然として 救急医療において芽生えの時期のままです。

<目的>
 このシステマティックレビューは、救急医療における TIC 介入に関するエビデンスをまとめ、次の研究目的について述べ、TIC の実施に関する現在の研究のギャップを特定します。
・救急医療セッティングにおいて行われているTIC介入実践の範囲
・救急医療におけるTIC介入が、患者にもたらす潜在的な利益、医療者・多職種にもたらす潜在的な利益

Method:
 この研究は PROSPERO (CRD42020205182) に登録されました。1990年から2020 年 8 月 12 日の、PubMed、EMBASE (Elsevier)、PsycINFO (EBSCO)、Social Services Abstract (ProQuest) および CINAHL (EBSCO) データベースの査読済みジャーナルと抄録を、体系的に検索しました。私たちは、帰納的定性的内容分析を使用して、救急医療環境におけるTIC介入について明示的に述べている研究を分析して、繰り返し現れるテーマを特定し、トラウマに基づいた独自の介入を特定しました。TICについて明示的に引用していない研究は除外しました。それぞれの研究について、ニューカッスル – オタワ基準と重要評価スキルプログラム (CASP) チェックリストを使用してバイアスについて評価しました。

Result:
 合計 1,372 件の研究と抄録を特定し、最終分析の対象基準を満たす 10 件を特定しました。TIC介入内で浮上したテーマには、教育的介入、関連する医療専門家や地域組織との協力、患者と臨床医の安全性の介入などが含まれます。教育的介入には、講義、オンラインモジュール、標準化された患者演習が含まれます。健康の社会的決定要因への取り組みに重点を置いた地域組織との協力について述べた研究もあります。すべての介入は、臨床医または患者のいずれかに対して TIC がプラスの影響を与えることを示唆していましたが、アウトカムに関するデータは依然として限られています。

追加のテーマ
 私たちの分析から判明した追加の介入には、次のものが含まれます。
 トラウマのスクリーニングと評価の実施。
 病院と地域のリーダーの両方からリーダーシップの賛同を確保する。
 脆弱な患者集団のための標準化されたTIC プロトコルおよびプログラムの開発。
 救急医療 の環境分析。

Discussion:
 私たちのレビューでは、現在の介入におけるいくつかのギャップを特定しました。それは、普遍的な予防措置の教育の欠如、アウトカムデータの欠如、スタッフ中心の介入の欠如、そして費用対効果分析の欠如です。
 教育主導型とプロトコル主導型の両方で、すべての介入を通じて、すべての患者に対する普遍的な予防策として TIC が採用されることはほとんどありませんでした。私たちのレビューで捉えられたすべての介入は、特定の集団へのアプローチ(つまり、人身売買、性的暴行、地域暴力の生存者)に依存しています。このアプローチは、特定の集団における外傷に対する臨床医の認識を高める可能性があるが、「危険信号」を呈していない患者、または外傷関連の訴えを呈していない患者のニーズには対応していません。

 臨床医は、どの患者が逆境を経験したかを常に予測できるわけではありません。したがって、今後の教育的およびプログラム的な介入では、患者全員に対する普遍的な予防策として TIC を強調する必要があります。

Conclusion:
 この論文は、救急医療セッティングにおけるトラウマに基づいたケア介入に関する最初の体系的なレビューを表しています。レビューの結果は、TIC が救急医療の臨床実践において小さいながらも成長している分野であることを示しています。しかし、救急医療分野における患者と臨床医にとっての潜在的な利点を評価するための追加研究が緊急に必要とされています。TIC介入の普及により、救急医療は患者と臨床医にとって癒しの場所となり得ます。

【開催日】2024年3月6日(水)

肥満のある駆出率が維持された心不全患者におけるセマグルチド

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Semaglutide in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. Kosiborod MN, Abildstrøm SZ, Borlaug BA, et al. N Engl J Med. 2023;389(12):1069-1084. (STEP-HFpEF試験)

-要約-
【Introduction】
・肥満(脂肪組織)がHFpEFの発症や進行に関与している可能性が示唆されている。
・肥満の治療によりHFpEF患者の症状や機能を改善できるかは明らかにされていない。
・セマグルチド(GLP-1作動薬)は大幅な体重減少をもたらすことが示されている。セマグルチド2.4mgの週1回皮下注射により、体重減少のみならず心不全(HFpEF)の症状や身体機能制限が改善できるかを検討した。
・COI:Novo Nordisk社による研究助成(STEP-HFpEF ClinicalTrials.gov)

【Method】
・無作為化ランダム比較試験(二重盲検法)アジア・ヨーロッパ・南北米の13か国96施設(うち83施設)
・対象患者:BMIが30以上のHFpEF(EF 45%以上、NYHA Ⅱ以上)患者529人
(主な除外基準:90日以内の5kg以上の体重変化、糖尿病の既往)
・介入群:週1回セマグルチド皮下注(最初4週間は0.25mg、16週目までに2.4mgへ増量するよう漸増)
・対照群:プラセボ投与
・アウトカム:52週時点での下記エンドポイントの評価
・主要エンドポイント:KCCQ-CSS(0-100点、スコアが高いほど症状・機能制限が少ない)、体重変化
・副次エンドポイント:6分間歩行距離の変化、全死亡、心不全イベント、KCCQ-CSSと6分間歩行距離の
変化の差を含む複合エンドポイント、CRP値の変化
・安全性評価:重篤な、または特に注目すべき有害事象(少なくとも1回投与を受けた患者で解析)

【Results】
・セマグルチド群263人、プラセボ群266人。
→白人が95.8%。中央値:年齢69歳、BMI 37.0、NT-proBNP 450.8pg/mlなど。
・セマグルチド群はプラセボ群と比較して、症状や身体機能制限の減少、運動機能の改善、体重減少が大きかった。
・セマグルチド群35人(13.3%)、プラセボ群71人(26.7%)で重篤な有害事象が報告された。セマグルチドの投与中止に至った有害事象は胃腸障害が多く、プラセボ群の有害事象としては心臓疾患が多かった。
・結果のまとめ(表:田尻作成)

52週までの平均変化(率) セマグルチド群 プラセボ群 群間の推定差(95%信頼区間)
(主)KCCQ-CSS +16.6点 +8.7点 +7.8点(+4.8~+10.9;P<0.001)
(主)体重 -13.3% -2.6% -10.7%(-11.9~-9.4;P<0.001)
6分間歩行距離 +21.5m +1.2m +20.3m(8.6~32.1;p<0.001)
複合エンドポイントの勝利 60.1% 34.9% 勝利比1.72(1.37~2.15;P<0.001)
CRP値 -43.5% -7.3% 治療比0.61(0.51~0.72;p<0.001)

【Discussion】
・セマグルチド群はプラセボ群よりもKCCQ-CSSの平均点を8ポイント近く上昇させたことは極めて大きな差である。
(SGLT-2阻害薬、ARNI、バルサルタン、スピロノラクトンなどの過去研究では0.5~2.3ポイントの差であった)
・セマグルチドは肥満のあるHFpEF患者に対する重要なアプローチとなりうる。またセマグルチドの効果は、単に体重減少のみによるものではなく、他の病態生理的な機序(抗炎症作用など)にもよる可能性が示唆される。
・セマグルチド以外による減量との比較や、HFrEF患者への適用については、追加の試験が必要である。
<限界>
・非白人参加者数が少なく、一般化可能性に制限がある。
・臨床的イベント(心不全による入院や緊急受診など)を評価するのに十分な検出力を有さなかった。
・1年間(52週間)以降の効果については確認できていない。
・HbA1c値がフォローされていない(ただし、本研究における効果が血糖値低下によるものとは考えにくい)。
・SGLT2阻害薬を投与されている患者の割合が低い(試験期間と、糖尿病患者を除外するデザインによる)。
考察とディスカッション
肥満症治療ガイドライン2022(http://www.jasso.or.jp/contents/magazine/journal.html
)ではGLP-1製剤の体重減少作用について記載があります。
またセマグルチドについてはオゼンピック®(糖尿病用/皮下注)、リベルサス®(糖尿病用/経口)に加えてウゴービ®(肥満症用/皮下注)が2023年11月に薬価収載されました(週1回製剤、2.4mgキットは10740円)。
本文献は肥満のあるHFpEF患者へのセマグルチドの有用性についての文献でした。循環器界隈でSGLT-2阻害薬の推奨が確立したように、今後はGLP-1製剤についての推奨が出されていくように感じています。

【開催日】2024年2月7日(水)

Restless X syndrome:新たな疾患群~体の様々な領域において、夜間、動かしたくなる衝動を伴う異常感覚~

ー文献名ー
Rurika Sato et al. Restless X syndrome: a new diagnostic family of nocturnal, restless, abnormal sensations of various body parts. Diagnosis (Berl). 2023 May 15;10(4):450-451.

ー要約ー
① RLSに関して
・RLSは1995年に診断基準が提唱された、比較的新しい疾患概念である。
・現在ではコモンな疾患であり、有病率は9.6%という報告がある。
・RLSのillness scriptは、主に夜間に生じ、睡眠の支障となり、安静で増悪し、下肢を動かす・触る・刺激すると軽減する不快な感覚である。
・病因としては中枢神経系でのドパミンの異常が想定されている。
・症状の言語化が難しいことが多く、訴えは多彩となり得る。
・確定診断につながる身体所見や検査所見は存在せず、病歴聴取が重要である。

②下肢以外のRLS?

・近年、RLS症状が下肢に限局しない例がサブタイプとして存在するのではないか、といわれてきた(Fig.1)。

・元来、RLSは診断エラーが多い疾患であったことも考慮し、我々は、”legs” 以外にも症状が生じ得る、ということを想起しやすいようにRestless “X” syndrome(RXS)という疾患概念を提唱する。
・RXSのillness scriptは、RLSのlegsをXに変更することになる。すなわち、主に夜間に生じ、睡眠の支障となり、安静で増悪し、X(=身体のあらゆる部位)を動かす・触る・刺激すると軽減する不快な感覚である。
・我々が経験した、実際の症例:
restless genital syndrome:夜間に増悪し、歩行で軽減するペニスの異常感覚
restless chest syndrome:夜間に増悪し、仰臥位での深呼吸で軽減する呼吸苦 (起坐呼吸とは異なる)
・RLSの治療としては、少量(0.125mg)のプラミペキソール(商品名:ビ・シフロ^ル)が有効で即効力もあることが知られる(1晩目から有効で、眠りを改善する)
・同様に、RXSにおいても(上記2症例では)、プラミペキソール0.125mg開始48hr以内に症状は改善傾向となった。

・動かす以外に、各部位で、下記のような寛解因子が報告されている(Table.1)

*語句:
scrunching the nose 鼻にしわを寄せる
Tongue thrusting or nibbling 舌を突き出す、かじる
cuddle pillow 抱き枕
rolling over 寝返り
urinating 排尿

・RLS患者は自殺の高リスク群といわれており、RXSにおいても早期診断が患者のアウトカム向上につながる可能性がある。

③ まとめ
・RXSという形で疾患概念をグルーピングすることで、診断にあたっての認知負荷を軽減し、疾患認知度・診断率の向上につながることを期待したい。

【開催日】2024年2月7日(水)

ChatGPT vs 医師:SNSに投稿された患者の質問に対するコメントの比較

―文献名―
Comparing Physician and Artificial Intelligence Chatbot Responses to Patient Questions Posted to a Public Social Media Forum
J.W.Ayers et al., JAMA Intern Med. 2023;183(6):589-596. doi:10.1001/jamainternmed.2023.1838

―要約―
Introduction:
・COVID-19流行下でVirtual careの導入が早まり、患者からの電子メッセージは1.6倍に増加した。それに伴い医師の負担が増加、燃え尽き症候群のリスクも向上すると考えられる
・医師と患者の電子メッセージでのやり取りの負担を減らす目的で、AIチャットボットの活用は期待されている
・今回、2022年11月にリリースされたAIチャットボットアシスタント(ChatGPT)を用いて、患者の質問に対する共感的で高品質な回答の能力を評価した

Method:
・この横断的研究では、公開されたソーシャルメディアフォーラム(Redditのr/AskDocs)からの質問データベースを使用し、2022年10月に医師が回答した195の質問を無作為に抽出
・一人の医師が複数回回答した場合は、最初の回答のみを考慮したが、その後の医師の回答を除外するか含めるかの判断にかかわらず、結果はほぼ同じであった
・チャットボットの回答は、2022年12月22日と23日に新しいセッションで元の質問を入力することで生成され、元の質問と匿名化されランダムに並べられた医師とチャットボットの回答は3回にわたり評価された。
・評価者は小児科、老年科、内科、腫瘍科、感染症科、 および予防医学に従事する免許を持つ医療専門家のチ
ーム
・評価は、「どの回答がより良かったか」の選択と「提供された情報の質」(非常に悪い、悪い、許容範囲、良い、非常に良い)、「提供された共感やベッドサイド・マナー」(共感できない、少し共感できる、適度に共感できる、共感できる、非常に共感できる)の評価を含んでいた。評価は1~5の5段階で行われ、結果はチャットボットと医師で比較された。

<統計学的手法>
・私たちは、調査した各交換について評価者間でスコアを平均化する、群衆(またはアンサンブル)スコアリング戦略に依存した
・医師とチャットボットの回答の単語数を比較し、チャットボットが好まれた回答の割合を報告した。両側t検定を用いて、医師の回答とチャットボットの回答の平均品質と共感スコアを比較した。さらに、適切でないなどの重要な閾値を上回ったり下回ったりする回答の割合を比較し、チャットボットと医師の回答を比較して有病比を計算した
・また、質と共感のスコア間のピアソン相関も報告した。
・臨床での患者の質問はオンラインフォーラムに投稿されたものよりも長いかもしれないと仮定して、我々はまた、医師が作成した長い返信(中央値または75パーセンタイル以上の長さのものを含む)にデータをサブセットすることで、評価者の嗜好やチャットボットの回答に対する質や共感の評価がどの程度変化するかを評価した。

Result:
・195の質問と回答のうち、評価者は585の評価(195×3)の78.6%(95%CI、75.0%-81.8%)で医師の回答よりもチャットボットの回答を好んだ。
・医師の回答の平均値(IQR)はチャットボットの回答よりも有意に短かった(52 [17-62] words vs 211 [168-245] words; t =25.4;P < 0.001)。 ・チャットボットの回答は医師の回答よりも有意に質が高いと評価された(t = 13.3; P < .001)。例えば、「良い」または「非常に良い」と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(チャットボット:78.5%、95%CI、72.3%-84.1%;医師:22.1%、95%CI、16.4%-28.2%)。これは、チャットボットの良質または非常に良質な回答の有病率が3.6倍高いことに相当する ・チャットボットの回答はまた、医師の回答よりも有意に共感的と評価された(t =18.9; P < 0.001)。共感的または非常に共感的(4)と評価された回答の割合は、医師よりもチャットボットの方が高かった(医師: 4.6%, 95% CI, 2.1%-7.7%; chatbot: 45.1%、95% CI、 38.5%-51.8%; 医師は 4.6%、95% CI、2.1%-7.7%)。これは、チャットボットの方が共感的または非常に共感的な回答の有病率が9.8倍高かったことを示している。

Discussion

・SNSの質問を用いているので、臨床現場における医師患者間のやりとりを十分に反映していない。特に、今回は単回の返答のみを扱っているが、本来臨床現場では複数回のやりとりを通じて医師患者関係を築いていくものである
・医師の回答とChatbotの回答の相乗効果については検討できていない
・臨床上でよくあるより詳細なやり取り(予約やリフィル処方、特定の検査結果の説明、個別の治療プラン、予後、等)については評価できていない
・質や共感性の評価方法はこれまでに確立されたものではない
・本研究の評価者は、回答の出所や初期結果について盲検化されていたにもかかわらず、共著者でもあったため、評価に偏りがあった可能性がある
・チャットボットの回答の長さが、より大きな共感と誤って関連づけられた可能性がある
・評価者は、医師またはチャットボットの回答の正確さや捏造された情報について、独立した具体的な評価を行わなかった

【開催日】2024年1月10日(水)

孤独とパーキンソン病リスク

―文献名―
Antonio T,Martina L,Selin K,et al. Loneliness and Risk of Parkinson Disease. JAMA Neurology. 2023;80(11):1138-1144.

―要約―
Introduction
孤独感とは、本人が求める社会的な関係と実際に感じる関係に隔たりがあるために生じる、主観的な苦しみと定義されている。身体的な健康だけでなく脳の健康にも悪影響は及び、精神疾患や神経変性疾患を発症するリスクが増加する可能性もある。実際に、孤独感の強い人はアルツハイマー病などの認知症リスクが高いことが示されている。しかし、孤独感とパーキンソン病の関係について検討した研究はまだ報告されていない。そこで著者らは、パーキンソン病の発症リスクと孤独感の関係を明らかにするために、住民ベースの前向きコホート研究を実施することにした。
Method
対象は、2006年3月13日から2010年10月1日に、UK Biobankに登録された38~73歳の参加者のうち、ベースラインで「あなたはしばしば孤独を感じますか」という設問に回答していた人。ベースラインで既にパーキンソン病と診断されていた人や、設問に「分からない」「答えたくない」と回答した人は除外した。主要評価項目はパーキンソン病の発症とした。追跡は2021年10月9日まで継続し、英国National Health Serviceの電子健康記録を調べて発症を確認した。 共変数として、年齢、性別、学歴、Townsend貧困指数、喫煙状態、身体活動量、BMI、併存疾患(糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓発作、PHQのうつ病スコア、精神疾患など)、同居家族の人数、家族や友人との交流頻度、社会活動の参加頻度、ポリジェニック・リスク・スコア(ある個人が持つ、特定疾患の発症リスクを高めるすべての遺伝子バリアントをスコア化して、病気の発症や進展を予測する手法)なども調べた。
Results
50万2505人のUK Biobank参加者のうち、条件を満たした49万1603人を分析対象にした。平均年齢は56.54歳(標準偏差8.09歳)、54.4%が女性だった。設問に対して、孤独を感じると回答した人は9万1186人(18.5%)、孤独を感じていなかった人は40万417人(81.5%)だった。両群の特性を比べると、孤独を感じていた人は、やや年齢が若く、女性が多く、健康に好ましくない習慣(喫煙や不活発など)の人が多く、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中など)の保有率が高く、精神的な健康状態も不良(抑うつあり/精神科医受診歴あり)だった。平均値で12.33年(1.80年)、延べ606万2197人・年の追跡期間中に、2822人がパーキンソン病を発症していた。発症率は10万人・年当たり47だった。内訳は、孤独感がなかった40万417人ではパーキンソン病発症者は2273人(10万人・年当たり46)で、孤独を感じていた9万1186人では、549人(10万人・年当たり49)だった。パーキンソン病発症者は、非発症者に比べ高齢で、男性が多く、過去の喫煙者が多く、BMIが高く、PDポリジェニック・リスク・スコアも高かった。さらに、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、脳卒中も多く、精神科医受診歴を有する患者も多かった。 孤独を感じていた人のパーキンソン病発症リスクは有意に高く、ハザード比は1.37(95%信頼区間1.25-1.51)だった。人口統計学的要因、社会経済的地位、社会からの孤立(独居、家族や親族と会う頻度が月1回未満、余暇活動と/または社会活動の頻度が週1回未満)、PDポリジェニック・リスク・スコア、喫煙、身体活動、BMI、糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞、抑うつ、精神科医受診歴で調整しても、ハザード比は1.25(1.12-1.39)と引き続き有意差を示した。孤独とパーキンソン病発症の関係は、性別(交互作用のハザード比0.98:0.81-1.18)、年齢(0.99:0.98-1.01)、PDポリジェニックリスクスコア(0.93:0.85-1.02)の影響を受けていなかった。 孤独とパーキンソン病発症の関係は、ベースラインから5年間は有意にならず(ハザード比1.15:0.91-1.45)、5~15年後に有意になった(1.32:1.19-1.46)。
Discussion
 説明のつかない交絡因子や、不正確に測定された共変量による残余交絡によるものかもしれない。遺伝的要因や精神的健康状態のような共有の危険因子による可能性もあるが、ポリジェニック・リスク・スコア(多遺伝子リスクスコア)が関連を減弱させなかったという所見は、観察された関連において共有遺伝因子が実質的な役割を果たしているとは考えにくいことを示唆している。またPDの神経病理学的病態が、PDの前臨床期または前駆期における孤独感の増加と関連している可能性がある(因果の逆転)。実際にPDの非運動症状(例えば、抑うつ、疲労、不安、無気力)はPD患者によくみられ、疾患の初期に出現することがある。しかし、孤独感の増大はPD患者にとって懸念事項であるが、1件の横断研究では、PDの有無による孤独感の差はみられなかった。さらに、われわれの結果は、この逆の因果関係の解釈では関連を完全に説明できない可能性が高いことを示唆している。例えば、この関連はうつ病を考慮した後も残っており、このことは、この前駆症状との重複によるものではないことを示唆している。さらに、逆の因果関係から予想されることとは逆に、孤独感は最初の5年間はPDの発症と関連していなかったが、その後の10年間はPDの発症と関連していた。孤独が様々な経路を通じてPDの危険因子となりうる。しかし本研究では、潜在的な媒介因子となりうる共変量を幅広く検証した。孤独感を経験した人は、運動不足などの有害な行動をとる傾向があるが、2つの顕著な健康行動を加えても孤独感とPDの関連が変わらなかったことから、この経路が主要な役割を果たす可能性は低いと思われる。糖尿病などの慢性疾患を考慮すると関連は13.1%減弱したことから、孤独感は代謝、炎症、神経内分泌経路を通じてPDリスクの上昇に関連する可能性が高いと思われる。孤独とPDとの関連は、メンタルヘルス変数をモデルに含めることで最も減弱した(24.1%)。縦断的な証拠から、孤独とうつ病の間には双方向の関連があることが示唆されており、これらはPDのリスク上昇と共起し、その経路を共有している可能性が高い。それでもなお、我々の所見では、メンタルヘルス変数を考慮した後も孤独感はPDと関連していた。孤独が神経病理学的マーカーと関連しているかどうかを調べることは有益であろう。孤独は神経病理学的リスクと直接関連する可能性があり、PDの発症に寄与する神経変性過程に対する回復力を侵すことによって、PDのリスク増加にも関連する可能性がある。
 この研究の主な長所は、サンプルサイズが大きく統計的検出力が高いこと、追跡期間が長いこと、関連する危険因子を説明するための共変量が幅広いこと、健康記録に基づく診断が独立して確認できることである。限界として、この観察研究では因果関係や因果の逆転が観察された関連を説明しうるかどうかを決定できなかった。孤独感は「はい」か「いいえ」の単一項目で評価した。この尺度は信頼性が高く妥当であるが、多項目尺度と比較すると、単一項目による評価は誤差の分散を増大させ、孤独感とPDの関連を過小評価する可能性が高い。もう一つの限界は、入退院記録や死亡記録を用いていることであり、これは初期段階のPDを見逃す可能性が高い。追跡期間中にPDと診断されたにもかかわらず入院しなかった参加者がいる可能性があり、このような参加者は我々の解析ではPDでないと誤って打ち切られるであろう。これは、孤独とPDリスクとの関連を過小評価する可能性がある。しかし健康記録による確認は研究参加から独立しており、縦断的研究に典型的な減少バイアスを避けることができる。サンプルは比較的若いが、孤独感との年齢的な交互作用はなく、若い参加者を除外しても推定された効果量に影響はなかった。また、UK Biobankは代表的なサンプルではなく、回答率は5.5%であった。しかし、UK Biobankにおける危険因子との関連は、代表的なサンプルで見られたものと同様である。

【開催日】2023年12月13日(水)

患者協働

―文献名―
Julia James. Health Policy Brief: Health Affairs. FEBRUARY 14, 2013

―要約―

何が課題か?
患者がより積極的に医療に関与することで、より良い健康アウトカムが得られ、より少ないコストで済むことを示すエビデンスが増えてきている。その結果、多くの公的・私的医療機関は、患者をより積極的に参加させるための戦略を採用している。例えば、自分の状態について患者を教育し、自分のケアに関する意思決定に患者をより全面的に参加させるなどである。
「患者の活性化」(Patient activation)とは、患者の知識、 技能、能力、自己の健康やケアを管理する意欲のことである。「患者協働」は、より広い概念であり、患者の活性化と、活性化を高め、予防的ケアを受けたり定期的に運動したりするような、患者の積極的な行動を促進するようにデザインされた相互介入を組み合わせたものである 。患者参加は、健康アウトカムの改善、患者ケアの向上、コスト削減 という “3つの目標 “を達成するための戦略のひとつである。このHealth Policy Briefは、Health Affairs 誌2013年2月号に掲載された患者参加に関する主要な調査結果をまとめたものである。

背景
現代の医療は複雑であり、多くの患者は基本的な医療情報やサービスでさえ、入手、処理、伝達、理解するのに苦労している。多くの患者は、ヘルスリテラシーが欠落している。しかも、米国の医療制度は患者の希望やニーズに無関心に見えることが多い。多くの医療従事者は、患者が自らのケアや治療について最善の決断を下すために必要な情報を提供できていない。また、患者が詳細な情報を得たとしても、圧倒されたり、自分の選択に自信が持てなかったりすることもある。ヘルスリテラシーの低い患者は、自分自身のケア方法に関する指示に従うことや、薬の服用などの治療レジメンを守ることが困難である。
このような問題を認識し、2001年に出された医学研究所の報告書「Crossing the Quality Chasm:21世紀の新しい医療システム)は、”患者中心”の医療システムを実現するための改革を求めた。この報告書では、”患者個人の嗜好、ニーズ、価値観を尊重し、それに応える医療を提供し、患者の価値観がすべての臨床上の決定を導くようにする”システムを構想している。この認識から、一部ではあるが、患者協働という分野が生まれた。
患者協働には様々な側面がある。American Institutes for Re-searchのKristin Carman氏と共著者は、患者協働を主に3つのレベルで概念化したフレームワークを提案している(図表1) 。
第一のレベルは患者への直接ケアであり、患者が病状に関する情報を得たり、患者を治療したりすることである。この協働の形により、患者と医療提供者は、医学的エビデンス、患者の好み、臨床的判断に基づいて意思決定を行うことができる。第二のレベルである組織設計とガバナンスでは、医療機関が患者のニーズに可能な限り対応できるよう、消費者の意見を求める。第3のレベルである政策立案では、公衆衛生やヘルスケアにおける政策、法律、規制について、地域や社会が下す決定に消費者が関与する。
Carmanと共著者らが述べた第一レベルの関与に合致する戦略のひとつは、共有意思決定である。まず、医療提供者と患者は意思決定が必要であることを認識しなければならない。次に、利用可能な最良のエビデンスを手に入れ、理解することである。最後に、患者の嗜好を治療の決定に取り入れることである。
患者の活性化:多くの研究で、”活性化”された患者、すなわち、自分の健康や医療を管理するスキル、能力、意欲を持つ患者は、活性化されていない患者と比較して、より良い健康アウトカムを、より低いコストで経験することが示されている。オレゴン大学のジュディス・ヒバード(Judith Hibbard)氏は、患者のエンゲージメントのレベルを定量化するために、”患者活性化指標”を開発した。Hibbard氏と共同研究者らは、ミネソタ州の大規模医療提供システムであるFairview Health Ser-vicesにおいて、患者の活性化スコアと医療費との関係を調査した。30,000人以上の患者を分析した結果、活性化スコアが最も低い患者、すなわち、自分の健康管理に積極的に関与するスキルや自信が最も低い患者は、健康状態やその他の要因で調整した後でも、活性化レベルが最も高い患者より平均8〜21%高い医療費がかかることがわかった(図表2)。そして、患者の活性化スコアは医療費の有意な予測因子であることが示された。
より広範な患者参加
Carmanと共著者たちが述べている第2、第3のレベルのエンゲージメントと一貫しているのは、医療機関が患者のニーズや嗜好を満たすように組織化し、その嗜好がより広範な対応を形成するのに役立つようなプログラムである。例えば、Conversation ProjectとConversation Ready Projectは、終末期ケアに関する患者の態度や選択肢を引き出し、医療者がその選択肢に沿ったケアを提供できるようにするための2つの取り組みである。

何が問題なのか?
研究者たちは、効果的な患者エンゲージメントと活性化戦略を実行するために克服しなければならない多くの共通要因や障害を明らかにしてきた。患者の性格や性向に起因するものもあれば、医療提供者の性格や性向に起因するものもある。
患者を巻き込む要因:患者が効果的に共同意思決定に参加するためには、ある程度のヘルスリテラシーが必要である。
多様な背景:具体的には、文化的な違い、性別、年齢、教育などの要因によって、患者の関与の度合いが左右されるという。その結果、多様な文化的背景や社会経済的地位にある患者を効果的に関与させるためには、臨床医や医療提供システムの側に、言語スキルや宗教的信念に対する認識や理解など、特定の能力が要求される可能性がある。
認知の問題:ロバート・ニースとエクスプレス・スクリプ ツの共同研究者は、人間の意思決定能力や注意力を維持する能力には限界があることはよく知られており、それが患者との関わりの障壁になっていると指摘している。
コストを考えることへの嫌悪:特に患者を理解させるのが難しいと思われるのが、医療に関する意思決定においてコストを考慮することである。
医療提供者が関与する要因:Health Af-fairs誌2013年2月号で繰り返し取り上げられているテーマは、患者協働戦略を実施するためには、医療現場の文化や運営を大きく変える必要があるということである。時間的制約、医療従事者のトレーニング不足、インセンティブの欠如、情報システムの欠点など、多くの障壁が研究によって指摘されている。臨床医が第一の障壁として最も頻繁に指摘したのは時間的制約であった。

政策的意味合いは何か?
連邦や州の政策立案者は、医療費を削減し、質を向上させるための戦略として、患者協働を促している。

次の課題は何か?
患者協働型医療が重要であることは、これまでにも証明されているが、患者協働型医療のベストプラクティスを決定するため、また患者協働型医療とコスト削減の関係をより完全に実証するためには、さらなる研究が必要であるというのが、この分野の専門家の意見である。その一方で、医療機関に患者協働に対する責任を負わせるために、かなりの努力が続けられている。
例えば、全米医療質保証委員会(National Committee for Quality Assurance)は、医療計画や医療機関が提供するケアの質を追跡調査する非営利団体であるが、患者が自分の健康やケアにどれだけ積極的に関与しているかを判断するために、様々な評価を義務づけている。例えば、患者中心の医療施設(patient-centered medical home)の要件を満たしていると認定されたい医療機関は、臨床医が患者の意思決定に関与しているか、あるいは患者が病状を管理するためのサポートを提供しているかどうかを問う患者調査を実施しなければならない。しかし、医療機関が患者にどのように、またどの程度関与しているかを測定し、個人の健康維持・増進の可能性をフルに発揮させるために、さらに多くのことができるはずだという点では、広く意見が一致している。

【開催日】2023年12月13日(水)

高齢者の薬剤処方に関するBeers基準の更新

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
American Geriatrics Society 2023 updated AGS Beers Criteria® for potentially inappropriate medication use in older adults. J Am Geriatr Soc. 2023;71(7):2052-2081.

-要約-
高齢者における潜在的不適切処方(Potentially Inappropriate Medication: PIM)に関する米国老年医学会の基準Beers Criteria®は、1991年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の故Mark Beersによって開発され、定期的に更新されている。本基準は、ホスピスや終末期医療を除く、外来、急性期、施設入所などすべてのケア環境における65歳以上の成人に適用されることを意図している。
Beers Criteria®の目的は、
(1)薬剤選択を改善することにより、高齢者が不適切な薬剤(PIMs)にさらされる機会を減らすこと
(2)臨床医と患者を教育すること
(3)高齢者のケアの質、コスト、薬剤使用パターンを評価するツールとして機能すること である。

潜在的不適切処方は5つに分類される。(Tableは、添付PDF参照して下さい。)
1. 潜在的に不適切と考えられる薬剤(表2)
2. 特定の疾患または症候を有する患者において不適切な可能性のある薬剤(表3)
3. 慎重に使用すべき薬剤(表4)
4. 不適切な可能性のある薬物-薬物相互作用(表5)
5. 腎機能に基づいて投与量を調整すべき薬剤(表6)

Beers Criteria®は国際的に使用することができるが、特に米国での使用を想定して作成されており、特定の国の特定の薬剤については考慮が必要な場合がある。Beers Criteria®は、臨床上の意思決定を共有することに取って代わるのではなく、それを支援する方法として、思慮深く適用されるべきである。
高齢者への処方は、多くの要因、特に高齢者とその家族の嗜好と目標を考慮する複雑な努力であることが多いため、本基準は懲罰的な方法で使用されるものではない。

<個別の薬剤について特記>
●非弁膜症性心房細動およびVTEの長期治療におけるダビガトラン(プラザキサ®)の推奨は、アピキサバン(エリキュース®)などの代替薬と比較して、消化管出血および大出血のリスクが高いことを示唆するエビデンスがあるため、依然として「慎重に使用すること」としている。
●SGLT2阻害薬については、泌尿生殖器感染症および糖尿病性ケトアシドーシスのリスクが増加するため、慎重に使用するよう助言する新たな基準が追加され、治療中の早期のモニタリングを推奨している。

<減処方deprescribing>
Beers Criteria®に基づく医薬品の処方を成功させるには、臨床医が単に高齢者に服薬中止を指示するだけでは不十分である。コミュニケーションギャップや誤解、患者が服薬中止に消極的で恐怖心を抱くこと、複数の臨床医間の調整、投与量の漸減、離脱症状、薬局への中止指示の伝達などが、起こりうる課題である。

【開催日】2023年10月4日(水)

小児および成人におけるワクチン接種後のアナフィラキシー発生のリスク

-文献名-
McNeil, M. M., Weintraub, E. S., Duffy, J., Sukumaran, L., Jacobsen, S. J., Klein, N. P., Hambidge, S. J., Lee, G. M., Jackson, L. A., Irving, S. A., King, J. P., Kharbanda, E. O., Bednarczyk, R. A., & DeStefano, F. Risk of anaphylaxis after vaccination in children and adults. The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 2016, 137(3), 868–878. https://doi.org/10.1016/j.jaci.2015.07.048

-要約-
Introduction:アナフィラキシーは致死的になりうる急性の全身性の過敏反応だが、予防接種後のアナフィラキシーのリスクを定量化するにはデータが限られていた。アナフィラキシーの頻度は低いので、大規模な集団を調査しなくてはならず、ワクチン安全性データリンク(The Vaccine Safety Datalink ; VSD)がCDCなどと協働してそうしたデータを提供する組織である。過去にBohlkeらが1991−1997年のVSDのデータを分析して人口ベースのワクチン関連アナフィラキシーのリスクを調べたことはあるが、その後予防接種の推奨スケジュールの変更や、推奨年齢の拡大、新しいワクチンやワクチンの組み合わせもいくつか導入されたし、アナフィラキシーの症例定義やデータ収集、分析、組み入れを標準化するためのブライトン分類も開発された。さらに、VSD自体も合計9拠点に拡大し、より多くの集団におけるワクチンの安全性を監視できるようになった。そこで、(1)すべてのワクチンおよび個々のワクチンのアナフィラキシーの発生率を推定する、(2)アナフィラキシーの人口統計および臨床的特徴を説明する、の2点を目標に最新のVSDデータを調査し、ブライトン分類で分析した。

Method:9ヶ所のVSDサイトで2009年1月1日から2011年12月31日までの間にワクチン接種を受けた健康な小児および成人を組み入れた。ICD-9-CMに基づいてアナフィラキシーの可能性のある症例を特定し、2人の専門家がカルテレビューし、ブライトン分類に適合するかどうかを調べた。全ワクチン合計および個別ワクチンについて、アナフィラキシー発生件数および、ワクチンの数で調整した発生率を使って、ワクチン100万回あたりのアナフィラキシー発生率および95%信頼区間を計算した。

Results:2009年1月1日から2011年12月31日まで、2517万3965回(延べワクチン種類・回数ではなく接種回数にすると1760万6500回)のワクチン接種が行われた。ワクチン関連のアナフィラキシーは33件認められた(ワクチン100万回あたり1.31件;95%CI ,0.90-1.84、接種回数100万件あたり1.87件;95%CI,1.29-2.63)。1回の接種で複数のワクチンが投与されることが多いため、接種回数に基づくアナフィラキシー発生の割合は、延べ接種回数のそれより多かった。すべての症例がブライトン分類1か2だった。28例でアトピーの既往があり、そのうち3例はアナフィラキシーの既往、16例は喘息もあった。喘息ではないアトピーの10例中9例は、食物や抗菌薬へのアレルギーの既往があった。死亡例はなく、入院したのは1件だった。女性の方が男性より多かった(女性20名、男性13名)。年齢範囲は4−65歳だった。ほとんどのワクチンが他のワクチンと同時接種されたため、特定のワクチン接種後のリスクを定量化することは困難だった。アナフィラキシーの発症時間は30分以内が8例、30分以上120分未満が8例、2時間以上4時間未満が10例、4時間以上8時間未満が2例、翌日1件、記載なしが4件だった。

Discussion:今回の研究ではワクチン100万回あたり1.31例のアナフィラキシーを認めた。Bohlkeらの研究(100万回あたり0.65回)よりもわずかに高かったが、Bohlkeらの研究は小児と青少年に限定されていたし、多くの外来患者についてのデータが欠けていた。近年のアメリカでは、不活化3価インフルエンザワクチンが、桁違いに最も接種されているワクチンになっており、これを除くとアナフィラキシーの発生率が低いため、個別ワクチンのアナフィラキシー発生率を推定することができない。ワクチン接種後のアナフィラキシーの発症は稀だった。アナフィラキシーコードに加えてアレルギーコードでもデータ捕捉をしたが、それでもエピネフリンを使われなかったアナフィラキシー症例を見逃している可能性はある。アナフィラキシーを起こした33例中28例でアトピー性疾患の既往があり、特に喘息の既往はアナフィラキシーのリスクである。アナフィラキシーが生じた際にエピネフリンを使用されていたのは45%(15例)にとどまっていた。アナフィラキシーは稀ではあるが、数分以内に生じるし、起こすと生命を脅かす性質があるため、ワクチン接種者はアナフィラキシーのマネジメント手順を準備しておく必要がある。

【開催日】2023年10月4日(水)

早期アルツハイマー病におけるレカネマブ

-文献名-
C.H. van Dyck, C.J. Swanson, P. Aisen, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med. 2023;388(1):9-21.

-要約-
【Abstract】
(背景)可溶性および不溶性のアミロイドβ(Aβ)凝集体の蓄積は、アルツハイマー病における病理学的プロセスを開始または促進する可能性がある。レカネマブは、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり、早期アルツハイマー病患者を対象に試験が行われている。
(方法)早期アルツハイマー病(アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度認知症)で、ポジトロン断層撮影(PET)または脳脊髄液検査でアミロイドが認められた50~90歳の患者を対象に、18ヶ月間の多施設共同二重盲検第3相試験を実施した。参加者は、レカネマブ静脈内投与群(体重1kgあたり10mgを2週間ごとに投与)とプラセボ投与群に1:1の割合で無作為に割り付けられた。主要評価項目は、CDR-SB※注1(Clinical Dementia Rating-Sum of Boxes;0~18点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)の18ヶ月時点におけるベースラインからの変化であった。主な副次評価項目は、PETによるアミロイド蓄積の変化、アルツハイマー病評価尺度(ADAS-cog14)の14項目の認知機能サブスケールのスコア(ADAS-cog14、0~90点、スコアが高いほど障害が大きいことを示す)、アルツハイマー病複合スコア(ADCOMS、0~1.97点;スコアが高いほど障害が強いことを示す)、Alzheimer’s Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living Scale for Mild Cognitive Impairment(ADCS-MCI-ADL;0~53点;スコアが低いほど障害が強いことを示す)のスコアである。
(結果)合計1795人が登録され、898人がレカネマブ投与群、897人がプラセボ投与群に割り付けられた。ベースライン時の平均CDR-SBスコアは両群とも約3.2であった。18ヶ月時のベースラインからの調整最小二乗平均変化量は、レカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(差-0.45;95%CI、-0.67~-0.23;P<0.001)。698人の参加者を対象としたサブスタディでは、レカネマブの方がプラセボよりも脳アミロイド蓄積の減少が大きかった(差-59.1センチロイド;95%CI、-62.6~-55.6 ※注2)。ADAS-cog14スコアでは-1.44(95%CI、-2.27~-0.61、P<0.001)、ADCOMSスコアでは-0.050(95%CI、-0.074~-0.027、P<0.001)、ADCS-MCI-ADLスコアでは2.0(95%CI、1.2~2.8、P<0.001)であった。レカネマブ投与により26.4%に急性注入反応(インフュージョンリアクション)が、12.6%にアミロイド関連画像異常;ARIA-E(頭部MRIでの浮腫性変化)が認められた。 (結論)レカネマブは、早期アルツハイマー病におけるアミロイドのマーカーを減少させ、18ヵ月後の認知機能と機能の測定においてプラセボよりも中等度の低下をもたらしたが、有害事象と関連していた。早期アルツハイマー病におけるレカネマブの有効性と安全性を明らかにするために、より長期間の試験が必要である。(資金提供or研究協力:エーザイ(日)、バイオジェン(米)) ※注1:日本語版CDR(0.5点をMCI、1点以上を認知症として捉えることが多い。各スコアの合計=CDR-SB)
※注2:センチロイドはPETにおけるアミロイド集積量の評価法。若年正常陰性を0、軽度~中等度の典型的アルツハイマー型認知症の平均レベルを100として表現。50センチロイド以上がアルツハイマー型認知症確定診断病理例に相当すると推定されている。

【Introduction】
・アミロイドの除去が認知症の進行を遅らせることが示唆されている。
・抗アミロイド抗体の一つ(アデュカヌマブ、米国商品名:アデュヘルム)は、米国FDAから早期承認を受けている。
・レカネマブ(米国商品名:レケンビ)はヒト化モノクローナル抗体で、可溶性アミロイドβプロトフィブリルに高親和性で結合する。
・早期アルツハイマー病患者を対象に、レカネマブの安全性と有効性を検討する第3相試験を実施した。

【Methods】
・早期アルツハイマー病患者を対象とした18ヶ月間の多施設共同・二重盲検・プラセボ比較試験。
・レカネマブ群(10mg/体重kgを2週ごと投与)とプラセボ群に1:1に無作為割り付けした。
層別化:アルツハイマー病による認知機能障害、抗認知症薬の使用、アポリポ蛋白Eε4キャリアの有無、地理的特性。
・アルツハイマー病および統計学の専門家によるモニタリング委員会が、盲検化されていない安全性データをレビューした。
独立した医療チーム(試験割り当てグループを知らない)がARIA、輸液関連反応、過敏性反応を検討した。
臨床評価者は、安全性評価および試験割り当てグループを知らなかった。
・適格基準:アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症を有する50~90歳。アミロイド陽性はPETまたは脳脊髄液によるAβ1-42測定により判定した。
・評価項目:省略(Abstract参照)
・統計解析:無益性や有効性に関する中間解析は計画されなかった。有効性の解析は修正ITT解析(レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与され、ベースライン評価およびCDR-SB測定を少なくとも1回実施)により実施した。安全性の解析は、レカネマブorプラセボを少なくとも1回投与された参加者集団で評価された。ARIA(アミロイド関連画像異常)は9, 13, 27, 53, 79, 91週目のMRIでモニタリングされた。

【Result(参加者)】 (Figure 1、Table 1参照)
・スクリーニング5967人、無作為化1795人(レカネマブ群898人、プラセボ群897人)、北米・欧州・アジアの235施設にて。
・追跡完了はレカネマブ群729人(81.2%)、プラセボ群757人(84.4%)。修正ITT解析は1734人で実施。
・ベースライン時の参加者の特徴は2群で概ね類似(平均71歳、CDR-SB 3.2/18点、MMSE 25.5点)。非白人が20%強。
【Result(評価項目)】 (Figure 2、Table2参照)※Table2は本ファイルでは省略
・主要評価項目であるCDR-SBはベースラインで約3.2点、18ヶ月後の変化量の補正平均はレカネマブ群で1.21、プラセボ群で1.66であった(-0.45、95%CI、-0.67~-0.23、p<0.001)。 ※「認知症の進行を27%抑制」の数的根拠と思われる。 ・副次評価項目に関して、18ヶ月後の平均変化量は以下の通りであった。  (1) PETでのアミロイド蓄積:レカネマブ群-55.48センチロイド、プラセボ群3.64センチロイド(95%CI:-62.64~-55.60、p<0.001)  (2) ADAS-cog14スコア:レカネマブ群4.14点、プラセボ群5.58点(95%CI:-2.27~-0.61、p<0.001)  (3) ADCOMS:レカネマブ群0.164点、プラセボ群0.214点(95%CI:-0.074~-0.027、p<0.001)  (4) ADCS-MCI-ADL Score:レカネマブ群-3.5点、プラセボ群-5.5点(95%CI:1.2~2.8、p<0.001)

【Result(安全性)】(Table 3参照)
・死亡:レカネマブ群0.7%、プラセボ群0.8%。研究担当医によりレカネマブに関連すると判断された死亡例はなし。
・重篤な有害事象:レカネマブ群14.0%、プラセボ群11.3%。
→急性注入反応(インフュージョンリアクション)(レカネマブ群1.2%/プラセボ群0%)、ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常)(同0.8%/0%)、心房細動(同0.7%/0.3%)、失神(同0.7%/0.1%)、狭心症(0.7%/0%)。
・全ての有害事象:両群で発生率は同程度であった。
・投与中止に至った有害事象:レカネマブ群で6.9%、プラセボ群で2.9%。
・レカネマブ群で多かった有害事象は以下の通り。
・急性注入反応(インフュージョンリアクション):レカネマブ群26.4%、プラセボ群7.4%。大部分は軽度~中等度で、初回投与時。
・ARIA-H(出血性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群17.3%、プラセボ群9.0%
・ARIA-E(浮腫性変化を伴うアミロイド関連画像異常):レカネマブ群12.6%、プラセボ群1.7%
・頭痛:レカネマブ群11.1%、プラセボ群8.1%
・転倒:レカネマブ群10.4%、プラセボ群9.6%
・ARIA-Eの91%は軽度~中等度で、78%は無症状で、81%は発見後4ヶ月以内に消失した。
ただし参加者の2.8%に症候性ARIA-Eが認められた(症状:頭痛、視覚障害、錯乱など)。

※急性注入反応(インフュージョンリアクション):分子標的薬などの点滴時に一過性の炎症・アレルギー反応が起こされる病態。サイトカイン放出によると考えられている。主な症状は発熱、悪寒、頭痛、発疹、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、アナフィラキシーショックなど。
※ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities):頭部MRIでのアミロイド関連画像異常のこと。浮腫性変化を伴うものをARIA-E(edema/Effusion)、出血性変化を伴うものをARIA-H(Hemosiderin deposition)と呼ぶ。

【Discussion】
・主要評価項目であるCDR-SBの18ヶ月後の変化量はレカネマブ群でプラセボ群より有利であった。副次評価項目も同様であった。
・CDR-SBスコアの臨床意義については確立されていないが、プロスペクティブに定義された治療差の目標を上回っていた。
・認知症ステージの進行のハザード比についても、プラセボよりもレカネマブが有利であった。
・レカネマブ群におけるARIA-Eの発症率は12.6%、ARIA-Hの発症率は17.3%であった。
ARIA-Eは一般に最初の3ヶ月間に発生し、軽度で無症状であり、4ヶ月以内に消失することが多かった。
ARIA-E(症候性・全て)の発生率は、いずれもApoE ε4ホモ接合体で最も高かった。
・研究限界:18ヶ月間の治療データしか含まれていない。COVID-19流行に伴う介入不実施、評価の遅延、疾患の併発などがあり、脱落率は17.2%に上った。ARIAの発生に関して、参加者や治験担当医師が試験群の割り付けを認識していた可能性がある。
・現在、各種の追加試験が計画・実施されている。
・結論:早期アルツハイマー病患者において、レカネマブは脳アミロイド蓄積を減少させ、18ヶ月後の認知機能および各種の評価項目についてプラセボと比較して中等度の低下・抑制を示したが、有害事象を伴った。早期アルツハイマー病患者におけるレカネマブの有効性と安全性を決定するためには、より長期間の試験が必要である。

【開催日】2023年9月13日(水)