健康な生活習慣へのアプローチ

-文献名-
Robert L, Sandra K, Raymond F, et al. Practical opportunities for healthy diet and physical activity: relationship to intentions, behaviors, and body mass index. Annals of Family medicine. 2016; Vol14:109-124

-この文献を選んだ背景-
 生活習慣病管理を行う際、ルーチン的に食事・運動について聴取していたが、もともと行動変容に関心のない人に対して食事・運動について聞くこと自体が非難するような印象を与え、お互いバツの悪い思いを経験することが多く違和感を抱いていた。そこで文献にあたるなかでAnnals of Family medicineのOriginal researchで取り上げられたこの文献にいきついた。

-要約-
Introduction:
 生活習慣様式の変化によりこの30年で飛躍的に肥満の有病率は増えており、臨床的な介入は避けられる病気や死を減らす大きな可能性をもっている。食事・運動様式の改善のための戦略は、患者によりよい選択ができるよう勇気づけていくことに焦点をあてているが、控えめな成功しか得られていない。
以前の文献で、私たちは「潜在能力アプローチ」※を用いた健康行動を調べた質的、また実証研究を行ってきた。潜在能力アプローチは個人と社会の幸福の指標として実践的な機会を評価する枠組みとなり、実践的な機会の測定には収入や利用可能なサービスに代表される「資源」と、資源を活用するために影響する健康リテラシーや自律性といった「変換因子」があることがわかった。この文献ではその実践的な機会のモデルの検証を行い、行動変容の企図や食事、運動、BMIとの関連を調べることで、この新しいツールによって有用性を評価することを目的とした。
※潜在能力アプローチは厚生経済学の領域において、Sen Aの提唱した人間の幸福についてのアプローチ。能力を評価するうえで以下の5つを提唱し、選択の自由と個人の異質性がいかに重要かを述べた。
  1.人の長所を評価する際での、真の自由の重要性(The importance of real freedoms in the assessment of a person’s advantage)
  2.資源を価値ある活動に変換する能力が、個人によって違うこと(Individual differences in the ability to transform resources into valuable
   activities)
  3.幸せを感じる活動は、多変量な性質をもつこと(The multi-variate nature of activities giving rise to happiness)
  4.人の厚生を評価する上での、物質的なものと非物質的なもののバランス(A balance of materialistic and nonmaterialistic factors in evaluating
   human welfare)
  5.社会における機会分布の考慮(Concern for the distribution of opportunities within society)

Method:
 2012年にTexasにある8つのプライマリケア診療所で英語かスペイン語を話す18歳以上を対象に100人ずつ参加者を登録した。2つの段階で研究を実施した。第一段階では検証的因子分析※で潜在能力測定尺度の構成概念妥当性を評価した。第二段階では潜在能力尺度と測定された食事、運動、BMIとの関連を評価した。
 25項目からなるCapability Assessment for Diet and Activityおよび適切な健康行動、BMI、行動企図(週に何日健康な食事をとることや運動することを計画したか、0-7)について測定した。
※因子分析とは相関関係の背後に潜む構造を研究するための統計学的分析手法。検証的因子分析では構造に関する仮説をデータと照らし合わせて検証していく。

Results:
 食事に関する変換因子が1SD上昇する(5ポイントの尺度で0.6)と、BMIは4kg/m2減少と関連していた。運動に関する資源と変換因子が1SD上昇するとBMIは1.6kg/m2の減少と関連していた。潜在能力と運動との関連では、運動企図は実際の運動時間の強い予測因子となっていた。運動企図は運動に関する資源によって予測され(b=0.29, p=0.05)、運動に関する変換因子はより強い予測因子となっていた(b=0.77, p<.001)。食事に関する変換因子は、健康な食事企図を予測する因子となったが(b=0.42, P<.001)、資源は関連がみられなかった(b=0.2, P=.50)。
上野先生図

Discussion:
横断研究では因果関係を立証できないため、今後の縦断研究での検証が必要である。食事や運動活動の自己報告による測定をプライマリケアの診療場面で行うことの実現可能性は証明されているものの、社会的望ましさによるバイアスによる影響を受けやすく、信頼性に欠ける。食事に関する測定の分配ミスで27%しかサンプルが得られなかったためさらなる研究が望まれる。
 今後は縦断研究を行い、観察期間を通じたCADAの変数間での結果や帰納がどうなるか理解を深める必要があるが、より効果的で重要かつ健康増進において十分根拠のあるアプローチを約束するだろう。

-考察とディスカッション-
Capability approachでの資源とそれを変換する能力という分け方は、個人の異質性に近づくために、通り一遍の食事・運動の活動に触れるだけでは実情に迫りえないことが言語化され自分の中ではしっくりくる考え方だった。
また文献のなかで臨床家は診療するコミュニティのなかで、健康な行動を促進したり阻害したりする状態に気づく必要があり、診療を通じた実際的な契機となる情報の蓄積により、いまだ対応されていない地域ニーズの同定や、公衆衛生機関にとって地域の価値ある知恵を提供する助けになると述べられており、健康増進をはかるうえで地域のなかでの資源や活動をさまたげる障壁について私たち家庭医は理解を深めていかなければいけないことを改めて気づかされた。

ディスカッション
 1.食事・運動改善のためにいままでみなさんはどのようなことを意識して診療していたか?またこの文献を読んで参考になりそうなことはありますか?
 2.個人の健康増進を検討するうえで地域ニーズの発掘と結びついた経験は?

【実施日】
 2016年6月1日(水)

妊婦を含む成人の禁煙に対する行動的・薬物的介入について

-文献名-
U.S. Preventive Services Task Force. Behavioral and Pharmacotherapy Interventions for Tobacco Smoking Cessation in Adults, Including Pregnant Women. American Family Physician. May 15, 2016; 93(10):860A-860G

-要約-
【禁煙に対する行動的介入、薬物的介入のまとめ(Table 1参照)】
 ・妊娠していない成人について
  薬物的介入と行動的介入が推奨される(Grade: A)。
  行動的介入単独、あるいは薬物的介入との併用が禁煙の達成率を上昇させる。

 ・妊娠している成人について
  行動的介入が推奨される(Grade: A)。薬物的介入は推奨されない(Grade: I statement)。
  行動的介入は禁煙達成率を上昇させ、胎児体重を増やし、早産のリスクを減らす。
  薬物的介入(ニコチン置換療法、ブプロピオン、バレニクリン)は禁煙の達成や、周産期の子のアウトカムに対してエビデンス
  不十分あるいはない。

 ・全ての成人について
  電子ニコチン送達システム(電子タバコなど。electronic nicotine delivery systems;ENDS)は推奨されない (Grade: I statement)。
  ENDSは禁煙あるいは周産期の子のアウトカムに対してエビデンスが不十分である。

【臨床での考察】
 妊娠中の女性について
 ・行動的介入(カウンセリング、フィードバック、健康教育、動機づけ、社会的サポート)が効果的である。
  通常ケアやコントロールと比べて、行動的介入は禁煙率を11%から15%へ引き上げる。
 ・行動的介入がうまくいかなかった女性に対して、他の禁煙オプションは有効かもしれない。いくつかの研究で、ニコチン置換療法が周産期の子の
  健康アウトカムに有用だとエビデンスを示している。その結果は主に潜在的な利益を示しており、全体のエビデンスは非常に限られたもので、
  明確に結論づけることはできない。ニコチン置換療法は妊娠カテゴリーDの薬剤であり、治験や販売後の使用経験から胎児へのリスクが
  示されている。
  しかし、妊娠期間中に喫煙を続けるよりは安全かもしれないと言われている。ブプロピオンとバレニクリンについては研究が見つかっていない。
  これらの薬は妊娠カテゴリーCで、動物実験では胎児への副作用が示されているが、ヒトでは十分な研究がない。
 ・妊婦への薬物的介入については、利益と害のバランスについて明らかなエビデンスがなく、臨床医は各患者に喫煙の重症度を考えて、
  意思共有をした上で治療方針を決めていくことが推奨される。

【開催日】
 2016年5月25日(水)

高齢糖尿病患者の管理レビュー

-文献名-
Kasja J.Lipska,MD,MHS, A Review of Glycemic Control in Older Adults with Type 2 Diabetes, JAMA,2016;315(10):1034-1045

-要約-
【重要事項】
 糖尿病高齢者の最適な血糖管理については、まだ未決着である。

【観察】
 4つの大規模ランダム化臨床試験(サンプルサイズ1791〜11440人)で得られたエビデンスの多くが、糖尿病治療のガイドとして使用されてきた。多くのRCTが血糖コントロール強化治療群と標準治療群(80歳以上は除外)を比較したデザインで、微小血管アウトカムの評価のため代理エンドポイントを使用し、どのサブグループで特定の治療に対して最も治療の効果があるのか、あるいは有害事象があるのか、限られたデータしか得られていなかった。RCTのデータでは、より高齢の集団では強化治療群は10年間の大血管イベントの減少を示さなかった。更に、強化治療群は8年間の微小血管アウトカムの改善を示さなかった。RCTのデータは一貫して、強化治療は1.5-3倍の重症低血糖のリスクを即座に増加させた。これらのデータや観察研究に基づくと、65 歳以上の成人の大部分において、 HbA1Cの目標値を7.5%以下にすることとHbA1Cが9%以上になることは、害のほうが大きいようである。しかし患者の要因・治療目標に近づくための使用薬剤・生命予後・患者の治療の嗜好性により目標値は異なる。少ない治療負担や低い低血糖リスクを有する薬剤のみ(例:メトフォルミン)使用するとしたら、より低いHbA1Cの目標値は適切かもしれない。もし患者が注射や頻回な血糖測定を避けたいと強く希望するなら、インスリンを使用しないが故の、高めのHbA1C目標値は適切かもしれない。

【結論と妥当性】
 より高齢の集団における血糖治療の質の高い研究結果は得られていない。最適の判断には、患者と一緒に、利益と不利益の見込と患者の治療に関する嗜好性を組み入れ、治療負担を加味することが必要である。多くの高齢者においては、HbA1C目標値を7.5-9.0の間にすることが治療利益を最大にし、不利益を最小にするだろう。

【開催日】
 2016年5月25日(水)

プライマリケアの精神医学

-文献名-
井原裕.プライマリケアの精神医学-15症例、その判断と対応-

-要約ー
この本の類書と異なる点は、「たった一つのこと」しか書かれていないということです。
すなわち、「うつ・不安・不眠を訴える患者さんには、ヘルシーな生活習慣を勧めさえすればよい」、それだけです。
とにかく、ひたすら生活習慣を診ることです。

 「生活の健康こそ、こころの健康」

実地医家は、とりあえず始めなければなりません。
いわば、過酷な自然状況でサバイバルしていかなければならない冒険家のようなものです。
重装備は不可能で、携帯できるナイフは1本のみ。それこそがプライマリケア精神医学の本質だと思うのです。

 症例1 「まったく眠れない」というお年寄り
 症例2 「明け方まで眠れない」という若者
 症例3 「3,4時間しか寝なくても大丈夫」と言う体調不良の働き盛り男性
 症例4 ため息をつきながら、身体の不調を訴えるお酒好きの50歳男性
 症例5 職場でパワハラを受けたとおっしゃる住宅資材メーカー31歳男性
 症例6 不安発作頻発の37歳キャリア・ウーマン
 症例7 退職後ひきこもって昼間から酒を飲んでいる初老男性
 症例8 「復職が不安だ」と言う若手女性教師
 症例9 帰省中に被災した男性看護師
 症例10 PTSDを心配した教師に連れてこられた被災者少年
 症例11 やさしい精神科医に多剤併用を受けていた22歳女性
 症例12 セカンド・オピニオンを求めて来院した26歳OL
 症例13 眠たいのに心理カウンセリングを受けさせられていた11歳女児
 症例14 元気の出る薬を執拗に要求するネット依存の若者
 症例15 本人の代わりにPTSDの診断書を求めて内縁の夫が来院した29歳女性

軽症および中等症のうつ病では、SSRIとプラセボの有効性において有意差は認められず、最重症でのみ有意差が示された。

 <依拠すべき5つの常識>
・「寝不足だと体調が悪くなる」
・「時差ボケだと頭が痛くなる」
・「酒の飲みすぎは体によくない」
・「運動不足だと体力が低下する」
・「人は寂しさには耐えられない」

 <問うべき5つの質問>
・「平日は何時に寝て、何時に起きています?」
・「休日は何時に寝て、何時に起きています?」
・「酒は週何回? どのくらい?」
・「1日1回は外出しています?」
・「1日1回は人と会っています?」

 <具体的な指導はたった5つ>
・1日7時間以上、週50時間以上の睡眠
 (年齢による若干の補正必要)
・平日休日の起床時刻時間差を2時間未満に
・週3日の断酒日を
 (薬物療法するなら完全断酒)
・1日最低30分は外出
 週1回は半日程度の外出
・1日最低1回は人と会って話す

【開催日】
 2016年3月23日(水)

デザイン思考の進化

-文献名-
濱口秀司.デザイン思考を超えるデザイン思考.ハーバードビジネスレビュー.2016年4月号:P27〜39.

-この文献を選んだ背景-
 システム思考と対をなすデザイン思考についてここ3年ほど独学を進めてきた。一定の理解を得ていたが、実践ではいまひとつ納得がいかない部分があり、それはユーザー観察からのインサイトの発見だった。提起購読しているHBRに上記の文献があり、この点について新しい見方を提唱していたので読んでみた。

-要約ー
<デザインの歴史>
 D:広義のデザイン。設計を意味し、ビジネスにおける問題解決やコンセプト・戦略・マーケティングの設計を指す
 d:狭義のデザイン。商品やロゴ、広告や添付における形や美的スタイル

 G:Group 組織やグループで作り上げる
 g:genius 一人の天才が作る
福井先生図

 左上はレオナルドダヴィンチのような、究極的にマルチなアーティスト兼戦略家。この人はほとんどいない。
 左下はいわゆるデザインファーム。デザイン学校の成績優秀者が独立し始める。
 右下は25年前から狭義のデザインを個人の才能ではなくチームで作ろうとしてきた会社のこと。これがIDEOが代表。グループで作るのでプロトコルが必要であり、そこで注目されたのが「ユーザー中心デザイン」。天才でない人にも良いものをデザインできる体制になった。ニーズの本質を見つける、ユーザーベースで考える、ひな形を作る、行動観察調査をするなど。
 右上は、ここ10年くらい、一部のデザインファームがビジネス上の問題解決などを設計する手法としてデザインを捉え始めた。これがデザイン思考である。つまりデザイン思考とは、「デザイナー以外のためのユーザー中心デザイン」と言える。

<イノベーションの3要件>
 1)見た事、聞いた事がない
 2)実行可能である  
 3)議論を生む(賛成と反対の意見どちらもある)

 ニーズの本質から生まれてくる一般的なデザイン思考は、0から1を生むよりは、1を改善・改良するのに適しているが、イノベーションには適していない。

<イノベーションに適したデザイン思考>
 既存のデザイン思考=DTn (Design Thinking driven by needs)
 新しいデザイン思考=DTf (Design Thinking driven by framework)
福井先生図2

 DTnは最後のアイデアが面白いかどうかを判断する時に、何らかのフレームワークを用いて判断してる。ステップDTfは作り手が持つバイアスを、
フレームワークを探すことで見つけ、そのバイアスを破壊するアイデアを考える。
詳細:
 1)バイアスを破壊するアイデアを生む
   構造がないと破壊できない。
   例ⅰ)複数のアイデアをa,b二つの軸で分ける。このa,bが根源的なバイアスであればそれを破壊するアイデアは検討がつけやすい。

   例ⅱ)ブレスト
     ブレストの3要素=アイデア  ブレスト  両者の連結
     Lv1:どんどんアイデアを出し、最も面白いアイデアを多数決で決める方法(I2I=Idea to Idea;chaotic)。
         デメリット:イノベーティブなアイデアは賛否を分けるものなので多数決で決められない。
         メリット:直感的な良さが出る。
     Lv2:Lv1で出てきた面白いアイデアを何かの軸で面白い理由を明確にする。それをさらに抽象化する(P2I=Perspective to Idea;
        structured)。論理的な良さを加える。
     Lv3:Lv2の複数の抽象化された切り口を組み合わせて構造化し包括的なモデルを作る。
        例:切り口を二つ選び、それぞれの切り口の軸をクロスさせ4マスを作るなど
     Lv3+:そこで出てきた包括的モデルの中で、今まで見たことのない、作られたことのないところはどこか考える(破壊する)

 2)ニーズを付加する
    生まれたアイデアのユースケースを想定する、想定外のニーズが付加される場合もある

 3)意思決定を行う
    不確実性を伴う意思決定が必須。
    ⅰ)プロトタイプを作成し、100人の潜在顧客に見せて、購買意向を持つか否か。ユーザー需要性調査ではない(どんな機能が欲しいか、
      いくらがいいかなど、ではない)。値段も仮店舗も宣伝も設定した上で「本当に買うのか」に絞って調査する。
    ⅱ)ディシジョンマネジメントを行う(正味現在価値を算出する)。

-考察とディスカッション-
Q1:皆さんが何か新しいプロジェクトを動かしたり、新しいプロダクトを作り出したりする時に、どんな思考過程で実施していますか?
Q2:その思考過程によってイノベーティブなアウトカムは得られていますか?
Q3:デザイン思考は(DTn及びDTfどちらでも)、皆さんの思考過程と親和性はありますか?
Q4:デザイン思考はイノベーティブなアウトカムを得るために有用だと思いますか?

【開催日】
 2016年3月23日(水)

PPIが高齢者の認知症リスクを上昇させる可能性

-文献名-
Willy Gomm et al. Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of dementia: A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis. JAMA Neurol. 2016;DOI: 10.1001/jamaneurol.2015.4791.

-要約-
【背景・目的】
 ドイツではPPIの使用量がここ10年で4倍となった。そのうち40-60%が不適切な使用とみなされている。一方で、PPIが認知機能の低下に関連していることを示唆する研究が報告されている。
 先行研究(AgeCoDe研究 約3000人対象)では高齢者においてPPI使用による認知症発症のハザード比はHR1.38[95%CI 1.04-1.83]であった。そこで先行研究の結果を確認するために大規模な前向きコホート研究を実施した。
【方法】
 対象はドイツ最大の健康保険であるAOKの 2004-2011年の診療記録を用い、入院患者と外来患者の診断名とPPI内服歴を調査した。(AOKは全ドイツ人の1/3、高齢者の1/2をカバー)
 PPI内服の定義:各四半期でPPIの処方歴をもって「PPI内服」と定義。最初の18か月の内、すべての四半期で「PPI内服」である患者を「PPI定期内服群」とした。すべての四半期でPPI処方歴がなかった患者を「PPI非内服群」とした。
 先行研究にならい認知症の評価は18か月毎。その時点で認知症と診断されなかった人は引き続き次の18か月も観察対象とした。追跡は2011年末まで行った。
 主要アウトカム:認知症の新規診断として、先行研究から推測される交絡因子(table1参照)はCox回帰モデルにて調整してPPIの使用と認知症の関係を解析した。
島田先生図

【結果】
 対象集団(Figure1)
  ・「PPI定期内服群」は2950人「PPI非内服群」は70729人 (Table1)
  ・PPIのハザード比 1.44(95%CI 1.36-1.52)
島田先生図2
 サブ解析
  オメプラゾール(オメプラール®)   1.51(1.40-4.64)
  パントプラゾール(国内未承認)    1.58(1.40-1.79)
  エソメプラゾール(ネキシウム®)  2.12(1.82-2.47)
【研究の限界】
 ・他の既知の認知症の危険因子(ApoE4や教育レベル)という因子を調整できていない。
 ・認知症の病型を区別していない
【結論】
 PPIの服用回避で認知症発症を抑制するかもしれない。PPIにより脳内アミロイドβが増加したというマウス実験や薬物疫学の一次データの裏付けになるだろう。さらなる検討のためランダム化前向き臨床試験が待たれる。
【参考】「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015(案)」
 ・STOPP::H2RA(高齢者において認知機能低下、せん妄のリスクあるため可能な限り使用を控える)
 ・START:PPI (GERD/NERDに対して。但し1年以上わたる常用量を越える投与は避ける)

【開催日】
2016年3月16日(水)

正常体重で中心性肥満は死亡率とどう関係する?

-文献-
Karine R.et al.Normal-Weight Central Obesity: Implications for Total and Cardiovascular Mortality.Ann Intern Med. 2015;163(11):827-835.

-要約-
【背景】
 中心性肥満とBMI正常である成人の生存率との関係性はよくわかっていない。
【目的】
 中心性肥満かつ正常BMIである者と総死亡と心血管死亡リスクを調べること。
【デザイン】
 層化多段確率抽出法
【セッティング】
 第3次全米健康栄養調査 NHANES III (Third National Health and Nutrition Examination Survey)
【対象】
 18~90歳の15,184人(女性52.3%)
【方法】
 多変量コックス比例ハザードモデルを用い肥満のパターン(BMIとwaist-to-hip ratio (WHR))と総/心血管死亡リスクを交絡因子を調整したうえで求めた。
【結果】
 正常体重かつ中心性肥満者が最も長期生存率が悪かった。例えば、BMI正常(22kg/m2)かつ中心性肥満はBMI正常かつ中心性肥満がない者よりもハザード比1.87[95%CI 1.35-1.62]と最も死亡リスクが高く、肥満気味かつ中心性肥満のない者と比べるとハザード比2.24 [CI, 1.52 to 3.32]もしくは肥満かつ中心性肥満がない者ハザード比2.42 [CI, 1.30 to 4.53]であった。女性では正常体重かつ中心性肥満は正常体重かつ中心性肥満のない者に比べて高い死亡率であった。BMI正常かつ中止性肥満がある者とではハザード比1.48 [CI, 1.35 to 1.62]であり、BMI肥満があり中心性肥満がない者とではハザード比1.32 [CI, 1.15 to 1.51]であった。予測推定生存は年齢とBMIで調整した場合、常に中心性肥満がある者が短い結果となった。  
【研究限界】
 脂肪分布を身体計測でのみしか評価しなかった点。併存疾患を自記式にて情報収集した点。
【結語】
 正常BMIだが中心性肥満の者はBMIにて肥満がある者よりも死亡率が高いことが分かった。またそれは中心性肥満がない者との間で顕著に死亡率の差があった。
【primary funding source】
National Institutes of Health, American Heart Association, European Regional Development Fund, and Czech Ministry of Health

-考察とディスカッション-
 今回は米国大規模コホート研究において正常体重でありながら中心性肥満を有した成人が最も長期生存予後が悪い結果となった。今までのAHA/ACC/Obesity SocietyのガイドラインでもBMIが高値の場合にのみ腹囲を測定するよう推奨されているにすぎず、WHRの計算は推奨されておらず、BMIが正常であれば脂肪分布は全く考える必要がないとされていた。
今回の結果を受けて、研究限界や人種の差、測定の煩雑さなどの適応の限界はあるとはいえ、中心性肥満への関心が自分としては高まった。
 さて、皆さんは今まで中心性肥満をどのように捉え活用されていましたか?また、本結果をどのように臨床現場に活用できそうでしょうか?

【開催日】
 2016年3月16日(水)

「心房細動+安定した冠動脈疾患=抗凝固薬+抗血小板薬」が適切とは限らない

―文献名―
Morten lamberts, et al. Antiplatelet Therapy for Stable Coronary Artery Disease in Atrial Fibrillation Patients Taking an Oral Anticoagulant; A Nationwide Cohort Study. Circulation. 2014;129:1577-1585.

―この文献を選んだ背景―
 プライマリケアのセッティングにおいて、冠動脈ステント後で抗血小板薬内服中の患者を紹介され長期間フォローするケースは比較的多い。さらに、AFを合併した場合には抗凝固薬の適応となり、以前から併用されている場合もあれば、我々が新規導入する場合も少なくない。しかし、高齢・胃潰瘍既往・NSAIDS内服・腎機能障害など他の出血リスクを合併している患者も多く、漫然と抗凝固薬と抗血小板薬を併用することの有用性について疑問を感じていたところ、ある医学雑誌の記事に本問題に関する特集があり元文献を読んでみた。

―要約―
【背景】
 安定した冠動脈疾患(stable CAD:MI発症またはPCI後12ヶ月以上経過)を合併したAF患者に対する適切な抗血栓治療については明らかにされておらず、一般的に抗凝固薬に抗血小板薬1剤が追加される。本研究ではstable CADを合併したAF患者に対して、ビタミンK拮抗薬(VKA:ワルファリン等)に抗血小板薬を追加することの有効性と安全性を調査した。

【方法】
 デンマークの国内データベースを用いた観察研究。2002-2011年の間にstable CADを合併したAF患者8,700人(平均74.2歳/女性38%)を追跡し、心血管イベントと重篤な出血イベントのリスクについて修正Cox回帰モデルを用いて解析した。

【結果】
 平均3.3年間の追跡で、MI/心血管死・血栓塞栓症・入院を要する重篤な出血の発生率はそれぞれ7.2・3.8・4.0(/100人年)だった。VKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.12[95%CI 0.94-1.34])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.53[95%CI 0.93-2.52])のMI/心血管死リスクは同等であった。血栓塞栓症リスクもVKAを含むすべてのレジメンで同等であった。一方で、出血リスクはVKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.50[95%CI 1.23-1.82])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.84[95%CI 1.11-3.06])で増加した。

【結論】
 stable CADを合併したAF患者に対して、VKAに抗血小板薬を追加することは、心血管イベントや血栓塞栓症の再発リスク減少とは関連せず、一方で出血リスクを有意に増加した。

【研究の限界】
 介入研究ではない。ステントの種類に関してはデータの登録がなく不明である。

【参考】
 本研究の結果を受けて、2014年のヨーロッパ心臓病学会ガイドライン(European Heart Journal. 2014;35:3155-3179)では、AF患者がCADを合併(ACS発症またはPCI施行)した場合、CHA2DS2-VASc score(血栓塞栓症リスク)やHAS-BLED score(出血リスク)の値に関わらず、1年間以降は抗凝固薬単剤を推奨している。

―考察とディスカッション―
 欧米での研究ではあるが、日本人は欧米人に比べ一般的に出血リスクが高いことを考えると、同様に1年後以降はVKA単剤でも良いのではと思った。もちろん抗血小板薬中止の際には、患者の個別性を踏まえた丁寧な医学的評価とコミュニケーションが必要である。なお、NOACは本研究で扱われていないため注意を要する。

<ディスカッション>
 ① これまで本問題に対してどのような対応を行ってきましたか?
 ② 本研究の結果を受けて、今後のプラクティスはどのように変わり得るでしょうか?

【開催日】
 2016年2月17日(水)

プロフェッショナルマネージャーの仕事はたった1つ

―文献名―
高木晴夫.プロフェッショナルマネージャーの仕事はたった1つ.2013.かんき出版.223p

―要約―
【マネジメントは経営資源を配分する仕事】
 マネジメントという仕事は、ヒト、モノ、カネ、情報という4つの経営資源を、部下を中心とした人々に「配る」ことの繰り返しである。若手(現場)マネージャーが配るもののうち最も大切なものは「情報」である。

【部下が目標達成するために必要とする5つの情報】
 マネージャーが部下に配る情報とは、部下が目標を達成するために必要となる情報である。これには次の5つがある。
  1. 状況情報:会社や部署の市場におけるポジションや現在の業績、合併や提携の話など
  2. 方向性情報:会社や部署がどちらに向いていくか
  3. 評価に関する情報:上司であるあなたからの評価、顧客からの評価
  4. 個別業務情報:業務の手続きや規則をどうするか
  5. 気持ち情報:上司であるあなたの気持ちを適切に伝える

【「配る」が部下の動機付けをあげる】
 マネージャーには4つの仕事がある。⑴部門目標の達成、⑵部下への仕事の割り振り、⑶部下の教育・育成、⑷部下の動機付け、である。このうち、最も大切な仕事は「⑷部下の動機付け」である。マネージャーの仕事は「すでにいる部下」に「仕事を与える」ことからはじまるため、仕事を与える前から、その部下が動機付けを高く持っていてくれることが必須になる

 情報を配ることは部下の「動機付け」に極めて重要である。動機付けのメカニズムはシンプルで、Aさんが自分の仕事に対してなんらかの「働きかけ」を行うと、仕事から「手応え」が戻ってくること。この条件さえ保たれていれば、動機付けは高く維持される。この「働きかけ」と「手応え」というサイクルをまわすときに、次のような疑問を持ち、それを理解し、結論を得ようとする。

 ① どんな状況で、それがどんな意味をもつのか
 ② なぜその仕事を担当するのか
 ③ その仕事はどう評価されるのか
 ④ 上司であるあなたは何を考えているのか

 上司の見える範囲の高さは部下よりも上の階層からの視点になり、部下よりも格段に物事がよく見えている。だから、上司は自分が見えているものを部下に配ることで、部下により正確で正しい「認識」(①ー④のこと)を持ってもらえる。補助業務の人は、自分の仕事が目標達成の役に立ってはいるものの、その手応えというのが本人のところには戻らないため、ますます情報を配る重要性が高くなる。

―考察とディスカッション―
 ここまでで、現場マネージャーが配分する経営資源は主に情報であること、情報を配ることは部下が目標を達成したり、動機づけるために特に重要であることを確認した。

<ディスカッション>
 1. 部下を動機付けるために、部下にはどんな情報が足りていなくて、どんな情報を配ればよいか、意識していますか?
 2. あなたが部下に①−④に関する情報を配っている場合は、それによって部下は動機づけられていると感じますか?もしそう感じない場合は、
   それはなぜだと思いますか?
 3. プレイイングマネージャーはマネージャーとして機能するための時間が限られているため、情報を配ることがおろそかになりかねませんが、
   ここがおろそかになるとチームが機能不全に陥る可能性が高まります。情報を配ることがおろそかにならないように、皆さんが取り入れている
   工夫にはどんなものがありますか?

【開催日】
 2016年2月17日(水)

【EBMの学び】アレンドロンからデノスマブへ

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年2月6日
【臨床状況のサマリー】
 89歳女性。歩行は問題なし。閉経後で、骨粗鬆症に対してビスホスホネート製剤(BP薬)を内服中。しかし認知症が進行しており、内服忘れなどが目立つようになってきた。近所に住む息子さんが早朝と朝食後に薬を運ぶようにしていたが、負担に感じていた。そんな折に、半年に1回の注射製剤(デノスマブ:プラリア®)があると聞いたため調べることとした。カルテでは2014年1月から当院フォロー。当院フォロー後からBP薬内服の記載あり。T-score -6.22。

 P;閉経後のBP薬を使用している女性
 I(E);BP薬からデノスマブへ変更した場合
 C;BP薬のままのときと比べて
 O;骨粗鬆症に関連する骨折の頻度が増えない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Effects of Denosumab on Bone Mineral Density and Bone Turnover in Postmenopausal Women Transitioning From Alendronate Therapy
  1.up to dateで「骨粗鬆症」を検索
  2.「Overview of the management of osteoporosis in postmenopausal women」の「Overview of available therapies」の項目に
    「Denosumab」あり。効果に関しては”Denosumab for osteoporosis”を参照する様に書かれていたのでリンクを参照。
  3.「Efficacy」の「Effect on BMD」に「After Alendronate」の項目あり。参照論文が一つあったのでそれを選択した。

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;アレンドロン酸70mg/wで6か月以上治療している55歳以上の閉経後女性
 I(E);デノスマブ60㎎皮下注+プラセボ内服
 C;プラセボ皮下注+アレンドロン酸継続
 O;12か月後のtotal hip BMDの変化率
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
  P:アレンドロン酸の量が異なる。日本では35mg/wが一般的。年齢について55歳以上は合致するが、Tableを参照すると、89歳という高齢女性は
    組み込まれていない。また全員がカルシウム1000mg/日、最低でもビタミンD400IU/日を内服しているが、これも合致しない。
  I,C:特に異なる点はなし。
  O: 立てていたアウトカムは骨折の頻度であったが、論文ではBMDの変化率であった。これは合致しない。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない)
   どう異なるか?:介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 T-score変化率はデノスマブで1.90%(95%CI 1.61-2.18%)
 アレンドロン酸で1.05%(95%CI 0.76-1.34%)
 変化率は0.85%(95%CI:0.44-1.25%)

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 上記は変化率の計算だったので、絶対値に換算(T-score -4.0とした場合)
  デノスマブ:0.076(0.064-0.087)
  アレンドロン酸:0.042(0.03-0.053)
  変化量は0.034(0.02-0.05)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 95%CI 0.44-1.25% であり、-0.35%をまたがない。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 適用すべき患者の年齢と骨密度検査値が論文のPatientとは違う。また、当院では橈骨遠位端でのBMD検査である。カルシウムやビタミンのサプリ内服もしていない。BP薬の内服量も違うということもあり異なる点は多いが、適応不能ではないと判断。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 アレンドロン酸よりは実行可能と思われる。保険適応の問題もない。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 アレンドロン酸35㎎は安くて314.7円。デノスマブ60㎎は28482円。
 1年が52週とすると、アレンドロン35㎎(16364円)、70㎎(32728円)。
 デノスマブ60㎎は56964円。金額的にはかなり差がある。更にデノスマブは長期予後・副作用が明らかでない。
 副作用は両群間に差はなかった。低カルシウム血症はデノスマブ群で1例見られたが、一時的なものであった。骨折については副作用として何例か報告されているが有意差はなし。
 FRAXを計算し、元々のT-score -6.22で、最大0.087上昇したとすると、Hip fracture 44%→46%になる。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 認知症のため、正確に評価は難しい。今後は施設入所も考えており、皮下注射があることで入所制限がかかる可能性も考慮する必要がある。通院が可能であれば早朝に起きて飲むよりは楽と思われる。患者は認知症のため、朝から薬を持って行っているのは近くに住む息子さんである。早朝と、朝食後の2回に分けて薬を持っていくのは負担になっており、導入は負担の軽減につながると考える。

付記
★FRAX(10年間の骨折発生リスクについて)WHO
転倒による顔面骨折既往歴あり
★アドヒアランスに関する論文
Influence of patient perceptions and preferences for osteoporosis medication on adherence behavior in the Denosumab Adherence Preference Satisfaction study
★8年間の追跡研究
The effect of 8 or 5 years of denosumab treatment in postmenopausal women with osteoporosis: results from the FREEDOM Extension study.
★非劣性試験と同等性試験について
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02971_04

【開催日】
2016年2月10日(水)