肥満成人の非外科的介入での長期間の減量の維持

―文献名―
Long term maintenance of weight loss with non-surgical interventions in obese adults: systematic review and meta-analyses of randomised controlled trials. BMJ 2014;348:g2646 doi: 10.1136/bmj.g2646 (Published 14 May 2014)

―要約―
【目的】
肥満成人患者の減量の維持をサポートする方法を系統立ててレビューする
これらの介入の効果に対するエビデンスを評価する

【デザイン】
Systematic review with meta-analysis

【情報源】
Medline, PsycINFO, Embase, and the Cochrane Central Register of Controlled Trials.

【研究の選択】
研究は2014年1月まで確認されたもの。18歳以上の成人肥満で減量を維持するための介入を行い、5%以上の減量をフォローアップ期間の12ヶ月以上の長期間維持するという無作為試験

【研究データの評価と統合】
複数研究者が独立して、それぞれ研究を選別した。
研究の特徴、アウトカムが抜き出された。
Meta-analyses:分散逆数重み付け法と変量効果モデルを用いて、減量維持の介入効果を見積もった。
結果は95%信頼区間で体重の変化の平均値で表現された。

【結果】
45の研究に7,788人参加
食事、運動の両方に焦点をあてた行動療法の介入では、12ヶ月後に体重がコントロール群と比較して−1.56kgの平均値の差があった。
行動療法にオルリスタットを組み合わせて介入すると、12ヶ月後、プラセボと比較して−1.80kgの差が出た。しかし、すべてのオルリスタット研究群はプラセボ群と比較して高頻度で胃腸障害の副作用が出現した。オルリスタットの容量依存性も示された。120mgを1日3回投与した群(−2.34 kg, 95%信頼区間:−3.03 to −1.65)は、60mg、30mg投与群(−0.70 kg, 95%信頼区間:−1.92 to 0.52), P=0.02と比較してより高い減量維持効果がみられた。

【結論】
食事と運動の両方に焦点をあてた行動療法の介入は減量維持に対して、小さいが、重要な効果があることが示された。

【開催日】
2014年7月23日(水)

ダイアローグスマート 肝心なときに本音で話し合える対話の技術

―文献名―
ケリーパターソン,ジョセフ・グレニー,ロン・マクミラン,アル・スウィツラー.ダイアローグスマート 肝心なときに本音で話し合える対話の技術.2010

―この文献を選んだ背景―
院内勉強会のニーズ調査のためのアンケートで、コミュニケーション法や自分に怒りや敵意をぶつけてくる相手の対処方法が知りたいというニーズがあった。以前にダイアローグについて聞いた事があり、ニーズに適していると感じ、ダイアローグの勉強会を企画するため本書を読んだ。

―要約―
序文
 筆者らが「緊迫した会話」と呼ぶ重要かつ難しい会話に適切に対応することで、お互いの関係性が深まり、高い次元での絆が生まれる。本書では「緊迫した会話」に適切に対応するための手法(ダイアローグ)を段階的に掘り下げている。

第1章 緊迫した会話とは何か、それは何故重要か
 大きな利害関係、意見の対立、強い感情が存在すると何気ない会話が緊迫した会話に変化する。その会話が重要であればあるほど上手く進めることが難しい。緊迫した会話を避けたり、不適切に扱うとキャリア、組織の運営、人間関係、健康など幅広い側面に影響する可能性がある。

第2章 会話の達人になる−ダイアローグの驚くべき力
・論争になったり感情的になったりしている場面で、会話が成功するときは必ずその場にいる人々の本音が自由に行き交う状態になっている。
・自由に自分の思いを打ち明けることで、バラバラな個人の思いをひとつの思いのプール(共有の思いのプール)として蓄積する。
・共有の思いのプールが大きければ大きいほどグループとして正しい決定が可能になる。 

第3章 自分から始める−欲しいものに集中する
・自分から始める:自分が直接変えることが出来るのは自分だけということを思い出す
・自分が本当に欲しいものに集中する:自分はどんな動機から行動したのかを問う
・愚かな選択を避ける:欲しくないものを明確にして欲しいものと対立させる

第4章 状況をみる−安心の揺らぎに気づく
緊迫した会話では以下の3つの状況を探す
・緊迫してきた状況:自らの身体、感情、行動の変化に注目する
・安心を揺るがす問題に注意する(沈黙、口撃)
・ストレス時の自己のスタイルに注意する

第5章 安心させる−何でも話せるようにする
・本題から離れる           
・安心のどの部分が揺らいでいるか見分ける:共通の目的、相互の敬意
・必要なら謝る             :敬意を冒したときは誤る
・コントラスト化で誤解を訂正する    :意図しないことを話し次に意図することを話す
・双方の目的が相反していたらCRIBを使う :commit(共通の目的を見いだす決意),recognize(手段の奥にある目的を理解),invent(共通の目的を創る),brainstorm(新たな手段をブレインストーミングする) 

第6章 ストーリーを創る−感情に流されずにダイアローグを続ける
強い感情が原因で沈黙や口撃から抜け出さなくなったら以下をためす
・行動のプロセス(事実➡認知➡感情➡行動)を逆さにたどる:行動の自覚、感情の見極め、事実に立ち返る
・新しいストーリーを創る

第7章 プロセスを告げる−摩擦を起こさずに説得する
話しにくいメッセージや自分の正しさを確信しているため強引に押しすぎるかもしれないと思うときにはプロセスを告げるSTATEを使う:share(事実を共有する)、tell(自分のストーリ−を話す)、ask(相手のプロセスを尋ねる)、talk(仮説として話す)、encourage(チャレンジを奨める)

第8章 プロセスを引き出す−激怒する相手、だんまりを決め込む相手から引き出す

第9章 行動につなぐ−緊迫した会話を行動と結果に結びつける

【開催日】
2014年7月23日(水)

ユマニチュード

―文献名―
本田美和子/イヴ・ジネスト/ロゼット・マレスコッティ.マニチュード入門.2014年

―要約―
はじめに
ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法。
「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立つ。
認知症の方や高齢者のみならず、ケアを必要とするすべての人に使える、たいへん汎用性の高い技法。

Section1 ユマニチュードとは何か
1 ケアをする人と受ける人
・日常の風景
・それは防御かもしれない
2 その人に適したケアのレベル
・ケアのレベルを設定する
 ①健康の回復を目指す(たとえば肺炎を治す)。
 ②現在ある機能を保つ(たとえば脳梗塞後の麻痺が進行しないようにする)。
 ③回復を目指すことも、現在ある機能の維持をすることも叶わないとき、できるかぎり穏やかで幸福な状態で最後を迎えられるように、死の瞬間までその人に寄り添う(たとえば、末期のがんの緩和ケアを行う)。
・誤ったレベルのケアは害である
3 害を与えないケア
・なぜ罪悪感を抱いてしまうのだろう・・・
・強制ケアが健康を害している
・睡眠を妨げない
 ・記憶の保持が困難になった人でも、幸せな気分で眠りについたという思いは感情記憶にとどまりますから、就寝時のケアは大切なのです。
 ・夜間の安否確認のための訪問や、失禁していないかと確認するためのおむつ交換がどれほど悪い影響をもたらしているか想像できるでしょう。
・抑制はしない
 ・入院の原因となった肺炎の治療が終わった2週間目には歩けなくなっている、ひとりでは食べられなくなっている、という皮肉な現実がある。
 ・「生きているものは動く」「動くことが生きていることだ」を当たり前に受け止めるケアの文化を育て、ケアの方法を変えていくことが必要です。
・わきを持ち上げない
 ・肩関節の脱臼に繋がる危険性があります。
 ・人の身体の動きを知ったうえで立位を介助する方法を正しく学び訓練することが必要です。
4 人間の「第2の誕生」
 ・ユマニチュードは、この「人と人との関係性」に着目したケアの技法です。
 ・ユマニチュードは、自分も他者も「人間という種に属する存在である」という特性を互いに認識し合うための、一種のケアの哲学と技法です。
 ・その中心に位置するのはケアを受ける人とケアをする人との「絆」です。
・もし他者との絆がなければ
 ・自分が人間的存在であると認識することができます。つまりこれが第2の誕生です。

Section2 ユマニチュードの4つの柱
・人間の尊厳を取り戻すために
 ・(1)その能力や状態を正しく観察し、評価と分析を行うこと。
 ・(2)見つめ、話しかけ、触れ、立つことや移動を効果的にサポートすること。
 ・(3)その行動の抑制も強制も行わない環境をつくること。
1 ユマニチュードの「見る」
・ポジティブな見方とネガティブな見方
 ・水平に目を合わせることで「平等」
 ・正面から見ることで「正直・信頼」
 ・顔を近づけることで「優しさ・親密さ」
 ・見つめる時間を長くとることで「友情・愛情」
・「見ない」は「いない」
・ケアを受ける人は本当に見てもらっているか?
 ・相手を「見る」ためには0.5秒以上のアイコンタクトが必要だとされています。
・「見る」ことに関する2つの方法
 ・自然にできる「見る」
 ・後天的に学ばないとできない「見る」
・職業人として「見る」ということ
・文化の問題ではない
2 ユマニチュードの「話す」
・赤ちゃんにはどう話す?
・話さない人には話しかけなくていい?
・コミュニケーションの原則
・オートフィードバック
 ・自分の行っているケアの様子を言葉にする。
3 ユマニチュードの「触れる」
・広い面積で、ゆっくりと、優しく
・ケアの場での「触れる」
・皮膚から伝わる感覚の情報は場所によって違う
・”つかむこと”が伝えるメッセージ
 ・「親指を手のひらにつけて、絶対に使わない」と強く意識することが必要になってきます。
・5歳の子の力以上は使わない
4 ユマニチュードの「立つ」
・立つことの意味
 ・子どものころに自分で立ち上がったこと、それを見ていた親や大人に喜ばれたという記憶は、ポジティブでほこりに満ちた感情記憶です。
・立つことの生理的メリット
・多くの場合、歩けないのは医原性
・一日20分、立位でのケアを
・脳に誤情報を与えないこと
5 人間の「第3の誕生」
・人間らしい世界に迎えられなかった子どもは?
・近く遮断状態の高齢者
・フライデーはどこにいる

Section3 心をつかむ5つのステップ
・責めるのではなく、変えればいい
・よかれと思ったことが・・・
・マナーとして当たり前のこと
・出会いから別れまでの5つのステップ
1 出会いの準備
・なぜノックするのか?
 ①3回ノック。
 ②3秒待つ。
 ③3回ノック。
 ④3秒待つ。
 ⑤1回ノックしてから部屋に入る。
 ⑥ベッドボードをノックする。 
・自分が来たことを告げて反応を待つ
2 ケアの準備
・合意が得られなければ、あきらめる
 ・3分以上このプロセスに時間をかけない。
・「あなたに会いに来た」というメッセージ
 ・「◯◯です。お話をしに来ました。ご一緒してよろしいですか?」
 ・”あなたと話をしに来た””あなたに会いに来た”というメッセージを伝える。
・嫌がる言葉は使わない
・正面から近づく
・視線をとらえる
・2秒以内に話しかける
・いきなりケアの話はしない
・話す、触れる
・顔はプライベート・ゾーン
3 知覚の連結
・2つ以上の感覚を使う
・複数の知覚情報を矛盾させない
・知覚の連結とは
・適正よりも技術
・2人でケアを行うときには「黒衣とマスター」技法を使う
・マスター役は「見る」「話す」、黒衣役は「触れる」
・どちらが効率的か
4 感情の固定
・「この人は嫌なことをしない」という感情記憶を残す
・やや大げさに表現する
・共に働く人たちの理解を得るには
5 再会の約束
・約束を書きとめておく
・次回来られない場合には

Section4 ユマニチュードをめぐるQ&A

【開催日】
2014年7月16日(水)

10個の積み木~質の高いプライマリ・ケアとは?~

―文献名―
Thomas Bodenheimer, et.al. The 10 Building Blocks of High-Performing Primary Care. Ann Fam Med, 2014; 166-171.

―この文献を選んだ背景―
今年度の診療報酬改定で導入された地域包括診療料の算定に向けたプロジェクトや家庭医療看護師養成プロジェクトに携わっている。その中で北海道家庭医療学センターが実現する診療所の未来のあり方を考えることが多く、文献が非常に参考になったため紹介する。

―要約―
【イントロ】
「無理のないコストで」「患者経験を改善し」「より健康に」というヘルスケア改革の3つの目標は質の高いプライマリ・ケアを基盤としなければ達成することはできない。このために新たなプライマリ・ケアの診療や業務を設計し直そうとする動きが活発となっており、診療施設が新時代に向けて変わっていくためのロードマップが必要とされている。この文献では質の高いプライマリ・ケアを示す概念モデル「10の積み木」を紹介する。

【方法】
複数の情報源を利用してケーススタディを行い、それ元にして積み木の枠組みを構築した。
非常に高い評価を得ている23診療施設を訪問し調査。
著者らが運営支援をしている25以上の診療施設における経験。
既存のモデル(例:Starfield’s 4Pillars of Primary CareやPatient-Centered Medical Home Recognition Standards)やプライマリ・ケアの改善に関する先行研究。

【10個の積木(Figure 1)】
既存のモデルや先行研究が示す要素を含む10個の積み木をFigure 1に示す。

Figure 1. Ten Building blocks of high-performing primary care.

上に積まれた積み木の示す項目を達成したいのであればその前に下の段の積み木が示す項目について取り組み達成することが基盤となる。

積み木1:熱心な、献身的なリーダーシップ、明確な目的に裏打ちされた診療施設のビジョンの創出
質の高い診療施設は変化を促すことに献身的に取り組むリーダーを有する。また組織のあらゆるメンバーがリーダーシップを発揮し患者をもリーダーとしての役割に巻き込んでいる施設もある。
積み木2:コンピューター技術を利用したデータによる質改善
がんのスクリーニングや糖尿病管理といった病床の指標、ケアの継続性やアクセスといった指標、患者経験(満足度?)といった指標に関するデータを医師ごと、またはケアチームごとに収集し全職員が閲覧可能な状態とし、改善を促進する。
積み木3:Empanelment
患者が特定のケアチームやプライマリ・ケア医を主治医として持ち、登録すること。診療施設側の視点では患者の登録名簿を持つことを指す(日本のフリーアクセスや出来高制の環境、Fee-for-service制をとる診療施設では現実に障壁がある)。Empanelmentは良質なプライマリ・ケアにとって必須である患者との治療的関係の構築にとって基礎となる。登録名簿をこの文献では「Patient panel」と表現している。
積み木4:チームによるケア
患者の登録名簿は必然駅に徐々に大きくなっていき、医師だけでケアを担っていくことが難しくなるため、医師以外の職種とチームを構成し、受け入れられる患者のキャパシティを広く持つようにする。このようなチームを構築することを「Sharing the care」と呼ぶ。診療施設によっては安定した慢性期の患者のケアをチーム内の看護師や薬剤師がマネジメントできるよう「Subpanel」を作成しているところもある。
積み木5:患者-チームのパートナーシップ
質の高いプライマリ・ケア診療施設においては、患者は何をすべきかを指示されるのではなく、患者個別の目的が尊重され医師やケアチームと決断を共有する。
積み木6:Population Management
ここでいうPopulationとは「Patient panel」を指す。「Patient panel」のマネジメントは大まかに3つの職務がある。Panel management(登録名簿を見渡しがん検診など定期的なヘルスチェックの時期にある患者を同定するなど)、Health coaching(生活習慣病など慢性期の患者に対する行動変容)、Complex care management(医学的、心理社会的に複雑なニーズを持つ患者のケア)。すべての職務において医師以外の職種が少なくない役割を持って職責を果たしている。
積み木7:ケアの継続性
ケアの継続性は予防医学的ケア、慢性期のケアや患者・医療者の経験を改善し、医療費の軽減をすることと関連する。ケアの継続性の実現には積み木3(Empanelment) が必要である。
積み木8:ケアへの迅速なアクセス
ケアへのアクセスは患者満足度に強く関連しており多くの診療施設にとって重要課題でもある。
患者登録簿の大きさの管理(積み木3)やキャパシティを広げられるチーム作り(積み木4)に取り組むことが有効である。
積み木9:ケアの包括性と協調性
患者の健康ニーズの大部分に応える「ケアの包括性」と診療施設が提供することができないサービスのアレンジを行う責務としての「ケアの協調性」はStarfield’s 4 pillarsにも含まれる。
積み木10:将来を見据えた「鋳型」(Template of the Future) 
積み上げた積み木の頂点は将来を見据えた「鋳型」である。

現在の診療報酬制度はここに示すようなケアに対する十分な報酬を与えるシステムにはなっていない。こういった質の高いプライマリ・ケアを提供する診療施設に適した診療報酬のあり方が問われており、有力なのは患者の健康リスクに応じた包括診療料を基盤とし、臨床面のケアの質と患者経験の質により調整されるものであろう。

【開催日】
2014年7月16日(水)

「レジリエンス」の鍛え方

―文献名―
久世浩司. 「レジリエンス」の鍛え方.実業之日本社.2014

―要約―
久世浩司 慶應大学卒業。P&Gでマーケティング責任者として国内外で活躍。応用ポジティブ心理学準修士課程修了。

 
<レジリエンスとは>
失敗を怖れて行動回避する癖を直し、失敗しておちこんだ気持ちから抜け出し、そこから目標に向って前に進むことのできる力(もともとうつ病の若年化という、学校教育における問題に対処するため発達した経緯あり)
 
<なぜレジリエンスが必要か>
1職場でのうつ病は深刻
2グローバル化で世界のエリートが相手
3どう働いていいかわからない。「がつがつした働き方」が「無茶な働き方」としかイメージできない
レジリエンスがある人は、高いレベルでの自己洞察があり、自己の強みをいかせる土俵で仕事を注意深く選択し、感謝の念や仲間とのつながりを意識的に大切にし、自分らしくオーセンティックな働き方を体現している
 
<失敗>
失敗の真の問題は、失敗した後に生まれるネガティブな感情に支配されること。ネガティブな感情を持つこと自体はごく自然のこと。これが繰り返されると蓄積していき「学習性無力感」となってしまうのが問題。
<失敗の分類>
 ①予防できる失敗:責めない前提でのヒヤリハット報告 ポジティブに建設的にフィードバック
 ②避けられない失敗:自分の責任を過剰に感じることはない
 ③知的な失敗:歓迎すべき価値ある失敗なので自分を責める必要はない。
<失敗の後の対応>
 1)失敗経験をしたら上記の3つに分類すること
 2)不必要に自責の念を持たないこと
 3)失敗の種類に応じて適切な対応をとり、積極的に学習すること
 
<レジリエンスを鍛える7つのステップ>
 1)ネガティブ感情の悪循環から脱出する
 没頭できることを探し、フロー体験を取り入れることでネガティブ感情の悪循環を断ち切ることに役立つ
  ①運動系:水泳、ダンス、ジョギング、ウォーキング、武道、チームスポーツ、トレッキング、早足散歩 
  ②呼吸系:深い深呼吸を繰り返す。ヨガ、瞑想。マインドフルネス。
  ③音楽系:演奏や視聴。
  ④筆記系:自由記述、内省的記述、日記
 2)役に立たない7つの思い込み(思い込み犬)を手なずける
 ・正義犬:公正、「~ベキである」。公正でないことが起きると怒り、憤慨、嫉妬の攻撃系感情を生み出す 
 ・批判犬:他人を非難し批評しがち。曖昧な状態に耐えられない。怒りや不満の感情が生まれる。
 ・負け犬:自分と他人を比較しするが、他人と比べられることをおそれる。羞恥心、憂鬱感を生み出す
 ・謝り犬:悪いことを「自己関連づけ」し自分を責める。罪悪感、羞恥心から自尊心・自己評価が下がる。
 ・心配犬:1つでもうまくいかないと将来も全て失敗してしまうと不安になる。悲観的思考の癖がある。
 ・あきらめ犬:自分で状況をコントロールでき無いと考え、根拠の無い決めつけをする。不安、憂鬱感、無力感等の感情を生み、行動への意欲を低下させる
 ・無関心犬:物事や将来に関しても無関心で、面倒を避ける。自分と周囲の意欲喪失の原因となる。
 以上から自分の思い込みパターンを過去の事例から分析し、その原因となった原体験をさぐり、アンラーニングする。
 3)自己効力感をあげる
  ・成功体験を持つ ・うまくいっている人の行動を観察 ・他者からの言葉 ・高揚感を体験する
 4)自分の強みを活かす
  ・レジリエンスがある人は、① 自分の強みは何かを把握している、 ②自分の強みを平時から磨いている、 ③自分の強みを有事に活かすことができる。
  ・自分の強みを3つ見いだす
  ①自己診断の強み三大ツール
     VIA-IS(無料) ストレングス・ファインダー(有料)  Realise2(高額だが弱みも分析できる)
   ②コーチング
    強みを引き出す5つの質問
     ・最も大きな達成/成功は何か?      ・自分移管して最も好きな点は何か?
     ・何をしている時に最も楽しく感じるか?  ・どんな時に自分らしく感じるか?
     ・自分がベストで最高のときはどんなときか?
  ・弱みへの効果的な3つの対処方法
    ①弱みが仕事の目標達成に不可欠であれば、最小限の時間と努力で克服する方法を考える
    ②苦手をアウトソーシングする
    ③自分の弱みを補ってくれるパートナーと組む 
 5)心の支えとなるサポーターを作る
   サポーターがいると長期にわたり違いをもたらすことが研究でわかっている(カウアイ島の研究)
   家族や隣人とよい関係を保ちサポートされることで、孤独な環境に住む人よりも7年長生きする(研究)
   最も大切な5人を選ぶ。その時「あなたにとって大切な人は誰ですか?」「過去に大変だった時期に親身人相談してくれた人は誰ですか」「時には叱咤激励をしてくれたサポーターは誰ですか」という問いに答えながら考える
 6)感謝のポジティブ感情を高める
  1 感謝日記を書く 1日の終わりに感謝したことを思い出し、日記として書く。なぜこのよい出来事が起きたのかについてじっくり考え、感謝の気持ちを持ちながら日記を閉じる
  2 3つのよいことを思い出す:その日のうまくいったこと3つを回想する。そしてありがたい、運が良かったと感じる内容を箇条書きで記述する。なぜうまくいったかについても理由を考える。
  3 感謝の手紙を書く 自分が過去にお世話になった、助けられたひとで感謝を伝えられなかった人を選ぶ。その人に向けて感謝の気持ちを表す手紙を書く。どんな親切を行い、行為ある態度を示してくれたのか回想し、その結果どんな好影響を自分の人生に与えてくれたのかも言及する。その人がいなければ今の自分がどう変わっていたのかについても考える。書いた手紙は本人に手渡しか送付か、そのままにする。
 7)痛い体験から意味を学ぶ
  精神的な痛みを伴う体験の後に訪れる自己成長のプロセス。逆境体験を一歩引いた視点での内省が必要
  レジリエンス・ストーリーを作る
   1 被害者でなく、再起した者の立場で物語を形成する。被害者的に物語っては行けない。
   2 精神的な落ち込みから抜け出したきっかけは何かを回想する。 
   3 ゼロの状態からいかにして這い上がってきたのかに着目する。どのようなレジリエンンスマッスルを使用したのか書いていく
   4 書いた物語を眺め、これらの体験にはどのような意味があったのか、自分に対してのどんなメッセージが隠されているのかを高い位置から探求する作業をする。
   Qこれらの経験から何を学んだか? Qこれらの経験は、その後にどんな意味を持っていたのか? 
   Q俯瞰することで何か共通している者や大きな流れが見えるか?を考える

【実施日】
2014年7月9日(水)

帯状疱疹のリスクファクター定量化(population based case-control study)

―文献名―
Harriet J Forbes,et al:Quantification of risk factors for herpes zoster: population based case-control study.BMJ  2014; 348 doi

―要約―
【Objectives】
年齢別でのherpes zosterに対するリスクファクターの定量化を行うこと。

【Design】
case-control study

【Participants】
2000年~2011年の間に帯状疱疹の診断に至った114,959人の成人と年齢、性別、診療を症例対照させた549,336人の成人。

【Main outcome measures】
帯状疱疹の潜在的なリスクの大きさを見積もり、年齢ごとで補正した調整オッズ比を用いるために条件付きロジスティック回帰を用いた。

【Results】
ケースと対照群の年齢中央値は62歳であった。
帯状疱疹のリスク上昇と関連した因子は、
 関節リウマチ  (3111 (2.1%) v 8029 (1.5%); adjusted odds ratio 1.46, 99%信頼区間 1.38 to 1.55), 
 炎症性腸疾患   (1851 (1.3%) v 5118 (0.9%); 1.36, 1.26 to 1.46), 
 COPD      (6815 (4.7%) v 20 201 (3.7%); 1.32, 1.27 to 1.37), 
 気管支喘息  (10 243 (7.1%) v 31 865 (5.8%); 1.21, 1.17 to 1.25), 
 CKD      (8724 (6.0%) v 29 437 (5.4%); 1.14, 1.09 to 1.18)
 うつ病     (6830 (4.7%) v 22 052 (4.0%); 1.15, 1.10 to 1.20)
 1型糖尿病(2型ではなく) (adjusted odds ratio 1.27, 1.07 to 1.50).
多くのリスクファクターで若年者のほうが効果が大きかった。
重症な免疫抑制状態にいる患者においては最もリスクが大きかった。
 リンパ腫   (adjusted odds ratio 3.90, 3.21 to 4.74)
 骨髄腫    (2.16, 1.84 to 2.53)

【Conclusions】
患者の状態と帯状疱疹のリスクは関連していることが分かった。一般的に若年者においてリスクの上昇幅が大きかった。帯状疱疹の最も高いリスクファクターを有している集団に対しては現在ワクチンは禁忌となっている。しかし、これらの集団へのリスク低減の方略は重要課題である。

【実施日】
2014年7月9日(水)

チームと心理的安全

―文献名―
エイミー・C・エドモンドソン.野津智子 訳.「チームが機能するとはどういうことか」.150-194.英治出版.2014.

―要約―
■2003年,アメリカで「コロンビア号の悲劇」と呼ばれる事件が発生した.NASAが打ち上げたシャトルが大気圏に再突入する際に燃え上がり,7人の宇宙飛行士が命を落とした.この件について,エンジニアは打ち上げ前にシャトルの欠陥について懸念を示したが,事故は起こってしまった.これは,チームが機能しなかった例である.ここで特に問題となったのか,チームに心理的安全に関する問題があったことである.

■心理的に安全な環境では,何かミスをしても,そのために他の人から罰せられたり,評価を下げられたりすることはないと思える.手助けや情報を求めても,不快に思われたり恥をかかされたりすることはない,とも思える.そうした信念は,人々が互いに信頼し,尊敬し合っているときに生まれ,それによって,このチームでははっきり意見を言ってもばつの悪い思いをさせられたり拒否されたり罰せられたりすることはないという確信が生まれる.

■病院をはじめリスクの高い組織を広く研究して明らかになったのは,ルールと必要な手順があるだけでは,心理的安全に欠けているために発見も修正をされない間違いが完全になくなることはないということである.それは,人々が故意にルールを破るからではない.私たちが微妙な方法で不確実性を理解したり,職場で互いのことを見たりしているからなのである.

■職場で直面する4つのイメージリスクの不安によって,積極的に意見を言うかどうかが強力に左右される.それは,1.無知だと思われる不安,2.無能だと思われる不安,3.ネガティブだと思われる不安,4.邪魔をする人だと思われる不安,である.

■心理的安全は従業員一人ひとりの性質ではなく単一体としてのチームを特徴づける.ミスについて話し合ったときに理解や関心が示された経験を共有していれば,何か失敗しても冷笑やあざけりを受けることはないと人々は思うだろう.心理的安全は個人の性格の違いによるものではなく,むしろリーダーが生み出すことができるし,生み出す努力をすべき職場の特徴によって生じるということなのである.

■職場での心理的安全によって7つの明確なメリットがもたらされる.それは,1.率直に話すことが促される,2.考えが明晰になる,3.意義ある対立が後押しされる,4.失敗が緩和される,5.イノベーションが促される,6.成功という目標を追求する上での障害が取り除かれる,7.責任が向上する,である.

■パフォーマンスについて強いプレッシャーを与えることが優れた結果を確実に生む最良の方法だという誤った,しかし善意から生まれることの多い信念に従うマネージャーは,従業員が不安のあまり、アイデアを提案したり,新しいプロセスを試したり,支援を求めたりできない環境を,知らぬ間に生み出してしまっている.仕事が明確でかつ個人プレーであるなら,このやり方でもうまくいく.しかし不確実性や共同する必要性がある場合には,生み出されるものは成功ではなく不安である.

■グループや部署内での地位が低い人は一般に,高い人に比べてあまり心理的に安全だと思っていないことが,研究によって明らかになっている.その結果,地位の低い人は,よくわからないことがあるときや,ミスをしたために非難されるのではないかと不安なときや,厄介な問題を言い出せないときや,自分のスキルが尊重されていない気がするときに,ほかの人に相談することが少なくなる.これらができるように計らうのがリーダーの務めであるが,リーダーはしばしばエンパワーメントを説くが,階級や地位の違いによって生まれる不安に気づいていないかもしれず,結果として,エンパワーメントのメッセージを心理的に安全な環境の中で確実に伝えるために十分には手を尽くせていない場合がある.そのつもりはなくとも,リーダーは自分の意見に対し,疑問を正直に口にすることよりもむしろ支持を求めることによって,意義ある反対意見を述べようと言う人々の意欲をそいでしまうことが少なくない.

■出来事に対するリーダーの反応によって,適切で安全な行動について他のメンバーが抱くイメージに影響が及ぼされる.チームリーダーがメンバーの支えとなり,助言を惜しみなく与え,疑問や挑戦に対して身構えなければ,このチームの環境は安全だとメンバーが感じる可能性が高くなる.逆に,リーダーが独裁主義者かすぐ罰を与えたがる人のように振る舞うと,他のメンバーの心理的安全が低くなり,結果として,メンバーは集団的な取り組みに力を尽くそうとしなくなってしまう.

■心理的安全は,経験の共有を通して育つ共通の感覚である.あらゆるレベルのリーダー,あらゆるタイプの組織のリーダーが,「問題があればいつでも話に来なさい」とか「私の部屋のドアはいつでもオープンです」などと言うだろう.しかし,多くの場合,具体性に欠けるそうした言葉では意義ある変化を起こすことは不可能だ.心理的に安全な環境は支持や指針やスローガンを使ったところで生み出すことはできない.心理的安全の高い仕事の仕方や状況を作るには,リーダーは行動しなければならないのである.

■リーダーは,メンバーを尊敬していることを,とりわけメンバーが持っている専門知識やスキルを認めることによって,はっきり伝えなければならない.対照的に,リーダーが独裁者のような態度をとったり,なかなか会えなかったり,自身の弱さを認められなかったりすると,メンバーはアイデアを共有したりミスを検証したりしたがらなくなってしまう.

■心理的安全を高めるリーダーシップ行動を挙げる.1.直接話のできる親しみやすい人になる.2.現在持っている知識の限界を認める.3.自分もよく間違うことを積極的に示す,4.参加を促す(意見を求める),5.失敗は学習する機会であることを強調する,6.具体的な言葉を使う,7.境界を設ける(どんな行動が非難に値するか明確にしておく),8.境界を超えたことについてメンバーに責任を負わせる.

【実施日】
2014年7月2日(水)

小児在宅医療の展開

―文献名―
「改訂2版 医療従事者と家族のための小児在宅医療支援マニュアル」MCメディカ出版 2010年  船戸正久、高田哲 編著

―要約―
推薦のことばより抜粋
子どもの本質は成長と発達にあるが,その基盤は家庭・社会の場における人間交流と生活・学習体験である.病院や施設で提供できるものには大きな限界があり,そのため入院生活を極力避けることが子ども医療の鉄則である(「病院における子どもに関するヨーロッパ憲章 第1項」,EC議会採択,1986).つまり在宅医療の推進は小児医療提供のあり方の原点とつながっている.

P15 表 病院(医療)と在宅(家庭)の利点と欠点

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これらのリスクとベネフィットをよく理解したうえで,在宅への移行を行うか否かの「自己決定」または「子供の最善の利益」に基づく家族の判断が重要となる.

 P24 小児の在宅医療
患者調査によると,小児(0~14歳)の通院・往診を含む外来受診数は全年齢の10.2%であるが、往診に限ると全年齢の1.7%に過ぎず、訪問診療に限ると全年齢の0.5%に過ぎない.
また、小児の在宅医療に関する医療機関側の認識は,71.4%がその供給体制は「不十分」であるが、約88%が「ニーズがある」と答えている.実際に小児の在宅医療を提供する医療機関がとっている連携については,「緊急入院に対応するための連携」(65.6%),「夜間・24時間診療体制を確保するための連携」(56.3%)が多く,在宅医療を行う医療機関の約6割が「小児のほうが成人に対する在宅医療より困難な点がある」と回答している.一方,患者側の認識は,一般の患者と比べて小児患者の「在宅療養できる」割合が78.1%と高く、「在宅療養できない」割合は7.5%とかなり低い.

P168 家族が望む援助より抜粋
私たちの望みは,たんの吸引等の「医療行為」が必要な子どもたちの「命」と「思い」を大切にしたサポートであり,どんな障害があっても地域の中で自立して当たり前に生活できる社会の実現である.

P191~ 在宅療養支援診療所の役割より抜粋
超重症児のうち,70%が在宅療養中であるが,訪問診療を受けている子どもはわずか7%,訪問看護を受けている子どもでも18%で,ホームヘルパーを利用しているのはわずか12%に過ぎない.また,全体の15%が,急性疾患で入院した後,そのまま入院を続けていると報告されている.

全国の11,928ヶ所の在宅療養支援診療所に小児在宅医療に関するアンケートを実施したところ,1409ヶ所からの回答があり,その中で19歳までの小児を在宅で診療したことのある診療所は367ヶ所で,26%であった.19歳までの小児を10人以上診療したことのある診療所は31ヶ所で,2.2%であった.まだまだ小児在宅医療が,在宅療養支援診療所の中で浸透していないのが現状といえる.

困難な問題を多く抱えた小児在宅医療だが,その困難さを超えて実施する意義は,どのようなものか.それは子どもが自宅で家族とともに生活することを実現するということに尽きる.多くのケースで,自宅で家族とともに生活するとき,子どもたちから,病院では見られない成長,発達の力が引き出され,家族は安定する.小児在宅医療が,病院の稼働率や,医療財政の面からのみでなく,第一義に子どもと家族のQOLの面から推進されるべきであると考える.

【開催日】
2014年7月2日(水)

マダニ刺咬症によるライム病の予防

―文献名―
橋本 喜夫, 宮本 健司, 飯塚 一.北海道のマダニ刺咬症とライム病:皮膚病診療:25(8); 926-929, 2003

―要約―
【対象】
1995-2000年に旭川医大および関連施設を受診した全てのマダニ刺咬症患者700名

【方法】
マダニに刺された患者の年齢・刺咬部位・刺咬推定場所・刺咬日付・治療や処置方法を記載
虫体と皮膚を別々に採取し6週間BSKⅡ培地で培養。6週間後にボレリアの有無を同定

【結果】
年間で700例。男女比 1:1.08, 年齢層 3ヶ月~89歳で9歳以下の小児と40-60歳台に好発
 罹患部位:頭頸部 34.8%, 体幹部 34.2%, 上肢 22.5%, 下肢 7.0%。9歳以下の小児は79.3%が頭頸部
 月別:5-7月に多い。特に6月は44.3%
 マダニ虫体:シュルツェマダニ 82.8%
 地理的特徴:シュルツェマダニ(ライン病発症多い) …道央~道北, ヤマトマダニ(ライム病発症少ない)…道南
 レリア陽性:シュルツェマダニ 12.2%, ヤマトマダニ 8.7%
 ライム病発症:700例中56例(8%):Ⅰ期 94.6%, Ⅱ期 3.6%, Ⅲ期 1.8%
 受診までの期間:ライム病発症群 平均20日, ライム病非発症群 平均4日
 処置:マダニ自己抜去群 ライム病発症率 16.1%(53/330)
     マダニ非自己抜去群 ライム病発生率 0.81%(3/370)
    ⇒自己抜去群の非自己抜去群に対するライム病発症の相対危険度 19.81

【考察】
医療圏の人口を50万として試算すると罹患率は1.86。
米国では平均4.0-6.7。発生が多い地域では30を超える。オーストラリアでは300
山野に入る人が増えた・森林再開発でマダニが住宅近くの草木の葉に住み着くことが増えた・皮膚科医のマダニ媒介感染症への関心が高まった、などが増加した原因か。

ダニに刺されたら自己抜去せずに早期に皮膚科専門医のいる医療機関を受診する。

【開催日】
2014年6月18日(水)

ヘルスメンテナンスは必要か?

―文献名―
Lasse T Krogsbøll, Karsten Juhl Jørgensen, Christian Grønhøj Larsen et al.General health checks in adults for reducing morbidity and mortality from disease: Cochrane systematic review and meta-analysis.BMJ 2012;345:e7191

―この文献を選んだ背景―
2014年6月のBMJの、「Effect of screening and lifestyle counselling on incidence of ischaemic heart disease in general population: Inter99 randomized trial」という研究では、「一般市民に対する基本的なカウンセリングや生活指導は、心血管イベントの予防において何の効果もなかった」と結論づけられた。家庭医は、風邪で来院した患者にも、禁煙の取り組みをすすめたり、高血圧のスクリーニングを行なったりして生活介入する場面が多いが、こうした行為自体の意義を考える時期に来ているかもしれない。今回、血圧測定や血液検査といった、スクリーニングについて否定的な見解を示すコクラン・システマティック・レビューを把握し、改めてヘルスメンテナンス、健康増進について深める機会にしたいと考えたため。

―要約―
【目的】
主に、代理アウトカムよりも、合併症発症率や死亡率に注目して、一般的な成人に対する健康チェック(table3参照:血圧測定、血液検査、心電図検査など)の効果と弊害を評価する。
PICO
P:高齢者を除く成人(特に病気やリスク要因で選別していない)
I:健康チェックした群
C:健康チェックしなかった群
O:死亡率、合併症で違いがあるか

【方法】
・デザイン
 コクラン・システマティック・レビューとメタアナリシスである。死亡率については、変量効果モデルを用いて解析し、他のアウトカムについては、質的統合を行なった。
・データベース
MEDLINE EMBASE CENTRAL、CINAHL, EPOC register, ClinicalTrials.gov, and WHO ICTRP, supplemented by manual searches of reference lists of included studies, citation tracking (Web of Knowledge), and contacts with trialists
・データ抽出
2人の観察者が独立して、適応、抽出されたデータ、バイアスリスクを評価した。必要時には著者にも連絡をとった。

【結果】
今回の研究に合致するスタディが16件あり14件が利用できるデータであった(182880人の参加)。9件の試験が総死亡率について分析しており、相対リスクは、0.99(95%CI 0.95−1.03)であった。8件の試験において、心血管イベントによる死亡率について分析されており、相対リスクは1.03(95%CI 0.91−1.17)であった。また、8件の試験において、癌死における死亡率が分析されており、相対リスクは1.01(95%CI 0.92−1.12)であった。サブグループ解析、感度分析を行なっても、この結果は変わらなかった。一般的な健康チェックで、死亡率、入院率、機能不全、患者の心配、他院受診、欠勤などにおいて、何の効果もなかった。ただ、全ての試験においてこれらのアウトカムには言及されてはいない。1件の試験では、健康チェックをした群では、6年以上の追跡の中で、コントロール群に比較して、新しい診断名が20%増加しており、慢性疾患の状態を自己報告する患者の数が増えた。また1件の試験では、健康チェック群では、コントロール群と比較し、高血圧と高脂血症の有病率が増えたとしている。

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【結論】
一般的な健康チェックは合併症を減少させず、総死亡、心血管イベントによる死亡、癌死においても死亡率を下げる事はなかった。ヘルスチェックによって新たな診断名のついた患者が増えた。重大で害のある結果については、研究されていない、または言及されていないことが多かった。

―考察とディスカッション―
自身のプラクティスとして、米国予防医学専門委員会(USPSTF)のスクリーニング項目を参考に、健康増進を考えることが多い。今回の論文では、ヘルスチェックをされた時期が1970年代であり時代遅れであったり、介入方法、アウトカム設定がバラバラでフォロー期間も短いという点から、現在とマッチしていない可能性もあり限界もある。ただ、全体として、ヘルスチェックを行った場合に、あまり効果がないという結果や、Inter99といった現代的な手法でも、心血管イベントに対して、予防的な意味がないという結果を受けて、比較的高い妥当性がありそうな、「禁煙」に力を注ぐだけでいいとも考えられた。高齢者を除いた成人のヘルスメンテナンス、皆様ならどう考えられますか?

【開催日】
2014年6月18日(水)