精神科・行動科学領域での事例の振り返りはレジデントに何をもたらすか

【文献名】
Cheri Bethune , Judith Belle Brown
Residents’ use of case-based reflection exercises.
Can Fam Physician Vol. 53, No. 3, March 2007, pp.470 – 476

【要約】
<OBJECTIVE>
Qualitative exploration of the experience of family practice residents in using semi structured case-based reflection exercises as a learning medium.

<DESIGN>
Qualitative study using in-depth interviews.

<SETTING>
Memorial University’s Family Medicine Residency Program in St John’s, Newfoundland.

<PARTICIPANTS>
Graduates of the residency program who had taken part in a pilot project that involved completion of case-based reflection exercises as a medium for enhancing learning.

<METHOD>
In-depth interviews were conducted with graduates who had used the reflection exercises during their postgraduate training. All participants were in active practice. All of the audiotaped interviews were transcribed verbatim. Thematic analysis continued until saturation was reached.

<MAIN FINDINGS>
Eight interviews were conducted that included 5 women and 3 men. Three themes emerged from the data analysis: effect on the learning process, effect on the patient-doctor relationship, and effect on the learner.

<CONCLUSION>
The experience of using the reflection exercises appeared to affect how family practice residents learned. Three major themes emerged: the reflection exercises as a continuing education process offered participants a strategy for future learning in practice; the exercises offered a different perspective on the patient-doctor interaction that had doctors looking forcues to deeper meaning; and the exercises engaged the learners in a reflective process that revealed qualities about themselves that gave them personal insight. These reflective strategies have relevance for all physicians in their attempts to incorporate new knowledge and understanding into their practices. Similar dimensions are articulated in the educational literature, and this study supports the usefulness of case-based reflection as a catalyst in the education of family physicians.

【開催日】
2011年2月9日

システム思考の実践のコツ

【文献名】
枝廣淳子・小田理一郎.もっと使いこなす!「システム思考」教本.東洋経済新報社.2010

【要約】
<この本の内容>
本書はシステム思考の実践・応用に主眼を置き、序章で視点の変化・メンタルモデルの修正の重要性、Ⅰ章でシステム思考のためのツールの紹介、Ⅱ~V章で個人や組織、事業戦略や社会に関するシステム思考の実践・応用の31事例を紹介している

<共有したい文章>*一部編集しています 
視座の高さ・視野の広さ (p2)
「見る視座によって見える範囲も見える要素も、そして関心ある事項がその周囲とどういった関係にあるかも、まったく違ったレベルで考えることができる」

今という時間の意味 (p5)
「今という時は、さまざまな物事の推移の交差点・・・現在は過去の様々な影響の終結する点であり、現在の行動は未来の様々な時点に影響を与える」

全体の視点で見る~全体最適 (p12)
「全体最適は概して望ましいのですが、全体主義に陥ってしまうことには気をつけなくてはいけません」

視点を変えるツールの特徴 (p23)
「全般に共通して、以下のような基本動作を含んでいます
  ● 現場を徹底的に観察する
    ●時間軸をのばす
    ●全般的な流れ、パターンを把握する
    ●自分の思考や行動を見える化する
    ●ゆっくりと考える
    ●見えていなかったものを探す
    ●前提を見つめ直す
    ●立場を変えて考える
    ●立場を超えて考える
    ●ゆらぎを起こす
    ●問いかける/探求する

学習する組織のための3つのコアコンピタンス (p37)
「1システム思考による複雑性の理解、2メンタルモデルを克服しダイアログを勧める共創的な会話、3志」

<共有したい事例>
Ⅱ-1 成功のための行動習慣が身につかない (p40)
「行動は構造・環境が作り出す。・・・行動を変えるのではなく環境を変える」

Ⅱ-7 仕事がなかなか終わらない (p61)
「システムを上手く動かすには、『自己組織化』『レジリアンス』『階層化』が重要」
「階層化の本来の目的は全体の貢献をなす下部組織の働きを効果的にすることだが、この目的は組織の上部と下部それぞれで忘れられてしまいがち」
「全体の目的に向けての調整と、それぞれの下部組織の自由度とのバランスをとることで階層化は機能する」
「また、時間の変化と共に環境変化の衝撃を吸収する能力(=レジリアンス)、適応して自らを進化させる能力(自己組織化)を兼ね備えたシステムづくりを心がけましょう」

Ⅲ-2 プロジェクトがどんどん遅れていく (p84)
「問題が発生してから生じるコストは、悪循環の他のさまざまな要素・関係者との調整をともない、とても大きなものとなります。事前の調整や段取りをしっかりすることで、はるかに少ない投資で問題が生じた際の大きなコストを回避することができる。」

Ⅲ-4 問題解決が新たな問題をつくる (p99)
「自分たちも問題構造の一部である」

Ⅳ-2 企業成長の罠 (p124)
「事業の成長よりも先に組織の能力を成長させねばならない。それができないのなら事業の成長を緩める。」
「『速いものが遅く、遅いものが速く』と、複雑なシステムの挙動は合理性を超えています。ジレンマの構造に気づき、自らを律して成長を緩めることができて初めて持続的な成長を実現できる。」

Ⅴ-2 対処しても野良犬だらけ (p156)
「潜在的な環境システムを変えない限り、問題への有効な策は打てない」

Ⅴ-4 U理論によるサステナブル・フード・ラボ (p162)
「いかに自分たちの思いこみや固定観念を捨てて変われるかが最大のチャレンジ」

V-5 目に見えない資本がものをいう (p166)
「経済開発では、自国の経済にある自己強化型ループを強めること、またそういった自己強化型ループを多重に埋め込むことが重要なポイント」
「測りにくいからといって重要でないということはなく、人的資本や社会資本など一見わかりにくいが重要な富の源泉となるものがあり、これらの富を将来に渡って枯渇させず、維持または増加させるマネジメントが重要」

【考察とディスカッション】
視点を変えるツールの共通の基本動作のリストは、実践のコツとして個人レベル、組織レベルで役に立つと思った。また、Bio-psycho-social Approachだけでなく、不確実性に耐えて扱う時もこのシステム思考は、家庭医にとって重要な熟達すべきスキルだと感た。

【開催日】
2011年5月18日

薬剤による疾病予防の真のコストの検討

【文献名】

Teppo Jarvinen and colleagues. The true cost of pharmacological disease prevention. BMJ 2011;342:d2175 doi: 10.1136/bmj.d2175

【要約】

ランダム化試験の結果と実際の現場における臨床上の意義との間には相違がある。このことは臨床疫学のパイオニア、Archie Cochraneにより明らかにされている。

<efficacy, effectiveness, cost-effectiveness>

あらゆるヘルスケアに関する介入を研究現実の世界に適用する前に要するエビデンスには序列(hierarcy)が存在する。(Table)

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3つのシンプルな質問がCochrane氏の考え方を分かりやすく示してくれる。
「役立ちそうか?(efficacy)」「実際に役立つか?(effectiveness)」「やる価値があるか?(cost-effectiveness)」。

<Efficacy と effectiveness>

effeicayに関するエビデンスはあるヘルスケアに関する介入が広く臨床現場に応用するのに適切かどうかを評価するプロセスの第一段階に過ぎない。研究の中ではその介入がうまくいったとしても、臨床現場においても同様にうまくいくとは限らない。ある介入のコミュニティにおけるeffectivenessは少なくとも介入を受ける人口、診断の正確さ、介入する側のコンプライアンス、患者のアドヒアランス、健康保険のカバーする範囲といった5つの要素によって影響を受ける。

<予防薬のeffectiveness>

大腿骨頚部骨折の予防に関するビスフォスフォネート製剤のエビデンスは非常に限定的である(fig1)。
Fig 1 Meta-analysis of the efficacy of bisphosphonates for preventing hip fracture based on data from randomised trials.

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12の研究が骨粗鬆症、まはた骨折の既往のある65歳から80歳の女性という限定された患者層において大腿骨頚部骨を折著明に減少させたことを示したが、頚部骨折に苦しむ典型的な患者は80歳以上でナーシングホームに入居している人であり、そういった人たちは含まれていない。
仮にビスフォスフォネート製剤により頚部骨折の発生が32%減少することができるとして(fig1)、50歳以上のすべての市民(2003年時186万人)にビスフォスフォネート製剤を服用させても343の骨折しか予防することができないのである。

<政策決定について>

いくつかのefficacyに関する研究を元に治療により50%の骨折のリスク軽減が得られるという楽観的な推定をしたとしたら、1年で1名の骨折を予防するために(頚部骨折の10年危険率を推定するHealth Organization fracture risk calculatorによる)3%危険群の667名に投薬を行わなければならない。これにはもっとも安価な薬剤で4万8千ドル、もっとも高価な薬剤で521万ドルかかる。大腿骨頚部骨折1例にかかるコストは2万7500ドルであり、多くの薬剤はジェネリック薬品でなければcost-effectivenessであるとは言えない。予防的介入が政府による補償とともに広く現場に応用される前の段階でcost-effectivenessに関するデータがあるかどうか明らかにする責任があるということを、ヘルスケアに関わるすべての人(医師、患者、患者団体、製薬会社、政府規制機関)は認識すべきである。


【開催日】

2011年5月11日

電子カルテにおけるDMコントロールサポートシステムの効果

【文献名】
Patric J. O’Connor et al. Impact of Electronic Health Record Clinical Decision Support on Diabetes Care: A Randomised Trial, Annals of Family Mdedicine, Vol.9, Jan/Feb 2011

【要約】
<目的>
成人の糖尿病患者におけるHbA1c、血圧、LDLのコントロールにおいて、電子カルテによるDMサポートシステムの効果を調べた

<論文のPECO>
P 11のクリニックにおいて了承を得た41人のプライマリケア医がみている2556人のDM患者
E 診察時に電子カルテに基づいた臨床サポートシステムを利用する(HbA1C推移と治療オプションなど示したメモをカルテに挟む)と
C 同システムを使わないのに比べ
O HbA1c、血圧、LDLのレベルが改善されるか

<結果>
HbA1cレベルはコントロールと比較して‐0.26%, (95%[CI]-0.06% to -0.47%)改善された。収縮期血圧はよりよいメンテナンスの割合だった(80.2% vs 75.1%,P=.03)が、拡張期血圧のメンテナンスの割合は境界域(85.6% vs 81.7%, P=.07)で、LDLのレベルは差を認めなかった。介入群の医者の94%が満足し、中等度の割合で介入終了後1年後もこのサポートシステムを使用していた。

<限界点>
ベースラインのDMコントロールが比較的よいグループで、臨床的な改善は極めて緩やかだった。より少ないインセンティブによる代わりの研究が必要。この介入における効果のメカニズムをより詳細に解明する必要がある。
 
【考察とディスカッション】
ある意味でAuditの効果を測定している研究だと思うが、(多少は)介入の効果があるということが分かった。このような質改善につなげられることが電子カルテを導入することの利点の一つと感じた。
 
以下全体でのディスカッション
デンマークは7割のクリニックにおいてGP用に開発された単一の電子カルテを利用。国を挙げて電子カルテにアラーム機能を持たせている。
 
【開催日】
2011年4月27日

気分・不安障害のスクリーニングにおける質問紙の有用性

【文献名】
Bradley N. Gaynes et al. Feasibility and Diagnostic Validity of theM-3 Checklist: A Brief, Self-Rated Screen for Depressive, Bipolar, Anxiety, and Post-Traumatic Stress Disorders in Primary Care. Ann Fam Med 2010;8:160-169.

【要約】
<背景>
気分障害・不安障害はプライマリ・ケアにおいてはもっとも頻度の高いメンタルヘルスの問題であるが、見過ごされていたり、きちんと治療されていない。スクリーニングのためのツールがこういったメンタルヘルスの問題の発見に貢献しうるが、取り扱う疾患の数が多いため利用可能なツールは限られている。

<セッティングと対象>
2007年7月から2008年2月までに米国の大学の家庭医療クリニックを受診した18歳以上の647名の患者

<デザイン>
横断研究

<方法>
利用したチェックリストはこちら
Mini International Neuropsychiatric Interview (MINI)を診断のスタンダードとして用いた。
クリニックを受診する患者を随時参入。待合室でチェックリストに記入していただいた。
診察後に医師と患者双方にチェックリストの実用性に関する質問紙への回答を頂いた。
受診後30日以内にリサーチアシスタントが患者に電話し、MINIを実施。

<主要なアウトカム>
M-3チェックリストの大うつ病性障害、双極性障害、何らかの不安障害、PTSDに対する感度と特異度。

<結果>
(1)診断に対する妥当性
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(2)実用性
患者が待合室でM-3チェックリストに回答するのにかかる時間は5分未満であり、うまく回答できないと回答したのは1%未満であった。83%の医師が30秒以内に記入されたチェックリストを確認することが出来、80%以上の医師が有用であると回答した。

<結論とディスカッション>
M-3チェックリストの測定特性は既存の単疾患スクリーニング用のツールと比較しても有用であり、かつ何らかの気分障害や不安障害の存在をスクリーニングするだけではなく、特定できる可能性もある。

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また既存の多疾患スクリーニングツールに加えて双極性障害とPTSDもスクリーニングの対象とすることができる。実用性についても本研究では問題はなかった。
Table3

【開催日】
2011年4月20日

アルブミンとCRPはPEG増設後の短期予後の予後予測に役立つ。(欧州の前向きコホート)

【文献名】
John Blomberg,et al.Albumin and C-reactive protein levels predict short-term mortality after percutaneous endoscopic gastrostomy in a prospective cohort study. Gastrointest Endosc. 2011 Jan;73(1):29-36. 

【要約】
<背景>
PEG増設は多くの合併症を伴う可能性がある手技である。合併症のリスクに関して患者に説明をするために、重要なリスクファクターは理解しておく必要がある。

<目的>
年齢、BMI、アルブミン、CRP、PEG造設の適応となった病態、併存症がPEG増設後の死亡率、もしくは胃瘻周囲の感染に与える影響を評価すること。

<デザイン>
2005年から2009年までの前向きコホート研究。PEG増設後の感染症に関しては14日間追跡死亡率は30日間

<セッティング>
大学病院
【対象】PEG造設に至った484人の患者(参照:characteristicsはTable.1)
【介入】PEG 
【主要アウトカム】①30日間の死亡率と②PEG挿入後14日間の胃瘻周囲の感染率。
【結果】
①30日間の死亡率
484人の患者のうち、58人(12%)が30日以内に死亡した。
以下の項目が死亡率増加と関連した。
アルブミン<30g/L(日本では3.0g/dlの表記が一般的、基準値>36g/L)(HR, 3.46; 95% CI, 1.75-6.88)
CRP≧10mg/L(日本では1.0mg/dlの表記が一般的、基準値<3mg/L)(HR, 3.47; 95% CI, 1.68-7.18) 年齢≧65歳(HR, 2.26; 95% CI, 1.20-4.25) BMI<18.5(HR, 2.04; 95% CI, 0.97-4.31) 低アルブミンとCRP高値の両方を認める患者は死亡率は20.5%、それらを認めない患者は2.6%で 7倍の調整死亡率の増加があった(HR, 7.45; 95% CI, 2.62-21.19) ②PEG挿入後14日間の胃瘻周囲の感染率 453人の患者を評価した。 年齢、BMI、アルブミン、CRPでは差がなかった。 適応疾患で、脳梗塞の患者で他の疾患患者より感染リスクが低かった。 併存疾患では差がなかった。 <Limitations> 若干のデータを採取ができていない。 胃瘻周囲の感染に関して、フォローアップできなかった患者の内訳は20人が死亡、 9人はフォローできず、2人はカテーテルを抜去してしまったためであるが、 それらの患者がよりCRPが高かったり、アルブミンが低いなどの問題を抱えていた可能性 もあるため、関連が薄い方向へ結果が導かれた可能性がある。 サンプルサイズが大きいにもかかわらず、弱い関連も見出すことができなかった。 <まとめ> 低アルブミンとCRP高値の両方を認める場合(ここが新奇性があるとのこと)には、PEG増設後の短期間での死亡率増加につながり、適応を決める際には考慮すべきである。 【考察とディスカッション】 患者やその家族にとって胃瘻を増設するということは、生物医学的にも、心理社会的にも大きな問題である。その際に、当然のことながら予後を念頭に入れてディスカッションする必要がある。このような予後予測因子についての具体的な研究を原著で確認できたことは有意義であった。しかし、本研究では追跡期間が30日間と短期である。調整すべき要因が多くはなるが、家庭医としては中長期予後の予測因子の研究も望まれるところである。 以下、全体でのディスカッション 低アルブミンとCRPの高値であった場合、PEGを造設するのかしないのか? 造設せずに他の栄養法を選択した場合、または栄養を取りやめた場合、PEGを造設した場合と比較してどうなるのか? 造設した場合このアウトカムを避けるために何かすべきなのか? など、実際の臨床の現場に適用するには難しい部分が多い研究である。 110518

【開催日】
2011年4月20日

在宅療養している認知症患者の介護家族から求められる、家庭医の役割とは?

【文献名】
 Schoenmakers B, Buntinx F, Delepeleire J.: What is the role of the general practitioner towards the family caregiver of community dwelling demented relative? Scandinavian Journal of  Primary Health Care 2009;27:31-40

【要約】
<目的>
①認知症患者の家族介護者に対する家庭医の態度と視点を明らかにすること
②介護者の満足度を記述すること
 
<研究デザイン>
システマティックレビュー
 
<対象>
認知症患者を抱える家族とその家庭医
 
<主要アウトカム>
①家族介護者の視点で在宅ケアを改善するために家庭医にとって必要な業務やスキル。
②家庭医が提供したケアに対する満足度。
 
<結果>
家庭医は認知症ケアのあらゆる側面について必要とされるスキルやその限界について認識していた。適切な診断の重要性も認識しているが患者や介護者に対して診断を開示することに不安感を感じており、認知症の診断の段階よりも治療の段階に対しては自信感を持っていた。
家庭医のそのような態度に対する介護者の回答はHelpfulからPoorly empathizedとまちまちであった。
家庭医は自分自身は認知症の在宅ケアによく関与していると認識していたが、介護者は不十分であると認識していた。家庭医のコミュニケーションスキルの拙さも介護者にとって低い評価につながっていた。
家庭医は十分な時間と報酬のなさが認知症ケアの大きな障害となっていると考えている。

【開催日】
2011年3月2日

高齢者の予後予測には歩行速度が有用かもしれない

【文献名】
 Gait Speed and Survival in Older Adults
Stephanie Studenski et al.  JAMA. 2011;305(1):50-58

【要約】
<目的>
①高齢者の歩行速度と予後の関係を評価すること
②年齢や性別を補正して歩行速度が予後の変動性を説明しうるのかを明らかにする
 
<研究デザイン、セッティング、対象者>
1986年から2000年の間に行われた9つのコホート研究を解析。
地域社会に暮らし、ベースラインの歩行速度が得られた65歳以上の高齢者34485人を6~21年(平均12.2年)フォローアップ下。対象者の平均年齢は73.5歳59.6%が女性、79.8%が白人(11.2%がアフリカ系アメリカ人、7.7%がヒスパニック)、平均の歩行速度が0.92m/sであった。
 
<主要アウトカム>
生存率と平均余命。
 
<結果>
17528名が研究期間中に亡くなった。全体の5年生存率は84.8%(CI 79.6%-88.8%)、10年生存率は59.7% (95% CI, 46.5%-70.6%)。すべての研究において歩行速度が生存率と関連性を示した(hazard ratio per 0.1m/s1は0.88。95%CI 0.87-0.90, p<0.001)。 歩行速度が0.1m/s増加するごとに生存率が上がる傾向がすべての歩行速度において見られた。75~84歳の男性では歩行速度が0.4m/s未満では10年生存率が15%、1.4m/s以上では50%。 女性においては35%~92%。 民族による層別化でも同様の傾向であったが、信頼区間は広くなる傾向にあった。 ベースラインの歩行速度ごとに余命を予測すると中央値は0.8m/sあたりであった。 年齢、性、歩行速度による予後予測は年齢、性別、移動補助具の使用、自己申告による機能評価を組み合わせたものや年齢、性別、慢性疾患、喫煙、血圧、BMI、入院歴を組み合わせた指標と同様に正確であった。   <限界> この観察研究では歩行速度と余命との因果関係はわからず、様々な形のHealthy volunteer biasの影響を受けている。9つのうち1つのみしか実際の臨床をベースにしておらず、研究への参加に同意できる進行した認知症患者はほとんどいない。身体の活動性と生命予後の関連は活動性の足底の仕方にばらつきが大きいため評価することはできない。今後はより臨床を基礎にした対象者において他の重要なアウトカム(障害など)について検討する必要が賀あるだろう。   <臨床への適用> 介護予防的介入に用いるのが適当であろう。ベースラインの歩行スピードを測定することにより高齢者の全体的な健康状態の特徴をつかめる。歩行速度を経時的にモニターしていくと、低下は評価を要する新しい問題の発生を示唆することになるだろう。歩行速度は手術や化学療法のリスク評価に用いることができるかもしれない。 【開催日】 2011年3月2日

国民皆保険、フリーアクセスという医療制度下においてもケアの継続性を保つことは「避けられる」入院を減らす

【文献名】
Shou-Hsia Cheng, et al. : A longitudinal examination of continuity of care and avoidable hospitalization. Evidence from universal coverage health care system. Arch Intern Med: 170(18): 1671-1677.
 
【要約】
<背景と目的>
台湾は1995年に皆保険制度を導入し、99%の国民が加入している。家庭医療科は23ある専門診療科の1つと位置づけられ、国民は自分の症状に合わせて自由に診療科を選び紹介状なしで受診することができる。国民1人あたりの受診頻度は15回/年と世界で最も高い国の一つであり、台湾国民の受療行動は「ドクターショッピング」と批判を受けることもある。このような環境は患者と医師のコミュニケーションや信頼関係やケアの継続性を損ないやすい。先行研究ではケアの継続性を高めることがERの受診を減らすこと、疾病の予防が進められること、入院を減らすこと、慢性疾患のコントロールが改善すること、ICUの利用が減ることが示されているが「避けられる入院」については研究されていない。一方で「避けられる入院」とプライマリ・ケアとの関連は研究されているが、ケアの継続性との関連を研究したものは少なく、十分な結果は得られていない。この研究では台湾の医療環境におけるケアの継続性の「避けられる入院」に対する影響を知ることを目的としている。

<方法>
2000年1月1日から2006年12月31日の期間、健康保険への請求データから医療サービスの利用状況を調査した。この期間に3名以上の医師を利用した30830人の患者がランダムに選択され、3つの年齢層に分けて解析した。主要アウトカムは避けられる入院と全ての入院とした。年齢、性別、低所得かどうか、ベースラインの健康状態、time effect、random subject effectを調整するためにrandom intercept logistic regression modelを利用した。
ケアの継続性の指標はContinuity of care index (COCI)を用いた。
COCIは患者がかかった医師の数とそれぞれの医師に受診した数からなる式で示される。
COCI=(Σnj2-N)/N(N-1)(Σの下にj=1,上にM)
Nは医師に受診した総回数、njは1人の医師を受診した回数、jは医師の番号、Mは医師の数。
COCIは0-1の間の数値で表され、1に近いほどケアの継続性が高い、とされる。
COCI自身に本来的な意味はないため、この研究では対象となった患者のCOCI値の分布を元に0.00-0.16をlow、0.17-0.33をmedium、0.34-1.00をhighとした。
「避けられる入院」はIOM(institute of medicine)による定義を用いた。

<結果>
3つ全ての年齢層においてCOCIが高ければ避けられる入院が発生する可能性は低かった。
全ての入院においても同様であった。

Table3 より抜粋 避けられる入院とCOCIの関連
 
110316_1

Table4 より抜粋 入院全体とCOCIの関連
 
110316_2

<結論>
フリーアクセス(この論文ではeasy access to careと記載)の環境下においてもケアの継続性を良好に保つことは避けられる入院、入院全体を減らすことにつながる。ケアの継続性を改善することが皆保険制度の中に置いても有効な戦略といえる。
 
【考察・ディスカッション】
台湾と同様に皆保険制度・フリーアクセスのシステムを取る日本においても、ケアの継続性(COCI)を高く保つ(多診療科受診を控えること、と言いかえてもいいだろうか)ことは避けられる入院、入院数全体を減らすことにつながる、と言え、日本の医療費高騰の解決策の一つとして家庭医療科の設置が有力であることのエビデンスになるのではないだろうか?
この研究の限界は自費診療を含んでいないこと(非常に少なくはあるが),患者の教育レベルなどの情報を加味して調整していないこと、結果を家庭医からの紹介を原則とする国には適用しにくいことであろう。
 
【開催日】
2011年3月16日

妊娠期間中の鉄、葉酸の補充が、子供の知能と運動機能に与える影響について

【文献名】
Parul Christian,DrPH  et al. Prenatal Micronutrient Supplementation and intellectual and Motor Function in Early School-aged Children in Nepal. JAMA:Vol 304,No24 2716, 2010.
 
【要約】
背景
鉄と亜鉛は知能と運動能力の発達に重要である。鉄と亜鉛を妊娠期間中の中枢神経が発達する重要な時期に補うことが、子供の後の機能に影響するかどうかを調査した研究はほとんどない。
 
目的
妊娠中に微量元素のサプリメントを行った母親の子供の知能と運動能力を調査する。
 
研究デザイン, 背景, 対象
ネパールの地方において、1999年から2001年までの間に出生前に各微量元素のサプリメントを与えられた5グループのうち4グループの女性から生まれた、676人の7~9歳の子供達を2007年6月から2009年4月までコホート研究により追跡調査した。サプリメントを与えたグループはコミュニティに基づき、二重盲検、ランダム化比較試験が行われている。研究対象の子供達は、後に行われた就学前の鉄と亜鉛の補充試験でのプラセボグループの子供達である。
 
介入
追跡調査される子供の母親は、鉄と葉酸、鉄と葉酸と亜鉛、鉄と亜鉛と葉酸に加え11の他の微量元素を含むマルチビタミンを、すべてビタミンAとともに与えられる群と、ビタミンA のみ与えられる対照群とにランダムに割り当てられ、妊娠早期から出産後3ヶ月まで毎日、各々のサプリメントを与えられた。これらの子供達は半年毎のビタミンAの補充以外、他の微量元素のサプリメントは受けていなかった。
 
結果測定方法
子供達の知能を測定するために the Universal Nonverbal Intelligence Test (UNIT)を用い、実行機能を測定するために go/no-go test, the Stroop test, and backward digit spanを行った。また 運動機能を測定するために the Movement Assessment Battery for Children (MABC) と finger-tapping testを用いた。
 
結果
鉄と葉酸が与えられた群ではコントロールに比較し、結果の違いが著明に出たが、その他のサプリメントグループでは違いはなかった。
鉄/葉酸群のUNITテスト平均点数は51.7(SD,8.5)であり、対照群では48.2(SD, 10.2)、交絡因子調整後の平均値の違いは2.38であった。 (95% CI, 0.06-4.70; P = .04) 対照群と鉄/葉酸/亜鉛群(0.73; 95% CI, −0.95 to 2.42)、マルチ微量元素群(1.00; 95% CI, −0.55 to 2.56)では差は明らかではなかった。
実行能力のテストでは、鉄/葉酸群の点数は対照群に比べ、Stroop test (失敗した人達における平均の差, −0.14; 95% CI, −0.23 to −0.04)とbackward digit span (平均の差, 0.36; 95% CI, 0.01-0.71)では良かったが、go/no-go testでは差はなかった。
MABC スコアは鉄/葉酸群は対照に比較し低かった(良かった)が、交絡因子調整後は有意ではなかった(平均の差, −1.47; 95% CI, −3.06 to 0.12; P = .07)。Finger-tappingテストでは鉄/葉酸群では点数が高かった(平均の差, 2.05; 95% CI, 0.87-3.24; P = .001)。
 
結論
鉄欠乏が蔓延している地域において、妊娠期間中の鉄+葉酸の補充は、出生した子供のワーキングメモリ、抑制のコントロールを含む知能の面、運動機能の面に、良い方向に関連している。
 
【考察・ディスカッション】
この研究の対象は、鉄の摂取不足が蔓延している地域の母親とその子供となっているが、食糧事情は悪くない日本においても、有用な情報となり得る。総務省統計局のホームページ、日本の統計2010によると、日本国民一人一日あたり食品群別栄養等摂取量にて摂取量自体は増加傾向にあるが、鉄分に関しては昭和50年の摂取量13.4mgであったのが、年々減少をみせ、平成18年では7.9mgとなっている。鉄の必要摂取量は閉経前の女性で12mg、妊婦では20mgとされている。つまり、現在の日本でも、妊婦における鉄不足は十分に考えられる状況である。この研究において、妊娠中の鉄+葉酸摂取が生まれてくる子供の知能、運動能力の発達に重要な役割を担っていることが示され、今後は栄養状態の乏しい国・地域への対策のみならず、飽食状態にあるわが国でも、意識的に栄養摂取を考える促しや、特に妊婦にはサプリメントの利用も積極的に勧めていくべきではないかと思われた。
 
【開催日】
2011年3月9日