難治性慢性副鼻腔炎に対するマクロライド長期療法 VS 鼻内視鏡手術 VS プラセボの治療成績を比べると?

-文献名-
C Philpott et al.The clinical effectiveness of clarithromycin versus endoscopic sinus surgery for adults with chronic rhinosinusitis with and without nasal polyps (MACRO): a pragmatic, multicentre, three-arm, randomised, placebo-controlled phase 4 trial. Lancet.2025;406(10506):926-939.

-要約-
1. Introduction
 慢性副鼻腔炎(Chronic Rhinosinusitis: CRS)は、成人の約9%が罹患していると推定される非常に一般的な慢性疾患である。副鼻腔炎の症状は単なる局所の不快感に留まらず、患者の健康関連QOLを著しく低下させる。先行研究において、重症CRS患者におけるQOLの低下度は、狭心症や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの深刻な慢性疾患と同等、あるいはそれ以上であることが報告されており、社会経済的な疾病負荷(disease burden)が極めて大きい。
 プライマリケアおよび耳鼻咽喉科における標準的な初期治療として、ガイドラインに準拠した内科的治療(局所ステロイド点鼻薬の長期的使用、および生理食塩水による鼻洗浄)が行われる。しかし、これらの適切な初期治療を尽くしてもなお症状が残存する「治療抵抗性」の患者が全体の約3分の1存在することが大きな臨床的課題であった。
 このような初期治療抵抗性例に対するセカンドラインとして、実臨床では主に以下の2つのアプローチが広く選択されてきた。
マクロライド系抗菌薬の少量長期投与:主にクラリスロマイシンなどが用いられ、抗菌作用に加えて抗炎症作用・免疫変調作用を期待して3ヶ月程度投与される。一定の改善を示す中等度のエビデンスはあるものの、プラセボとの厳密な比較や上乗せ効果の検証は不十分であった。
内視鏡下副鼻腔手術(Endoscopic Sinus Surgery: ESS):外科的に副鼻腔を開窓し、換気と排泄を改善させる。しかし、内科的治療と直接比較した高品質なランダム化比較試験(RCT)のデータが不足していたため、効果の確実性に疑問が残されていた。
これら2つの主要な治療選択肢(ESSとマクロライド長期投与)を直接比較(Head-to-Head)した高品質な試験は過去に存在しなかった。
 本研究(MACRO試験)は、適切な初期内科治療を行ったにもかかわらず症状が残存する成人CRS患者を対象に、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)とクラリスロマイシン長期少量投与の臨床的有効性および安全性を直接比較することを目的とした。

2. Method
2.1 試験デザイン
英国国内の17の医療機関(主として2次・3次医療機関の耳鼻咽喉科外来)において実施された、実用的(Pragmatic)、3群並行、多施設共同のランダム化比較試験(RCT)である。厳格に統制された実験環境ではなく、実臨床に即した環境下での有効性を評価する設計(プラグマティック・トライアル)が採用された。
2.2 対象患者
組み入れ基準:
18歳以上の成人。
ガイドラインに適合した適切な初期内科治療(局所ステロイド点鼻、鼻洗浄)を最低6週間以上継続しても症状が残存するCRS。
鼻副鼻腔症状評価質問票(SNOT-22)スコアが20点以上(中等症以上)。
CT検査においてLund-Mackayスコアが4点以上であり、客観的に副鼻腔病変が確認されている。
除外基準:
過去12ヶ月以内に3週間を超えるマクロライド系抗菌薬の使用歴がある。
過去6ヶ月以内に副鼻腔手術の既往がある。
コントロール不良の重症喘息、免疫不全症、マクロライドに対する禁忌(QT延長など)を有する。
2.3 介入内容(ランダム化と割り付け)
適格基準を満たした参加者は、ウェブベースのシステムを用いて1:1:1の割合で以下の3群にランダムに割り付けられた。全群において、ベースライン治療として「標準内科治療(モメタゾンなどの局所ステロイド点鼻薬および生理食塩水による鼻洗浄)」が継続して併用された。
ESS群(手術治療群):ランダム化から6週間以内に内視鏡下副鼻腔手術を実施。具体的な術式(前頭洞・上顎洞・篩骨洞の開窓など)の範囲は、担当外科医の臨床的判断に一任された。
CLAR群(抗菌薬治療群):クラリスロマイシンを計12週間投与。スケジュールは最初の2週間が250mgを1日2回、その後の10週間は250mgを1日1回(実臨床における標準的な少量長期投与プロトコル)。
PLA群(プラセボ対照群):クラリスロマイシンと外見・味が識別不能なプラセボを同様のスケジュールで12週間服用。
2.4 盲検化
CLAR群とPLA群の間は、患者および臨床医に対して厳密な二重盲検(Double-blind)された。一方、ESS群については、偽手術の実施が倫理的・実用的に困難であるため、非盲検(Open-label)デザインとされた。
2.5 評価項目と統計解析
主要評価項目(Primary Outcome)
ランダム化から6ヶ月時点におけるSNOT-22(Sino-Nasal Outcome Test-22)の合計スコア。SNOT-22はCRS特異的なQOL質問票であり、22の症状項目(鼻症状、睡眠、耳・顔面症状、心理的影響など)を各0点(問題なし)から5点(最悪)の6段階で評価する(総計0〜110点)。スコアが低いほどQOLが良好であることを示す。事前に設定された臨床的に意味のある最小の差(MCID: Minimal Clinically Important Difference)は8.9点である。
解析手法:
主要解析は、ITT解析が行われた。ベースラインのスコアや施設等を調整した線形混合モデルを用いて、各群間の平均差および95%信頼区間(CI)を算出した。

3. Results
3.1 対象患者のベースライン特性
計514名の患者がランダム化された(ESS群: 171名、CLAR群: 172名、PLA群: 171名)。参加者の全体的な背景データは各群間での背景因子の不均衡は認められなかった。

登録患者の80%が「鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)」であり、約4割に喘息の合併や手術既往があるなど、難治性かつ比較的重症度の高い集団を反映していた。
治療遵守率(アドヒアランス)に関して、CLAR群およびPLA群の約98%が予定されたプロトコル通りに投薬を完了した。ESS群においては、割り付けられた患者の87%が6ヶ月の追跡期間内に予定通り手術を完了した。

3.2 主要評価項目(6ヶ月時点のSNOT-22スコア)の結果
ランダム化から6ヶ月時点における各群のSNOT-22平均スコアおよび群間比較の結果は以下の通りであった。
プラセボ(PLA)群:46.8点
クラリスロマイシン(CLAR)群:42.8点
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)群:24.3点

主要な群間対比(調整後平均差):
クラリスロマイシン群 vs プラセボ群
調整後平均差は -3.11点(95%CI: -7.50 to 1.28、p=0.17)であった。この結果は統計学的な有意差を示さず、さらに臨床的意味のある差の基準(MCID: 8.9点)を大きく下回った。すなわち、標準的な内科治療にクラリスロマイシンを長期上乗せする効果は、プラセボを上乗せした場合と明確な差異がないことが実証された。
手術(ESS)群 vs クラリスロマイシン群
調整後平均差は -18.13点(95%CI: -22.50 to -13.76、p<0.0001)であった。統計学的に極めて高度な有意差が認められ、かつMCID(8.9点)の2倍を超える大幅なQOL改善効果が手術によってもたらされることが示された。 3.3 症状の時系列推移 追跡期間中の時系列評価において、ESS群では手術実施直後の「6週間時点」ですでにSNOT-22スコアの大幅な低下が認められ、その改善効果は3ヶ月後、6ヶ月後へと追跡が進むにつれてさらに拡大・維持された。一方で、CLAR群のスコア推移は、すべての評価時点(6週、3ヶ月、6ヶ月)においてPLA群の緩やかな改善軌跡とほぼ完全に一致しており、マクロライド投与による追加的な症状改善効果は確認されなかった。

4. Discussion
4.1 主要な知見の臨床的意義
MACRO試験の結果は、初期内科治療抵抗性の成人CRS患者に対する二次選択の標準化において、極めて重要な知見を提供する。適切な初期治療(ステロイド点鼻、鼻洗浄)を行っても症状が残る中等症以上の症例において、ESSによる外科的介入は早期かつ強固なQOL改善をもたらす。対照的に、これまで実臨床で広く行われてきたマクロライド抗菌薬のルーチンな少量長期投与は、プラセボを超える臨床的ベネフィットをもたらさないことが明らかになった。これは、漫然とした抗菌薬長期投与がもたらす耐性菌のリスクや、薬剤特有の副作用(消化器症状、QT延長リスク等)を鑑みると、その使用を強く制限すべき根拠となる。
4.2 本研究の限界(Limitations)
特定のサブグループにおける検出力不足:参加者の80%が鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎(CRSwNP)であった。
病態生理学的にマクロライドは好中球性炎症(非2型炎症)が主体とされる「鼻ポリープを伴わない慢性副鼻腔炎(CRSsNP)」に有効である可能性が従来指摘されていたが、本試験におけるCRSsNP患者は全体の20%に過ぎず、このサブグループにおいて効果を完全に否定・評価するための統計学的検出力が不足している可能性がある。
ESS群における非盲検化のバイアス:手術という介入の性質上、偽手術を行っていない。そのため、患者が「手術を受けた」という認識を持つことによる主観的なプラセボ効果、およびQOL質問票(SNOT-22)の回答における評価バイアスが結果を一定程度修飾している可能性は排除できない。
一般化の可能性(対象集団の選択バイアス):本試験は、英国の2次・3次医療機関(専門外来)に紹介された重症度の高い患者を対象としている。そのため、プライマリケア(診療所等)を初めて受診した軽症例や、初期治療がまだ十分に行われていないCRS患者に対して、最初からESSをファーストラインとして推奨する根拠とはならない。

5. Conclusion
適切な初期内科治療(ステロイド点鼻および鼻洗浄を最低6週間)を行っても症状が残存する成人慢性副鼻腔炎において、内視鏡下副鼻腔手術(ESS)はクラリスロマイシン長期投与およびプラセボに対して、劇的かつ明確に優れたQOL改善(SNOT-22スコアの改善)をもたらす。一方で、クラリスロマイシンの少量長期投与はプラセボに対する追加効果を示さなかった。治療抵抗性のCRSに対しては、漫然と抗菌薬投与を継続するのではなく、適切なタイミングで外科的治療(ESS)を提示・考慮することが、QOL向上と適切な抗菌薬適正使用の観点から強く推奨される。

【開催日】2026年6月10日