年齢別の甲状腺刺激ホルモンの参照は、ヨウ素過剰地域の高齢患者の甲状腺機能低下症の過剰診断を減少させる

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Yingchai Zhang, Yu Sun, Zhiwei He, Shuhang Xu, Chao Liu1, Yongze Li, Zhongyan Shan, Weiping Teng. Age‐specific thyrotropin references decrease over‐diagnosis of hypothyroidism in elderly patients in iodine‐excessive areas. Clinical Endocrinology. 2021;1–8.

-要約-
過去にも、JCで潜在性甲状腺機能低下症の文献が取り上げられている。
高齢者の潜在性甲状腺機能低下症(2017年) https://www.hcfm.jp/journal/?p=1318、レボチロキシンは80歳以上の潜在性甲状腺機能低下症のQOLを改善しない(2020年)https://www.hcfm.jp/journal/?p=1919 

目的:
過剰なヨウ素への急性または慢性の曝露は、甲状腺の生理機能に有害な影響を及ぼす。したがって、この研究は、過剰なヨウ素摂取に慢性的にさらされている地理的地域に居住する高齢者集団における顕性甲状腺機能低下症(OH)および潜在性甲状腺機能低下症(SCH)の有病率を決定し、寄与する危険因子を分析することを目的とした。

設計:
この横断的研究は、高ヨウ素摂取への慢性的な曝露を記録した江蘇省の地域で2016年から2017年に実施された。
対象者:
多段階の層化抽出法を使用して、2559人の成人参加者を登録した。

測定:
尿中ヨウ素濃度(UIC)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)レベル、およびその他の関連パラメーターを測定した(Table 1.ヨウ素過剰地域の研究参加者の特徴)。人口統計情報は、標準化された質問票を使用して記録された。年齢別のTSH参照は、米国臨床生化学会ガイドラインによって決定された(Table2.無病者の年齢別TSH参照, Table3. TIDE研究からのヨウ素が適切な地域の無病者の年齢別TSH参照, Figure1. 2つの異なる年齢層におけるTSH分布。点線:70歳以上の無病者。実線:70歳未満の無病の個人)。
単変量および多変量ロジスティック回帰分析を実行して、研究対象集団における甲状腺機能低下症の危険因子を特定した。

結果:
参加者のUICの中央値は307.3µg / L(四分位値:200.7、469.8 µg / L)だった。検査室の基準値を使用した70歳以上の被験者におけるOHの有病率は2.37%だった。ただし、年齢別の参照範囲を使用すると、1.78%に減少した。同様に、SCHの有病率も、年齢別の基準値を適用すると、29.59%から2.96%に大幅に低下した(Table 4.OHおよびSCHの有病率)。
単変量モデルと多変量モデルの両方で、甲状腺機能低下症の危険因子として、高齢、女性の性別、および高いUICが特定された(Table5. 甲状腺機能低下症の危険因子)。

限界:
まず、甲状腺疾患の病歴など、研究のいくつかのパラメーターは、長期の医療記録がない場合、参加者による想起バイアスの影響を受けている。第二に、食事中のヨウ素摂取量の推定では、食事中のヨウ素の重要な供給源でもある他の食品(卵など)を無視している。したがって、食事中のヨウ素摂取量を過小評価する可能性がある。第三に、この研究はヨウ素過剰地域で実施された。したがって、この研究集団から得られたTSH基準値は、生理学的に「正常」とは見なされない可能性がある。年齢別のTSH基準値は、ヨウ素が適切な領域の基準値よりも高く、甲状腺機能低下症の診断を過小評価している可能性がある。したがって、適切なヨウ素状態の領域での定期的なスクリーニングの基準範囲を決定することが最善である可能性がある。最後に、これは2016年から2017年までのデータが収集された横断研究だった。政府はその後2018年にこれらの地域の非ヨウ素化塩を承認したため、現在のシナリオは大幅に異なる可能性がある。私たちの知る限り、これらの地域での非ヨウ素添加塩の使用によってOHとSCHの有病率が変化したかどうかを調査した研究はまだない。したがって、これらのヨウ素過剰地域における非ヨウ素化塩法の影響を調査するために、5年間の追跡調査を開始する。

結論:
年齢別のTSH基準値を使用すると、研究対象集団におけるOHおよびSCHの有病率が大幅に低下し、不必要な過剰診断および過剰治療が防止された。

【開催日】
2022年2月2日(水)

安定した慢性心不全患者における利尿剤の休薬

-文献名-
Short term diuretic withdrawal in stable outpatients with mild heart failure and no fluid retention receiving optimal therapy Eur Heart J.2019;40(44):3605-3612

-要約-
【目的】
ループ利尿薬は心不全の治療に広く使用されているが,外来での利尿薬調整の指針となる最新のデータは少ない.
【方法】
ブラジルの11の心不全クリニックにおいて,安定した心不全外来患者に対する低用量フロセミドの休薬の安全性と忍容性を,前向き無作為化二重盲検プロトコールで検証した.
本試験では、2つの主要評価項目が盲検により評価された。(i) 4つの時期(ベースライン、15日目、45日目、90日目)で評価した視覚的アナログスケールによる呼吸困難スコアの曲線下面積(AUC)として定量化した症状評価、および (ii) 追跡期間中に利尿剤の再使用がなく維持される患者の割合.
188名の患者(女性25%、59±13歳、左室駆出率32±8%)を登録し、フロセミド休薬群(n=95)または維持群(n=93)に無作為に割り付けられた。
【結果】
第一の主要評価項目については、フロセミド休薬と継続投与の比較において、患者の呼吸困難の評価に有意差は認められなかった[AUC中央値1875(IQR383-3360)および1541(IQR474-3124)、それぞれ、P = 0.94]
第二の主要評価項目については、休薬群70人(75.3%)、維持群77人(83.7%)が、追跡期間中にフロセミドの再使用がなかった(休薬によるフロセミド追加使用のオッズ比1.69、95%信頼区間0.82-3.49、P = 0.16 )。心不全関連のイベント(入院、救急外来受診、死亡)は頻度が少なく、群間で差がなかった(P = 1.0)。
【結論】
利尿剤の休薬により、呼吸困難の自己認識やフロセミドの再使用の必要性が増加することはなかった。最適な薬物療法を受けている体液貯留の徴候のない安定した外来患者において、利尿剤の中止は検討に値すると思われる。

【limitation】
フロセミド中止による長期的な影響については不確実である。
呼吸困難VASを評価するために事前に定義されたサンプルサイズを達成できなかった。
比較的若いHF患者集団が登録されており、私たちの結果は非常に高齢者には当てはまらない可能性がある。

【開催日】
2022年1月12日(水)

血圧を下げると糖尿病の新規発症が予防できる!?

―文献名―
Milad Nazarzadeh, et al. Blood pressure lowering and risk of new-onset type 2 diabetes: an individual participant data meta-analysis. Lancet 2021; 398: 1803–10

―要約―
背景
血圧の低下は、糖尿病の微小血管および大血管合併症を予防するための確立された戦略であるが、糖尿病そのものの発症予防における役割ははっきりしていない。我々は、主要な無作為化対照試験の個人参加者データを用いて、血圧低下そのものの糖尿病発症への効果を報告した無作為化試験のメタアナリシスを検討することを目的とした。

方法
無作為化対照試験の大規模な個人参加者データを用い,データをプールして血圧低下自体が新規2型糖尿病のリスクに及ぼす影響を調べた。また,5つの主要な降圧薬の新規発症2型糖尿病リスクに対する効果の違いを調べるために,個人参加者データによるネットワークメタ分析を行った。全体として、1973年から2008年の間に実施された22件の試験のデータを、Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration(オックスフォード大学、英国・オックスフォード)が入手した。
・特定のクラスの降圧剤とプラセボまたは他のクラスの血圧降下剤を比較した一次予防および二次予防試験で、無作為に割り振られた各群で少なくとも1000人年の追跡調査が行われたすべての試験を対象とした。
・ベースライン時に糖尿病と診断された参加者、および糖尿病が蔓延している患者を対象とした試験は除外した。
・参加者は介入治療群と比較治療群に分けられた。プラセボ対照試験では、プラセボ群を比較対照とし、有効群を介入群とした。また、2種類以上の薬剤を比較したhead to head試験では、収縮期血圧の低下が大きい方を介入群とし、もう一方を比較群とした。
・メタ解析では、Kaplan Meier生存曲線を用いて、追跡期間中の生存確率を比較した。
・BMIによる効果の不均一性を評価するために、サブグループ分析を行った。尤度比検定を用いて、ベースライン時のBMIのサブグループ間における治療効果の不均一性を検証した。
・すべての試験からデータを取得できないことが取得バイアスにつながるかどうかを確認するために、funnel plotとEgger’s regression testを用いた。各試験のバイアスのリスクは,改訂版コクラン・リスクオブバイアス・ツールで評価し,以前の研究でも報告。
・調査結果の頑健性を確認するために,いくつかの感度分析と補足分析を行いました。各試験で報告された異なる糖尿病確認方法による層別解析を行い,確認方法の違いによる所見の一貫性を評価した。
・さらに、ランダム効果項を含み、複数レベルの潜在的交絡因子を調整した1ステージのCox比例ハザードモデルを報告した。絶対的なリスク減少は、治療効果を絶対的な尺度で示すために、IDリンクを用いたポアソン回帰モデルを用いて算出した。最後に、補完的な分析として、自然に無作為化された遺伝的変異を用いて血圧降下治療効果を模倣する独立した枠組みとして、メンデリアンランダム化による血圧降下効果を再評価しました
・1段階の個人参加者データのメタ解析では、層別Cox比例ハザードモデルを用い、個人参加者データのネットワークメタ解析では、ロジスティック回帰モデルを用いて、薬剤クラス比較の相対リスク(RR)を算出した。
結果
19の無作為化対照試験から得られた145,939人(男性88,500人[60-6%]、女性57,429人[39-4%])が、1段階の個人参加者データのメタ分析に含まれた。22試験が個人参加者データネットワークメタ分析に含まれた。中央値4~5年(IQR 2~0)の追跡調査の結果,9883人が新たに2型糖尿病と診断された。
・収縮期血圧を5mmHg下げることで、すべての試験で2型糖尿病のリスクが11%減少した(ハザード比0-89[95%CI 0-84-0-95])。
・主要な5種類の降圧薬の効果を検討した結果、プラセボと比較して、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(RR 0-84 [95% 0-76-0-93])とアンジオテンシンII受容体拮抗薬(RR 0-84 [0-76-0-92])は、新規発症の2型糖尿病のリスクを低減した。
・しかし、βブロッカー(RR 1-48 [1-27-1-72])とサイアザイド系利尿薬(RR 1-20 [1-07-1-35])の使用はこのリスクを増加させ、カルシウム拮抗薬(RR 1-02 [0-92-1-13])には重要な効果は認められなかった。

解釈
血圧の低下は,新規発症の2型糖尿病の予防に有効な戦略である。しかし、確立された薬理学的介入は、オフターゲット効果の違いにより、糖尿病に対する効果が質的にも量的にも異なっており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンII受容体拮抗薬が最も良好な結果を示した。このエビデンスは、糖尿病予防のために選択されたクラスの降圧剤の適応を支持するものであり、個人の臨床的な糖尿病リスクに応じた薬剤選択がさらに洗練される可能性がある。

ディスカッションより抜粋
・血圧の上昇が2型糖尿病の発症を引き起こす正確な生物学的経路は不明ですが、いくつかの潜在的なメカニズムが報告されています。例えば、インスリン抵抗性は、代謝経路と心血管経路のクロストークにおいて中心的な役割を果たしている可能性があります。また、交感神経系の活性化や内皮機能障害につながる慢性炎症など、その他の経路も高血圧と糖尿病リスクとの関連性が示唆されている。例えば、レニン・アンジオテンシン阻害薬は、血圧降下作用とは別に、炎症マーカーの濃度を低下させることが示されており、これが糖尿病予防効果を高める可能性がある。)
(www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳し、一部加筆)

【開催日】
2021年12月8日(水)

変形性膝・股関節症へのNSAIDs、オピオイド治療の有効性と安全性

―文献名―
Bruno R da Costa. Effectiveness and safety of non-steroidal anti-inflammatory drugs and opioid treatment for knee and hip osteoarthritis: network meta-analysis. BMJ 2021;375:n2321: published 12 October 2021.

―要約―
Introduction:
 変形性関節症は痛みにより、身体機能とQOLが低下し、全ての原因による死亡リスクが高まる。局所または経口NSAID、パラセタモール(アセトアミノフェン)、オピオイドが一次薬物療法となる。これまでのエビデンスでは、痛みと身体機能の改善がオピオイドとNSAIDで似通っている可能性を示唆しているが、オピオイドは多くの有害事象を引き起こす。オピオイドによる悪心・嘔吐、眠気などの副作用に加えて、慢性的な使用により骨折、心血管イベント、オピオイド依存、死亡リスクの増加と関連している。カナダでは2000年から2017年の間に、オピオイド関連の死亡率が593%増加した。にも関わらず、オピオイドは英国、米国、カナダ、オーストラリアで変形性関節症の痛みに対して最も処方されている薬の一つとなっている。
 以前のシステマティックレビューでは、変形性関節症の痛みに対するNSAIDとオピオイドの有効性が報告されている。一方、これまでのレビューでは、薬剤の有効量の中で最低用量を処方する、という推奨事項を実施するのに十分なエビデンスは得られていない。詳細なエビデンスを提示し、より安全な処方を可能にするために、膝と股関節の変形性関節症の痛みと身体機能に対するNSAIDs、オピオイド、パラセタモールの様々な製剤と用量の有効性と安全性を評価した。
Method:
システマティックレビューとメタアナリシスガイドラインの優先レポート項目に従い、膝または股関節の変形性関節症の患者の大規模ランダム化試験を検討した。NSAID、オピオイド、パラセタモール、またはプラセボ。膝または股関節以外の関節炎を含む試験は、患者の75%以上が膝または股関節の変形性関節症を確認した場合にのみ含まれた。

Results:
102 829人の参加者からなる192件の試験で、90種類の有効な製剤または用量が検討された(NSAIDでは68、オピオイドでは19、パラセタモールでは3)。5つの経口製剤(ジクロフェナク150 mg /日、エトリコキシブ60および90 mg /日、ロフェコキシブ25および50 mg /日)は、臨床的に関連する最小限の痛みの軽減よりも治療効果が大きくなる確率が99%以上だった。局所ジクロフェナク(70-81および140-160mg /日)の確率は92.3%以上であり、すべてのオピオイドは、臨床的に関連する最小限の痛みの軽減よりも治療効果が大きくなる確率が53%以下だった。経口NSAID、局所NSAID、およびオピオイドのそれぞれ18.5%、0%、83.3%は、有害事象による脱落のリスクが増加していた。経口NSAID、局所NSAID、およびオピオイドのそれぞれ29.8%、0%、および89.5%で、有害事象のリスクが増加した。

Discussion:
エトリコキシブ60mg /日とジクロフェナク150mg /日は、変形性関節症患者の痛みと機能に最も効果的な経口NSAIDであるよう。ただし、これらの治療法は、有害事象のリスクがわずかに増加するため、併存症のある患者や長期使用にはおそらく適切ではない。さらに、有害事象による脱落のリスクの増加は、ジクロフェナク150mg /日で多くみられた。局所ジクロフェナク70-81mg /日は、全身曝露の減少と低用量のため、効果的で、一般的に安全であり、変形性膝関節症の第一選択の薬理学的治療として考慮されるべきである。オピオイド治療の臨床的利点は、準備や投与量に関係なく、変形性関節症の患者に引き起こす可能性のある害を上回っていない。


Fig2:変形性関節症の痛みに対する治療効果の大きさに従って順序付けられた、経口プラセボと比較した有害事象による変形性関節症の痛みおよび脱落に対する治療効果。青:経口非ステロイド性抗炎症薬; 緑:局所非ステロイド性抗炎症薬; オレンジ:オピオイド。


Fig3:図2の続き。変形性関節症の痛みに対する治療効果の大きさに従って順序付けられた、経口プラセボと比較した有害事象による変形性関節症の痛みおよび脱落に対する治療効果。青:経口非ステロイド性抗炎症薬; 緑:局所非ステロイド性抗炎症薬; オレンジ:オピオイド; ピンク:パラセタモール; 黒:プラセボ。


Fig4:経口プラセボと比較して臨床的に重要な差異が最小である薬剤の確率と、有害事象のために参加者が治療を中断する確率を示す2次元グラフ。有害事象により経口プラセボが脱落する確率は5%。MID =グループ間の臨床的に重要な最小の差。

【開催日】
2021年12月1日(水)

パーキンソン病における緩和ケアとホスピスへの紹介ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.

―要約―

【Introduction】
パーキンソン病およびその関連疾患(PDRD)は、2番目に多い神経変性疾患であり、死亡原因の上位を占めている。しかし、PDRD患者が終末期の緩和ケア(ホスピス)を受ける機会は、他の神経疾患を含む疾患に比べて少ない。

米国では、ホスピスケアは余命6ヶ月の人に対する緩和ケアと定義されており、米国のメディケアのホスピス給付は、2人の医師によって予後6カ月以下と認定され、延命治療ではなく安楽に重点を置いた医療を選択した患者が対象となる。PDRDは主要な死因の一つであるにもかかわらず、PDRDに対する終末期緩和ケア/ホスピスのガイドラインは存在しない。関連する可能性のあるガイドラインとしては、認知症、ALS、成人の食欲不振などがある。(Table 1)

PDRD患者の死亡率に関連する要因はいくつか知られているが、全体的な「予後不良」の一般的な予測因子と、人生の最後の数週間または数ヶ月を示唆する特定の予測因子との区別はほとんどされていない。PDRDの死亡率の予測因子を特定することで、適切でタイムリーな紹介を増やすことができるかもしれない。
そこでホスピス/終末期緩和ケアの紹介に関する指針を得るために、PDRDの死因と死亡予測因子に関する文献を系統的にレビューする。

【Method】
MEDLINE、PubMed、EMBASE、CINAHLデータベース(1970-2020年)から、PDRDの死亡率、予後、死因に関連する診療記録、行政データ、調査回答から得られた患者レベル、医療者レベル、介護者レベルのデータを用いたオリジナルの定量的研究を検索した。PRISMAガイドラインに従って調査し、組み入れ基準を満たしているかどうかは2名の研究者によって独立して確認された。
主要評価項目は、PDRD患者の死亡率の全体的な定量的予測因子と死亡6ヵ月前の死亡率の予測因子とし、調査結果はパーキンソン財団の支援を受けたPDと緩和ケアに関する国際ワーキンググループによってレビューされた。

【Result】
1183の研究論文のうち、42の研究が組み入れ基準を満たした。(Figure 1)
PDRDの死亡率に関連する要因として、(1)人口統計学的および臨床的マーカー(年齢、性別、肥満度、併存疾患)、(2)運動機能障害および全身性障害、(3)転倒および感染症、(4)非運動症状の4つの主要な領域があることがわかった。(Table 2)

【Discussion】
今回のレビューに基づいて、終末期の緩和ケア/ホスピスを紹介するために終末期に差し掛かっている可能性のあるPDRD患者を特定することについて、医療従事者への提言を行う。(Table 3、和訳したものが下記)

PDRDに対するホスピスガイダンス:以下の3つの基準のうち1つを満たす
1. A、B、Cのいずれかの基準で示される進行した疾患の証拠を示す。
A. 前年の重篤な栄養障害:
十分な水分・カロリー摂取ができず脱水症状を起こしている、
またはBMIが18未満である、
または6ヶ月以上の体重減少が10%以上あり、人工栄養法を拒否している
B. 前年の生命を脅かす合併症:誤嚥性肺炎の再発、骨折を伴う転倒、敗血症の再発、ステージ3または4の褥瘡
C. ドーパミン作動薬への反応が悪い、または許容できない副作用のためにドーパミン作動薬では治療できず、セルフケア能力に著しい障害をもたらす運動症状がある。
2. 急激または加速する運動機能障害(歩行や平衡感覚を含む)、
または非運動性疾患の進行(重度の認知症、嚥下障害、膀胱機能障害、喘鳴(MSAの場合)を含む)があり、以下の障害を有する:ベッドや椅子に縛られた状態、意味不明の会話、ピューレ状の食事が必要、ADLに大きな支援が必要
3. 進行した認知症であり、以下に基づくホスピス紹介基準を満たしている。
メディケアの認知症基準、
Advanced Dementia Prognostic Toolの基準、
Minimum Data Set-Changes in Health, End-stage disease and Symptoms and Signs Scoreの基準

本レビューの強みは、緩和ケアと運動障害の専門家で構成された国際ワーキンググループの参加を含む、体系的なアプローチをとったことである。

研究の制限:
すべてのデータベースを検索対象とせず、英語以外の論文は除外した。
この分野で利用可能な知識をすべて提示するために、以下の理由から品質評価を実施しなかった。(1)この分野では限られたデータしか得られていないこと、(2)掲載基準を制限すると論文の数がさらに減ること、(3)厳密に除外すると著しい偏りのある特定の論文だけを掲載することになる可能性があること。

PDRD患者がタイムリーに緩和ケアやホスピスサービスを受けられるようにすることで残された生活の質を最大限に高めるという観点からは、今回の提言の有効性を判断するためにはさらなる研究が必要である。緩和ケアと疾病管理を統合的に行うことで、予後が短い患者に限らず、患者ができるだけ長く元気に暮らせるように両方のケアを行うことができるようになると考える。
PDRD患者が人生の最後の数ヶ月を迎える時期を特定することに焦点を当てた予後研究は限られている。この分野の研究と、PDRD患者への必要に応じた緩和ケアを支援する政策がさらに必要とされる。

【開催日】
2021年12月1日(水)

特発性肺線維症の早期診断におけるfine crackles

―文献名―
Onofre Moran-Mendoza, Thomas Ritchie, Sharina Aldhaheri. Fine crackles on chest auscultation in the early diagnosis of idiopathic pulmonary fibrosis: a prospective cohort study. BMJ Open Resp Res: first published as 10.1136/bmjresp-2020-000815 on 7 July 2021.

―要約―
Introduction:
特発性肺線維症(IPF)は、原因不明の間質性肺疾患(ILD)であり、通常60歳以上で発症し、予後は不良で、診断時からの生存期間の中央値は2~3年である。IPFは、原因不明の呼吸困難を伴うすべての成人患者で考慮されるべきであり、一般に咳、二基底性吸気性ラ音、ばち指を呈する。IPFの診断と治療の開始は2年以上遅れることがあり、その結果死亡率が高くなることが示されている。現在、ニンテダニブとピルフェニドンの2つの利用可能な抗線維化薬があり、これらは病気の進行を遅らせ、死亡率を低下させる可能性がある。IPFが疑われる患者を専門医に早期に紹介することで、早期の治療と予後の改善に繋がる可能性がある。
高解像度胸部CTは、ILDを診断するための最良の非侵襲的検査だが、スクリーニングとして使用するには費用がかかり、実用的ではない。胸部聴診によるfine cracklesは、現在、IPFを早期に診断するための唯一の現実的な手段であることが示唆されている。これまで、IPFの早期診断におけるfine cracklesの役割を評価した研究はない。
今回、IPFおよび他のILDの早期診断におけるfine cracklesの有用性を評価する目的で研究を行った。

Method:
カナダのオンタリオ州にあるキングストン健康科学センターのILDクリニックに紹介されたすべての患者の胸部聴診におけるクラックル音の存在と種類を前向きに評価した。この研究に含まれる患者は、IPFの事前診断がなく、一部の患者は無症候性であるか、呼吸機能検査で正常とされていた。ILDの最終診断が確立される前に、様々なレベルの経験を持つ臨床医が胸部聴診を行い、他の臨床医の評価と最終診断を知らされていない標準化されたデータ収集フォームにcracklesの存在と種類を記録した。
Cracklesの存在と種類は、各患者の最初とその後の来院時に、臨床医によって次のように記録された:(a) no crackles, (b) fine crackles, (c) coarse crackles, (d) fine cracklesとcoarse cracklesの両方。cracklesの識別は、診断(IPFと非IPF)、およびcracklesの識別に影響を与える可能性のある患者と臨床医の特性によって層別化された。

Results:
ILDクリニックに紹介された290名のILD患者を評価した。最初の所見では、IPF患者の93%と非IPFのILD患者の73%が聴診でfine cracklesを認めた。IPFの患者では、咳(86%)、呼吸困難(80%)、拡散能の低下(87%)、総肺活量の低下(57%)、強制肺活量の低下(50%)よりもfine cracklesが一般的だった。その後の来院時の診察では、最初にfine cracklesを認めた患者の90%で、同じタイプのcrackle音が確認された。重回帰分析では、fine cracklesの識別は、肺機能、症状、肺気腫、COPD、肥満、または臨床医の経験による影響を受けなかった。

Discussion:
本研究の結果、無症候性の患者や呼吸機能検査で正常だった患者を含む、ほとんどのIPF患者にfine cracklesが存在し、肺気腫、COPD、肥満の患者、または胸部聴診を行った臨床医の経験に関係なく、適切に識別できることが示された。胸部聴診のfine cracklesは、IPFや他のILD患者の早期診断と治療に繋がる可能性のある、高感度で堅牢なスクリーニングツールである。

【開催日】
2021年7月14日(水)

ビスフォスフォネート製剤中止のメリットとデメリット

―文献名―
Dennis M. Black 「Atypical Femur Fracture Risk versus Fragility Fracture Prevention with Bisphosphonates」 N Engl J Med 2020;383:743-53.

―要約―
Introduction:
ビスホスホネート製剤は,大腿骨近位部骨折および骨粗鬆症性骨折の減少に有効である.しかし非定型大腿骨骨折への懸念からビスホスホネート製剤の使用が大幅に減少しており,大腿骨近位部骨折の発生率が上昇している可能性がある.非定型大腿骨骨折と,ビスホスホネート製剤およびその他の危険因子との関連には重大な不確実性が残っている.

Method:
カイザーパーマネンテ南カリフォルニアの医療システムに加入しており,ビスホスホネート製剤の投与を受けている 50 歳以上の女性を研究対象とし,2007 年 1 月 1 日から 2017 年 11 月 30 日まで追跡した.主要転帰は非定型大腿骨骨折とした.ビスホスホネート製剤の使用を含む危険因子に関するデータは電子診療録から取得した.骨折は X 線写真で判定した.解析には多変量 Cox モデルを用いた.リスク・利益プロファイルは,関連する非定型骨折と予防されたその他の骨折とを比較する目的で,ビスホスホネート製剤の使用期間 1~10 年でモデル化した.

Results:
女性 196,129 人のあいだで,非定型大腿骨骨折は 277 件発生した.多変量補正後,非定型骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間に伴って上昇し,3 ヵ月未満の場合と比較したハザード比は,3 年以上 5 年未満で 8.86(95%信頼区間 [CI] 2.79~28.20)であり,8 年以上で 43.51(95% CI 13.70~138.15)まで上昇した.その他の危険因子には,人種(アジア人の白人に対するハザード比 4.84,95% CI 3.57~6.56),身長,体重,グルココルチコイドの使用などがあった.ビスホスホネート製剤の中止は,非定型骨折リスクの急速な低下と関連した.ビスホスホネート製剤の 1~10 年間の使用中の骨粗鬆症性骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は,白人では非定型骨折リスクの上昇をはるかに上回ったが,アジア人では白人ほど大きくは上回らなかった.白人では,使用開始後 3 年の時点で大腿骨近位部骨折は 149 件予防され,ビスホスホネート製剤に関連する非定型骨折は 2 件発生したのに対し,アジア人ではそれぞれ 91 件と 8 件であった.
非定型大腿骨骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間とともに上昇し,ビスホスホネート製剤の中止後速やかに低下した.アジア人は白人よりもリスクが高かった.非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,ビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続した.(カイザーパーマネンテほかから研究助成を受けた.)

Discussion:
第一に、治療を受けた大部分がアレンドロネート(アクトネル)であったため、他のビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブなど、他の薬剤や製剤に推論を広げることはできませんでした。第二に、ビスフォスフォネートの曝露を含む共変量の評価は、カイザーパーマネンテの会員期間に限定されているため、コホートに参加する前の会員期間が短い人のビスフォスフォネートの累積曝露量が過小評価されている可能性がある。第三に、今回のリスク・ベネフィットの比較は、骨折の数のみに基づいている。より完全な比較を行うには、コストに加えて関連する罹患率や死亡率を考慮する必要がある。非定型大腿骨骨折後の死亡率は、データは限られているが、股関節骨折後よりも低い。1~5年間の治療による骨折減少のモデルは、無作為化臨床試験による強力なエビデンスベースを持っているが、5年以上になるとエビデンスベースはより限定される。確認された大腿骨骨折の約16%については、X線写真が得られなかったか、判定に不十分であったため、非定型骨折の真の発生率が過小評価されている可能性がある。第四に、黒人の非定型大腿骨骨折は2件のみであり、この集団での推論を妨げるものであった。

【開催日】
2021年7月14日(水)

Testing rates in patients at high risk for primary aldosteronism (March 2021)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献―
Cohen JB, Cohen DL, Herman DS, Leppert JT, Byrd JB, Bhalla V. Testing for Primary Aldosteronism and Mineralocorticoid Receptor Antagonist Use Among U.S. Veterans : A Retrospective Cohort Study. Ann Intern Med. 2021 Mar;174(3):289-297. doi: 10.7326/M20-4873. Epub 2020 Dec 29. PMID: 33370170; PMCID: PMC7965294.

―要約―
Introduction:
原発性アルドステロン症は治療抵抗性高血圧の一般的な原因である。しかしカリフォルニア、イリノイ、およびニューヨークのヘルスシステムの研究からのエビデンスでは原発性アルドステロン症の検査率が推奨されている患者の間で3%未満と低いことが示唆されている。
しかし、同様の研究は大規模には行われておらず、大規模で高度に統合された医療システムで検査率が低いかどうかは不明である。明らかな治療抵抗性高血圧の発症と検査に関連する要因を有する米国退役軍人における原発性アルドステロン症の検査頻度を評価することを目的とした。また、テストがMRA療法による明らかな治療抵抗性高血圧のエビデンスに基づく治療及び長期血圧コントロールの違いと関連しているかどうかを評価しようとした。
Method:
 Design:レトロスペクティブコホート
 Date Source:米国退役軍人保健局(VHA) Corporate Date Warehouseの米国退役軍人保健局データを使用。このデータには約900万人の退役軍人に関する詳細な診断コード、検査結果、バイタルサイン、薬局の処方記録が含まれる。
Participants
2000年〜2017年に明らかな治療抵抗性高血圧(n=269,010)の退役軍人で、治療抵抗性高血圧とは3種類の降圧薬(利尿薬を含む)で治療中に少なくとも1ヶ月間隔で収縮期血圧が140mmHgもしくは拡張期血圧が90mmHg以上であること、もしくは4つのクラスの降圧薬を必要とする高血圧で定義される。
 除外:原発性アルドステロン症の検査を受けた、または明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前にMRA治療を開始した患者、および明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たす前に慢性腎臓病ステージ4または5または末期腎臓病を患った患者を除外した。
primary end point:血中アルドステロン濃度と血漿レニン活性まだは血漿レニン濃度のいずれかの同時測定として定義される、原発性アルドステロン症の検査の実施割合
secondary end point:MRA治療の開始とSBPの経時的変化

Results
明らかな治療抵抗性高血圧の基準を満たした後の、フォロー期間の中央値は3.3年で、4277人(1.6%)が原発性アルドステロン症の検査を受けた。(Figure1) Figure2の左の図は各VHA医療センター(n=130)で原発性アルドステロン症の検査を受けた治療抵抗性高血圧症の患者の割合を示している。検査率は全体の0~6%で明らかな治療抵抗性高血圧の患者数は医療センター全体の検査率との相関はなかった。Figure2の右の図は年ごとの検査率で検査率は年間1〜2%だった。
(Appendix Figure)原発性アルドステロン症の検査に関連する要因として、患者レベルでは低カリウム血症(standardized hazard ratio [HR], 1.93 [95% CI,1.80 to 2.07])、より高いSBP(standardized HR, 1.43 [CI,1.37 to 1.49])、を含むいくつかの要因が検査を受ける可能性が高い。また、腎臓内科医(HR,2.05[95%CI,1.66~2.52])または内分泌科医(HR,2.48[95%CI,1.69~3.63])による患者の問題を特定するための外来(index visit)はプライマリケアと比較して検査をする可能性が高いことに関連していた。センターレベルでは地方は非地方より検査をする可能性が低かった(HR, 0.53 [CI, 0.31 to 0.91])。
(table2)原発性アルドステロン症の検査を実施した場合は検査なしの場合と比較して、MRA療法を開始する可能性が4倍高く(HR 4.10[CI3.68~4.55])、低カリウム血症の病歴のある患者は低カリウム血症のない患者(HR, 4.21 [CI, 3.59 to 4.94])よりMRA(HR, 7.11 [CI, 6.25 to 8.10])で治療される可能性は高かった、そして、時間経過とともにより良い血圧コントロールと関連していた。
 Limitation:主に男性のコホートで後ろ向きデザイン、誤分類に対する診察室血圧の感受性の問題、および原発性アルドステロン症の確定検査の欠如などがlimitationである。
Conclusion:明らかな治療抵抗性高血圧を伴う退役軍人に関する全国的に施行したコホートでは原発性アルドステロン症の検査は稀であり、原発性アルドステロン症の検査はMRAによるエビデンス に基づく治療の割合が高いことと、長期的なBPコントロールが優れていることに関連していた。この発見は小規模な医療システムにおけるガイドライン推奨の実践への遵守が低いという以前の観察を補強し、治療抵抗性高血圧患者の管理を改善する緊急の必要性を強調している。

【開催日】
2021年7月7日(水)

COPD患者と在宅NPPV

―文献名―
Wilson ME, et al. Association of Home Noninvasive Positive Pressure Ventilation With Clinical Outcomes in Chronic Obstructive Pulmonary Disease: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA. 2020 Feb 4;323(5):455-465.

―要約―
Introduction
COPD患者の急性増悪時における高CO2血症・急性呼吸不全に対してのNIPPVの院内使用についてはエビデンスが確立している(COPD急性増悪による急性呼吸不全の患者において、院内NIPPVは、死亡率の低下、気管挿管の減少、入院期間の短縮、合併症の減少に関連していることがわかっている。)しかし、慢性COPDと高CO2血症における在宅NIPPVとその転帰との関連は不明である。
COPD および高CO2血症の患者において、bilevel positive airway pressure (BPAP)およびnoninvasive home mechanical ventilator (非侵襲的HMV)による在宅 NIPPV と臨床転帰および有害事象との関連を評価した。

※呼吸機器の定義に関しては、eTable2参照
BPAP装置は通常、圧換気を行うが、換気モードやモニタリング機能が追加されている場合がある。HMVは、Pressure control換気、Volume control換気などが可能であり、通常は気管切開した患者に使用されるが、NIPPVでも使用できる。BPAP装置と比較して、追加の換気モード、モニタリング、制御機能、および安全装置、アラーム、バックアップ電源の機能を備えている。

Method
1995年1月1日から2019年11月6日までに発表された英語の論文をMEDLINE、EMBASE、SCOPUS、Cochrane Central Registrar of Controlled Trials、Cochrane Database of Systematic Reviews、National Guideline Clearinghouse、Scopusで検索した。
在宅NIPPVを1か月以上使用した高CO2血症を伴うCOPDの成人を登録した無作為化臨床試験(RCT)および比較観察研究を対象とした。
データの抽出は独立した 2 人のレビュアーが行った。バイアスについてはRCT については Cochrane Collaboration の risk of bias tool を用いて評価し、非ランダム化研究については Newcastle-Ottawa Scale の選択項目を用いて評価した。
主要評価項目は、最長追跡期間における死亡率、全原因による入院、挿管の必要性、および QOL とした。副次評価項目は、呼吸器疾患による入院、救急外来受診、集中治療室(ICU)への入室、COPDの増悪、日常生活動作、呼吸困難、睡眠の質、運動耐容能、有害事象とした。

Results
21件のRCTと12件の観察研究の合計51085名の患者(平均年齢65.7歳、女性43%)が対象となった。
死亡者は434名、挿管を行った患者は27名であった。

BPAPと装置なしの比較

死亡リスクを有意に低下させた。
2.31% vs 28.57%、RD-5.53%[95%CI; -10.29%~-0.76%]、OR0.66 [95% CI; 0.51〜0.87]、P=0.003
全原因による入院患者を優位に減らした。
39.74% vs 75.00%、RD-35.26%[95% CI; -49.39%〜-21.12%]、OR0.22[95% CI; 0.11〜0.43]、P<0.001
挿管の必要性を優位に減らした。
5.34% vs 14.71%、RD-8.02%[95%CI; -14.77%〜-1.28%] OR0.34[95% CI; 0.14〜0.83]、P=0.02
QOLには有意な差は見られなかった。

非侵襲的HMVと装置なしの比較

死亡リスクに有意差はなかった。
21.84% vs 34.09%、RD-11.99%[95% CI; -24.77%~0.79%]、OR0.56[95% CI; 0.29-1.08]、 P=0.49

有害事象

NIPPVを使用した場合と装置を使用しない場合と比較して、有意差はなかった。重篤な副作用はほとんどなく、0.24/人で非重篤な副作用が出現、多くは皮膚症状(顔面発疹や鼻潰瘍)、眼症状、鼻症状だった。

Discussion
COPD と高CO2血症の患者を対象としたこのメタアナリシスでは、家庭用 BPAP は装置を使用しない場合と比較して、死亡率、全原因による入院、挿管のリスクを低下させたが、QOL には有意な差はなかった。非侵襲的HMVは装置を使用しない場合と比較して、入院リスクの低下と有意に関連していたが、死亡リスクには有意差がなかった。
しかし、エビデンスの質は低~中程度で、QOLに関するエビデンスは不十分であり、いくつかのアウトカムの分析は少数の研究に基づいていた。
装置の種類、設定、PaCO2減少に伴う調整方法などについては依然として不明。一部の研究では、より高強度のNIPPVや、追加のモードや機能を備えた装置で転帰の改善が確認されているが、装置のモードを比較した他の研究では転帰の違いは確認されていない。また、どのPaCO2閾値でNIPPVを開始すべきか、閾値が低くても臨床的に有意な効果があるかどうかも不明なままである。現在のガイドライン、推奨事項、実施方法は様々である。

※日本のガイドラインについては下図参照

NIPPVを受けた患者の顔面発疹や粘膜乾燥などの非重篤な有害事象の発生率は25%近くに及んだが、重篤な有害事象はまれであり、発生率はNIPPVを使用した群と使用していない群とで有意差はなかった。

【開催日】2021年6月9日(水)

急性心筋梗塞後の長期ベータブロッカー療法の継続期間(2020年12月)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献-
Long-term b-blocker therapy and clinical outcomes after acute myocardial infarction in patients without heart failure: nationwide cohort study
European Heart Journal (2020) 41, 3521–3529 doi:10.1093/eurheartj/ehaa376

-要約-
Aims
長期間のベータブロッカー療法とAMI後に心不全を起こしていない患者での臨床的アウトカムの関連を調査すること
Method
2010年〜2015年の間に退院時にベータブロッカー療法によるAMIの冠動脈血行再建術を受け、死亡、再発性MI、またはHFが1年間発生しなかった、合計28,970人の18歳以上の患者が韓国の全国医療機関の保険データから登録された。
Primary outcomeは全死因。
Secondary outcomeは再発性MI、新規HFによる入院、全死因による死亡・再発性MI・新規HFによる入院の各二次転機と複合アウトカム
Outcomes
アウトカムは指標MI後1年後のランドマーク分析を利用して1年以上のベータブロッカー療法(N=22707)と1年未満のベータブロッカー療法(N=6263)の結果を比較した。(Figure1)
フォローアップ期間の中央値は3.5年(2.2~5.0年)、1684人が死亡した。
1年未満のベータブロッカー療法を受けた患者と比較して、1年以上のベータブロッカー療法を受けている患者は、全死因による死亡リスク [調整済みハザード比(HR)0.81;95%CI0.72-0.91]および全死因による死亡、再発性MI、また新しいHFによる入院の複合アウトカム[調整済みハザード比(HR)0.82;95%CI 0.75-0.89]のリスクは優位に低かったが、再発性MIと新規HFによる入院のリスクは優位ではなかった。(table 2 Figure2)サブグループ解析でも1年以上のベータブロッカーの使用と全死因のリスクの関連は一貫していた。(Figure3)
Figure4ではそれぞれの地点でベータブロッカーを継続している患者と中断した患者を示している。継続的なベータブロッカー療法に関連する全死因のリスク低下 [調整済みハザード比(HR)0.86;95%CI 0.75-0.99]、再発性MIのリスク低下(調整済みHR 0.67; 95%CI 0.51–0.87; P = 0.003)は2年を超えて観察されたが、MI後3年を超えては観察されなかった。[調整済みハザード比(HR)0.87;95%CI 0.73-1.03]。全死因、再発性MI、新しいHFによる入院の複合リスクは3年以上持続するベータブロッカーによる加療を受けた患者で有意に低かった。(adjusted HR 0.85; 95% CI 0.74–0.98; P = 0.03) (table3,Figure4)
Discussion
 今回のコホート研究ではAMI後に心不全を起こさなかった1年以上のベータブロッカー療法をうけた患者が1年以下しか加療を受けなかった患者に対して、より低い全死因のリスクと関連があった。その有益な効果は様々のサブグループの中でも一貫していた。
 現在の結果にはいくつかのもっともらしい説明がある。
① HFなしに退院したAMIの多くの患者はフォローアップ中にMIの再発や再入院、HFによる死亡を経験している。それゆえに、二次予防としてベータブロッカーを続けることは退院の時にHFがない患者にとって有益であるかもしれない
② 血圧は長期でベータブロッカー治療を受けた患者の方が受けていない患者に比べてコントロールが良い可能性がある。血圧コントロールは冠動脈疾患がある患者のリスクを減らす重要な治療であり、厳格な血圧コントロールは冠動脈イベントリスクの高い患者にとって心血管イベントを改善する。
③ 血管内超音波試験からのプールされた分析では、ベータブロッカー療法は冠動脈疾患のある患者はアテローム量の減少に関連があることを示したので、冠動脈の動脈硬化の進展を遅らせる可能性がある。
Limitation
① この研究ではベータブロッカーを使う理由を特定できていない。長期間のベータブロッカー治療を受ける患者はフォローアップ中にベータブロッカーを中断した人たちに比べてベータブロッカー療法に耐えられているため、重度リスクのプロファイルが少ないかもしれない。潜在的なバイアスを乗り越えるために、我々はAMI後の早期ステージにベータブロッカー治療を始めた人々を除外した、そして、immortal time biasを回避するためにランドマーク解析を実施した。
② 記録されていない交絡因子によって引き起こされる潜在的な選択バイアスが存在する。例えば、我々はAMIのタイプの情報や欠陥造影による重症度、人体計測的・行動科学的要因などの情報は欠落していたし、請求に基づく疾病管理に関する情報は限られていた。
③ 左室機能障害に伴う情報はなかった。しかし、韓国におけるMIを経験した大部分の患者は左室駆出機能を保っていた。その上,駆出率の低い患者はベータブロッカー療法を受け、予後不良である可能性が高いためこのタイプのバイアスを我々の発見で説明する可能性は低い。
Conclusion
MI後の1年以上ベータブロッカー療法を受けたHFのないAMIの患者における全死因による死亡の減少と関連があった。しかし。AMI後のルーチンなベータブロッカー療法の適切な期間を決定するにはさらなる大規模なRCTが必要とされる。

【開催日】2021年3月3日(水)