パーキンソン病における緩和ケアとホスピスへの紹介ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Mar 31;92(6):629-636.

―要約―

【Introduction】
パーキンソン病およびその関連疾患(PDRD)は、2番目に多い神経変性疾患であり、死亡原因の上位を占めている。しかし、PDRD患者が終末期の緩和ケア(ホスピス)を受ける機会は、他の神経疾患を含む疾患に比べて少ない。

米国では、ホスピスケアは余命6ヶ月の人に対する緩和ケアと定義されており、米国のメディケアのホスピス給付は、2人の医師によって予後6カ月以下と認定され、延命治療ではなく安楽に重点を置いた医療を選択した患者が対象となる。PDRDは主要な死因の一つであるにもかかわらず、PDRDに対する終末期緩和ケア/ホスピスのガイドラインは存在しない。関連する可能性のあるガイドラインとしては、認知症、ALS、成人の食欲不振などがある。(Table 1)

PDRD患者の死亡率に関連する要因はいくつか知られているが、全体的な「予後不良」の一般的な予測因子と、人生の最後の数週間または数ヶ月を示唆する特定の予測因子との区別はほとんどされていない。PDRDの死亡率の予測因子を特定することで、適切でタイムリーな紹介を増やすことができるかもしれない。
そこでホスピス/終末期緩和ケアの紹介に関する指針を得るために、PDRDの死因と死亡予測因子に関する文献を系統的にレビューする。

【Method】
MEDLINE、PubMed、EMBASE、CINAHLデータベース(1970-2020年)から、PDRDの死亡率、予後、死因に関連する診療記録、行政データ、調査回答から得られた患者レベル、医療者レベル、介護者レベルのデータを用いたオリジナルの定量的研究を検索した。PRISMAガイドラインに従って調査し、組み入れ基準を満たしているかどうかは2名の研究者によって独立して確認された。
主要評価項目は、PDRD患者の死亡率の全体的な定量的予測因子と死亡6ヵ月前の死亡率の予測因子とし、調査結果はパーキンソン財団の支援を受けたPDと緩和ケアに関する国際ワーキンググループによってレビューされた。

【Result】
1183の研究論文のうち、42の研究が組み入れ基準を満たした。(Figure 1)
PDRDの死亡率に関連する要因として、(1)人口統計学的および臨床的マーカー(年齢、性別、肥満度、併存疾患)、(2)運動機能障害および全身性障害、(3)転倒および感染症、(4)非運動症状の4つの主要な領域があることがわかった。(Table 2)

【Discussion】
今回のレビューに基づいて、終末期の緩和ケア/ホスピスを紹介するために終末期に差し掛かっている可能性のあるPDRD患者を特定することについて、医療従事者への提言を行う。(Table 3、和訳したものが下記)

PDRDに対するホスピスガイダンス:以下の3つの基準のうち1つを満たす
1. A、B、Cのいずれかの基準で示される進行した疾患の証拠を示す。
A. 前年の重篤な栄養障害:
十分な水分・カロリー摂取ができず脱水症状を起こしている、
またはBMIが18未満である、
または6ヶ月以上の体重減少が10%以上あり、人工栄養法を拒否している
B. 前年の生命を脅かす合併症:誤嚥性肺炎の再発、骨折を伴う転倒、敗血症の再発、ステージ3または4の褥瘡
C. ドーパミン作動薬への反応が悪い、または許容できない副作用のためにドーパミン作動薬では治療できず、セルフケア能力に著しい障害をもたらす運動症状がある。
2. 急激または加速する運動機能障害(歩行や平衡感覚を含む)、
または非運動性疾患の進行(重度の認知症、嚥下障害、膀胱機能障害、喘鳴(MSAの場合)を含む)があり、以下の障害を有する:ベッドや椅子に縛られた状態、意味不明の会話、ピューレ状の食事が必要、ADLに大きな支援が必要
3. 進行した認知症であり、以下に基づくホスピス紹介基準を満たしている。
メディケアの認知症基準、
Advanced Dementia Prognostic Toolの基準、
Minimum Data Set-Changes in Health, End-stage disease and Symptoms and Signs Scoreの基準

本レビューの強みは、緩和ケアと運動障害の専門家で構成された国際ワーキンググループの参加を含む、体系的なアプローチをとったことである。

研究の制限:
すべてのデータベースを検索対象とせず、英語以外の論文は除外した。
この分野で利用可能な知識をすべて提示するために、以下の理由から品質評価を実施しなかった。(1)この分野では限られたデータしか得られていないこと、(2)掲載基準を制限すると論文の数がさらに減ること、(3)厳密に除外すると著しい偏りのある特定の論文だけを掲載することになる可能性があること。

PDRD患者がタイムリーに緩和ケアやホスピスサービスを受けられるようにすることで残された生活の質を最大限に高めるという観点からは、今回の提言の有効性を判断するためにはさらなる研究が必要である。緩和ケアと疾病管理を統合的に行うことで、予後が短い患者に限らず、患者ができるだけ長く元気に暮らせるように両方のケアを行うことができるようになると考える。
PDRD患者が人生の最後の数ヶ月を迎える時期を特定することに焦点を当てた予後研究は限られている。この分野の研究と、PDRD患者への必要に応じた緩和ケアを支援する政策がさらに必要とされる。

【開催日】
2021年12月1日(水)