糖尿病とうつ病に対する医療へのコンプライアンス向上を目指した統合マネジメント

【文献名】

Bogner HR, et al. Integrated Management of Type2 Diabetes Mellitus and Depression Treatment to Improve Medication Adherence: A Randomized Controlled Trial. Ann Fam Med. 2012;10(1):15-22.

【この文献を選んだ背景】

 日常診療でもうつ病とDMを併発するケースは時折遭遇し、相互に影響することで治療に難渋することが少なくない。今回、統合ケアをテーマに日常良く遭遇するDM/うつ病に取り組んだRCTということで、日常診療に活かせる印象が強いと同時に、今後取り組みたい臨床研究の枠組みとしても関心があったので選択した。

【要約】

<目的>
 うつ病は糖尿病と併発することが多く、内服治療へのコンプライアンスが低下し、罹患や死亡のリスクも上昇する。この研究では、うつ病と2型糖尿病に対する単純で簡潔な統合アプローチによって、経口血糖降下薬や抗うつ薬へのコンプライアンス改善、更には、血糖コントロール改善、プライマリ・ケア患者におけるうつ病の改善がもたらされるかどうかを検証した。

<セッティング>
3つの家庭医療クリニック

<方法>
 プライマリ・ケアの現場で2型糖尿病とうつ病に対して薬物治療を実施している180名の患者に対し、2010年4月から2011年4月にかけてRCTを実施した。患者は統合ケア介入群と通常ケア群に無作為に割り付けられた。統合ケアマネジャーは主治医と協働して教育、ガイドラインに基づく治療推奨を提供し、それに対する順守状況や臨床状態をモニターした。コンプライアンスはMedication Event Monitoring System(MEMS)によって評価された。血糖コントロールはHbA1c、うつ病はPHQ-9(the 9-item Patient Health Questionnaire)で評価した。

<結果>
 統合ケア介入群と通常ケア群は基本情報では統計学的な相違はなかった。12週間経過した段階で、統合ケア介入群は通常ケア群と比較して、7%以下のHA1cレベルを有意に達成し(統合ケア群 60.9% vs 通常群 35.7%:p<0.001)、うつ病の緩解率も有意に改善した(PHQ-9<5の群:統合ケア群 58.7% vs 通常ケア群 30.7%:p<0.001)

<結論>
 2型糖尿病とうつ病に対する単純で簡潔な統合ケア介入に対するRCTは、プライマリ・ケアにおけるアウトカム改善に対して問題なく適切に実施された。うつ病と2型糖尿病に対する統合ケアアプローチは、限られたリソースの配分に苦慮する現実世界の臨床において有効に利用されるだろう。

【考察とディスカッション】

・ 方法については追跡率も高く、ITT分析もされており、こうしたタイプの介入研究としては最大限の配慮ができていると考える。HCFMでの研究でも「家族志向型ケア」などを定義して、臨床研究する上で有効な枠組みである。

・ 結果は非常に明確で、薬物コンプライアンスの向上も合わせると、統合ケアが臨床上に有効であることを強く示唆するものとなっている。アウトカムも我々の日常診療と比較しても関連性が強く、適用しやすい。

・ 統合ケアモデルで示された30分×3回の専任担当者による面接、15分×2回の電話フォローアップをいかにして実現していくかがポイント。「生活習慣病指導管理料」によって得られた収入を当てればある程度現実的かもしれない。そのためには、対象者をうつ病罹患者以外にも拡大することが重要とはなるが。今後、診療報酬面でのサポートが重要であり、日本でも同様の研究を実施してデータを示したい。

・ 本日(2012年1月18日)では奇しくもうつ病と生活習慣病を抱えた患者に対する統合ケアという家庭医を特徴付けるアプローチに関する研究であった。以前取り扱った、患者-医師関係の深まり、今回の統合ケアとあわせて家庭医のとるアプローチに関するエビデンスが明らかになっていくことが期待される。

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【開催日】
2012年1月18日