風邪とプラセボ効果

―文献名―
Barrett B, Brown R, et al. Placebo Effects and the Common Cold: A Randomized Controlled Trial. Ann Fam Med 2011;312-322.

―この文献を選んだ背景―
 伝統的に使用されてきた対症療法薬の多くが症状の緩和や有病期間を短くする効果がないことが示されている。今回、米国で伝統的に使用されている対症療法薬Echinacea(Cochraneのシステマティックレビュー1)でプラセボと有意差がなかったことが示されている)をオープンラベルとしたときの効果を盲検化したときと比較した研究を小児の風邪に関する総説を執筆中に見つけ、結果が興味深かったので紹介する。
1)Linde K, Barrett B, Wölkart K, Bauer R, Melchart D. Echinacea for pre- venting and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(1):CD000530.

―要約―
【目的】
 オープンラベル化した薬剤をランダムに割り付けた場合、二重盲検化し実薬とプラセボに割り付けた場合、何も薬剤を処方しない場合の3者を比較した場合、風邪による症状の重さや期間が変わるかどうかを調べる。

【方法】
 新規発症の風邪患者でRCTを行った。参加者は4グループ(Figure1,(1)薬剤なし,(2)盲検化されたプラセボ,(3)盲検化されたechinacea(4)オープンラベルのechinacea)に割り付けられた。主要アウトカムは有病期間とarea-under-the-curve global severity、二次アウトカムは内服2日後の鼻腔洗浄液の好中球数とIL8レベルとした。

【結果】
 719の参加者のうち6名が離脱した。女性が64%,白人が88%、年齢は12歳から80歳。
○ 有病期間の平均
 7.03日(薬剤なし),6.87日(盲検化プラセボ),6.34(盲検化echinacea),6.76(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし
○ global severityスコアの平均
 286(薬剤なし),264(盲検化プラセボ),236(盲検化echinacea),258(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
  ※ 薬剤なしと盲検化したプラセボグループの比較
    有病期間 -0.16日(95%CI -0.90 − 0.58) severity -22ポイント(95%CI -70 − 26)
  ※ 盲検化echinaceaとオープンラベルechinaceaグループの比較
    有病期間 0.42日(95%CI -0.28 − 1.12) severity 22ポイント(95%CI -19 − 63)
○ IL8と好中球数の変化の中央値
 30pg/ml/1cell(薬剤なし),39pg/ml/1cell(盲検化プラセボ),58pg/ml/2cell(盲検化echinacea),
 70pg/ml/1cell(オープンラベルechinacea)。
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
○ 薬剤の服用時にechinaceaの有効性を高く見積もった(100点を「きわめて有効」とするスケールで50点以上をつけた)
 120の参加者において盲検化されたプラセボ群は薬剤なしの群と比較して有病期間は2.58日有意に短く(95%CI -4.47 − -0.68)、
 global sevirtyスコアの平均は26%低かった(−97,95%CI −249.8 – 55.8 有意差なし)。
 このサブグループにおいては盲検化echinacea群とオープンラベルのechinacea群で比較すると有病期間も重症度も違いはなかった。

【結論】
 薬剤なし群に割り付けられた群では有病期間が長くなり、症状が重くなる傾向があった(統計学的有意差はない)。
 Echinaceaの有効性を信じているサブグループで薬剤を与えられたグループでは有病期間が短くなり、症状が軽くなる傾向があった。
 これらの結果は、患者の治療に対する信念や感じ方が重要であり、医療における意志決定においては考慮されるべきであるという考え方を支持するものであった。

【開催日】
2015年10月7日(水)

アルツハイマー病の非薬物療法

【文献名】
山口智春,山口春保.アルツハイマー病の非薬物療法.日老医誌 2012;49:437-441

【要約】
 適切な薬物療法とともに、患者の抱える不安や喪失感を理解し、介護環境を知り、適切なリハやケアを提供し、家族介護者を指導し支えるといった、他職種で協働する非薬物療法が求められている。診察室での本人や家族への接し方など、主治医や家族介護者が本人に関わる行為の全てが非薬物療法であると包括的に捉える。脳活性化リハビリテーションの5原則はリハ・ケアばかりでなく診療にも活かせる。

八藤先生図

脳活性化リハビリテーションの5原則
● 快刺激
 ―快刺激により笑顔が生まれることで、脳内にドパミンが多量に放出され、学習意欲・やる気の向上につながる。スタッフ側も笑顔になることで、笑顔が笑顔を生み出す。また、快適な環境の設定も重要である。

● ほめる
 ―対象者をほめる・受容する。ほめられることは人間にとって最大の報酬であり、ドパミン神経系の賦活により、意欲向上につながる。他人をほめることも大切であり、自己効力感や尊厳を高める。

● コミュニケーション
 ―他者と楽しい時間と場を共有することで、安心感が生まれる。特に進行と共に困難となる社会交流については、それを踏まえた上で受容的に関わり、非言語的コミュニケーションも含め社会的相互交流の場を維持する。

● 役割
 ―対象者が社会的役割を主体的に担うことができるようにかかわる。主体的役割の存在はその人が生きている拠り所となるものであり、疾患に関係なく人間として共通するものである。

● 誤りを避けて正しい方法を習得(errorless learning)
 ―認知症では誤りを基に試行錯誤からの学習は困難だけでなく、混乱を招きネガティブな感情のみが記憶に残りやすく、学習の妨げにもなる。能力に応じたサポートで不要な失敗を避けつつ、正しい方法を繰り返し、成功体験とポジティブな感情で終わらせる。満点主義が基本。

【開催日】
2015年9月16日(水)

【EBMの学び】IBSに対するSSRI

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015 / 9 / 8
【臨床状況のサマリー】
 70代女性、血便を主訴として来院。Vital変化や腹痛などは認めず、CT上でも虚血性腸炎の可能性は低い印象であった。本人とも相談の上、TCS施行相当と考え後方病院へ紹介。TCS上では明らかな器質的異常は指摘されず、血便の原因は痔核によるものと推測された。
 患者は遡ること2ヶ月前より便性変化(便柱が細くなったり軟便を繰り返す)や腹部膨満感、ストレス下での放屁などで悩んでおり、(混合型)過敏性腸症候群(IBS)の疑いがあると考えられた。大建中湯、ポリフル®(ポリカルボフィル)や整腸剤の投与などを行うもいずれも改善に乏しく、結果として現在はその中でも最も効果があったと思われる大建中湯を使用して経過を見ている。
 本邦におけるIBSに特化した内服治療は、ポリフル®に代表される合成高分子化合物、イリボー®に代表される5-HT3受容体阻害薬、トランコロン®に代表される抗コリン薬が挙げられるが、劇的な効果は期待できないことも多い。諸外国では、これらの他に三環系抗うつ薬やSSRIなどが治療に用いられるケースもあり、SSRIの効果について検討された論文を検索した。
 P;(混合型)IBSが疑われる70歳代女性に対して
 I(E);SSRIを投与した場合
 C;偽薬を投与したのと比較して
 O;消化器症状の改善が得られるか
 
STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Vahedi H, Merat S, Rashidioon A, Ghoddoosi A, Malekzadeh R.
The effect of fluoxetine in patients with pain and constipation-predominant irritable bowel syndrome: a double-blind randomized-controlled study. Aliment Pharmacol Ther. 2005 Sep 1;22(5):381-5.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;RomeⅡ基準(※2005年発行の論文のため)に該当した便秘型IBS患者(年齢=34.9±10.0歳、50歳以上で初発のPt.は除外されている)
 I(E);20mg/dayのfluoxetineを12週間投与した場合
 C;偽薬を投与した場合と較べて
 O;IBS症状の数がどれくらい減少したか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
① 研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない;)
   どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
  →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 介入4週間目の評価で、5つの主要症状について、全てP<0.05
 主要症状数の変化について、介入2週間目の評価で、P<0.005、
 介入16週間目の評価で、P<0.001
【② 治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ・ARRとNNTを計算する
 <介入16週目の評価>
 (1) 腹部不快感:RR=0.44、RRR=0.55、ARR=0.50、NNT=2
 (2) 腹部膨満感:RR=0.59、RRR=0.41、ARR=0.35、NNT=3
 (3) 硬便   :RR=0.30、RRR=0.70、ARR=0.35、NNT=3
 (4) 排便回数減少:RR=0.18、RRR=0.82、ARR=0.45、NNT=2
 (5) 便性変化 :RR=1、RRR=0、ARR=0、NNT=∞
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 信頼区間の記載なし

STEP4 患者への適応
【① 論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
・本患者は混合型IBSの可能性が高く、便秘型のIBS患者を扱った本論文の患者群と完全には合致していない。
・本論文では50歳以上の患者については除外対象としており(理由は不明であるが)、70歳代の本患者に適応できない可能性がある。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
・先述の通り、本邦においてIBS患者への抗うつ薬の適応が認可されていないため、実際には保険病名を別につけることで処方せざるを得ず、現実的な適応には困難な点もある。
・またfluoxetineが本邦でそもそも認可されていない薬である。論文中にはパキシル®(パロキセチン)など、他のSSRIでも有効であったとの記載がある(p.384左側)。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
・食思不振や下痢、食道炎などの消化器症状の副作用が偽薬よりもfluoxetineでより多く報告されている。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
・患者は上記症状で日常生活に支障をきたしており、何らかの治療planを提示するべきと思われる。SSRIの導入にあっては、薬の特性や効果に限定的な部分があるかもしれないことを説明した上での投与となるだろう。

 

【開催日】
2015年9月9日(水)

【EBMの学び】帯状疱疹に対するPSL

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015/08/12
【臨床状況のサマリー】
 関節リウマチでプレドニゾロン5 mg/day、環軸椎亜脱臼による疼痛でトラムセット内服中の70代男性。高齢者住宅に独居でADLはベッド上生活、当院定期訪問診療中。前胸部左側に疼痛を伴わない水疱・発赤出現し、帯状疱疹と診断したが、発疹出現から約80時間と72時間を過ぎていたため抗ウイルス薬の適応はなく、無治療経過観察とした。訪問看護師に報告すると、帯状疱疹後神経痛(PHN)予防のため何かできないかと相談を受けた。インターネットで帯状疱疹治療ガイドラインの概要をみると、PHN予防にプレドニゾロン60 mg/day内服7日間(以後漸減)を行うことがあるようだった。プレドニゾロンにPHN予防のエビデンスがどれほどあるのか疑問に感じ、文献を検索した。
  P;帯状疱疹急性期の患者
  I(E);プレドニゾロン内服
  C;プラセボ内服
  O;PHNの出現を抑制するか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
 Wood MJ, Johnson RW, Mckendrick MW, Taylor J, Mandal BK, Crooks J.
A randomized trial of acyclovir for 7 days or 21 days with and without prednisolone for treatment of acute herpes zoster. New England Journal of
Medicine 1994;330(13):896-900.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;免疫抑制状態にない18歳以上の成人(各対照群の平均年齢は60歳前後)で、発疹出現から72時間以内
   の中等度以上の疼痛を伴う帯状疱疹急性期の患者
 I(E);アシクロビル+プレドニゾロン40mg/day内服7日間or 21日間
 C;アシクロビル+プラセボ内服
 O;疼痛が完全消失するまでの期間を短縮するか
   (6か月後まで疼痛をフォローし、PHNの重症度として評価)
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない;どう異なるか?)
②解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない) (intention to treatの記載なし)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
 Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 P=0.74
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
  コックス比例ハザード分析 HR = 1.043
 ・ARRとNNTを計算する
   Outcomeが「日数」なので計算不可?
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 HRの95%信頼区間:0.81-1.34

STEP4 患者への適応
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 年齢が論文の対照群より高齢であり、もともと関節リウマチでプレドニゾロン長期内服中であるため、免疫抑制状態である点が異なる。また、発疹出現から72時間をわずかに超えている点、トラムセット内服中で疼痛を伴っていない点(マスクされている可能性あり)でも異なる。しかしながら、プレドニゾロンを追加投与のPHN予防のエビデンスが低いということを確認するには、当論文で概ね問題はないと思われる。(あるいは、若年者より高齢者の方がPHNのリスクが高いので、対照群を高齢者に限定すれば、違った結論に至るのかもしれない)
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 実行可能
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか? 】
 副作用も評価されている。当論文は、プレドニゾロン投与はPHNの重症度に影響を与えず、副作用出現の可能性もあるため、推奨しないと結論している。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 疼痛もないため、発疹の出現をまるで気に留めていない。無治療経過観察の方針で、何の抵抗もなく合意している。上記③と併せて、本症例にプレドニゾロン追加投与する理由はないと考える。

胃がん健診目的の胃内視鏡検査

―文献名―
Hamashima C, et al. A Community-Based, Case-Control Study Evaluating Mortality Reduction from Gastric Cancer by Endoscopic Screening in Japan. PLoS One. 2013;8(11):1-6.

―この文献を選んだ背景―
 9年ぶりに本邦の胃がん検診ガイドライン(GL)が改定された。2005年GLは胃内視鏡検査は推奨グレードIで、対策型検診としては薦められず、任意型検診においては△であった。
 今回の2014年GLでは、胃内視鏡検査は推奨グレードB、対策型検診、任意型検診とともに推奨。検診間隔は2-3年。と変更されている。http://canscreen.ncc.go.jp/
 胃カメラ検診を推奨する根拠となった元論文の一つを選びHCFMの皆様のご意見を伺ってみたいと考えた。

―要約―
【目的】
 胃内視鏡検査によって胃がん死亡率の減少を評価すること

【方法】
 内視鏡での胃がん検診を導入している鳥取と新潟を対象とした症例対照研究
 ・症例群:死亡診断書とがん登録より2003-2006年に鳥取県内の4都市と2006-2010年の新潟市において胃がんで死亡した患者を抽出した。(条件:40-79歳、他疾患を除外、診断日不明を除外)さらに、地区の情報から内視鏡検診歴を確認できるものを症例群とした(Figure 1)
 ・対照群:疾病がない期間が確認でき、同じ移住地で、性別、年齢を条件に割り当てた。
 検診(胃内視鏡検診か胃X線検診)を受診した群を胃がん診断日より12.24.36.48ヶ月にわけて、検診なし群とオッズ比を計算した。Conditional ロジスティック回帰モデルを利用した

【結果】
 症例群は410人(男性288・女性122)で対照群は2292人。
 症例群(胃がん死)で36ヶ月以内に胃内視鏡検診を受けていたのは10.8%、対照群では14.3%が胃内視鏡検査を受けていた。その際の胃がん死亡のオッズ比は0.695(CI 0.489-0.986)であった。他の群では有意差は認めなかった。(Table 2)

【結論】
 胃がん診断日より36ヶ月前に内視鏡検診をうけた人では検診なしと比較して胃がん死亡を30%減少する。

【開催日】
2015年8月5日(水)

リーダーシップを体系的に学ぶための入門書

―文献名―
リーダーシップ3.0 〜カリスマから支援者へ〜.小杉俊哉.祥伝社.2014

―要約―
カリスマ型のリーダーは必要なのか?現場の第一線が自律的に働き価値を提供したり提案をあげたりすること(ボトムアップ)、中間管理層が活発な議論と組織の上下左右に対して働きかけ活性化すること(ミドルアウト)がなければ組織は立ち行かないことは自明である。このような状況をもたらすためのリーダーシップがリーダーシップ3.0である

<時代によるリーダーシップの変遷>
・リーダーシップ1.0:権力者がヒエラルキーの頂点に立ち、指示命令による中央集権的に組織を支配する。画一的なサービスの大量提供には向いていてるが、多様なニーズに応える柔軟性がない

・リーダーシップ1.1:各事業部に責任者を置き、そこに権限を委譲して責任を持たせることで組織全体をコントロールする。しかし事業部内で現場とマネジャー間の対立を深め、階層による厳格な管理、効率重視による賃金のみによる動機付けは従業員の独創性を削いでいった。またトップから各事業部に下った指示にフィードバックをかける仕組みがなかったため、急激に変化する環境に対応しきれなくなった

・リーダーシップ1.5:権力によって率いるのではなく、組織全体に価値観と働く意味を与えること、雇用の安定を図るなど協調を促し、組織全体の一体感を醸成することにより組織を牽引する。従業員がわくわくするものを見つけ出し、意図的にそれを持続させたり、終身雇用、年功序列、労使協調に代表される手法で価値観を一体化させたりする。いわゆる企業戦士が登場した。しかし当初は有効だった価値観に基づく行動パターンが形骸化した。退職したもの、職を失ったものはその瞬間、収入以上のものを失うこととなった。また個人の目的が不要、あるいはいかにそれを組織に合わせるかが問われた。また組織重視のためコンプライアンスの低下をもたらし、CSR(企業の社会的責任)が問われる事件が頻発した。

・リーダーシップ2.0:いわゆる「変革のリーダーシップ」。組織の方針を提示し、大胆に事業領域や組織の再編を行い、競争や学習を促し、縦割りの部門間、社員間の交流、活性化により組織を変革する。経営コンサルタントを雇い、新たな経営戦略を策定し実行した。しかしカリスマ個人の力量に依存するところが大きく、破壊的イノベーションには対応しにくい。またカリスマに依存し社員が受け身になる。トップが答えを持っていないと企業全体をミスリードしてしまう。経営コンサルタントに依存するとどの企業も同じような分析になり、差別化できない。

<リーダーシップ3.0>
  生まれた背景:外部環境が急激に変化する中で、企業のトップの最大の課題は、いかに新しいビジネスモデルを作るかに尽きる。そのためには1)アンラーニング(成功体験の否定)、2)ベンチャー思考(想像性を発揮しリスクをとる)、3)非連続性の発想、である。今まではトップ20%の人材と信頼関係を作っていればよく、下位の人材は入れ替えれば良いという考え方が主流であったが、これらを達成するためには、顧客により近い現場のリーダーに権限を渡し、トップは彼らを支援し、そこで彼らが活躍できるような場にすることが必要になる。つまりトップ20%だけでなく、全社員に対して注目する必要があるという認識がなされるようになってきた。ここから、人間を機械とみなすのではなく、個人のコンピテンシー(業績者には単にスキルや知識があるだけでなく、「良好な対人関係の構築力」「高い感受性」「信念の強さ」など複数の特性が見られる)、いわゆる人間力を重視していくこととなる。上下関係ではなく、社員を社内顧客として扱う。リーダーシップをあえて一言で表すなら「信頼」(by トーマス・ピーターズ)とも言われるようになった。

  支援者としてのリーダーシップ3.0:リーダーは組織全体に働きかけ、ミッションやビジョンを共有し、コミュニティ意識を涵養する。と同時に個人個人とも向き合い、オープンにコミュニケーションを取り、働きかけて組織や個人の主体性、自律性を引き出す。組織全体をそのような場として整える。コミュニケーションは、組織の階層を通じて行うこともあれば直接現場の担当者に対して行うこともある。またそのコミュニケーションの対象は必ずしも社内に限らず、社外の参画意識を持った人々とのコラボレーションも促す。このようにして組織自体や組織内外の人々に対して支援することによってリーダーシップを発揮する。組織全体の価値創出のために個人の最大の力を引き出し、目標達成に向けて一体となれる組織が実現され、個人個人が自律的に動くことで優れたパフォーマンスを発揮することが可能になる。その点在する個人が事業に共鳴し参画意欲とともに集まり組織化され、試行錯誤を繰り返し、既存の情報を自分たちの目的に合うように新しく組み直し、新しい製品、サービス、生産システム、経営システムを作り出せれば、それがイノベーションとなる。
  リーダーのコミュニケーションは、メンバー一人一人と向き合う双方向性が必要になる。コラボレーションを絶えず促すような動きを、リーダー自身がとる必要がある。その点から人間性や人間味も非常に重要になる。
  サーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ)、羊飼い型リーダーシップ(リンダ・A・ヒル)、コミュニティシップ(ヘンリー・ミンツバーグ)、オープンリーダーシップ(シャーリーン・リー)、コラボレイティブ・リーダー(ハーミニア・イバーラ)、第5水準のリーダーシップ(ジェームズ・C・コリンズ)なども、このリーダーシップ3.0を示している。
  裏付ける理論:マネジメント2.0、場の理論とマネジメント、モチベーション3.0、マーケティング3.0、U理論などもリーダーシップ3.0を支持する内容となっている。

<3.0リーダーに必要とされるもの>
 要素1「ビジョンを持ち語る」

 要素2「リーダーになる」:ビジョンを持っている、情熱を持っている、誠実である、信頼を得ている、好奇心と勇気を持っている

 要素3「ミッションを持つ」:自分のギフトに気づき、それをミッションに生かす

 要素4「他者を支援するという自然の成長に従う」:40代に訪れると言われる「中年の危機」を迎えると今までの勝ちパターンが使えなくなる。そこで新しい自分のアイデンティティを確立する必要がある。そこで将来世代の幸福に対する関心が生まれる。

 要素5「人間力を磨く」:人を惹きつける独特の雰囲気、確固とした人生哲学や豊かな人間性、周囲の人を熱気に巻き込んで実現する人心掌握、社会的善を経験的に知っている、無理な目標を「できるかもしれない」と思わせる影響力、遊びも尋常でなく多様な人間を通して審美眼が磨かれている、場の状況を読み適切に対応することで他人の共感を呼び起こす

 要素6「仮面をとる」:リーダーは弱さを見せていい。自分の弱点を受け入れ、他者の不完全さも受け取る。フォロワーはリーダーが完璧であるからついていこうと思うのではない。ふとリーダーの弱みや人間的なところを見た時、なんとかこの人の足りない部分を支えたい、この人に成果をあげさせてあげたいとついてくる

 要素7「ファシリテートする」:場を提供し、フォロワーが自律的に動くように支えるためには、リーダーがファシリテーターの役目を果たすことが必要。問題解決アプローチではなく、ポジティブアプローチで。

 要素8「エンパワーメントを正しく理解し実行する」:なぜやるのかを伝え、どうやるかは任せるのがエンパワーメント。どうやるかも指示するのが権限移譲。

 要素9「動機付けを行う」:外発的動機付けは機能しなくなっている。内発的動機付けとして「人と協力すること」、「仕事内容そのものに満足」、「自分で選択できるということ」がある。上司の期待と、任せられるという責任感が動機付けになる。

【開催日】
2015年8月5日(水)

患者はどの健康リスクをどのくらい重要と考えているか~構造化された評価からみる健康リスクの患者自身が選ぶ項目と優先度~

―文献名―
Phillips SM,at el.Frequency and prioritization of patient health risks from a structured health risk assessment.Ann Fam Med. 2014 Nov-Dec;12(6):505-13.

―この文献を選んだ背景―
 我々は日々時間がない中で外来診療をしているが、なかなか行動変容にまで結びつけることができないで不全感を抱いてはいないだろうか?効率よくアプローチする手段はないだろうか?今回、それに関するアイデアの一つとなりうる論文を紹介したい。

―要約―
【目的】
 頻度と患者が記述した変化への受け入れを記述し、プライマリケアでの13の健康リスク因子の重要性を議論すること。

【方法】
 9つのプライマリケア診療所の患者1707人がMOHR(My Own Health Report)  trialの一環でgeneral(一般的な)、behavioral(行動上の)、psychosocial(心理社会的な)リスク因子を報告した。BMI、健康の状態、食事、身体活動、睡眠、薬物使用、ストレス、不安または心配、抑うつである。我々はそれぞれの回答をat riskかhealthyに分類した。また、患者が変化するための準備ができているか、かつ/もしくは、ケア提供者と同定されたリスク因子について議論したいと思っているかを示した。患者が最も重要と考えている変える備えがあるリスク因子を1つ選んでもらった。因子ごとや因子間の回答された頻度の解析や患者背景ごとや施設間での多様性を検討した。

【結果】
 患者は平均5.8個(SD=2.12;rage,0-13)の不健康な行動と心理的なリスク因子を持っていた。約55%の患者が6個以上リスク因子を有していた。患者は1.2個について変えたいと考えており、0.7個議論したいと考えていた。最も一般的なリスク因子は不適切な「果物/野菜摂取」(84.5%)、「過体重/肥満」(79.6%)であった。患者は「BMI」を改善したいと考えている人が最も多く(33%)、次いで「抑うつ」(30.7%)であり、議論したがってたのは「抑うつ」(41.9%)、「不安、もしくは心配」(35.2%)であった。結論として、患者は最も重要視していたのは「健康状態」であった。

【結論】
 プライマリケアにおけるルーチンの包括的健康リスク評価でおそらく行動と心理社会的な健康リスクの多くを同定できる。患者の優先度を確認することによって、ケア提供者と患者とが診療をより良くマネジメントでき、行動変容につなげていけるものと考える。

【限界】
 ・ランダム化されていない。一般化可能性も限界がある。(様々な診療圏、患者規模など診療所選択には
  配慮しているが)
 ・その後、医師などへ情報が行き、ケアに活かされるなどの流れが十分患者に伝わっておらず、回答が
  不十分になった可能性がある。
 ・既往歴、通院歴、患者医師関係などを確認していない。
 ・横断研究であるが故、日々の生活を含んだコンテクストや患者医師関係等のリスクを把握できて
  いない。 
 ・時間変化、最終的なMOHRを用いた結果を評価できていない。
 ・リスクの数が多すぎた可能性がある。

―考察とディスカッション―
 家庭医の外来は扱うプロブレムの多さもあり十分な時間はない。その中で患者の関心事、潜在的な問題にしっかりと効率よくアプローチする必要性は大きい。今回、この文献では彼らが健康リスクと考えている事項をピックアップすることができ、かつ改善したいと考えているリスクや、医療者と相談したいと考えているリスクが浮き彫りになった。これは米国の研究であり、全てを目の前の患者にあてはめることは難しいが、一考に値する。また、これらの質問を診療所だけで施行し、介入を行うだけではなく、保健師や他の団体と協力しながら活用することも考えると良いと思われる。

 みなさんならこの情報をどのように活用できそうですか?

【開催日】
2015年7月22日(水)

健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の有効性

―文献名―
Alexander C Ford, et al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMJ. 2014 May 20:348:g3174.

―要約―
【目的】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に除菌治療を行うと、プラセボや無治療と比較し、胃癌発症を減らせるか。

【方法】
 Systematic review and meta-analysis of RCT

【情報源】
 Medline、Embase、Cochrane(~2013年12月)、会議録(2001~2013年)、関連研究の参考文献。言語による制限なし。2人の独立した研究者で評価し、不一致あれば合意形成。

【採用基準】
 健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療の胃癌発症減少効果を調べたRCT。除菌治療は最低7日間。対照群はプラセボまたは無治療。追跡期間が最低2年間。

【主要アウトカム】
 除菌治療による胃癌発症減少効果(RR:relative risk)

【結果】
 1560文献が検索され6件のRCTを採用、Random effects modelで結果が統合された。除菌治療群3294名中51名(1.6%)、対照群3203名中76名(2.4%)に胃癌が発症し、RR0.66(95%信頼区間0.46-0.95)で有意差があった。研究間の異質性なし(I2=0%、P=0.60)。除菌治療効果が生涯続くと仮定すると、NNT16(中国人男性)からNNT246(アメリカ人女性)と人種性別によって幅あり。なお、日本人男性NNT16、日本人女性NNT23であった。

【限界】
 妥当性の高いRCT(Cochrane handbookによる評価)は6件中3件のみ。除菌レジメンが研究間で異なる。有害事象の検討はされていない。

【結論】
 アジア人健常者の無症候性ピロリ菌感染に対する除菌治療は、胃癌発症予防効果あり。

【開催日】
2015年7月22日(水)

長期尿道カテーテル留置患者の閉塞

―文献名―
DJ Stickler and RCL Feneley. The encrustration and blockage of long-term indwelling bladder catheters: a way of forward in prevention and control. Spinal cord (2010)48, 784-790

―この文献を選んだ背景―
 訪問診療を受ける患者には尿道留置カテーテルが挿入されている人も少なくない。そのなかで閉塞を繰り返して頻回の訪問看護での出動となったり、医療材料の供給で規定を超える数が必要となって自己負担いただく事例が多い。その原因について調べたところこの論文にあたった。

―要約―
目的
 細菌のバイオフィルムの結晶によってFoleyカテーテルが硬い層で覆われ、閉塞するかを説明した文献を概観することで、長期膀胱内カテーテル留置をうける患者のケアのなかでこの合併症を制御するための戦略を導き出す。
方法: 1980年から2009年12月までに発表された文献のPubMedの広範な検索を‵バイオフィルム´‵泌尿器へのカテーテル法´‵カテーテル関連尿路感染症´‵尿路結石´の語を用いて行い、妥当な論文を探し出した。

Nature of encrustration
 カテーテルに付着した結晶の分析からストルバイトとアパタイトの2種類が中心ということが示された。電子顕微鏡での解析は多数の桿菌が結晶生成に関連していることがわかった。培養の結果、ウレアーゼ産生菌が主体となっていた。ウレアーゼが触媒となってPHをあげ、リン酸マグネシウムとリン酸カルシウムの結晶化が引き起こされる一方で細菌のバイオフィルムが形成される。このプロセスはカテーテルを閉塞するまで続く。Proteus mirabillisの感染が実験上でも疫学的にも主因となっていた。

Controlling the rate of crystalline biofilm formation
 P.mirabillis感染を受けたカテーテル挿入された患者の前向き研究ではカテーテル閉塞が起こるまでの時間は2-98日と幅があった。閉塞を決める重要な要因は尿PHと同定され、pHが高ければ高いほど、カテーテル閉塞まで長くなる。P.mirabillis感染モデルの実験結果ではpHが8.3を超えるとバイオフィルムの結晶は形成されなかった。健康なボランティアでの研究では単純に水分量を増やしクエン酸摂取でpHを上げることができる。

Epidemiology and pathogenesis of P.mirabillis infections
 長期カテーテル留置を受ける44%の患者でP.mirabillisが尿検体から同定されている。留置カテーテルは膀胱結石の重大なリスクとなっており、Chenらは脊髄損傷患者1336人のコホートの病歴を解析し、受傷後最初の1年でカテーテル挿入されてない人と比べて9倍のリスク上昇と報告している。Fenelyらによると膀胱鏡検査の結果、カテーテル閉塞する62%で膀胱結石が発見され、膀胱結石が見られた90%の患者にP.mirabillis感染が起こっていた。

結論
 カテーテル挿入された尿路への出現を発見次第の抗生剤加療によるP.mirabillisの除去は、多くの患者のQOLを改善させ、カテーテル閉塞の合併症を管理するうえで現状の資源の浪費を減らせるかもしれない。すでに慢性的に閉塞し、結石形成している患者に対しては、抗生剤治療はバイオフィルムの結晶内に細胞が潜むことから効果的である見込みはない。クエン酸飲料と飲水量増量といった戦略は膀胱結石除去するまでカテーテル問題をコントロールできるかもしれない。

【開催日】
2015年7月15日(水)

リーダーシップと人との関係

―文献名―
ロナルド・A・ハイフェッツ/マーティ・リンスキー 著.竹中平蔵 監訳.第4章 政治的に考える in 「最前線のリーダーシップ」.p111-144.ファーストプレス.2007.

―この文献を選んだ背景―
 マネジメント・ケース・カンファレンスにおいて、リーダーには以下の2つのスキルが求められると感じた。問題の所在をあぶりだすスキルと、適応を推進するスキルである。適応を推進するのはリーダーにとっても危険を伴う行為である。このJournal Clubでは、リーダーがある程度のリスクヘッジをしながら適応を推進するために必要な5つの方法のうち、今回のケースにいくらか関連があると思われた「政治的に考える」という方法を紹介する。

―要約―
政治的に考えるうえでの6つの根本的な視点
 成功するリーダーに共通するすぐれた資質の1つは、人間関係の大切さを理解する力だろう。とくに選挙で選ばれる政治家にとっては、人間関係は空気と同じくらい大切なものだ。政治家にとって、ある主張がもたらす利益やそれを進めるための戦略は、判断要因の1つでしかない。彼らは人脈を最重視する。相談でき、ともに目の前の問題解決に取り組むことができる人々のネットワークをつくり、それを大きくすることに労力を注ぐ。リーダーシップを発揮する際に「政治的に考える」上での6つの根本的な視点がある。1つは、あなたの側にいる人々との関係からの視点、もう1つは、反対の立場の人々との関係からの視点。そして残る4つは、自分の立場を明らかにせず慎重になっている人々を動かすための視点である。

視点1:パートナーを見つける
●パートナーは、あなた自身とその活動を助けてくれる。論理的な主張や証拠に頼るだけではなく、政治的な力も築ける。パートナーの口から自分とは別の見解を聞くことは、アイデアの改善にもつながる。
●変えることが最も困難なグループのなかにいるパートナーこそが、最も重要な役割をもたらす。
●パートナーがどこまでなら協力してくれるのかを把握するためには、彼らがすでに持っている協力関係やその協力相手に対する責任感の度合いを知っておく必要がある。

視点2:反対派を遠ざけない
●リーダーシップを発揮しながら生き残り、なおかつ組織を変えることに成功するためには、支持者とともに作業するのと同じくらい緊密に、反対の立場の人々とも一緒に作業に取り組まなくてはならない。
●不安を抱きながらそれを無視して進むよりは、その不安を、自らの脆弱要因であるとともに、反対はグループにいかに強い脅威を与えているかを示すシグナルととらえるべき。それは、やがて直面する抵抗の端緒であり,放置しておけば自体は悪化してしまう。

視点3:自分が問題の一部であったことを認める
●もしあなたが組織で責任ある役割を担っており、その組織に問題が起きているとすれば、あなたにも問題が起こった責任の一端があり、問題が手つかずになっている理由の一部があなたにあることはほぼ明らかである。あなたがもたらそうとしている変革の障害になりうる部分が、あなたの行動や価値観の中にもあると知っておく必要がある。たとえ人々をよりよい場所に導こうとしているとしても、自分がいまの状況に何らかのかかわりがあることを理解し、その責任を認める必要がある。
●あなたが誰かを非難したり、だれかに自分がやりたくないことをやらせていたりするとき、彼らにとって最も簡単な選択肢は、あなたを排除することだ。その問題は「あなた対彼ら」という構図になってしまう。しかし、もし彼らと一緒に問題を直視し、その問題に関する責任の一部を引き受けるのであれば、あなたは自分が攻撃されるリスクを軽減できる。

視点4:喪失を認識する
●人々は理由がはっきりしているのであれば、犠牲をいとわない。犠牲を払うだけの価値があるのかどうかを知る必要がある。しかし、希望にあふれた未来を示すだけでは不十分であり、変化に伴ってだれが何を喪失するのかを明確にし、それをしっかりと認識する必要がある。
●あなたが人々に求めている変化は困難なもので、人々にあきらめるように求めているものには大きな価値があることを認識し、それを明確に示す必要がある。彼らとともに悲しみ、喪失を記憶する。あなたが本当に理解しているということを人々に納得させるには、たいていの場合、声明よりもより目に見える、公式の何かが必要となる。例えば、人々に求める行動を自分がモデルとなって示すことなど。

視点5:自らモデルになる(上記参照)

視点6:犠牲を受け入れる
●もし人々が変化に適応できなかったら、取り残されることになる。そして犠牲者となる。これは組織やコミュニティが大きな変革をけいけんするときには、事実上、避けられない。適応できないか、一緒に進もうとしない人々は必ずいる。あなたは、彼らを守り続けるか、彼らを犠牲にしても前進するかを選ばなければならない。犠牲者を出すことに耐え切れないほどの苦しみを覚える人々にとっては、このようなリーダーシップは大変なジレンマである。しかし、これはリーダーの仕事の1つなのだ。
●犠牲者を出すことを受け入れるかどうかは、あなたが本気で取り組もうとしているかどうかを示すシグナルとなる。もしあなたが犠牲を出したくないというシグナルを発するのであれば、それは、態度を決めかねている人々に対して、あなたの取り組みは無視してもらって結構と言っているようなものだ。現実の危機無くして、なぜ人々が何かを捨ててまでいままでのやり方を変えようとするだろうか。

―考察とディスカッション―
 リーダーシップは諸刃の剣であり、用いる人間にも危険が伴う。また、適応の障害は人々の中だけではなく、自分の中にもあることを、リーダーは認識しておかなければならない。今回扱った内容はリーダーシップの要所のうちのほんの一部ではあるが、今回扱ったここまでの内容について、自分にも思い当たることはあるだろうか?あるとすれば、そうした場面で自分はどのような行動をとっているだろうか?そこにはどんな難しさがあるだろうか?自分のリーダーシップを振り返るきっかけとして活用いただきたい。

【開催日】
2015年7月15日(水)