「心房細動+安定した冠動脈疾患=抗凝固薬+抗血小板薬」が適切とは限らない

―文献名―
Morten lamberts, et al. Antiplatelet Therapy for Stable Coronary Artery Disease in Atrial Fibrillation Patients Taking an Oral Anticoagulant; A Nationwide Cohort Study. Circulation. 2014;129:1577-1585.

―この文献を選んだ背景―
 プライマリケアのセッティングにおいて、冠動脈ステント後で抗血小板薬内服中の患者を紹介され長期間フォローするケースは比較的多い。さらに、AFを合併した場合には抗凝固薬の適応となり、以前から併用されている場合もあれば、我々が新規導入する場合も少なくない。しかし、高齢・胃潰瘍既往・NSAIDS内服・腎機能障害など他の出血リスクを合併している患者も多く、漫然と抗凝固薬と抗血小板薬を併用することの有用性について疑問を感じていたところ、ある医学雑誌の記事に本問題に関する特集があり元文献を読んでみた。

―要約―
【背景】
 安定した冠動脈疾患(stable CAD:MI発症またはPCI後12ヶ月以上経過)を合併したAF患者に対する適切な抗血栓治療については明らかにされておらず、一般的に抗凝固薬に抗血小板薬1剤が追加される。本研究ではstable CADを合併したAF患者に対して、ビタミンK拮抗薬(VKA:ワルファリン等)に抗血小板薬を追加することの有効性と安全性を調査した。

【方法】
 デンマークの国内データベースを用いた観察研究。2002-2011年の間にstable CADを合併したAF患者8,700人(平均74.2歳/女性38%)を追跡し、心血管イベントと重篤な出血イベントのリスクについて修正Cox回帰モデルを用いて解析した。

【結果】
 平均3.3年間の追跡で、MI/心血管死・血栓塞栓症・入院を要する重篤な出血の発生率はそれぞれ7.2・3.8・4.0(/100人年)だった。VKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.12[95%CI 0.94-1.34])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.53[95%CI 0.93-2.52])のMI/心血管死リスクは同等であった。血栓塞栓症リスクもVKAを含むすべてのレジメンで同等であった。一方で、出血リスクはVKA単剤と比較し、VKA+アスピリン(HR 1.50[95%CI 1.23-1.82])またはVKA+クロピドグレル(HR 1.84[95%CI 1.11-3.06])で増加した。

【結論】
 stable CADを合併したAF患者に対して、VKAに抗血小板薬を追加することは、心血管イベントや血栓塞栓症の再発リスク減少とは関連せず、一方で出血リスクを有意に増加した。

【研究の限界】
 介入研究ではない。ステントの種類に関してはデータの登録がなく不明である。

【参考】
 本研究の結果を受けて、2014年のヨーロッパ心臓病学会ガイドライン(European Heart Journal. 2014;35:3155-3179)では、AF患者がCADを合併(ACS発症またはPCI施行)した場合、CHA2DS2-VASc score(血栓塞栓症リスク)やHAS-BLED score(出血リスク)の値に関わらず、1年間以降は抗凝固薬単剤を推奨している。

―考察とディスカッション―
 欧米での研究ではあるが、日本人は欧米人に比べ一般的に出血リスクが高いことを考えると、同様に1年後以降はVKA単剤でも良いのではと思った。もちろん抗血小板薬中止の際には、患者の個別性を踏まえた丁寧な医学的評価とコミュニケーションが必要である。なお、NOACは本研究で扱われていないため注意を要する。

<ディスカッション>
 ① これまで本問題に対してどのような対応を行ってきましたか?
 ② 本研究の結果を受けて、今後のプラクティスはどのように変わり得るでしょうか?

【開催日】
 2016年2月17日(水)

【EBMの学び】アレンドロンからデノスマブへ

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年2月6日
【臨床状況のサマリー】
 89歳女性。歩行は問題なし。閉経後で、骨粗鬆症に対してビスホスホネート製剤(BP薬)を内服中。しかし認知症が進行しており、内服忘れなどが目立つようになってきた。近所に住む息子さんが早朝と朝食後に薬を運ぶようにしていたが、負担に感じていた。そんな折に、半年に1回の注射製剤(デノスマブ:プラリア®)があると聞いたため調べることとした。カルテでは2014年1月から当院フォロー。当院フォロー後からBP薬内服の記載あり。T-score -6.22。

 P;閉経後のBP薬を使用している女性
 I(E);BP薬からデノスマブへ変更した場合
 C;BP薬のままのときと比べて
 O;骨粗鬆症に関連する骨折の頻度が増えない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Effects of Denosumab on Bone Mineral Density and Bone Turnover in Postmenopausal Women Transitioning From Alendronate Therapy
  1.up to dateで「骨粗鬆症」を検索
  2.「Overview of the management of osteoporosis in postmenopausal women」の「Overview of available therapies」の項目に
    「Denosumab」あり。効果に関しては”Denosumab for osteoporosis”を参照する様に書かれていたのでリンクを参照。
  3.「Efficacy」の「Effect on BMD」に「After Alendronate」の項目あり。参照論文が一つあったのでそれを選択した。

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;アレンドロン酸70mg/wで6か月以上治療している55歳以上の閉経後女性
 I(E);デノスマブ60㎎皮下注+プラセボ内服
 C;プラセボ皮下注+アレンドロン酸継続
 O;12か月後のtotal hip BMDの変化率
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)
  P:アレンドロン酸の量が異なる。日本では35mg/wが一般的。年齢について55歳以上は合致するが、Tableを参照すると、89歳という高齢女性は
    組み込まれていない。また全員がカルシウム1000mg/日、最低でもビタミンD400IU/日を内服しているが、これも合致しない。
  I,C:特に異なる点はなし。
  O: 立てていたアウトカムは骨折の頻度であったが、論文ではBMDの変化率であった。これは合致しない。

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない)
   どう異なるか?:介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 T-score変化率はデノスマブで1.90%(95%CI 1.61-2.18%)
 アレンドロン酸で1.05%(95%CI 0.76-1.34%)
 変化率は0.85%(95%CI:0.44-1.25%)

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 上記は変化率の計算だったので、絶対値に換算(T-score -4.0とした場合)
  デノスマブ:0.076(0.064-0.087)
  アレンドロン酸:0.042(0.03-0.053)
  変化量は0.034(0.02-0.05)

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 95%CI 0.44-1.25% であり、-0.35%をまたがない。

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 適用すべき患者の年齢と骨密度検査値が論文のPatientとは違う。また、当院では橈骨遠位端でのBMD検査である。カルシウムやビタミンのサプリ内服もしていない。BP薬の内服量も違うということもあり異なる点は多いが、適応不能ではないと判断。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 アレンドロン酸よりは実行可能と思われる。保険適応の問題もない。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 アレンドロン酸35㎎は安くて314.7円。デノスマブ60㎎は28482円。
 1年が52週とすると、アレンドロン35㎎(16364円)、70㎎(32728円)。
 デノスマブ60㎎は56964円。金額的にはかなり差がある。更にデノスマブは長期予後・副作用が明らかでない。
 副作用は両群間に差はなかった。低カルシウム血症はデノスマブ群で1例見られたが、一時的なものであった。骨折については副作用として何例か報告されているが有意差はなし。
 FRAXを計算し、元々のT-score -6.22で、最大0.087上昇したとすると、Hip fracture 44%→46%になる。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 認知症のため、正確に評価は難しい。今後は施設入所も考えており、皮下注射があることで入所制限がかかる可能性も考慮する必要がある。通院が可能であれば早朝に起きて飲むよりは楽と思われる。患者は認知症のため、朝から薬を持って行っているのは近くに住む息子さんである。早朝と、朝食後の2回に分けて薬を持っていくのは負担になっており、導入は負担の軽減につながると考える。

付記
★FRAX(10年間の骨折発生リスクについて)WHO
転倒による顔面骨折既往歴あり
★アドヒアランスに関する論文
Influence of patient perceptions and preferences for osteoporosis medication on adherence behavior in the Denosumab Adherence Preference Satisfaction study
★8年間の追跡研究
The effect of 8 or 5 years of denosumab treatment in postmenopausal women with osteoporosis: results from the FREEDOM Extension study.
★非劣性試験と同等性試験について
https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02971_04

【開催日】
2016年2月10日(水)

小児の滲出性中耳炎へ私たちがなにを行えるか?

―文献―
Effect of nasal balloon autoinflation in children with otitis media with effusion in primary care: an open randomized controlled trial. CMAJ. 2015 Jul 27

―要約―
【背景】
 滲出性中耳炎は4-5歳で46%の有病率を有するありふれた疾患であるが、抗生物質や抗ヒスタミン薬を始めとする非手術療法では根拠に基づく治療法はないと言われている。そんななか鼻でバルーンを膨らませる自己耳管通気はプライマリケアで幅広く使われる可能性を秘めているが、その有効性を示す根拠はいくつかの病院セッティングの小さな試験に限られてきた。そこで私たちは、プライマリケアの場面でみつかった小児の滲出性中耳炎に対する自己耳管通気の臨床的有効性についての実用的試験での知見を報告する。

【方法】
 2012年1月~2013年2月までの英国の17のプライマリケアトラストのなか43の総合診療部門で患者を募った。学校に通う4-11歳の子供を適応基準としたうえで、過去3か月の難聴や耳に関連した問題の病歴を聴取し、滲出性中耳炎の確定に耳鏡とティンパノメトリーが実施され、片側ないし両側typeBを滲出性中耳炎と定義した(Table 1)。直近の中耳炎や手術の既往や予定、ラテックスアレルギーや直近の鼻出血を認める場合除外した。
上野先生図3
 介入の性質上、プラセボを用いることは不可能であり自己耳管通気を1日3回に通常ケアを加えた群と通常ケア群に割り付け、1ヵ月後・3ヵ月後にティンパノグラムと耳関連のQOL尺度であるOMQ-14を用いて評価を行った。

【結果】
 1235人の子供が適格基準に当てはまり、320人が無作為割り付けされた。脱落は1ヵ月後で8.4%、3ヵ月後で12.2%と良好に追跡されていた。通常ケア群と比べて、自己耳管通気を受けた子供では鼓膜聴力検査上の改善が多くみられ、1ヵ月後には補正相対リスク比で1.36(95%CI:0.99-1.88)、3ヵ月後で1.37(95%CI:1.03-1.83)となり、NNT=9だった。一つ一つの耳ごとに改善を見た場合は1ヵ月後でも有意な結果となった。3ヵ月後のOMQ-14の研究開始時からの変化の平均も自己耳管通気群でより向上が見られた。通常ケアとの補正変化量は-0.42ポイント(95%CI:-0.63 – -0.22)となった。
 開始1か月で89%の親が「ほとんど使用できた」、もしくは「毎回使用できた」と回答した。副作用には鼻出血の頻度がわずかな違いしかみられなかったが、上気道感染は治療群でより多くみられた(15% v 10%)ただ多くは軽度の熱のでない鼻風邪程度だった。
上野先生図4上野先生図5

【結論】
 この研究で若い学童期の子供の滲出性中耳炎への自己耳管通気はプライマリケアで実用的で、中耳の浸出液を排除し、耳に関連した症状と子供と親のQOLを改善させる有効性が示された。NNT9という数値は滲出性中耳炎治療の現状に利益をもたらす非侵襲的治療の選択肢と考えられ、OMQ-14の中等度の改善は重要で勇気づけられる結果となった。ひろく自己耳管通気が行われることで、現状の決め手に欠ける滲出性中耳炎に立ち向かえる日が来るかもしれない。

―考察とディスカッション―
 室蘭のセッティングでは急性中耳炎の治療に関わる機会は多いものの、症状に乏しく遷延した状態の滲出性中耳炎の診療に関わる機会があまりなかった。論文を読み、耳鼻科通院でなかなかよくならないという話を振り返ると滲出性中耳炎診療の限界と困難さをうかがい知るとともに、プライマリケアから新たなエビデンスを創出しようという気概を感じ、総合診療といいながら滲出性中耳炎を耳鼻科の領域として関わろうとしてこなかった自分に気づくことができた。

ディスカッションポイント
 ①滲出性中耳炎の診療経験とそこで得られた気づきはありましたか?Otoventは使えそうですか?

 ②滲出性中耳炎のように根拠のある治療方針がなく、困った経験はありませんか?

【開催日】
 2016年2月3日(水)

【EBMの学び】BNPガイド下の心不全治療

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015年10月25日
【臨床状況のサマリー】
 #脳梗塞後遺症 #慢性心不全 #高血圧症 #脂質異常症 #慢性腎不全
 上記プロブレムで訪問診療中の74歳女性。ADLは屋内歩行器レベル
 2年前に心不全からの退院を契機に訪問診療導入。施設入所者。その後、入院を要することなく、安定した在宅療養を行えている。紹介時の心エコーではLVEF=30% 診察上 血圧130/80mmHg HR70 Sat95% 頸静脈怒張あり
  心雑音:心尖部にIII/VIの収縮期雑音 下腿浮腫あり 体重は概ね安定している。
 当院では、脂質異常症、慢性心不全のフォロー目的に3-6か月毎に血液検査(CBC、一般生化学、NTproBNP)を行ってきた。ここ2年のNTproBNPは1000程度pg/mLで推移している。内服調整なし。血清Creは1.5mg/dL程度
  内服薬)バイアスピリン(100)1T1x, アトルバスタチン(5)1T1x, レニベース(5)1T1x, アーチス(2.5)1T1x, アルダクトンA(25)0.5T,
      ラシックス(20)1T1xなど
  既往症)心不全の急性増悪(入院)心房細動なし
  喫煙歴:なし 飲酒なし 家族歴:なし
 今までなんとなく、慢性心不全の病名のある患者には定期採血にNTproBNPを含めていた。しかし、最近になりNTproBNP検査過剰である旨の警告が支払基金から送られてきた。NTproBNPを実施する患者を選択する必要を感じるようになった。慢性心不全の患者にBNPを実施することは有益なのか調べてみることにした。
 P;慢性心不全で治療中の高齢者
 I(E);NTproBNPを心不全の評価に利用した治療
 C;NTproBNPを利用しない治療
 O;QOLを改善するのか?

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
BNP-guided vs symptom-guided heart failure therapy: the Trial of Intensified vs Standard Medical Therapy in Elderly Patients With Congestive Heart Failure (TIME-CHF) randomized trial. JAMA. 2009 Jan 28;301(4):383-92.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;60歳以上の慢性心不全患者(EF≦45%) and NYHA>II以上 and 1年以内の心不全の入院歴 and NTproBNPが正常値の2倍以上
 I(E);症状に加えてBNP正常上限2倍以下を目標に治療
 C;NYHA≦II度を目標に治療する
 O;18ヶ月後の入院回避率とQOL
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない)
どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
一次エンドポイント
 ●入院回避率(figure 5)
  41% vs 40%( BNP群vs 症状群) p=0.39で有意差なし
 ●QOL(table 2)
  両群とも12ヶ月後にベースラインに比べて優位に改善(p<0.001)。
  両群間に有意差はなし。
その他の評価項目
 ●全生存率(Figure 5)
  84% vs 78%( BNP群vs 症状群) p=0.06
 ●心不全による入院回避率(figure 5)
  72% vs 62% ( BNP群vs 症状群) p=0.01
 ●年齢によるサブ解析(Figure 6)
  75歳未満では:入院回避率(p=0.05)、全生存率(p=0.02)、心不全による入院の回避率(p=0.002)と有意差を認めた。
  75歳以上では:入院回避率(p=0.54)、全生存率(p=0.51)、心不全による入院の回避率(p=0.45)と有意差は認めない。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70
    全生存率:HR 0.41
    心不全による入院の回避率:HR0.42
●ARRとNNTを計算する
 Figure5より
  18ヶ月時点での入院回避率 RR=0.9709 ARR=0.020 NNT=49.3
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 一次エンドポイント(入院回避率 & QOL):有意差なし
 その他の評価項目
  ・全生存率(Figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.45-1.02)
  ・心不全による入院回避率(figure 5) HR 0.68(95% CI, 0.50-0.92)
  ・75歳未満によるサブ解析(Figure 6)
    入院回避率:HR 0.70(95% CI, 0.49-1.01)
    全生存率:HR 0.41(95% CI, 0.19-0.87)
    心不全による入院の回避率:HR0.42(95% CI, 0.24-0.75)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 Table 1によれば、NYHA>IIIの心不全が74%を占めていて、NT-proBNP値の平均が4000程と高い点が目の前の患者と異なる点である。全体的に、論文の患者の方が目の前の患者に比べて重症感がある印象。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 治療のプロトコール詳細は不明であるが、ACC/AHAガイドライン通りの治療を行うことは忠実に実行可能であろう。しかし、BNP値が高いからといってACEIやB遮断薬の増量を行うということは実臨床では行うことはないかもしれない。
 NTproBNP測定(1.3.6.12.18か月)については心不全患者であれば保険適用内で実行可能であろう。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
 75歳以上の患者群ではBNPガイド群は症状ガイド群に比べて入院回避率やQOLを改善させることなく、重大な副作用(腎機能障害や低血圧による入院)が多く出現している。74歳≒75歳であり、NTproBNPのコントロールを目標とした薬剤調整には危険を伴うだろう。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者の希望は入院せずに施設で生活すること。
 今回の論文の示す通り、BNPガイド治療で全入院回避率(特に75歳以上)について有意差がないのであればBNP検査施行の意義は限定的である。
 しかし、BNPの血液検査は患者の侵襲性をあげるとは考えない。他の検査機器(胸部レントゲンや心エコー)が使えない、在宅医療のセッティングを考慮すればNTproBNPを継続的にフォローする事自体は患者の心不全病態把握の一助となると思う。しかし、NTproBNPの値を目安に内服薬を調整することは患者に有害事象を加える可能性が高く慎重であるべきと思われる。

【開催日】
2015年11月11日(水)

【EBMの学び】脂質異常症に対するスタチン

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
2015年9月28日
【臨床状況のサマリー】
5年ぶりの市民健診でLDL203,T.Chol270を指摘された65歳女性。特に大きな既往もなく、1日40分程度散歩するなど健康には気をつけている方という自負のある方。5年前の健診では特記事項なし。兄弟でコレステロールの薬を飲んでいる人がいたため、自分もついに薬を飲まなければならないのかと不安に思いながら小生外来受診となった。診察上黄色腫や黄疸、甲状腺腫大など認めず、血糖、腎・肝機能、甲状腺機能にも大きな異常を認めなかった。喫煙なし 飲酒なし 家族歴 父;食道癌 母;心不全、ペースメーカー留置後。「投薬せずに経過をみる症例」と考えたが、今回一次文献に遡り文献上の吟味を経た意思決定を行うことにした。
P;心血管系イベントの既往のない高齢女性
I(E);スタチン投与群
C;プラゼボ投与群と比較して
O;心血管イベント発生率に差が出るか

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial. Lancet. 2006 Sep 30;368(9542):1155-63.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

P;冠動脈疾患既往のない軽~中等度(総コレステロール値220~270mg/dL)の高脂血症患者
I;食事療法+プラバスタチン(10~20mg/日)群
C;食事療法単独群
O;冠動脈疾患の発症に差が出るか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
→ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
→隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
→盲検化が      ( されている ・  されていない )←不完全
実際のT ableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
→( なっている ・ なっていない )
②解析方法はITT(intention to treat)か?
→ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【①治療効果の有無; P値を確認する】
 ※Figure1を参照 (5.3年後の結果)
  ●Primary endpointsでは冠動脈疾患、心筋梗塞、冠動脈再潅流術
  ●Secondary endpointsでは冠動脈疾患+脳梗塞、全心血管イベント
 でP<0.05となり有意差あり。
【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
  ・ RR(あるいはHR・OR)を確認する
  ・ARRとNNTを計算する
 ※Figure2を参照
  ARR=101/3966-66/3866=0.0084
  NNT=1/ARR=119(“Results”内にも記載あり)
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 P値と同様の項目で有意差あり。
 (ただし、冠動脈再潅流術の項目以外はおおよそ0.5-0.9程度に入り、幅は広い印象。)

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
 論文の対象者(Table 1)は女性の占有率が70%と高く、女性の喫煙率が低い点、コレステロールの平均値などは一致している。一方、年齢が少し若い点や高血圧や投薬例が40%弱を占めている点などは若干異なる。
 登録患者は全て病院の外来受診患者であるため、診療所の患者とは背景が異なる点もあるが、今回の症例には適用可能な点も多いと考える。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
 投薬していても、癌の発生率や総死亡に差がないこと、(発症すると致命率の高い)横紋筋融解症の発生がゼロなのはメリット。
 メバロチンの薬価も100点を下回っておりコスト面でも問題なし。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
 患者は健康意識の高い方であり、基本的には「薬による治療は最後の手段」という認識がある方だった。母親に心疾患があったことも考慮し、スタチン投与による心血管イベントのNNTを説明したところ再度投薬希望はされなかった。今後も定期的に健診は受けられる予定であり、follow可能なことは確認しつつ、次回半年後に再度フォローとした。

【開催日】
2015年10月14日(水)

脳梗塞再発予防における抗血小板薬

―文献名―
Wuxiang Xie, Fanfan Zheng, Baoliang Zhong, Xiaoyu Song, Long-Term Antiplatelet Mono- and Dual Therapies After Ischemic Stroke or Transient Ischemic Attack: Network Meta-Analysis, J Am Heart Assoc. 2015 Aug 24;4(8)

―要約―
BACKGROUND
The latest guidelines do not make clear recommendations on the selection of antiplatelet therapies for long-term secondary prevention of stroke. We aimed to integrate the available evidence to create hierarchies of the comparative efficacy and safety of long-term antiplatelet therapies after ischemic stroke or transient ischemic attack.

METHODS and RESULTS
We performed a network meta-analysis of randomized controlled trials to compare 11 antiplatelet therapies in patients with ischemic stroke or transient ischemic attack. In December 2014, we searched Medline, Embase, and the Cochrane Library database for trials. The search identified 24 randomized controlled trials including a total of 85,667 patients with antiplatelet treatments for at least 1 year. Cilostazol significantly reduced stroke recurrence in comparison with aspirin (odds ratio 0.66, 95% credible interval 0.44 to 0.92) and dipyridamole (odds ratio 0.57, 95% credible interval 0.34 to 0.95), respectively. Cilostazol also significantly reduced intracranial hemorrhage compared with aspirin, clopidogrel, terutroban, ticlopidine, aspirin plus clopidogrel, and aspirin plus dipyridamole. Aspirin plus clopidogrel could not significantly reduce stroke recurrence compared with monotherapies but caused significantly more major bleeding than all monotherapies except terutroban. The pooled estimates did not change materially in the sensitivity analyses of the primary efficacy outcome.

CONCLUSIONS
Long-term monotherapy was a better choice than long-term dual therapy, and cilostazol had the best risk–benefit profile for long-term secondary prevention after stroke or transient ischemic attack. More randomized controlled trials in non–East Asian patients are needed to determine whether long-term use of cilostazol is the best option for the prevention of recurrent stroke.

【背景】
 最新のガイドラインでは、脳梗塞の二次予防のための長期抗血小板薬の選択について、明確な推奨はしていない。我々は、利用可能なエビデンスを統合して、脳梗塞後、または一過性脳虚血発作後の長期抗血小板薬治療の効果と安全性の階層を創出することを目的とした。

【方法と結果】
 我々は、11の脳梗塞または一過性脳虚血発作の患者に対する抗血小板薬療法のランダム化比較試験についてネットワークメタ分析を行った。2014年12月、我々はMedline、Embase、Cochrane Libraryを検索した。その検索で、85,667人の少なくとも1年の抗血小板薬の治療を受けた患者を含む24のランダム化比較試験が見つかった。シロスタゾールは、アスピリン(オッズ比 0.66, 95%信頼区間 0.44 – 0.92)とジピリダモール(オッズ比 0.57, 95%信頼区間 0.34 – 0.95)と比較して著明に脳梗塞の再発を減少させた。シロスタゾールは、アスピリン、クロピドグレル、テルトロバン、チクロピジン、アスピリンとシロスタゾールの併用、アスピリンとジピリダモールの併用のそれぞれと比較して著明に頭蓋内出血を減少させた。アスピリンとクロピドグレルの併用は、単独療法と比較して著明な脳梗塞の再発を減少させることはできなかったが、テルトロバンを除くすべての単独療法と比較して主要な出血イベントを著明に増加させた。プールされた推定値は、有効性の主要な一次アウトカムの感度分析に著しく変化を与えなかった。

【結論】
 長期の単独療法は、長期の併用療法よりも良い選択であり、シロスタゾールは、脳梗塞後または一過性脳虚血発作後の再発予防にリスク対効果で最も優れていた。非東アジア系患者において脳梗塞の再発予防におけるシロスタゾールの長期使用が最も良いかどうかを決定するには、より多くのランダム化比較試験が必要である。

※ネットワークメタ分析(Network meta-analysis)とはメタ分析の一種である。通常のメタ分析は治療法Aと治療法Bを比較した臨床試験を収集し、個々の比較結果を統計的に併合する。従って、治療法Aと治療法Cや、プラセボを比較した臨床試験は分析対象とはならない。今まで分析対象外となっていた臨床試験を含めたメタ分析がネットワークメタ分析である。

※シロスタゾール:プレタール®、クロピドグレル:プラビックス®、チクロピジン:パナルジン®

【開催日】
 2015年11月4日(水)

肥満治療に対するGLP-1受容体作動薬の効果

―文献名―
Xavier Pi-Sunyer, M.D. et al. A Randomized, Controlled Trial of 3.0 mg of Liraglutide in Weight Management. N Engl J Med. 2015 Jul 2;373(1):11-22.

―要約―
【背景】
肥満は重大な健康問題を引き起こしかねない慢性疾患である。しかし、生活習慣への介入のみでは減量を維持する事は難しい。GLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(ビクトーザ○R)3.0mgの1日1回皮下注射が体重コントロールに有効であったと示された。

【方法】
2型糖尿病のない患者3,731人を対象とした二重盲検試験を56週間行った。参加者のBMIは少なくとも30以上、あるいは、脂質異常症、高血圧症(治療の有無は問わない)がある場合は少なくとも27以上。リラグルチド3.0mgを1日1回皮下注射する群(2,487人)とプラセボを1日1回皮下注射する群(1,244人)にランダムに割り付けて、両群ともに生活習慣の改善指導も行った。プライマリエンドポイントとして、体重の変化と少なくとも5%、10%以上減少した患者の比率を設定した。

【結果】
ベースラインとしては、患者の平均年齢は45.1±12.0歳、平均体重は106.2±21.4kg、平均BMIは38.3±6.4、78.5%が女性で61.2%が糖尿病になる前の状態であった。56週後の平均体重減少幅はリラグルチド群8.4±7.3kg、プラセボ群2.8±6.5kgだった(95%信頼区間 −6.0 to —5.1;P<0.001)。体重が5%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が63.2%、プラセボ群で27.1%だった(P<0.001)。体重が10%以上減少した患者の割合はリラグルチド群が33.1%、プラセボ群で10.6%だった(P<0.001)。リラグルチド群で最も頻度の高い有害事象は軽度から中等度の嘔気、下痢が報告された。重症の有害事象の発生率はリラグルチド群が6.2%、プラセボ群で5.0%だった。

【結論】
今回の試験から、リラグルチド3.0mg投与は食事療法、運動療法に補助的な役割を果たし、体重を減少させ、肥満コントロールを改善する効果がある。(ノルディスク社による支援あり)

―考察とディスカッション―
元々は2型糖尿病の治療に用いる注射薬を、用量を増やして肥満の体重コントロールに使用した臨床試験。肥満患者の減量治療の補助薬として、リラグルチドは一定の効果はありそうである。しかし、製薬会社からの支援を受けている試験でもあり、信頼性に一部疑問はある。また、日本人でここまでの肥満患者はあまりいない事を考えると、日本で同様の条件で採用される事はないかも知れない。皆さんはどのように考えますか?

【開催日】
2015年10月21日(水)

ALS患者におけるラジカットの有効性と安全性

―文献名―
KOJI ABE, YASUTO ITOYAMA. Confirmatory double-blind, parallel-group, placebo-controlled study of efficacy and safety of edaravone (MCI-186) in amyotrophic lateral sclerosis patients. Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration,2014;15:610-617

―要約―
【目的】
 ALS患者を対象に、二重盲検並行群間比較法により、ラジカット60mgを6クール投与したときの有効性及び安全性について、プラセボを対照として検討した。

【対象】
 ALS患者205名(ラジカット群101名、プラセボ群104名)
 選択基準はEl Escorial 改訂Airlie House診断基準のうち、「Definite」「Probable」「Probable-laboratory- supported」、ALS重症度分離のうち、1,2度、努力性肺活量は70%以上、罹病期間は3年以内、前観察期12週間のALSFRS-Rスコアの変化が-1~-4の患者。

【方法】
 投与開始12週前の前観察期の後、被験者をラジカット群又はプラセボ群に二重盲検下で割付け、点滴静脈内投与を6クール行った。主要評価項目はALSFRS-Rスコア、二次的な評価項目はFVC、手首・指先の力変化、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40。

【結果】
 主要評価項目であるALSFRS-Rスコアの6クール、24週間の変化量はラジカット群とプラセボ群の投与群間差は0.65±0.78で、p値は0.4108であり、有意な差を認めなかった。%FVC、手首の力、Modified Norris Scale score、ALSAQ-40についても有意な差を認めなかった。指先の力については繰り返しの分散分析において有意差を認めた。

【結論】
 ラジカット投与によってALSFRS-Rはプラセボと比べ減少は少なかったがALSにおける効果は示されなかった。

このままだとなぜラジカットが保険適応になったかは不明すぎる・・・

追加
今回の試験(検証試験 1回目 第Ⅲ相)
榎原先生①.jpg

 主要な評価項目で有意差を認めなかったが診断が確実なものや重症度が低いほうが差があると考えられたためにその後の試験(検証試験2回目 第Ⅲ相)が行われた。
榎原先生②

 2試験とも重症度1、2度の患者さんを対象ではあったが、この基準が曖昧だったため、検証的試験1回目は重症度分類3度に近い重症の患者さんが多数エントリーされ、有効性を確認できなかった一因となったと結論。そのため、検証的試験2回目はALSFRS-Rスコアが「全項目2点以上」という基準を設け、厳格に軽症の患者さんを定義し、さらに、検証的試験2回目は努力性肺活量80%以上の患者さんを対象とすることで、より軽症の患者さんを選択し、1回目と同様の試験を実施した。
 その結果、主要評価項目のALSFRS-Rスコアの低下はラジカット群とプラセボ群の投与群間差で2.49±0.76で、p値は0.0013有意な低下を認め、6か月投与時点でプラセボ投与群の4か月のスコアと同程度だった。ALSAQ-40スコアの6クール、24週間の変化量は、ラジカット群とプラセボ群の投与群間差で-8.79±4.03で、p値は0.0309であり、ALSAQ-40スコアの上昇は有意な差を認めた。

資料
ALS重症度分類
榎原先生③

ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R: The revised ALS Functional Rating Scale)
 患者への聞き取り及び実際の動作を観察して採点を行う。以下の12項目について、各項目を0~4の5段階で採点する。
榎原先生④

●ALSAQ-40
 ALSに特異的なQOL尺度
 5つのカテゴリーに割り振られた40項目の質問からなる。
 <5つのカテゴリー>
  「フィジカルな可動性(10問)」、「ADLと自立性(10問)」、「食べて飲むこと(3問)」、「コミュニケーション(7問)」、
  「感情作用(10問)」
 各質問に対し被験者が1~5点で回答し、合計スコアで評価を行う。スコアが大きいほど、QOL低下を示している。

―考察とディスカッション―
 今回読んだ文献ではラジカット投与群とプラセボでの比較では指先の力以外では有意差は無かった。さらに進めた研究で、診断が確実で重症度が軽度な方で評価項目に有意差が出たことがわかり、2カ月程度進行を遅くしている可能性があるということがわかった。しかし、具体的にどの部分の点数に差が出たのかなどについてはわからなかったため消化不良な感じは残っている。現在MFCでラジカット投与している患者さんの重症度は1~3度の患者さんであり、3度の患者さんにはあまり効果はないのかもしれない。ただALSという治癒が望めない疾患で保険適応が通った新薬であり重症度で適応が決められていないということを考えると患者さんが治療を望むことは非常に理解できる。今後もALS患者さんは訪問診療で関わっていくことが予想されるため、ラジカットの限定的な効果などを医療者側が認識しながら患者さんに寄り添っていくことが大切だと思う。

ディスカッションポイント
 ①ALS患者さんに対してラジカットを勧めますか?
 ②勧める場合はどのように説明しますか?

【開催日】
 2015年10月21日(水)

風邪とプラセボ効果

―文献名―
Barrett B, Brown R, et al. Placebo Effects and the Common Cold: A Randomized Controlled Trial. Ann Fam Med 2011;312-322.

―この文献を選んだ背景―
 伝統的に使用されてきた対症療法薬の多くが症状の緩和や有病期間を短くする効果がないことが示されている。今回、米国で伝統的に使用されている対症療法薬Echinacea(Cochraneのシステマティックレビュー1)でプラセボと有意差がなかったことが示されている)をオープンラベルとしたときの効果を盲検化したときと比較した研究を小児の風邪に関する総説を執筆中に見つけ、結果が興味深かったので紹介する。
1)Linde K, Barrett B, Wölkart K, Bauer R, Melchart D. Echinacea for pre- venting and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2006;(1):CD000530.

―要約―
【目的】
 オープンラベル化した薬剤をランダムに割り付けた場合、二重盲検化し実薬とプラセボに割り付けた場合、何も薬剤を処方しない場合の3者を比較した場合、風邪による症状の重さや期間が変わるかどうかを調べる。

【方法】
 新規発症の風邪患者でRCTを行った。参加者は4グループ(Figure1,(1)薬剤なし,(2)盲検化されたプラセボ,(3)盲検化されたechinacea(4)オープンラベルのechinacea)に割り付けられた。主要アウトカムは有病期間とarea-under-the-curve global severity、二次アウトカムは内服2日後の鼻腔洗浄液の好中球数とIL8レベルとした。

【結果】
 719の参加者のうち6名が離脱した。女性が64%,白人が88%、年齢は12歳から80歳。
○ 有病期間の平均
 7.03日(薬剤なし),6.87日(盲検化プラセボ),6.34(盲検化echinacea),6.76(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし
○ global severityスコアの平均
 286(薬剤なし),264(盲検化プラセボ),236(盲検化echinacea),258(オープンラベルechinacea)、
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
  ※ 薬剤なしと盲検化したプラセボグループの比較
    有病期間 -0.16日(95%CI -0.90 − 0.58) severity -22ポイント(95%CI -70 − 26)
  ※ 盲検化echinaceaとオープンラベルechinaceaグループの比較
    有病期間 0.42日(95%CI -0.28 − 1.12) severity 22ポイント(95%CI -19 − 63)
○ IL8と好中球数の変化の中央値
 30pg/ml/1cell(薬剤なし),39pg/ml/1cell(盲検化プラセボ),58pg/ml/2cell(盲検化echinacea),
 70pg/ml/1cell(オープンラベルechinacea)。
 グループ間の比較では統計学的に有意差なし。
○ 薬剤の服用時にechinaceaの有効性を高く見積もった(100点を「きわめて有効」とするスケールで50点以上をつけた)
 120の参加者において盲検化されたプラセボ群は薬剤なしの群と比較して有病期間は2.58日有意に短く(95%CI -4.47 − -0.68)、
 global sevirtyスコアの平均は26%低かった(−97,95%CI −249.8 – 55.8 有意差なし)。
 このサブグループにおいては盲検化echinacea群とオープンラベルのechinacea群で比較すると有病期間も重症度も違いはなかった。

【結論】
 薬剤なし群に割り付けられた群では有病期間が長くなり、症状が重くなる傾向があった(統計学的有意差はない)。
 Echinaceaの有効性を信じているサブグループで薬剤を与えられたグループでは有病期間が短くなり、症状が軽くなる傾向があった。
 これらの結果は、患者の治療に対する信念や感じ方が重要であり、医療における意志決定においては考慮されるべきであるという考え方を支持するものであった。

【開催日】
2015年10月7日(水)

【EBMの学び】IBSに対するSSRI

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2015 / 9 / 8
【臨床状況のサマリー】
 70代女性、血便を主訴として来院。Vital変化や腹痛などは認めず、CT上でも虚血性腸炎の可能性は低い印象であった。本人とも相談の上、TCS施行相当と考え後方病院へ紹介。TCS上では明らかな器質的異常は指摘されず、血便の原因は痔核によるものと推測された。
 患者は遡ること2ヶ月前より便性変化(便柱が細くなったり軟便を繰り返す)や腹部膨満感、ストレス下での放屁などで悩んでおり、(混合型)過敏性腸症候群(IBS)の疑いがあると考えられた。大建中湯、ポリフル®(ポリカルボフィル)や整腸剤の投与などを行うもいずれも改善に乏しく、結果として現在はその中でも最も効果があったと思われる大建中湯を使用して経過を見ている。
 本邦におけるIBSに特化した内服治療は、ポリフル®に代表される合成高分子化合物、イリボー®に代表される5-HT3受容体阻害薬、トランコロン®に代表される抗コリン薬が挙げられるが、劇的な効果は期待できないことも多い。諸外国では、これらの他に三環系抗うつ薬やSSRIなどが治療に用いられるケースもあり、SSRIの効果について検討された論文を検索した。
 P;(混合型)IBSが疑われる70歳代女性に対して
 I(E);SSRIを投与した場合
 C;偽薬を投与したのと比較して
 O;消化器症状の改善が得られるか
 
STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Vahedi H, Merat S, Rashidioon A, Ghoddoosi A, Malekzadeh R.
The effect of fluoxetine in patients with pain and constipation-predominant irritable bowel syndrome: a double-blind randomized-controlled study. Aliment Pharmacol Ther. 2005 Sep 1;22(5):381-5.

STEP3 論文の評価
STEP3-1 論文のPECOは患者のPECOと合致するか?
 P;RomeⅡ基準(※2005年発行の論文のため)に該当した便秘型IBS患者(年齢=34.9±10.0歳、50歳以上で初発のPt.は除外されている)
 I(E);20mg/dayのfluoxetineを12週間投与した場合
 C;偽薬を投与した場合と較べて
 O;IBS症状の数がどれくらい減少したか
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
① 研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
  →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
  →隠蔽化が      ( されている ・  されていない )
  →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない;)
   どう異なるか? 介入群の方が、女性の割合が高い
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
  →ITTが (されている  ・  されていない)

STEP3-3論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
 介入4週間目の評価で、5つの主要症状について、全てP<0.05
 主要症状数の変化について、介入2週間目の評価で、P<0.005、
 介入16週間目の評価で、P<0.001
【② 治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
 ・RR(あるいはHR・OR)を確認する
 ・ARRとNNTを計算する
 <介入16週目の評価>
 (1) 腹部不快感:RR=0.44、RRR=0.55、ARR=0.50、NNT=2
 (2) 腹部膨満感:RR=0.59、RRR=0.41、ARR=0.35、NNT=3
 (3) 硬便   :RR=0.30、RRR=0.70、ARR=0.35、NNT=3
 (4) 排便回数減少:RR=0.18、RRR=0.82、ARR=0.45、NNT=2
 (5) 便性変化 :RR=1、RRR=0、ARR=0、NNT=∞
【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 信頼区間の記載なし

STEP4 患者への適応
【① 論文の患者と、目の前の患者が、結果が適応できないほど異なっていないか?】
・本患者は混合型IBSの可能性が高く、便秘型のIBS患者を扱った本論文の患者群と完全には合致していない。
・本論文では50歳以上の患者については除外対象としており(理由は不明であるが)、70歳代の本患者に適応できない可能性がある。
【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
・先述の通り、本邦においてIBS患者への抗うつ薬の適応が認可されていないため、実際には保険病名を別につけることで処方せざるを得ず、現実的な適応には困難な点もある。
・またfluoxetineが本邦でそもそも認可されていない薬である。論文中にはパキシル®(パロキセチン)など、他のSSRIでも有効であったとの記載がある(p.384左側)。
【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
・食思不振や下痢、食道炎などの消化器症状の副作用が偽薬よりもfluoxetineでより多く報告されている。
【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
・患者は上記症状で日常生活に支障をきたしており、何らかの治療planを提示するべきと思われる。SSRIの導入にあっては、薬の特性や効果に限定的な部分があるかもしれないことを説明した上での投与となるだろう。

 

【開催日】
2015年9月9日(水)