とらわれた過去から開放させるには、どのようにアプローチしたらよいのか?

―文献名―
ビル・オハンロン著・前田泰宏監訳.可能性のある未来につながる新しい4つのアプローチ トラウマ解消のクイック・ステップ,2013

―要約―
イントロダクション
トラウマを扱っている書籍の多くは、人に与えられたダメージに焦点を置いている。そして、こういった「ダメージを受けた」人々は長くて困難な回復への道のりに直面するよう導かれる。こういった伝統的なアプローチはしばしば治療に何年も要する。

近年の脳の可塑性に関する研究で、脳は生涯を通じて変化し、進化し続けることが示された。これは年齢がたっても脳は変化し適応するということであり、脳は継続的に繰り返されるパターンに適応し、ついにはそれを規範として受け入れるということを示している。これはトラウマ治療においてよい面でもあり悪い面でもある。つまり、トラウマ治療により症状が改善される可能性を示している一方で、治療のために何度も何度もトラウマに注意を向ければ、脳の回路のなかにより深くトラウマを焼き付けることになるかもしれないという可能性を示唆しているのである。

トラウマと治療に関する神話と誤認
『神話1:トラウマを経験した人は皆、PTSDを発症する』
アメリカにおいて60.7%の男性と51.2%の女性がDSM-Ⅳの項目を満たす外傷的な出来事を少なくとも1回は経験しているが、PTSDの一般的な生涯有病率は7.8%だった(Breslau.1998)
『神話2:PTSDを発症した人はセラピーでのみそれを解消できる』
PTSDの発症後、最初の12ヶ月で症状が大きく改善していき、その後の6年間ではゆるやかに改善していく。治療した人としなかった人を比較した場合には、治療をした群ではPTSDの罹患期間が約半分になった(Kessler et al.,1995))
『神話3:トラウマを追体験させて、それを同化させるような援助を行う、長期の除反応セラピーが最も効果的なアプローチである』
研究ではある一つのアプローチがすべての人に対して役に立つという考えは支持されていない。今回のアプローチ方法がその一つである。
『神話4:トラウマはネガティブな結果しかもたらさない』
DSM-Ⅳの診断基準に合致する外傷的な出来事の結果として、成長体験の報告の方が精神障害の報告の数よりもはるかに多く、また外傷的な出来事を体験していた人のほうが体験しなかった人よりもポジティブな変化を報告していた(Tedeschi & Calhoum,2004)

4つのアプローチ
① インクルーシブセラピー(Inclusive interventions)

我々は皆、可能性に満ちた未分化な状態で人生を始め、さまざまな経験から自分自身の中で「正しいもの」「正しくないもの」を区別し、「正しいもの」を取り入れ(例:『~であるべき』)、他者と自分を区別していき「統合された自己」(アイデンティティーの形成)に至る。そのプロセスの中で、トラウマ体験をすると自分自身の諸問題やそういったトラブルを体験した部分(感情、記憶、感覚等)を分離していくことがある(悲しみを感じない、など)。しばらくはそれで問題ないのだが、社会に出た際その分離された部分が突然戻ってくることがある(例:フラッシュバック、悲しみを感じない人が突然涙がとまらなくなる形等)。そもそも分離された部分は自分自身であるため、「~であるべき」「~しなければならない」などの制限的、強制的になっている部分を承認し、包含していくアプローチが必要となる。

② 未来による牽引(Future pull)
大抵のトラウマ治療は人々を過去に向かわせる。つまり失われた体験を取り戻すために以前に戻り、それを追体験することでトラウマを解消しようとするが、人はポジティブな未来と自分の中の変化に関する青写真をすでに持っている。そのため、過去を未来に方向転換させたり、望んでいない現状を望ましい未来に言い換える(例:今までは~だったんですね、本当は~を望んでいるんですね)。

③ パターンチェンジ(Pattern changing / breaking)
トラウマ体験後の問題の顕著な特徴の1つとして「体験や行動の繰り返し」がある。トラウマ体験後の経験の何らかの規則性を見つけ、小さなパターンの変化を起こす(例:ストレスが溜まったら紙に書く、リストカットしたくなったら人形を傷つける等)

④ 再結合(Reconnecting interventions)
大抵の外傷後の問題の中心的な鍵となる特徴の1つは、解離と断絶である。トラウマのサバイバーは自分自身の感覚全般から解離することが知られている。つまり、彼らは出来事が起こっているということを頭では理解しているが、防衛反応としてそういった出来事を直接的に深く体験したり、あるいは感じたりするということができない(例:離人症)。そのため、個人やコミュニティ、自然やアートなどと再び結びつけることが有効である。
地震の期間中に誰かと一緒にいることがPTSDの防止となる(Armenian, H. At.2000)
PTSDの患者の中で、集団的治療をした人たちは、個人で治療した人たち(31.3%)よりも有意に高い率で回復した(88.3%)。

【開催日】
2014年12月10日(水)

適度な飲酒のリスクについて

―文献名―
Association between alcohol and cardiovascular disease: Mendelian randomisation analysis based on individual participant data. BMJ 2014;349:g4164 doi: 10.1136/bmj.g4164

―要約―
飲酒は様々な病気に関係することが知られている。非飲酒者と少量~中等量の飲酒者の比較観察研究で飲酒者の心血管リスクが低いことが示されていることから、適度な飲酒は心血管や脳卒中のリスクを下げると言われてきた。しかし、非飲酒群には健康状態が悪い、生活習慣、社会的因子のために飲酒できない人も含まれていると考えられる。これまでの研究でこのような交絡因子の影響を排除できていない。しかし飲酒と心血管リスクの関係を調べるRCTの実施は困難で行なわれていない。
今回、全く飲酒できない、または少量しか飲酒できない遺伝的多型を有する人とそうでない人を対象としてメンデルランダム化メタアナリシスを行なった。病歴の影響は受けないことから、交絡因子の候補の影響を小さくできると考えた。

対象:
アルコールデヒドロゲナーゼ1B(ADH1B)遺伝子の一塩基多型(rs1229984)を有する人と有さない人。(rs1229984の保有者は飲酒量が少ない。)
56件の疫学研究の261991人を分析、平均年齢58歳(26-75歳)女性が48%
心血管イベントは20259件、脳卒中10164件、2型糖尿病は14549件報告されていた。

主要アウトカム:
冠動脈疾患の罹患率と脳卒中
ADH1Brs1229984保有者と飲酒量で層別化

 ADH1Brs1229984Aアレル保有者における1週間の飲酒量(ユニットで換算)は、この多型を持たない人々に比べて17.2%(95%信頼区間15.6-18.9)少なく、大量飲酒する可能性は低く(オッズ比0.78、0.73-0.84)、禁酒していると自己申告する可能性が高かった(オッズ比1.27、1.21-1.34)。また、γGTP値も低かった(-1.8%、-3.4から-0.3)。
rs1229984Aアレル保有者の収縮期血圧は非保有者に比べて有意に低く(-0.88mmHg、-1.19から-0.56)、インターロイキン-6値は低く(対数変換した値の平均差は-5.2%、-7.8から-2.4)、腹囲は細く(-0.34cm、-0.59から-0.10)、BMIは低かった(-0.17、-0.24から-0.10)。HDLコレステロール値には、アレル保有者と非保有者の間に有意差は見られなかった。
rs1229984Aアレル保有者の冠疾患リスクは非保有者より低かった(オッズ比0.90、0.84-0.96)が、分析対象を非飲酒者に限定すると多型の影響は見られず、あらゆる飲酒者ではオッズ比は0.86(0.78-0.94)となった。飲酒量で層別化してもオッズ比に有意差は見られなかった(P=0.83)。
虚血性脳卒中リスクはrs1229984Aアレル保有者で低かった(オッズ比0.83、0.72-0.95)。

飲酒量が少なくなる遺伝子多型を保有する人々は、これを持たない人々に比べて心血管危険因子のプロファイルが良好で、冠動脈疾患リスクと虚血性脳卒中リスクは低かった。結果からは、飲酒量が少ない人々でも、さらに飲酒量を減らせば心血管リスクは低下することを示唆している。そのため適度な飲酒は心血管リスクを下げるという概念に疑問を呈すと著者は述べている。

【開催日】
2014年12月3日(水)

生まれ順という視点~自己洞察や家族志向型ケア、人財マネージメントへ

―文献名―
「相性が悪い!」 島田裕巳著 新潮新書 2003年

―要約―
<兄弟姉妹を区別する文化>
 私たち日本人は、兄と弟、姉と妹をつねに明確に区別して考えます。ところが欧米では、BrotherやSisterという言葉がありますが、兄elder brother 弟younger brotherという言葉があります。
言葉の使い方が異なる。日本の場合、自分の兄にむかって「兄さん」と呼びかけるが、欧米では「elder brother」と呼びかけることはない。John,Paulとはファーストネームで呼ぶのが普通である。兄弟や姉妹の中で上か下かあ余り意識されていない。Brother ,sisterという言葉は、修道士や修道女の間でもつかわれ、神のもとでは皆平等で同じ立場である、という考え方がある。
 中国では、兄は「ゴアーゴアー」、弟「ディーディー」姉「ジェジェ」妹「メイメイ」であって使い方は日本と同じ。韓国語では更に、兄と姉は弟からみるか妹からみるかで言い方が異なる。弟からみた兄は「ヒョン」、妹からみると「オッパ」、弟からみた姉は「ヌナ」で妹からみると「オンに」
日本、中国、韓国の東アジアの国々では、兄と弟、姉と妹をはっきり区別している。

<日常の表現として>
 二人の息子を抱える母親は、上の子どもに対しては「お兄ちゃん」と呼びかける。父親が自分の父親のことを子どもにいうときに「お父さん」といわずに「おじいさん」と呼んだりします。夫婦間でも妻が夫のことを「お父さん」と呼び、夫は妻のことを「お母さん」と呼びます。母親にとって、長男が自分の兄であるわけはありませんし、父親に取っての祖父は、こどもにとっての曾祖父になるはずです。どれもおかしな言い方なのですが、それが疑問をもたれずに使われているのは、そこに一定の規則があるからだ。「すべての家族のなかの最年少者が基準となっている」
 日本社会において、兄弟姉妹の中で何番目に生まれたかが重要になってくるのも、こうした家族や親族をどう呼ぶかという問題がかかわってきて、日常の暮らしの中でも大きな影響を与えている。
特に第一子の場合、家族内で「お兄ちゃん」「おねえちゃん」と呼ばれることが多く、自然と自分は家の立場なのだと自覚を持つようになります。それは夫婦についても「お父さん」と呼ばれる夫は、妻に対しても父親的な役割を果たすことが期待され、「お母さん」と呼ばれる妻にとっても、夫にとって母親としての役割を果たすことが求められる。クラブやバーの女性が、客から「ママさん」と呼ばれるのもその延長線上でのことでしょう。
「お兄ちゃん」と呼ばれてきた兄は、家族から離れた他人との人間関係でも、やはり兄であり、その場を仕切るようになっていく。

<そこにどういう人間関係があるか>
 上に生まれた人間は下に生まれた人間を甘やかし(面倒をみる側)、下の人間は上の人間に甘えます(面倒をみられる側)。重要なのは長男か長女かではなく、第一子か真ん中っ子か、末っ子なのかという点です。
第一子:仕切り屋、自分が思っていることでも口に出さない(プライドが許さない)、決断が唐突。
真ん中っ子:二刀流、甘える側・甘えさせる側のどちらもやれる。自意識が過剰。
末っ子:何でも口に出す、自分が考えたとおりに面倒をみようとする。言われればその通りにしてしまいがち。本音と建前の区別がうまくできないことあり。
一人っ子:妄想家

【開催日】
2014年11月19日(水)

Rivaroxabanについて

―文献名―
1) Manesh R. Patel, et al, Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation, N Engl J Med. 2011 Sep 8;365(10):883-91. doi: 10.1056/NEJMoa1009638. Epub 2011 Aug 10.
2) Masatsugu Hori, et al, Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation – the J-ROCKET AF study -, Circ J. 2012;76(9):2104-11. Epub 2012 Jun 5.
3) Masatsugu Hori, et al, Safety and efficacy of adjusted dose of rivaroxaban in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: subanalysis of J-ROCKET AF for patients with moderate renal impairment, Circ J. 2013;77(3):632-8. Epub 2012 Dec 8.

―要約―
1) Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation
BACKGROUND:
The use of warfarin reduces the rate of ischemic stroke in patients with atrial fibrillation but requires frequent monitoring and dose adjustment. Rivaroxaban, an oral factor Xa inhibitor, may provide more consistent and predictable anticoagulation than warfarin.

METHODS:
In a double-blind trial, we randomly assigned 14,264 patients with nonvalvular atrial fibrillation who were at increased risk for stroke to receive either rivaroxaban (at a daily dose of 20 mg) or dose-adjusted warfarin. The per-protocol, as-treated primary analysis was designed to determine whether rivaroxaban was noninferior to warfarin for the primary end point of stroke or systemic embolism.

RESULTS:
In the primary analysis, the primary end point occurred in 188 patients in the rivaroxaban group (1.7% per year) and in 241 in the warfarin group (2.2% per year) (hazard ratio in the rivaroxaban group, 0.79; 95% confidence interval [CI], 0.66 to 0.96; P<0.001 for noninferiority). In the intention-to-treat analysis, the primary end point occurred in 269 patients in the rivaroxaban group (2.1% per year) and in 306 patients in the warfarin group (2.4% per year) (hazard ratio, 0.88; 95% CI, 0.74 to 1.03; P<0.001 for noninferiority; P=0.12 for superiority). Major and nonmajor clinically relevant bleeding occurred in 1475 patients in the rivaroxaban group (14.9% per year) and in 1449 in the warfarin group (14.5% per year) (hazard ratio, 1.03; 95% CI, 0.96 to 1.11; P=0.44), with significant reductions in intracranial hemorrhage (0.5% vs. 0.7%, P=0.02) and fatal bleeding (0.2% vs. 0.5%, P=0.003) in the rivaroxaban group. CONCLUSIONS: In patients with atrial fibrillation, rivaroxaban was noninferior to warfarin for the prevention of stroke or systemic embolism. There was no significant between-group difference in the risk of major bleeding, although intracranial and fatal bleeding occurred less frequently in the rivaroxaban group. (Funded by Johnson & Johnson and Bayer; ROCKET AF ClinicalTrials.gov number, NCT00403767.) 2) Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation - the J-ROCKET AF study - BACKGROUND: The global ROCKET AF study evaluated once-daily rivaroxaban vs. warfarin for stroke and systemic embolism prevention in patients with atrial fibrillation (AF). A separate trial, J-ROCKET AF, compared the safety of a Japan-specific rivaroxaban dose with warfarin administered according to Japanese guidelines in Japanese patients with AF. METHODS AND RESULTS: J-ROCKET AF was a prospective, randomized, double-blind, phase III trial. Patients (n=1,280) with non-valvular AF at increased risk for stroke were randomized to receive 15 mg once-daily rivaroxaban or warfarin dose-adjusted according to Japanese guidelines. The primary objective was to determine non-inferiority of rivaroxaban against warfarin for the principal safety outcome of major and non-major clinically relevant bleeding, in the on-treatment safety population. The primary efficacy endpoint was the composite of stroke and systemic embolism. Non-inferiority of rivaroxaban to warfarin was confirmed; the rate of the principal safety outcome was 18.04% per year in rivaroxaban-treated patients and 16.42% per year in warfarin-treated patients (hazard ratio [HR] 1.11; 95% confidence interval 0.87-1.42; P<0.001 [non-inferiority]). Intracranial hemorrhage rates were 0.8% with rivaroxaban and 1.6% with warfarin. There was a strong trend for a reduction in the rate of stroke/systemic embolism with rivaroxaban vs. warfarin (HR, 0.49; P=0.050). CONCLUSIONS: J-ROCKET AF demonstrated the safety of a Japan-specific rivaroxaban dose and supports bridging the global ROCKET AF results into Japanese clinical practice. 3) Safety and efficacy of adjusted dose of rivaroxaban in Japanese patients with non-valvular atrial fibrillation: subanalysis of J-ROCKET AF for patients with moderate renal impairment BACKGROUND: In the Japanese Rivaroxaban Once-daily oral direct factor Xa inhibition Compared with vitamin K antagonism for prevention of stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation (J-ROCKET AF) study, rivaroxaban 15 mg once daily was given to patients with creatinine clearance (CrCl) ≥ 50 ml/min (preserved renal function), and was reduced to 10mg once daily in patients with CrCl 30-49 ml/min (moderate renal impairment). The aim of this subanalysis was to assess the safety and efficacy of the adjusted dose of rivaroxaban compared with warfarin in a cohort with moderate renal impairment. METHODS AND RESULTS: Compared with patients with preserved renal function, those with moderate renal impairment (22.2% of all randomized patients) had higher rates of bleeding and stroke events irrespective of study treatment. Among those with moderate renal impairment, the principal safety endpoint occurred at 27.76%/year with rivaroxaban vs. 22.85%/year with warfarin (hazard ratio [HR], 1.22; 95% confidence interval [CI]: 0.78-1.91) and the rate of the primary efficacy endpoint was 2.77%/year vs. 3.34%/year (HR, 0.82; 95% CI: 0.25-2.69), respectively. There were no significant interactions between renal function and study treatment in the principal safety and the primary efficacy endpoints (P=0.628, 0.279 for both interactions, respectively). CONCLUSIONS: The safety and efficacy of rivaroxaban vs. warfarin were consistent in patients with moderate renal impairment and preserved renal function. 【開催日】 2014年11月19日(水)

家庭医のトレーニングにおける核となる技術

―文献名―
Stephen J. Wetmore, et al. Defining core procedure skills for Canadian family medicine training. Can Fam Physician 2005;51:1364-1365.

―この文献を選んだ背景―
寿都では、寿都町民の健康を守るために我々家庭医に求められる事は何かという壮大な命題から、様々な課題、研究テーマを模索している。その中で、我々家庭医に求められている医療行為(手技)は何か、郡部や都市部、外来や入院、訪問などの様々なセッティングでの違いはあるのかということに興味を持ち、現在、文献を調べている。その中で、少し古いが、その事に関する文献を見つけたので紹介する。

―要約―
【目的】
家庭医療のトレーニングに適した核となる医療行為のリストの作成

【デザイン】
デルファイ法を用いた郵送、あるいはEメールでの調査

【セッティング】
カナダの無作為に選ばれた家庭医療クリニック

【参加者】
都市部、小さな町、郡部診療の家庭医、学術の家庭医で。3~36年の家庭医としての経験がある家庭医

【介入】
カナダの家庭医療トレーニングプログラムの卒業生が学び、彼らのコミュニティでその医療行為をうまく行う事が出来る事を期待されている158の医療行為を評価する。家庭医療のトレーニングに適した核となる医療行為のリストの作成。2つ目の調査では、最初の調査で得られた核となる医療行為と、さらに高度な医療行為を評価する。

【メインアウトカム】
包括的な技術リストに関する医師の意見

【結果】
22人の家庭医が最初の調査に回答(回答率:92%)、14人が2つ目の調査に回答(回答率:58%)した。65の核となる医療行為と15の高度な医療行為が同定された。郡部診療の家庭医や小さな町の家庭医の方が都市部の家庭医よりもより多くの医療行為が核となるリストにランクされ、実行されていた。核となるリストに挙げられた医療行為に対する家庭医の同意は55%から100%、高度な医療行為に対する家庭医の同意は50%から64%であった。核となるリストに挙げられた医療行為のうち55の医療行為が70%以上の参加者で同意が得られた。

【結論】
新しく家庭医になる医師が彼らのコミュニティで行う医療行為を具体化することの重要性に関して、カナダの家庭医の意見として、医療行為のリストが示された。医療行為のリストは家庭医療プログラムの評価と医療行為の技術の指導のさらなる改善の助けとなるであろう。

【開催日】
2014年11月12日(水)

末期癌患者の在宅死の実現に影響を与える要因

―文献名―
S.Fukui, et.al.Late referrals to home palliative care service affecting death at home in advanced cancer patients in Japan: a nationwide survey.Annals of Oncology 2011;22:2113-2120.

―要約―
【背景】
多くの患者が在宅での死を希望しながら希望した場で死を迎えられていない。

【目的】
病院から在宅への紹介のタイミングに焦点を当て、在宅緩和ケアを受ける患者の死亡場所に影響を与える要素を明らかにする。

【方法】
日本全国の在宅ケア施設から無作為に選ばれた1000施設(訪問看護)に直近の在宅緩和ケア患者1名について回答を依頼する質問紙を用いた横断研究。合計568(名の患者について)の回答が解析された(有効回答率は69。1%)。

【結果】
多変量ロジスティック回帰分析により以下が在宅緩和ケアの死亡場所に影響を与えることが明らかになった(Table3 表示)。
(1) 患者特性
家族介護・看護者が在宅ケアを希望していること、家族介護・看護者が娘か義理の娘であること、紹介時の身体機能が完全に寝たきりであること
(2) 病院における退院前のサポート
早期の紹介(退院前8日以上)、病院のスタッフによる退院し在宅で生活し亡くなることに関する明解な説明
(3) 在宅ケアへ移行後のサポート
在宅緩和ケアチームに含まれる医師が(病院医ではなく)家庭医であること、医師や看護師が患者に対して24時間の支援を保証する契約を結ぶこと、退院後最初の1週間、訪問看護師が3回以上医師と訪問すること

【結論】
病院側のスタッフによる早期かつ丁寧にコーディネートされた円滑に機能する退院支援システムと在宅ケアチームによる退院直後の質の高い支援は患者の在宅死を増やす可能性がある。

【開催日】
2014年11月5日(水)

閉経前女性における中間尿培養と急性膀胱炎

―文献名―
Voided Midstream Urine Culture and Acute Cystitis in Premenopausal Women engl j med 369;20 nejm.org november 14, 2013

―要約―
【背景】
急性単純性膀胱炎の原因は、自然排尿中間尿の培養に基づいて判断されるが、培養結果について、とくにグラム陽性菌の増殖が認められる場合に解釈の指針となるデータはほとんどない。

【方法】
膀胱炎の症状を呈する 18~49 歳の女性に中間尿検体を提出してもらい、その後尿道カテーテルを挿入して培養用の尿(カテーテル尿)を採取した。これらのペア検体において、菌種とコロニー数を比較した。主要評価項目は、中間尿中細菌の陽性適中率および陰性適中率の比較とし、カテーテル尿中の細菌の有無を対照に用いた。

【結果】
女性226例の膀胱炎エピソード236件を解析した、評価しえたのは中間尿とカテーテル尿のペア検体 202 組であった。培養で尿路感染症の起因菌が認められたのは、カテーテル尿142検体(70%)、中間尿157検体(78%)であり、カテーテル尿4 検体では尿路感染症の起因菌が 1 種類以上認められた。間尿における大腸菌(Escherichia coli)の存在は、ごく少数であっても膀胱内細菌尿の強い予測因子であり、102 コロニー形成単位(CFU)/mL の陽性適中率は 93%(Spearman の r=0.944)であった。これに対して、中間尿における腸球菌(培養の 10%)と B 群連鎖球菌(培養の 12%)からは、コロニー数を問わず、膀胱内細菌尿は予測されなかった(Spearman のr=0.322 [腸球菌],0.272 [B 群連鎖球菌])。中間尿中に腸球菌、B 群連鎖球菌、あるいはその両方が検出された 41 件のエピソードのうち、カテーテル尿の培養により大腸菌の増殖が認められたのは61%であった。

【結論】
急性単純性膀胱炎を起こした健常閉経前女性において、自然排尿中間尿の培養により、膀胱内の大腸菌が正確に証明されたが、腸球菌や B 群連鎖球菌は証明されなかった。腸球菌や B 型連鎖球菌は大腸菌とともに分離されることが多いが、それら自体が膀胱炎を引き起こすことはまれであると考えられる。(米国国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所から研究助成を受けた。)

【開催日】
2014年11月5日(水)

終末期における、家庭医の認められた役割 ~入院の予防とガイド~

―文献名―
Thijs Reyniers .The Family Physician’s Perceived Role in Preventing and Guiding Hospital Admissions at the End of Life: A Focus Group Study.Annals of Family Medicine.2014;Vol12:441-446.

―要約―
【目的】
家庭医は終末期ケアを提供する際に、そして終末期の患者が住み慣れた環境で亡くなっていく際に重要な役割を担っている。この研究の目的は、終末期における、入院を予防したり進めていったりする際の役割と困難さについての家庭医の認識を探る事である。

【方法】
5つのフォーカスグループが開かれた。参加した家庭医はベルリンの家庭医で39人。 議論はテープ起こしされ、constant comparative approach※1で分析された。

【結果】
終末期における、入院の予防と案内での5つの重要な役割が分かった。①未来のシナリオを予想するケアの計画者; ②助言するという形での急変時の決断をする役割;③終末期ケアの提供者(これは能力と態度が重要である);④特に急変時に対応できるという支援の提供者;⑤総合的な責任を担う意思決定者

【結論】
終末期における入院の予防と案内の際、家庭医は多様で複雑な役割と困難さに直面する。 病院医療へのゲートキーパーとして家庭医の役割を向上させたり、家庭医にもっと終末期ケアのトレーニングをさせたり、家庭医をサポートする方法を発展・拡大すれば、終末期における入院の割合を減らせるかもしれない。

※1:constant comparative approach;データの収集,コーディングとカテゴリ化,理論構築の作業を、データ収集ごとに分析の結果を絶えず比較し,それをまたデータ収集に反映することを繰り返す

―考察とディスカッション―
この研究で導き出された5つの役割は、どれも納得できるものであった。あくまで終末期における「入院」に関わる家庭医の役割ではあるが、かなりの部分が網羅されていると思われる。

①皆さんはこの結果を見て納得できるか?
②終末期ケアにおける家庭医の役割として、皆さんが抱えている悩み、疑問はどんなものがあるか?
③「終末期ケアにおける家庭医の役割は?」というクリニカルクエッションに対し、この研究に更に上乗せするとしたら、どのような切り口で研究を構成していくか?

【開催日】
2014年10月22日(水)

情動の敏捷性

―文献名―
スーザン・デイビッド,リスティーナ・コングルトン.不安や疑念と向き合うスキル ガティブな感情をコントロールする法.ハーバード・ビジネス・レビュー10月号 p118-125

―要約―
 物事を肯定的に考え、明るく振る舞ったほうがよいと思っていても、胸の内では批判や疑念、不安など否定的な考えや感情が生まれてくるものだ。それ自体は健全な心の働きだが、問題は否定的感情に囚われ、がんじがらめになることだ。この点において、優れたリーダーは自分の思考や感情をうまく制御する「情動の敏捷性」(emotional agility)を身につけている。このスキルを養うための認知行動療法に基づく4つの方法−自分の思考パターンを認識する、湧き起こる考えや感情に名前をつける、それらを受け入れる、価値観に基づいて行動する−について論じる。
 社会通念上、やっかいな考えや感情は職場では排除すべきものとされている。経営幹部、とりわけリーダーは感情を表に出さず平然としているか、明るく振る舞うかしなければならない。自信をみなぎらせ、胸の内に湧き起こるいかなる否定的思考や感情も振り払うべきなのである。
 しかし、これは人間の本質に反することだ。健全な人間なら、だれでも胸の内でさまざまな考えや感情が生まれるし、批判や疑念、不安も生じる。これは単に、我々の心が本来の機能を果たそうとしているだけである。つまり、先を見通し、問題を解決し、落とし穴となりそうなものを避けようとしているのだ。
 優れたリーダーたちは自分の内側で起きていることを鵜呑みにしたり押し殺そうとしたりすることはない。むしろそれらに気を配り、自分の価値観に基づいた生産的な方法で向き合う。すなわち、我々が呼ぶところの「情動の敏捷性」を養っているのだ。

(1) 自分のパターンに気づく
 情動の敏捷性を養う第一段階は、内なる考えや感情に囚われたら、それに気づくことである。これは難しいが、すぐにわかる手がかりがある。一つは思考が硬直的になり、堂々めぐりすることだ。また、自分の思考が繰り返し語る内容に覚えがあり、まるで過去の経験が甦ったかのように感じられる。何かを変えようとする前に、自分が袋小路に迷い込んでいることに気づかなければならない。

(2) 自分の考えや感情に名前をつける
 自分の考えや感情に囚われると、それにばかり気を取られて、頭がいっぱいになる。その考えや感情を吟味する余裕がなくなってしまうのだ。自分の置かれている状況をより客観的に検討するための一つの戦略として、名前をつけるというシンプルな作業が役立つかもしれない。スペードを「スペード」と呼ぶように、湧き上がってきた考えを「考え」、感情を「感情」と名づけるのである。
 たとえば、「同僚が間違っている。彼は頭にくる」という思いが込み上げてきたら、「私は同僚が間違っているという考えを持ち、怒りを感じている」とする。名前をつけることで、自分の考えや感情が、ありのままに捉えられるようになる。つまり、今後役に立つかどうかはわからない一時的なデータ・ソースとなる。

(3) 自分の考えや感情を受け入れる
 制御の反対は受容である。あらゆる考えに逐一反応したり、否定的な思いに甘んじたりせずに、自分の考えや気持ちに心を開いて向き合い、注意を向け、それを味わうようにする。ゆったりと深呼吸を10回繰り返し、その瞬間に起きていることに注目するとよい。
 こうすることで気持ちは楽になるが、必ずしも満足感が得られるとは限らない。それどころか、いかに自分が取り乱しているかを身に染みて感じることもあるだろう。大事なのは、自分自身(そして他者)に思いやりの気持ちを示し、現状が実際にどうなっているかを吟味することである。自分の内と外で、何が起きているのだろうか。

(4) 価値観に基づいて行動する
 やっかいな考えや感情から解放されると、選択肢が広がる。自分の価値観に即して行動することを決められるようになるのだ。
 我々はリーダーたちに、実効可能性(workability)という概念に注目することを勧めている。あなたの対応は、あなた自身やあなたの組織に長期的にも短期的にもメリットをもたらすか。それは、全体的な目的を前進させる方向に人々を導くうえで助けになるか。あなたは、何よりもなりたかったリーダーや、何よりも送りたいと思っていた人生に向かって前進しているだろうか。
 頭のなかで思考はたえず流れ、気持ちは天気のように移り変わる。だが、価値観はいついかなる状況でも指針とすることができる。

やっかいな考えや感情を遮断することは不可能である。優れたリーダーたちは内側で起きていることに気づいているが、それに囚われてはいない。彼らは内なる資源を解き放つ術を心得ており、自身の価値観に即した行動に全力を傾けている。

【開催日】
2014年10月22日(水)

どんな組織にもある2つの欠陥

―文献名―
ジョン・P・コッター.村井章子 訳.「企業変革の革新」.150-194.日経BP社.2009

―この文献を選んだ背景-
新しい組織で新しいことをやるということは、つまり変革を手動するということである。このテーマを意識するようになり「適応のリーダーシップ」(ハイフェッツ)や「変革のリーダーシップ」(コッター)を参考にしていたが、コッターが提唱する「危機感」についての考え方は、イノベーションを起こせずに廃れていったほとんどの組織にとってあてはまるのではないかと思われる。こうした概念を企業転落の予防線として知っておくことは、あらゆるリーダーにとって重要と考え、この場で共有することとした。

―要約―
企業変革のプロセスの第一段階は「危機感を生み出す」ことである(※詳細はコッターの企業変革の8段階を参照)が、ほとんどの組織がこの第一段階でつまずいている。本当の危機感を理解するためには、その反対の概念を知っておくとよい。「自己満足」と「偽の危機感」が、それである。

1.自己満足
 ■自己満足はなぜ生まれるのか?:
過去の成功体験から生まれることがほとんど。
 ■自己満足するとどう考えるようになるか?:
自分が自己満足に陥っているとはまず考えない。「やるべきことは自分が一番よく知っている」「やるべきことはわかっているが、しかし容易ではない」「自分はやるべきことをやっているが、上手くいかないのは他に(上司に、他部門に、競合に)問題があるせいだ」と考える。
 ■自己満足するとどう感じるようになるか?:
変化を恐れ、現状に執着する。
 ■自己満足すると、どう行動するようになるか?:
言葉ではなく行動にはっきり現れる。「このままでいい」と思っているので、外からの脅威を見逃すし、新たな機会を探そうとしない。関心の対象が内向きになり、変化のスピードが鈍感になる。過去に上手にいった事をいつまでも続けようとする。

2.偽の危機感
 ■偽の危機感はなぜ生まれるのか?:
失敗経験または、現実の危機の重圧から生まれることがほとんど。
 ■偽の危機感を抱くとどのように考えるようになるか?:
混乱し、思考停止に陥る。経営陣や上司がいたずらに危機感を煽っていると考えたりする。
 ■偽の危機感を抱くと、どう感じるようになるか?:
不安(自分はこの先どうなるのだろう)や恐れ(こうなったのは誰のせいだ)を感じ、焦って行動する結果、疲労感や徒労感を覚える。
 ■偽の危機感を抱くと、どう行動するようになるか?:
思いつくままに次々に行動に移す。一見すると精力的に活動しているため、本当の危機感に基づく行動と取り違えやすい。しかし偽の危機感に駆られた行動は「行動のための行動」であって、よい結果に結びつかないことがきわめて多い。会議に次ぐ会議で疲れ切る。組織にとって重大な脅威や有望な機会にフォーカスするのではなく、他人を攻撃したり保身に走ったりする。

自己満足と偽の危機感を突き止めるチェックリスト
✓重要な事柄を経営陣がほとんど関与しないタスクフォースに任せたりしていないか?
✓重要な取り組みをはじめようというときに、関係者のスケジュール調整がつかないということがないか?
✓社内の裏工作やお役所的な事務手続きで重要なイニシアチブが滞っているのに、そのまま放置されていないか?
✓重大な問題に関する会議で、何も決まらずに先送りにされることはないか?
✓議論が社内の人事など内向きなことに終始し、市場・技術・競争等が話題に上らないということはないか?
✓会議に次ぐ会議で時間をとられ、大事なことがおろそかになったりチャンスを逃したりしていないか?
✓脅威や機会の存在を示すデータに対し、偏った事実や断片的な事実に基づく議論が展開され、最終的にそちらが優勢になることはないか?
✓過去の失敗から学ぶのではなく、過去の失敗を盾にとって新たな試みが阻害されることはないか?
✓真剣な議論の最中に、皮肉なジョークやしらけた発言が飛び出すことはないか?
✓重要なイニシアチブの一環として割り当てられた仕事が、中途半端に終わったり形だけになったりしていないか?

―考察とディスカッション-
ハイフェッツが提唱する「適応のリーダーシップ」では、リーダーシップは「人々を困難な仕事に向き合わせること」であるとしている。困難な仕事に向き合うという作業については、メンバーはもとより、リーダー自身にも重荷を強いるとこになる。さて、リーダーが本当に必要な作業に向き合えていないとすれば、そこは自己満足や偽の危機感が存在する可能性が少なくないと考えるが、あなたの組織ではどうだろうか?

【質問】
「あなたが関わる組織は、変わるべきですか?変わらない出来ですか?」
「変えるとすれば、何を変えるべきですか?その意見は組織の中でどのようにみなされていますか?」
「あなたは本当に必要な作業に、向き合えていますか?向き合えていないとすれば、それはなぜですか?その理由は過去の経験の影響をどの程度受けていますか?その過去の経験はいつまでも成り立つものですか?」
「本当に必要な作業に向き合うことで、何を為しえることができ、それにはどのような代償を伴いますか?」
「あなたの周囲の人間は、あなたが本当に必要な作業に向き合っていないと思っていませんか?周囲のどんな行動からそれを読み取ることができますか?」

【開催日】
2014年10月15日(水)