高齢者へのベンゾジアゼピン処方を減らす方法

―文献名-
Donovan T.Maust, Linda Takamine et al. Strategies Associated With Reducing Benzodiazepine Prescribing to Older Adults: A Mixed Methods Study. Ann Fam Med. 2022;20:328-335.

―要約-
【イントロダクションと研究の目的】
高齢者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)の安全性の問題は30年以上も前から知られている。 BZD処方を減らす様々な介入が行われてきたが、米国におけるBZDの使用量は横ばいが続いているが、米国のある退役軍人(VA)の団体の高齢者ではBZDの処方を2013年から2017年にかけて約1/2にまで減らしたという成功事例もある。この期間はVAPDSIという向精神薬の安全性と効果に関するQI活動が行われていた。その活動のフェーズ2(2015-2017)では1/3の医療機関が特に高齢者のBZD処方を減らすことを優先して取り組んだ。
この研究ではVAの医療機関内で適用された現実世界におけるBZD処方を減らす取り組みを調べるためにデザインされた。 第一に量的手法を用いてBZD処方減少というアウトカムにより各医療機関の順位付けを行った。BZD処方減に優先的に取り組む医療機関(priority facilities)がよりBZD処方の減少幅が大きいという仮説を立てた。 第二に量的研究の結果にある背景を知るために質的手法を用い、各医療機関で行われた具体的なBZD処方を減らすための方法を探った。

【方法】
量的手法の部
Veterans Health Administration Corporate Data Warehouseというデータベースを用いてVAPDSIのフェーズ2の期間BZDの長期使用者のコホートを作成した。各医療機関のBZD処方を患者1人、1日当たりのロラゼパム量に換算し経時的に計測。医療機関をBZD処方減に優先的に取り組むpriority facilitiesとnonpriority facilitiesに分類し後ほど結果の項で示すようなグラフに表した。
質的手法の部
量的手法の部で高い結果を得た医療機関(high-performing facilities)と低い結果にとどまった施設(low-performing facilities)複数をインタビュー調査の対象とした。医療機関選定には多様性を持たせるため施設規模や地理的な位置も考慮した。当初はpriority facilities から6施設、nonpriority facilitiesから6施設選定する意図があったが、その仮説に反して複数のnonpriority facilitiesが高順位を獲得しており、5施設加えてインタビューを行う事とした。各医療機関のPDSIの代表者に電話での半構造化インタビューを行い、BZD減量のためにどのような方法をとりそれはなぜ採用されたのか、障壁は何だったのかなどの情報をちょうしゅした.

【結果】
Table1:   患者の情報。
Table2:   全体の結果。
Figure1A: 医療機関毎のBZD処方の減少幅と順位をグラフ化したもの。
(Priority facility のみならず nonpriority facilityも上位にたくさん並んでいることが注目点)
Figure1B: インタビュー調査に選定された施設のみを表示したもの。
Table3:   インタビュー調査に選定された施設における取り組み。質的手法の部においてBZD処方減に積極的
に取り組んでいるかどうか、ではなく減量のためにどのような手法を選択しているのかで
high-performing facilitiesとなるかlow-performing facilitiesとなるかが分かれることが
示された。本研究ではそれを受動的手法(Passive Strategies)と能動的手法
(Active Strategies)とに分けた。

【ディスカッション】
本研究の限界
・ RCTではないため、特定の手法を用いることが医療機関の成果に帰する、という述べ方はできない。
・ 量的手法の部では地域の現場で観察されたBZDを計測したわけではないため、真に患者のBZD暴露が減ったかどうかを反映していない可能性がある。
・ 長期間のケアにおけるBZD処方を考慮していない。
・ 各医療機関のPDSI代表者にインタビューしたため、最前線の現場のスタッフが経験している手法を完全II反映していない可能性がある。
・ 退役軍人という集団で行った研究であり、この結果が非退役軍人のヘルスシステムや若い患者にまで一般化できるかは不明である。

【開催日】2022年11月2日(水)

生活習慣と非認知症余命の関係

-文献名-
Klodian Dhana, et al. Healthy lifestyle and life expectancy with and without Alzheimer’s dementia: population based cohort study. BMJ. 2022; 377:e068390. (doi: 10.1136/bmj-2021-068390)

-要約-
Introduction:
 近年、生活習慣の改善によるアルツハイマー型認知症(AD )の予防が注目されているが、これは生活習慣が認知機能の低下を遅らせ、ADのリスクを低減する可能性があるデータが増えてきたことに起因する
 しかし、良い生活習慣は認知症リスクの低減だけでなく寿命の延長にもつながり、寿命が延びれば高齢者が増える。認知症のリスクは年齢が上がるにつれて指数関数的に増加する
 ライフスタイルへの介入によって、ADを遅らせることは可能かもしれないが、全体の有病率や認知症とともに生きる年数は変わらないか、むしろ増えるかもしれない
 そうであれば、医療専門家、政策立案者等は将来の医療費とニーズを十分に計画する必要がある

Method
<研究デザイン、セッティング、ポピュレーション>
 本研究は、一般集団におけるアルツハイマー型認知症の危険因子を評価するためにデザインされた前向き集団ベースコホート研 究 で あるChicago Health and Aging Project(CHAP)内で行われた
– 1993年から2012年の間に、シカゴ南部に住む65歳以上全員が対象になり、全対象者の約78.7%の6,157名がenrollされ、2000年にsuccessive cohortsで4,645名が追加。Totalで10,802名がenrollされた
 認知機能評価は3年毎に最大6回実施され、AD freeはin homeインタビューと臨床評価の結果認定された
 今回の解析では2,110名のAD freeと339名のAD患者のtotal 2449名が対象となった。

<生活習慣因子のアセスメント>
 5つの生活習慣因子(①食事(Mediterranean-DASH Diet Intervention for Neurodegenerative Delay[MIND]食事スコア)、②認知的活動、③中~強度の身体活動、④禁煙、⑤中程度以下の飲酒)について、有する場合は1点, 有しない場合は0点でtotal 5点でスコアリング
– ①食事は、MIND score 上位40%(概ねMIND score >7.5)を1点とした
– ②認知活動は、過去~現在の読書、美術館訪問、カードゲーム、ボードゲーム(checkers)、クロスワード、パズルからなるcognitive activity scoreに基づいて、上位40%以上を1点とした
– ③身体活動はウォーキング、ガーデニング、体操、自転車、水泳である。週150分以上で1点
– ④喫煙については、今吸っていなければ1点
– ⑤飲酒は、男性は30g /日以下、女性は15g /日以下で1点(缶ビールなら2本or 1本)

<統計学的分析>
 Multistate life tableを用いた分析を行った
– AD free→AD、AD free→death、AD→deathの3つのそれぞれのtransitionパターンについて、生活習慣毎の男女別ハザード比を生存分析で分析
– 回帰モデルは年齢、人種、配偶者の有無、教育、APOE ε4変異の有無、併存疾患で調整
– 全人口に対する生命表と 、健康的な生活習慣因子の数(0~1、2~3、4~5点)ごとに3つの生命表を作成

<アルツハイマー型認知症の診断>
 Cognitive performance testの 2つ以上の機能の障害と、神経科医が判断する認知機能の低下がADの診断に必要とした
 AD診断は、NINCDS(National institute of Neurological and Communicative Disorders and Stroke)およびADRDA(the Alzheimer’s Disease and Related Disorders Association)のprobable Alzheimer’s diseaseの基準により判定


 アルツハイマー型認知症がある場合とない 場合の女性および男性の平均余命

(Martha C.M. et al., Alzheimers Dement. 2015 Sep; 11(9): 1015–1022. doi: 10.1016/j.jalz.2015.04.011)

Result

Discussion
 本研究は、生活習慣因子の余命だけでなく非認知症余命に与える影響を考慮するための定量的データを供給するという意味で価値がある
 既存研究で教育レベルの高い人の非認知症余命が長いというstudyもあるが、今回は教育レベルで調整を行った上で、生活習慣等のリスクファクターの非認知症余命への影響に言及した論文であることも特徴
 Limitationとしては、①生活習慣因子の評価がbaselineしかできておらず、フォローアップ中には行われていないため、生活習慣のその後の変化や、認知症による生活習慣の変化を捉えられていない、②不健康な人はstudyに参加しなかったり参加までに死亡している頻度が多いと考えられ、不健康な生活習慣をもつ人々のpopulationを過小評価している可能性、③生活習慣の評価は自己申告制であること、等がある

【開催日】2022年10月12日(水)

高齢者における目標血圧のランダム化試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Zhang W, Zhang S, Deng Y,et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385(14):1268-1279.

-要約-
【背景】高齢の高血圧患者において、心血管リスクを低減するための適切な収縮期血圧の目標値は、依然として不明である。世界的な高齢化に伴い、恒例の高血圧患者における収縮期血圧の治療目標値を決定することは研究の争点となっているが、高齢者における収縮期血圧の目標値に関しては各国のガイドラインでは依然として移管していない。75歳以上の患者でもSPRINT試験において集中的な血圧コントロールにより心血管疾患の予防効果が観察されたほか、メタアナリシスでは収縮期血圧の目標値を130mmHgとすることで高リスク患者では心血管イベント及び死亡リスクが減少することが示された以峰で、高齢者における収縮期血圧の130mmHg未満への引き下げは慎重に行うべきだと示唆されている。
【方法】多施設共同無作為化比較試験(STEP試験:Strategy of Blood Pressure Intervation in the Elderly Hyper-tensive Patients)において,60~80歳の中国人高血圧患者を、収縮期血圧の目標値を110~130mmHg(集中治療)または130~150mmHg(標準治療)に無作為に割り付け、フォローアップ期間を4年と計画した。1、2、3カ月後にフォローアップの診察をうけ、その後は予定の48カ月までは3カ月毎で診察を受けることとした。薬剤調整は診察室血圧の測定に基づき行われた。一方で家庭血圧測定も実施し、スマートフォンアプリによる血圧管理効果も検証した。主要アウトカムは、脳卒中、急性冠症候群(急性心筋梗塞および不安定狭心症による入院)、急性虚血性心不全、冠動脈再灌流、心房細動、心血管系疾患が原因による死亡の複合とした。心血管疾患の10年リスクはFramingham Risk scoreを用いて推定した。

【結果】 対象となった9624例のうち、1113人(11.6%)が除外、8511例が試験に登録され、4243例が集中治療群に、4268例が標準治療群に無作為に割り付けられた。試験終了までに234例(2.7%)が追跡不能となった。患者のうち19.1%が糖尿病の既往があり、6.3%が心血管疾患の既往あり、64.8%がフラミンガムリスクスコア15%以上だった。1年後の平均収縮期血圧は、集中治療群で127.5mmHg、標準治療群で135.3mmHgであった。中央値3.34年の追跡期間中に、一次アウトカムイベントは集中治療群147例(3.5%)に対して、標準治療群196例(4.6%)に発生した(ハザード比,0.74;95%信頼区間[CI],0.60~0.92;P=0.007)。主要転帰の個々の要素についても、集中治療群が有利であった。脳卒中のハザード比は 0.67(95% CI,0.47~0.97)、急性冠症候群は 0.67(95% CI,0.47~0.97) であった。急性心不全 0.27(95% CI, 0.08~0.98) 、冠動脈再灌流 0.69(95% CI, 0.40~1.18) 、心房細動 0.96(95% CI, 0.55~1.68) 、心血管死 0.72(95% CI, 0.39~1.32 )であった。安全性および腎機能に関する転帰は,低血圧の発生率が集中治療群で高かった(3.4%vs2.6%、P=0.03)ことを除き,両群間に有意差はなかった。

【ディスカッション】高血圧の集中治療は、心血管ベントの発生を有意に減少させ、ほとんどの副次的転帰についても良好な結果が得られた。一方であらゆる原因による死亡リスクは有意差は無かった。STEP試験もSPRINT試験はともに集中的な血圧コントロールが心血管系疾患の予防に有効であったが、両試験に大きな相違点がある。SPRINTでは診察室血圧は自動化されたシステムで行われすべてのプロセスで試験担当者は立ち会わなかったが、STEPではオシロメトリック電子血圧計を使用し訓練を受けたスタッフが診察室で血圧測定した。またSPRINTでは糖尿病患者は除外されている(髙石注:50歳以上の心血管リスク因子を有する非糖尿病患者を対象に、強化療法(目標SBP<120mmHg)と標準療法(目標SBP<140mmHg)とを比較)。両試験は脳卒中既往者を除外している。STEP試験とSPRINT試験のあらゆる原因による死亡や心血管死亡リスクの差は、試験の意義と適格基準、血圧の目標値、地理的位置、試験集団の人種的・民族的背景の違いによって部分的に説明されるかもしれない。STEP試験はサンプルサイズが大きく、慢性疾患を併せ持つ多様な患者層、高い追跡調査率、家庭血圧のモニタリングの使用などが長所である。試験の限界は中国の人口の90%以上を占める漢民族のみを対象としていること。今後は民族による無作為化の層別化が課題だろう。またFramingham Risk scoreは博仁を対象に作成されており、中国人成人の心血管系リスクを過大評価する可能性がある。
【結論】高齢の高血圧患者において,収縮期血圧の目標値を110~130mmHg未する集中治療は,130~150mmHg未満とする標準治療よりも心血管イベントの発生率が低いことが示された。


Figure 1. Screening, Randomization, and Follow-up.
介入を中止した患者は,収縮期血圧の目標値や降圧剤に関連する副作用のため試験介入を中止したが,追跡調査には参加した。追跡不能となった患者は、連絡が途絶え、ある追跡訪問から試験終了まで主要アウトカムに関するデータが確認されなかったものである。データの解析はITTアプローチに基づいて行われた。追跡不能となった患者も解析に含め、データは最後の追跡訪問の時点で打ち切った。

Figure 2. OfficeSystolic Blood Pressure Measurements.
平均投薬回数は、患者1人あたりの各診察時に投与された血圧降下剤の数に基づいている。

Figure 3. Cumulative Incidence for the Primary Outcome.
主要転帰は,脳卒中,急性冠症候群,急性心不全,冠動脈再灌流,心房細動,心血管系原因による死亡の複合とした。Fine-Gray 分布ハザードモデルを用いて計算し,臨床施設を調整。挿入図は、同じデータを拡大したY軸である。

【開催日】2022年3月2日(水)

Inappropriate treatments for nursing home patients at the end of life / May 2021

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

―文献名―
Honinx E, Van den Block L, Piers R, et al. Potentially Inappropriate Treatments at the End of Life in Nursing Home Residents: Findings From the PACE Cross-Sectional Study in Six European Countries.J Pain Symptom Manage. 2021;61(4):732-742.e1. doi:10.1016/j.jpainsymman.2020.09.001

―要約―
Introduction
ヨーロッパでは、65歳以上の高齢者の最大38%が老人ホームで亡くなっている。ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランドの老人ホームでPACE(Palliative Care for Older、高齢者のための緩和ケア)の横断的研究を行った。

目的
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合を推定し、国による違いを分析すること。

Method
研究デザインとサンプリング
老人ホームの死亡した入居者を対象とした横断的な調査を、2015年に6つのヨーロッパの国(ベルギー、イギリス、フィンランド、イタリア、オランダ、ポーランド)で、比例層化無作為抽出法を用いて実施した。各国の老人ホームは、地域(州やその他の大きな地域)、種類、ベッド数(国の中央値以上/以下)で層別され、国全体をカバーするように無作為にサンプリングされました。

データ収集
過去3カ月間に死亡した入居者の概要と、それぞれの主要な回答者(スタッフ、すなわち、ケアに最も関与している看護師/ケアアシスタント、管理者/運営者、GP)のリストを各施設が提供した。これらの人々には、匿名コードと、完全な匿名性と守秘性を保証する添付文書が付いた紙のアンケート用紙が送られ、アンケート用紙はエクセルファイルを使ってモニターする研究者に直接返却された。自分が知っている限りで、これらの治療が人生の最後の週に行われたかどうかを尋ねられました。

測定方法
本研究で、不適切な治療とは、期待される健康上の利益(寿命の延長や痛みの軽減など)よりも、負の影響(死亡率や症状の重さなど)が大きい」治療や投薬を指す。
人工経腸栄養(経腸栄養、経管栄養TPN)、輸液、蘇生、人工呼吸、輸血、化学療法・放射線療法、透析、手術、抗生物質、スタチン、抗糖尿病薬、新規経口抗凝固薬を対象とした。

Results
調査対象者の特徴
死亡時の平均年齢は、ポーランドで81歳、ベルギーとイギリスで87歳となっていた(表1)。入院者はほとんどが女性で、ポーランドの63.5%からイングランドの75%までの範囲であった。入所者は主に老人ホームで死亡した(ポーランドでは80%、オランダでは89.3%)。認知症は、フィンランドで最も多く(82.5%)、イングランドで最も少なかった(60.2%)。死亡時の疾患としては、悪性がん(42.9%)であったイングランドを除き、すべての国で重度の心血管疾患が最も多く報告されました(ベルギー34.7%~ポーランド55.7%)。機能的および認知的状態が最も悪かったのはポーランド(BANS-S平均スコア21.9)で、最も良かったのはイングランド(BANS-S平均スコア17.5)であった。

6カ国における、人生の最後の1週間における潜在的に不適切な治療の割合の違い
最後の1週間に少なくとも1つの不適切な治療を行った割合は、ベルギーの19.9%からポーランドの68.2%まで差があった(p<0.001)。人工的な栄養補給や水分補給は、ポーランドで最も多く(54.3%)、オランダでは最も少なかった(2.7%、p<0.001)。ポーランド(48.6%)とイタリア(24.5%)では輸液が最も多く使用されていた(p<0.001)。経腸栄養剤は主にポーランド(17%;p>0.001)で投与されていたのに対し、経管栄養はイタリア(21.5%;p>0.001)で多く使用されていました。すべての治療法のうち、抗生物質の使用が最も多く、ベルギーの11.3%からポーランドの45%まで、すべての国で使用されました(p<0.001)。
リスク因子調整の結果、これらの差は住民の特性によるものではなく、各国の適切なケアの違いを反映したものであると考えられた。

Discussion
ほとんどの治療法の存在割合は、国によって統計的に有意に異なっていた。

研究の強み
医療制度や緩和ケアの文化が異なる欧州6カ国の322の老人ホームの1,384人の入居者のデータを含めることができた。リスク調整を行うことで、本研究の結果が国ごとの存在割合の違いを反映しており、入居者の特性の違いに影響されていないことが確認されました。

研究の限界
①調査データから、特定の治療法が「不適切」な場合を推測することはできず、治療が行われた時点では、ある治療が不適切であるとは考えられなかったかもしれない。
②データは看護師個人から収集したため、リコールバイアスの可能性があります。
③治療の開始時期や臨床的な適応についての情報を収集していない。
④治療法によっては大量の欠損データ(最大で24%)があった。 → 不完全な症例と完全な症例の回帰帰納法による感度分析を行いました。その結果、主に同様の結果が得られ、欠損データの影響は小さいことがわかりました。
⑤入居者が病院で死亡した場合、老人ホームは人生最後の1週間の病院での治療に関する情報を持っていない可能性があり、これが過小評価につながる可能性があります。→ 病院で死亡した入居者は全体の15%に過ぎないことから、これによるバイアスの可能性は小さいと思われます。

臨床的意義
国による違いが大きいことから、文化的な違いを考慮して、介護施設のスタッフやGPが治療の意思決定や終末期の認識を行う際に役立つガイドラインを作成する必要がある。介護施設における事前のケアプランは、入居者、親族、介護者が将来のケアの目標や好みを話し合うのに役立つ可能性があるため、より大きな注意を払う必要がある。最後に、終末期のケアに関する会話や終末期のケアの身体的側面に関するスタッフのトレーニングが必要である。今回の結果は、政策立案者やその他の意思決定者が、老人ホームにおける終末期ケアの適切性を向上させるための公衆衛生政策や介入策を策定する際に利用することができ、また、国境を越えて優良事例を交換することができます。

Conclusion
老人ホーム入居者の人生最後の1週間における不適切と思われる治療の存在割合は、抗生物質の使用が一般的であったことを除いて、ほとんどの調査対象国で低かった。イタリアとポーランドでは,すべての治療がより多く行われており,特に人工栄養・輸液と抗生物質の投与が多かった。これらの違いは、法律、ケア組織、文化、緩和ケアに関する介護施設スタッフの知識や技術など、国ごとの違いを反映している。

【開催日】
2021年10月6日(水)

ビスフォスフォネート製剤中止のメリットとデメリット

―文献名―
Dennis M. Black 「Atypical Femur Fracture Risk versus Fragility Fracture Prevention with Bisphosphonates」 N Engl J Med 2020;383:743-53.

―要約―
Introduction:
ビスホスホネート製剤は,大腿骨近位部骨折および骨粗鬆症性骨折の減少に有効である.しかし非定型大腿骨骨折への懸念からビスホスホネート製剤の使用が大幅に減少しており,大腿骨近位部骨折の発生率が上昇している可能性がある.非定型大腿骨骨折と,ビスホスホネート製剤およびその他の危険因子との関連には重大な不確実性が残っている.

Method:
カイザーパーマネンテ南カリフォルニアの医療システムに加入しており,ビスホスホネート製剤の投与を受けている 50 歳以上の女性を研究対象とし,2007 年 1 月 1 日から 2017 年 11 月 30 日まで追跡した.主要転帰は非定型大腿骨骨折とした.ビスホスホネート製剤の使用を含む危険因子に関するデータは電子診療録から取得した.骨折は X 線写真で判定した.解析には多変量 Cox モデルを用いた.リスク・利益プロファイルは,関連する非定型骨折と予防されたその他の骨折とを比較する目的で,ビスホスホネート製剤の使用期間 1~10 年でモデル化した.

Results:
女性 196,129 人のあいだで,非定型大腿骨骨折は 277 件発生した.多変量補正後,非定型骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間に伴って上昇し,3 ヵ月未満の場合と比較したハザード比は,3 年以上 5 年未満で 8.86(95%信頼区間 [CI] 2.79~28.20)であり,8 年以上で 43.51(95% CI 13.70~138.15)まで上昇した.その他の危険因子には,人種(アジア人の白人に対するハザード比 4.84,95% CI 3.57~6.56),身長,体重,グルココルチコイドの使用などがあった.ビスホスホネート製剤の中止は,非定型骨折リスクの急速な低下と関連した.ビスホスホネート製剤の 1~10 年間の使用中の骨粗鬆症性骨折・大腿骨近位部骨折リスクの低下は,白人では非定型骨折リスクの上昇をはるかに上回ったが,アジア人では白人ほど大きくは上回らなかった.白人では,使用開始後 3 年の時点で大腿骨近位部骨折は 149 件予防され,ビスホスホネート製剤に関連する非定型骨折は 2 件発生したのに対し,アジア人ではそれぞれ 91 件と 8 件であった.
非定型大腿骨骨折のリスクはビスホスホネート製剤の使用期間とともに上昇し,ビスホスホネート製剤の中止後速やかに低下した.アジア人は白人よりもリスクが高かった.非定型大腿骨骨折の絶対リスクは,ビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して,非常に小さい状態が持続した.(カイザーパーマネンテほかから研究助成を受けた.)

Discussion:
第一に、治療を受けた大部分がアレンドロネート(アクトネル)であったため、他のビスフォスフォネート系薬剤やデノスマブなど、他の薬剤や製剤に推論を広げることはできませんでした。第二に、ビスフォスフォネートの曝露を含む共変量の評価は、カイザーパーマネンテの会員期間に限定されているため、コホートに参加する前の会員期間が短い人のビスフォスフォネートの累積曝露量が過小評価されている可能性がある。第三に、今回のリスク・ベネフィットの比較は、骨折の数のみに基づいている。より完全な比較を行うには、コストに加えて関連する罹患率や死亡率を考慮する必要がある。非定型大腿骨骨折後の死亡率は、データは限られているが、股関節骨折後よりも低い。1~5年間の治療による骨折減少のモデルは、無作為化臨床試験による強力なエビデンスベースを持っているが、5年以上になるとエビデンスベースはより限定される。確認された大腿骨骨折の約16%については、X線写真が得られなかったか、判定に不十分であったため、非定型骨折の真の発生率が過小評価されている可能性がある。第四に、黒人の非定型大腿骨骨折は2件のみであり、この集団での推論を妨げるものであった。

【開催日】
2021年7月14日(水)

超高齢心房細動患者に対する低用量エドキサバン

-文献名-
K.Okumura. Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation. NEJM. 2020; Oct 29; 383(18): 1735-1745.

-要約-
Introduction:
年齢とともに心房細動は増加し、年齢と心房細動はいずれも脳梗塞のリスクである。心房細動患者の脳梗塞予防ガイドラインでは、高齢者であっても抗凝固療法が推奨されるが、超高齢者には腎機能障害・過去の出血歴・過去の転倒歴・ポリファーマシー・フレイルなどの出血リスクを鑑みて、処方をためらう医師が多い。高齢化に伴い、ハイリスク・超高齢者の抗凝固療法のエビデンスが必要である。
 低用量エドキサバン(15-30mg)は脳梗塞予防には用量不足として認可外ではあるが、出血のハイリスク群である超高齢者にとっては有益であるかもしれない。
Method:
 今回のELDERCARE-AF試験は、非弁膜症性心房細動を有し、脳卒中予防に承認されている用量での経口抗凝固療法が適当ではないと判断された超高齢(80 歳以上)の日本人患者を対象に、エドキサバン15mgの1日1回投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験(主要評価項目の発現が定められた定数に達するまで継続する試験)である。COIとして第一三共からの資金提供あり。
Patient:80歳以上の非弁膜症性心房細動を有し、CHADs2スコアは2点以上。CCr15-30、出血の既往、BW45kg以下、NSAIDs内服中、抗血小板薬内服といった理由から抗凝固療法を見送られている。
Intervention:エドキサバン15mg内服
Comparison:プラセボ
Outcome:4-48週目までは4週毎、以降は8週毎にフォローアップを行い、有効性として脳卒中または全身性塞栓症の発症、安全性として国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血の発症を評価した。
Results:
2016年8月〜2019年11月に164の施設、1086名がエントリーし、984名がエドキサバン15 mg/日の投与を受ける群(492例)とプラセボ投与を受ける群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。除外された102名は20名が同意撤回、3名が死亡、79例が基準を満たさなかった。平均年齢は86.6(±4.2)歳、平均体重は50.6(±11.0)kg、平均CCr36.3(±14.4)であった。423名が過去に抗凝固療を受けていた。追跡期間は平均466日で、681例が試験を完了、303 例が中止となった。(同意の撤回158例・死亡135例・その他の理由10例)試験を中止した主な理由は出血と関係のない有害事象と試験継続の意志喪失・能力欠如であり、人数は2群で同程度であった。
66例の脳卒中または全身性塞栓症から59例が主要有効性評価項目として認定され、エドキサバン群で15例(2.3%/人年、プラセボ群で44例(6.7%/人年)であった。(ハザード比0.34, 95%CI 0.19~0.61, P<0.001)サブグループ解析でも概ね同様の結果であったが、NSAIDs内服群のみ結果のばらつきがあった。
安全性の評価としては、22例の大出血イベントがあり、エドキサバン群で20例(3.3%/人年)、プラセボ群で11例(1.8%/人年)であった。(ハザード比1.87, 95%CI 0.90~3.89,P=0.09)消化管出血に限ると、イベント発生数はエドキサバン群のほうがプラセボ群よりも多い結果となった。全死因死亡に大きな群間差はなかった。(エドキサバン群9.9%, プラセボ群10.2%,ハザード比0.97,95%CI 0.69~1.36)
Discussion:
 本試験はENGAGE AF-TIMI48試験のデータをもとにエドキサバンを15mgに減量して使用した。
脳卒中と出血の両方のリスクが高い超高齢者に対する確立された標準治療はなく、対照としてプラセボを使用した。先行研究ではアスピリンは心房細動の患者の脳卒中の予防に効果がなく、脳卒中のリスクが高い患者には推奨されなかったため、比較対照薬として抗血小板薬を使用しなかった。
先行研究で腎機能障害があり(CCr15-30)エドキサバン15mgを投与された人と、腎機能障害がなくエドキサバン30-60mgを投与された人の血中濃度は類似しており、今回の試験と先行研究での有効性・安全性の結果が同様であった一因かもしれない。
Limitation:
 脱落患者が多かったが、出血に関連した同意取り下げは6名のみであり、多くは出血とは関係のない有害事象が理由となった。
 日本人(東アジア人)は他の人種と比較して脳卒中や全身性血栓症の発生率が高く、出血の発生率も高いため、他の集団で適応できない可能性がある。

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【開催日】2020年12月9日(水)

高齢者の降圧剤の減薬について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
James P. Sheppard, et al. Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older. JAMA. 2020;323(20):2039.

-要約-
Introduction
高血圧症は心血管疾患の危険因子の第一位であり、多臓器合併症の高齢者では最も一般的な併存疾患である。降圧剤による治療は脳卒中や心血管疾患を予防し、80歳以上の患者の約半数が降圧剤を処方されている。しかし、過去の観察研究では、複数の降圧剤処方による血圧低下が複数の疾病を有する一部の高齢者において有害である可能性を示唆している。
ガイドラインでは、虚弱高齢患者に降圧剤を処方する際には個別の臨床的判断を行うことが推奨されているが、これらのガイドラインは減薬への手順は曖昧であり、エビデンス自体が不足しているため、この分野での研究の必要性が強調されていた。
この試験では、2種類以上の降圧剤を処方されている複数の疾病を有し、収縮期血圧管理が良好な高血圧症の高齢者を対象に、降圧剤の減量に対する構造化されたアプローチを実施した。この試験は、12週間の追跡調査で臨床的な変化(血圧管理不良、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象)なしに、部分的にでも降圧剤の減薬が可能であるかどうかを検証することが目的の研究である。

Method
本研究はイングランド南部と中部のプライマリ・ケア施設で実施されたものである。対象となる参加者は80歳以上で、ベースラインの収縮期血圧が150mmHg未満で、2つ以上の降圧剤を12ヶ月以上処方されている方である。対象者の募集を行ったプライマリ・ケア医には、最新のガイドラインやエビデンスについての学習を事前に実施した。参加者はポリファーマシー、併存疾患、薬のアドヒアランスが悪い、虚弱体質などの特徴が一つ以上あり、投薬の中止で恩恵を受ける可能性が高い患者のみが研究に登録された。過去12ヵ月間に左室機能障害による心不全、心筋梗塞または脳卒中の既往歴のある患者、二次性高血圧、また同意能力のない患者は研究から除外された。
参加者は、降圧剤の減薬(介入群)と通常のケア(対照群)に無作為に割り付けられ、研究者と参加者へ隠蔽化された。非盲検化のデザインをとっており、事前に定められた統計解析は、参加者の割り付けとは無関係に実施された。
介入群の減薬後は、プライマリ・ケア医により4週間後の時点で評価され、収縮期血圧が150mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の状態が1週間以上続いた場合、有害事象が発生した場合、または血圧上昇の兆候が見られた場合には、降圧剤の治療再開を行った。対照群に無作為に割り付けられた参加者は、処方された通りにすべての降圧剤を服用し、薬の変更を強制されることなく、通常の臨床ケアに従い、すべての患者は12週間の時点でフォローアップされた。
Primary outcomeは12週間の追跡調査における収縮期血圧コントロールの群間の相対リスクである。血圧測定は、臨床的に検証された血圧計を用いて測定され、測定値は参加者が少なくとも5分間座って安静にした後、適切なサイズのカフを使用して左腕で測定された。Secondary outcomeには、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象、収縮期血圧と拡張期血圧の12週間の変化における群間差であった。虚弱性は、Frailty index、Electronic Frailty Index、およびMorley FRAILスケールを用いて定義した。QOLはEQ-5D-5Lを用いて測定され、副作用は、高血圧症に対するRevised Illness Perception Questionnaireを用いて24の項目から発生がないか確認した。重篤な有害事象には、死亡または生命を脅かすものと定義され、入院を必要としたものまたは既存の入院を長期化させたもの、持続的もしくは重大な障害をもたらしたもの、または前述のいずれかのリスクにさらすか、または発生を防止するための介入を必要なものとした。

Result
Primary outcomeは12週目の追跡時の収縮期血圧が150mmHg未満であったのは、減薬群229例(86.4%)、通常ケア群236例(87.7%)であり、降圧剤の減薬は通常のケアと比べて劣らないことを示していた。
Secondary outcomeは12週目の収縮期血圧は、介入群の方が3.4 mmHg高く、虚弱性、QOL、副作用、重篤な有害事象については統計学的に有意な差は見られなかった(以下表参照)。

Discussion
複数の降圧剤を処方されている高齢者を対象とした本非劣性無作為化臨床試験では、通常の治療と比較して降圧薬の減量は、12週間後の収縮期血圧が150mmHg未満の患者の割合に関して非劣性が示された。しかし本研究にはいくつかの限界が示唆される。
第一に、研究の参加者は減薬の恩恵を受ける可能性があるというプライマリ・ケア医の見解に基づいて選択され登録され、ウェブベースの無作為化アルゴリズムと隠蔽化でバイアスを最小限に抑えるように設計されているが、適切にプライマリ・ケア現場の一般集団を示しているか定かではない。
第二に、非盲検化のデザインであることである。しかし、血圧測定は自動血圧計を用いて行われ、医師の介入は最小限で済むため、主要アウトカムの確認におけるバイアスの可能性は低いと考えられる。
第三に、降圧剤減薬群の参加者は、通常のケアと比較して、フォローアップ期間中に少なくとも1回の追加フォロー(4週間後)があるため、受診頻度の増加につながり、有害事象の発生率増加につながっている可能性がある。
第四に、通常ケア群の参加者のうち13人が追跡期間中に降圧剤の減薬を行ったことが、結果に影響を与えた可能性があること。
第五に、フォローアップ期間が短い(12週間)試験のデザインを決定したのは、より長いフォローアップ期間を持つ大規模研究に着手する前に、血圧と有害事象に対する薬物減量の短期的な効果を実証するためという倫理的な理由からである。このため、この研究では群間の有害事象の信頼性の高い比較を行うには力不足であり、その結果、降圧薬の減量による長期的な有益性と有害性は不明のままである。
第六に、非劣性マージンは、医師と患者の治療合意に意義があることに基づいて決定されたものであり、事前のエビデンスに基づいて決定されたものではないことである。
以上の結果から,長期的な臨床結果を評価するためには、今後さらなる研究が必要であるが,一部の高齢の高血圧患者においては,血圧コントロールに大きな変化を伴わずに降圧薬の減量が可能であることが示された。

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【開催日】2020年8月5日(水)

長期療養施設においてCovid-19が発症した場合の影響

-文献名-
T.M. McMichael and Others Epidemiology of Covid-19 in a Long-Term Care Facility in King County, Washington n engl j med 382;21 nejm.org May 21, 2020

-要約-
Introduction:
長期療養施設は,入居者が高齢で慢性基礎疾患を有する割合が高く,またヘルスケア従事者が地域の施設間を移動するため,Covid-19 集団発生によって重篤な転帰をとるリスクが高い環境である.
Method:
ワシントン州キング郡の高度看護施設で Covid-19 の確定例 1 例(2.19から発熱と呼吸器症状、2.24入院、2.28確定、3.2に死亡)が確認された 2020 年 2 月 28 日以降,シアトル・キング郡公衆衛生局は,米国疾病対策予防センターの支援のもと,症例調査,接触者の追跡,曝露者の検疫,確定例・疑い例の隔離,現場での感染予防・制御の強化を開始した.
Results:
3 月 18 日の時点で,入居者 101 例,ヘルスケア従事者 50 例,訪問者 16 例の計 167 例の Covid-19 確定例が,この施設と疫学的に関連していることが明らかになった.入居者の症例の大部分が Covid-19 に一致する呼吸器疾患を有していたが,7 例には症状が確認されなかった.入院率は施設入居者 54.5%,訪問者 50.0%,スタッフ 6.0%であった.入居者の致死率は 33.7%(101 例中 34 例)であった.3 月 18 日の時点で,キング郡では 30 ヵ所の長期療養施設で Covid-19 の確定例が 1 例以上同定されている.
conclusion
Covid-19 集団発生が急速に拡大する状況において,長期療養施設では,あらかじめ行う措置として感染している可能性のあるスタッフと訪問者を同定・除外し,感染している可能性のある患者を積極的に監視し,適切な感染予防対策を講じることが,Covid-19 の持ち込みを防ぐために必要である.
Discussion:
施設から1人のCOVID19が発症し累計167例の発症と34例の死亡例が認められた。インフルエンザなどの感染と同様にCOVID19に対する施設の感染に対する脆弱性が認められた。症状がある間、複数施設で働くスタッフとある施設から別の施設への患者の移動は感染を複数の施設へ広げる可能性がある。施設内外への入居者の移動は医学的脆弱性を持つ集団にとって深刻な脅威となる。高齢者施設においてインフルエンザワクチンと抗ウイルス薬投与がインフルエンザ拡散防止に効果的であるが、このような介入はCOVID19には利用できないため、患者の移動に関しては慎重に対応するべきだ。
施設でのCOVID19の早期発見と予防のため入居者、ケアワーカー、訪問者の体温や症状のスクリーニング、社会的距離、移動やグループ活動の制限、スタッフに対する感染予防と個人防護具使用の教育、個人防護具を確保するための計画が重要である。スタッフ教育に加えて実践的なトレーニング、感染防止に対する職員のアドヒアランスを強化する監査システムを作る必要がある。スタッフの欠勤や過重労働などの大きな混乱があるとこれらのシステムに影響が出る可能性がある。

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【開催日】2020年6月3日(水)

アドバンス・ケア・プランニングの適切なタイミングとは?

-文献名-
Nancy L. Schoenborn, MD, MHS, Ellen M. Janssen, PhD, Cynthia Boyd, MD, MPH, John F.P. Bridges, PhD, Antonio C. Wolff, MD,Qian-Li Xue, PhD and Craig E. Pollack, MD,MHSdoi: 10.1370/afm.2309 Ann Fam Med November/December 2018 vol. 16 no. 6 530-537

-要約-
目的: 臨床診療ガイドラインでは、プライマリケアにおける多くのことを決定するために、平均予後を組み込むことを推奨している。全国サンプルで平均余命を議論することの高齢者の好みを調べることを目的にした。
方法:2016年にnational probability-based on line panel(1)から1272人の高齢者(65歳以上)を招待した。我々はすぐに死ぬことがない平均余命が限られた仮想患者を提示した。私たちは参加者に、もし患者であったとしたら、どれくらい生きるか医師と話したいか話したくないか、医師がこの議論を切り出すことを容認できたかできなかったか、医師に平均余命について家族や友人に話してもらいたいかもらいたくないか、いつ話し合うべきかを問いかけた。
(1)あらかじめ登録してもらった人に世論や健康についてオンラインでアンケートをして答えてもらう仕組み
結果:参加者878人(69%の参加率)の平均年齢は73.4歳だった。過半数の59.4%は、提示されたシナリオでどれくらいの期間を生きることができるかについて議論したくないと回答した。このグループ内では59.9%も医師がこの話題を切り出すべきとは考えず、87.7%も医師が余命について家族や友人に話し合うことを望まなかった。55.8%の人は平均余命が2年未満の場合にのみ余命について話し合いたいと答えた。議論を持ちたいと積極的に関連する要因には、教育レベルが高いこと、医師が余命を完璧に予想できると信じていること、生命に関わる病気や愛する人の余命について過去に経験したことがあることがあった。宗教が重要であるという報告は否定的に関連していた。
結論:高齢者の大部分は平均余命が限られている仮想の患者を描いた時、平均余命を議論することを望まなかった。また多くの人はこの議論を提供されることを希望しなかった。 そして臨床医がこのデリケートなトピックに関する患者の好みを同定する方法についてのジレンマを提起する
discussion:臨床医が最初に患者の病気や平均余命に関する議論の経験や平均余命に関する患者の信念を探り、平均余命の議論に対する患者の感受性を評価することがこのジレンマの解決法の一つになる可能性がある。継時的にそれらを評価するのが良い。患者の人生における重大な健康問題や患者家族の重大な健康問題の後に重要かもしれない。平均余命が1-2年になった時もアプローチするタイミングかもしれない。
限界:ITリテラシーの低い高齢者などのサブグループを代表していない可能性がある。架空のシナリオであるため参加者の回答は実際の行動を反映していないかもしれない。さらに単一のシナリオでは患者の健康状態の多様性や健康の動的な自然経過を把握できない可能性がある。

【開催日】2020年2月5日(水)

体積骨密度および骨強度に対する高用量ビタミンD補給の効果

-文献名-
Lauren A. Burt, PhD. Effect of High-Dose Vitamin D Supplementation on Volumetric Bone Density and Bone Strength A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019 Aug 27;322(8):736-745.

-要約-
背景
12ヶ月以上にわたって許容上限摂取量以上でビタミンD投与の効果を評価した研究はほとんどないが、米国成人の3%が少なくとも4000IU/dayのビタミンD摂取を報告している。

目的
体積骨密度(BMD)および強度に対するビタミンD補給の用量依存効果の評価
デザイン
カナダ・カルガリーの単一施設で2013年8月〜2017年12月までに実施された3年間の二重盲検RCT。
55〜70歳までの311人の骨粗鬆症のない健康な成人、25[OH]Dのベースラインレベルは30〜125nmol/L。

介入
400IU(n = 109)、4000IU(n = 100)、10000IU(n = 102)での3年間のビタミンD3の1日量。
カルシウム摂取は、食事で1200mg/day未満の人に提供。

結果
HR-pQCT(high-resolution peripheral quantitative CT:DEXAより正確に骨密度を測定し、かつ骨強度を測定できるもの)で橈骨・脛骨の骨密度(BMD:bone mineral density)を評価、および要素解析による骨強度の推定。
無作為化された311人の参加者(53%が男性、平均年齢62.2歳)のうち287人(92%)が研究を完了。
25(OH)Dのベースライン、3か月、3年後の値は、400IUグループで76.3、76.7、77.4nmol/L。
4000IUグループで81.3、115.3、および132.2。
10000IUグループで78.4、188.0、および144.4。
終了時での橈骨の骨密度は400IUグループと比較して、4000IUグループ(−3.9 mg HA/cm3 [95% CI, −6.5 to −1.3])および10,000IUグループ(−7.5 mg HA/cm3 [95% CI, −10.1 to −5.0]) で低かった。
体積BMDの平均変化率は-1.2%(400 IUグループ)、-2.4%(4000 IUグループ)、および-3.5%( 10000 IUグループ)であった。
400 IUグループとの脛骨の骨密度の差は、4000IUグループで-1.8 mg HA /cm³(95%CI、-3.7〜0.1)、10000 IUグループで-4.1 mg HA /cm³(95%CI、- 6.0〜-2.2)、平均変化値は-0.4%(400IU)、-1.0%(4000IU)、および-1.7%(10000IU)であった。

結論と関連性
健康成人では、1日あたり4000IUまたは10,000IUのビタミンDを3年間投与すると、400IUと比較して骨密度が統計的に有意に低かった。脛骨では、10000IUでのみ有意に低かった。橈骨でも脛骨でも骨強度には有意差はなかった。調査結果は、骨の健康のための高用量ビタミンD補給の利点を支持しなかった。有害かどうかはさらなる研究が必要である。

参加者のフロー
JC201912大西1

母集団
JC201912大西2

<除外>
骨粗鬆症(骨量低下は含む)
血清25(OH)値の高値、低値
血清Ca値の高値、低値
半年以内に高容量ビタミンD服用
2年以内に骨粗鬆症の治療介入
ビタミンD代謝に影響する疾患(サルコなど)
腎障害
吸収不良
2年以内の腎結石
日焼けサロンに通っている

A(血清25(OH)D)、B(副甲状腺ホルモン)、C(タイプ1コラーゲンCテロペプチド)の分布
JC201912大西3

JC201912大西4

血清25(OH)D値は高容量投与で上昇するが、副甲状腺ホルモン、骨代謝マーカーには影響なし

Primary Outcome <骨密度の変化>
JC201912大西5
投与すれば投与するほど骨密度が下がっている

服作用頻度
JC201912大西6
高Ca血症と高Ca尿症で有意差あり

【開催日】2019年12月4日(水)