心房細動の早期リズムコントロール

-文献名-
P. Kirchhof, A.J. Camm, A. Goette.Early Rhythm-Control Therapy in Patients with Atrial Fibrillation.N Engl J Med. 2020 Oct 1;383(14):1305-1316.

-要約-
背景 心房細動の患者は心血管系合併症のリスクが高い.過去にリズムコントロールとレートコントロールで予後に差がないという報告があるが,発症早期にリズムコントロールを行うことで心血管リスクを軽減できるかどうかは不明である.アブレーションも含めたリズムコントロール戦略が早期Af診療のアウトカムを改善させるか調べる.
デザイン RCT.非盲検化試験.多施設(欧州11カ国,135施設).2011年〜2016年.ITT解析.
ドイツの教育研究省による資金提供.
対象者 2789例.≧18歳の発症早期(初回診断から≦12カ月)の心房細動患者で,①TIA/脳卒中の既往があるか,②>75歳の者か,③以下の条件*のうち2つ以上に該当する者。年齢>65歳,女性,心不全,高血圧,糖尿病,重症冠動脈疾患,慢性腎臓病(GFR15〜59),左室肥大(拡張期中隔壁幅> 15mm),末梢動脈疾患.
介入 現行のガイドラインが推奨する治療(抗凝固薬,レートコントロール)および合併する心血管疾患に対する治療を受けたうえで,早期のリズムコントロール(洞調律維持療法)群(1395例)または標準治療のみの群(1394例)。
早期のリズムコントロール群:抗不整脈薬または心房細動アブレーションによる治療.週に2度また症状発生時は,患者自ら遠隔モニタリングデバイスECGを送信.医療機関がリズムコントロールを調整.
標準治療群:抗凝固薬による治療とレートコントロール(心拍数調節療法)を中心とした治療。これらの治療でも心房細動による症状が生じた場合は,リズムコントロールを実施。
結果
追跡期間中央値5.1年。
有効性が確認されたため,第3回目の中間解析の時点で試験は中止。
(以下,Fig1)
2年後の治療状況は,リズムコントロール群では65.1%が抗不整脈薬継続,標準治療群では14.6%が抗不整脈薬使用.リズムコントロール群でアブレーションを行ったのは19.4%.(フレカイニド(タンボコール®,1c),アミオダロン,ドロネダロン(日本採用なし),プロパフェノン(プロノン®,1c),その他の不整脈薬)

(以下,Table1)
患者背景:平均年齢70.3歳,女性46.4%。
心房細動の診断から登録までの日数:中央値で36日。
登録時の心房細動の状況:初発 37.6%,発作性 35.6%,持続性 26.6%。
登録時の洞調律の割合:54.0%
登録時のCHA2DS2-VASCスコアの平均値:3.4

(以下,Table.2)
プライマリーエンドポイント=「心疾患や脳卒中による死亡」「心不全や急性冠症候群の悪化による入院」の複合
早期リズムコントロール群249例(3.9/100人・年) vs. 標準治療群316例(5.0/100人・年)
[ハザード比(HR)0.79; 96%信頼区間(CI)0.66~0.94; P =0.005]
内訳のうち,心疾患や脳卒中による死亡をみても有意差あり.

セカンダリーエンドポイント=1年あたりの入院日数.
群間で有意差なし.
平均値:早期リズムコントール群 5.8日/年 vs. 標準治療群5.1日/年(P =0.23)

(以下,Table.3)
安全性の主要アウトカム=「死亡」「脳卒中」「リズム制御療法に関連した重篤な有害事象」の複合
群間で有意差なし.
早期リズムコントロール群231例(16.6%)vs. 標準治療群223例(16.0%)

<内訳>
脳卒中:早期リズムコントロール群2.9% vs. 標準治療群4.4%(P =0.03)。
死亡:9.9% vs. 11.8%。
リズムコントロールに関連する重篤な有害イベント:4.9% vs. 1.4%(P <0.001)。(5年間)
 →非致死性の心停止,中毒,徐脈,AVブロック,トルサードポワンツ,タンポナーデ,出血など

安全性の副次アウトカム=2年後の症状,左室機能
両治療群間に有意差は認められなかった。

ディスカッション 
・過去の報告と異なり,今回リズムコントロール群で有意差が出たのは,①カテーテルアブレーション治療群が入っていることや②発症早期の介入をみていることなどが考えうる.
・リズムコントロールによる有害事象は有意に発生したが,その頻度は低い.
・限界は,非盲検化試験であること,フォローアップ期間が短いこと,費用について検討していないこと,などが挙げられる.

結論 早期リズムコントロールは,早期心房細動と心血管疾患を有する患者において,通常のケアに比べて有害な心血管転帰のリスクが低いことと関連していた.

【開催日】2021年2月3日(水)

無症候性重症大動脈弁狭窄症における早期手術

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Kang, Duk-Hyun, et al. Early surgery or conservative care for asymptomatic aortic stenosis. New England Journal of Medicine. 2020;382(2):111-119.

-要約-
背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

背景
無症候性の重度の大動脈弁狭窄症患者における外科的介入のタイミングと適応については議論の余地がある。
方法
多施設共同試験において、無症候性の重度の大動脈弁狭窄(大動脈弁口面積が0.75cm2以下で、毎秒4.5m以上の大動脈ジェット速度または50mm Hg以上の平均大動脈弁圧較差のいずれかがあると定義される)患者145人を無作為に早期手術あるいはガイドラインの推奨に従った保存的治療に割り付けた。一次エンドポイントは、手術中、術後30日間の死亡、フォローアップ期間全体における心血管疾患による死亡の複合アウトカムとした。原因であったことが判明した。主要な副次的エンドポイントは追跡期間中のあらゆる原因による死亡とした。
結果
早期手術群では、73例中69例(95%)が無作為化後2ヵ月以内に手術を受け、手術による死亡は認められなかった。ITT分析では、一次エンドポイントイベントは早期手術群で1人(1%)、保存的治療群では72人中11人(15%)に発生した(ハザード比、0.09;95%信頼区間[CI]、0.01~0.67;P = 0.003)。あらゆる原因による死亡は、早期手術群では5人(7%)、保存的治療群では15人(21%)で発生した(ハザード比、0.33;95%信頼区間[CI]、0.12~0.90)。保存的治療群では、突然死の累積発生率は4年後に4%、8年後に14%であった。

結論
非常に重度の大動脈弁狭窄を有する無症候性の患者において,早期に大動脈弁置換術を受けた患者では,保存的治療を受けた患者に比べて,追跡期間中の手術死亡または心血管系原因による死亡の複合アウトカムの発生率が有意に低かった.

ディスカッション
・本研究の意義:無症状の重症大動脈弁狭窄症患者における手術の決定は弁置換術のリスクと経過観察のリスクの間のバランスを慎重に見積もる必要がある。大動脈弁狭窄症は、慎重な経過観察+症状が出るまで手術を遅らせる戦略は比較的安全ではあるが、突然死のリスク、患者による症状の否定または報告の遅れ、不可逆的な心筋損傷、および手術リスクの上昇と関連する。以前の観察研究で見られたベースライン治療の群間の違い、治療選択バイアス、および測定されていない交絡因子を減らすことで本研究では、早期大動脈弁置換術を支持する証拠を示した。
・示されたベネフィットに対する説明:2群間の長期生存期間の有意差の理由として考えられるのは、第一に、本試験および最近の低リスク患者における外科的大動脈弁置換術とTAVRを比較した試験では、手術リスクはそれより以前の研究に比べて大幅に低かった点である。この試験では、手術による死亡率は1%未満であり、綿密な術後のモニタリング・術後のケアの改善により、早期手術に関連した長期的なリスクが大幅に減少した可能性がある。第二に、早期手術群では突然死が見られなかったことから、早期手術により突然死が避けられた可能性がある。対照的に、保存的治療群では、症状が出る前の大動脈弁狭窄の進行中の突然死の年間リスクが上昇する傾向があった。第三に、保存的治療群では、最終的な大動脈弁置換術は避けられず、大動脈弁置換術のリスクは、症状が進行するまで手術が延期されたことで増加した可能性である。手術後の心血管系イベントは保存的治療群でより頻繁に観察され、大動脈弁置換術を遅らせることによる長期的リスクが高いことが示唆された。
研究の限界と適用上の注意:第一に、大動脈弁狭窄の重症度が高い患者を対象とした本試験では、手術待機時間によりリスクが高まるため、早期手術が良い結果に出る傾向があった可能性がある。第二に、早期手術群では5%、保存的治療群では3%の患者でクロスオーバーが発生した。ただ、Per-protocol解析とintention-to-treat解析の結果はほぼ同じであった。第三に、この試験は盲検化されていないため、患者が受けた治療を臨床医が把握していることに、非致死的転帰が影響を受けた可能性がある。第四に、重度の大動脈弁狭窄症を有する無症候性の患者に症状がないことを確認するために運動検査を行うことは妥当であるが、本試験では選択的にしか実施されていない。第五に、患者数の少なさと主要エンドポイントイベントの少なさが本試験の重要な限界である。最後に、この試験では比較的若い患者(最近の低リスク患者を対象としたTAVR試験に登録された患者と比較して)が対象であり、その中でも二尖性大動脈弁疾患の発症率が高く、左室収縮機能が正常で、共存する疾患が少なく、手術リスクが低い患者が含まれていた。このように、我々の試験集団はTAVR試験に登録されている集団とはかなり異なっており、無症候性の重症大動脈弁狭窄症に対する早期TAVRに直接結果を適用できない。

【開催日】2021年2月3日(水)

コロナ禍の診断エラーを減らすには?

-文献名-
“Reducing the Risk of Diagnostic Error in the COVID-19 Era” J Hosp Med. 2020 Jun;15(6):363-366.

-要約-
背景【担当者注】
“診断エラー”は, 「患者の健康問題について正確で適時な解釈がなされないこと,もしくは,その説明が患者になされないこと」と定義される.(Improving Diagnosis in Health Care. National Academies Press. 2015.)
下記の3つの分類が存在, 併存する.(Arch Intern Med. 2005;1493-9.)
【①診断の見逃し, ②診断の間違い, ③診断の遅れ】
原因は, 個人の資質の問題(知識不足, 技術不足)ではなく, 「ヒューリスティクス, 認知バイアス」, 「システムの問題」であることが多い. 参考資料https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/series/182
<論文要旨>
COVID-19のパンデミックは, 診断エラーを高める可能性がある.疾患自体が新しく, 臨床知識やエビデンスが未だ発展途上であることや, 逼迫する医療体制などの状況による, 医療者のストレス, 疲労, 燃え尽きが背景にある.本稿では, COVID-19時代に懸念される診断エラーの新しい類型を提案する.これらのエラーは, システムに基づくものと認知的なものの両方の起源を持つ.いくつかのエラーは, パンデミックに特有のものもある.本研究は, 8つの診断エラーの概要と対策を提示する.

予測される診断エラーの種類(Table, 表)
“古典的”: COVID-19の検査が実施できなかったり, 偽陰性の結果によって診断が困難になる.
“変則的”: 非典型的な, 呼吸器症状を呈さない患者がいる. COVID-19の診断を困難になる可能性がある.
“アンカリング”: 細菌性肺炎などで呼吸器症状のある患者を、COVID-19と誤診する.十分な検査が行われていない場合に起こりえる.
“二次的”: COVID-19患者の続発症を見逃す可能性がある.例えば, COVID-19患者の増悪する呼吸不全の背景に, 凝固障害による肺塞栓症が新規発症している可能性があるが, 原因検索を行わず, COVID-19による肺機能障害として対処される可能性がある.知見が不十分な状況で, この診断エラーは増加する.
“急性に生じる巻き添え”: 新たな急性症状を呈した患者は, 感染リスクを理由に急性期医療の受診を控えることがある.急性心筋梗塞や脳卒中の患者が受診せず診断が遅延することが懸念される.
“慢性に生じる巻き添え”: 定期受診や待機的処置が延期, 自己中断された場合に, 重要な疾患の診断に遅れが生じる可能性がある.
“ひずみ”: 切迫した医療体制によりCOVID-19以外の診断が, 影響を受ける可能性がある.外科医, 小児科医, 放射線科医らが, 急性期医療に「再配置」される.新しい役割を担う臨床医が, 慣れない状況や疾患の症状に直面したときにこの診断エラーは増加する.これまでの経験が豊富であっても, 新しい役割でのスキルや経験が不十分であったり, 指導を求めることに抵抗感を抱くことがある.
“予想外の診断エラー”: 個人用防護具PPEや遠隔医療技術などを使用して患者の診療に当たることが増えている.これは医師と患者の双方にとって未経験なことであり, “予想外”の診断エラーを引き起こす可能性がある.遠隔医療や接触機会の制限の状況では、熟練の臨床医でも病歴聴取, 身体診察能力が低下する可能性がある.

診断エラーに対する戦略
<テクノロジーによる支援>
テクノロジーは, 新たなリスクに対処するためのプログラムやプロトコル作成, 実装に役立つ.例えば, 感染流行状況の把握、重症化リスクの予測アルゴリズムや, 医療機関同士の患者搬送プロトコル, 電子カルテデータから潜在的なリスクを割り出し待機的処置の日程調整を自動で行うプログラムなどが考案されている.
<業務フローとコミュニケーションの最適化>
対面での接触が限られている場合でも, 診療の工夫(例:患者へのiPadの提供, ジェスチャーなどの非言語コミュニケーション)を行うことで, 患者や家族と包括的な話し合いを持つことができる.慣れていない分野に再配置された医師は“バディシステム”を利用し, 経験豊富な臨床医とペアを組むことができ, 助けを求めやすくなる.
<“人”に焦点を当てた介入>
一人での診療に慣れている医師もいるが, 今は「診断ハドル(訳者注 huddle: アメリカンフットボールで, 次のプレーを決めるフィールド内での作戦会議.)」を導入する時期であり, 異常や困難な症例について議論したり, 何か見逃していないかどうかを判断したりするべきである.
患者にデジタルツールを使った自己診断を奨励することに加えて, 急性心筋梗塞や脳卒中などの特定の重要な疾患については, 公衆衛生当局やメディアの助けを借りて医療支援を求めるよう一般市民に助言することも望ましい.
<組織, 所属機関での戦略>
スタッフの心理的安全性に配慮した組織環境、安全戦略を確保しなければならない.
リーダーは, チームの行動指針や規範について明確に伝える.
認知バイアスにつながる疲労, ストレス, 不安を最小限に抑えるために, ピアサポート, カウンセリング, 勤務時間調整,他の支援を実施する.院内外で, 診断上の課題, 最新の情報を継続的に共有し, 改善すべきである.
<国家レベルでの対応>
アクセス性, 正確性, 検査の性能に関する課題は, 国レベルで対処されるべきである.診断パフォーマンスとアウトカムをモニターし, COVID-19の診断エラーが異なる人口統計にどのように影響するかを評価するために, 標準化された測定基準が開発されるべきである.

結論
臨床医は患者の診断と治療に最善を尽くすように, 認知とシステムに基づいた診療を提供しなければならない.診断エラーと対策を共有し診療システムの再設計と強化を行うことで, 予防可能な診断エラーを防ぐべきである.

表. COVID-19 パンデミックで予想される診断エラー(原表を基に担当者作成)

【開催日】2021年1月13日(水)

癌のリスクを減らすための食事ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Chetyl L. Rock. American Cancer Society Guideline for Diet and Physical Activity for Cancer Prevention. CA Cancer J Clin. 2020;70(4):245.Epub 2020 Jun 9.

-要約-
<Abstract>
アメリカがん協会(ACS)は、コミュニケーション、ポリシー、およびコミュニティ戦略の基盤として機能し、最終的にはアメリカ人の食事および身体活動パターンに影響を与えるために、食事および身体活動ガイドラインを発行している。このガイドラインは、がんの研究、予防、疫学、公衆衛生、および政策の専門家の全国委員会によって作成され、食事と活動のパターンおよびがんのリスクに関連する最新の科学的証拠を反映している。ACSガイドラインは、食事と身体活動のパターンに関する個々の選択の推奨事項に焦点を当てているが、それらの選択は、健康的な行動を促進または阻害するコミュニティの背景の中で生じる。したがって、この委員会は、がんのリスクを減らすための個人の選択に関する4つの推奨事項に付随するコミュニティアクションの推奨事項を提示する。コミュニティの行動に関するこれらの推奨事項は、社会のすべてのレベルの個人が健康的な行動を選択する真の機会を持つためには、支援的な社会的および物理的環境が不可欠であると認識されている。この2020年のACSガイドラインは、米国心臓協会および米国糖尿病学会の、冠状動脈性心臓病および糖尿病の予防、ならびに2015年から2020年の米国人向け食事ガイドラインおよび2018年の身体的健康増進に関するガイドラインと一致している。

<ガイドラインと推奨事項の概要>
1980年代初頭以来、ACSや世界がん研究基金/米国がん研究協会(WCRF/AICR)などの政府および主要な非営利医療機関は、体重管理、身体活動、食事療法、アルコール消費に焦点を当てたがん予防ガイドラインと推奨事項を発表している。WCRF/AICRガイドラインの最初の更新後、WCRF/AICRは、さまざまな種類のがんを包括的に報告し、厳格なシステマティックレビュープロトコルに基づく継続的更新プロジェクトを含めるように取り組みと推奨事項を拡大した。WCRF/AICRからの第3専門家報告書は、更新された癌予防の推奨事項とともに、2018年に報告された。
現在のACSの食事療法と身体活動のガイドラインと推奨事項は、2012年のACSガイドラインを更新した。それは主にWCRF/AICRのシステマティックレビューと継続的更新プロジェクトのレポートに基づいており、システマティックレビューとそれ以降に公開された大規模なプール分析からのエビデンスが反映されている。

癌予防のための食事療法と身体活動に関する2020年アメリカがん協会ガイドライン(表1)
個人向けの推奨事項
1.生涯を通じて健康的な体重を達成し、維持する
 体重を健康的な範囲内に保ち、成人期の体重増加を避ける。
2.身体的に活発である
 成人は、週あたり150〜300分の中程度の強度の身体活動、または75〜150分の激しい強度の身体活動、または同等の組み合わせを行うべきである。300分の上限を達成または超えることが最も望ましい。
 子供と青年は、毎日少なくとも1時間の中程度または激しい強度の活動を行うべきである。
 座ったり、横になったり、テレビを見たりするなどの座りがちな行動や、その他の形式の画面ベースの娯楽は制限する。
3.すべての年齢で健康的な食事パターンに従う
 健康的な食事パターンには次のものが含まれる。
 ◦健康的な体重の達成と維持に役立つ量の栄養素が豊富な食品
 ◦さまざまな野菜—濃い緑、赤、オレンジ、繊維が豊富なマメ科植物(豆とエンドウ豆)など
 ◦果物、特にさまざまな色の果物全体
 ◦全粒穀物
 健康的な食事パターンは、以下を制限または含まないものである。
 ◦赤肉と加工肉
 ◦砂糖で甘くした飲料
 ◦高度に加工された食品と精製穀物製品
4.アルコールを飲まないことが最も望ましい
 飲酒を選択する人は、女性の場合は1日1杯、男性の場合は1日2杯以下に制限する必要がある。
 コミュニティアクションの推奨事項
 公的、私的、およびコミュニティ組織は、国、州、および地方レベルで協力して、手頃な価格の栄養価の高い食品へのアクセスを増やす政策および環境の変化を開発、提唱、および実施する必要がある。身体活動のための安全で、楽しく、アクセス可能な機会を提供する。そして、すべての人のアルコールを制限する。


【開催日】2021年1月13日(水)

小児アトピー性皮膚炎における頻繁な入浴と頻度の少ない入浴:無作為化臨床試験

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Cardona ID, Kempe EE, Lary C, Ginder JH, Jain N. Frequent Versus Infrequent Bathing in Pediatric Atopic Dermatitis: A Randomized Clinical Trial. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020;8(3):1014-1021. doi:10.1016/j.jaip.2019.10.042

-要約-
Introduction:アトピー性皮膚炎(AD)は慢性の皮膚炎症で世界中のこどもの15~30%に影響を及ぼしている。アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能障害と免疫調整障害を特徴とする。その高い有病率にも関わらず、小児アトピー性皮膚炎に関する入浴頻度を含む最良の入浴方法を評価した研究はほとんどなく、その結果、アトピー性皮膚炎のガイドラインでは一貫した根拠はない状態である。アトピー性皮膚炎を持つ子供の親はしばしば矛盾する情報を受け取り、不満と混乱を生んでいる。プライマリケア医の50%以下しか毎日の入浴を進めていないのに対して、専門医(アレルギー専門医、免疫学者、小児皮膚科医)の50%以上が毎日の入浴を推奨しているというデータもある。
これらの研究からPCPsより専門医は毎日の入浴を推奨する傾向にあり、矛盾したアドバイスは混乱と不満をうむ原因となりうる。
中等度から重症のアトピー性皮膚炎の小児に対するwet-wrap therapy(WWT)による閉鎖療法は効果的であるとされている。Soak and smear(or Soak and Seal)(SS):少なくとも10〜15分バスタブに浸かって、すぐに乾かし、皮膚軟化剤で閉鎖をする方法も急性期に効果的であることが示されている。アトピー性皮膚炎の病態生理学に置いて皮膚の水分補給と経表皮水分喪失量の重要性を考慮し、SS入浴は局所薬剤の浸透を促進し、水分喪失を防ぐことによってWWTを模倣する可能性があることを考慮し、頻繁なSS入浴は小児のアトピー性皮膚炎において入浴を制限するよりも効果的であるかもしれないと仮定した。
我々の目的は重症のアトピー性皮膚炎に対して急性期の治療介入として、1日2回、15~20分、SS入浴すること(Wet method : WM)と、週2回、10分以下でSS入浴すること(dry method : DM)の効果を比較することである。また、水分補給状態やStaohylococcus aureusのコロニー形成する密度をWM、DM間で定量化した。

Method:どのような方法を用いたのか、特殊な方法であれば適宜解説を入れる。
アメリカのメイン州の病院関連のアレルギー免疫学診療所でシングルブラインドのクロスオーバー試験を使用したランダム化試験を実施した。対象者はSCORing Atopic Dermatitis(SCORAD)index*1で25以上(中等度〜重度)のアトピー性皮膚炎の6ヶ月〜11歳の小児に対する、頻繁に行うSS入浴と頻繁には行わないSS入浴の頻度を比較した。
2グループに1:1でランダム化した。
グループ1は週に2回、10分以下のSS入浴を2週間に渡る(DM)実施したのち、日に2回、15~20分のSS入浴を2週間に渡る(WM)実施した。グループ2はその反対の順番で実施した。
患者は同じ保湿剤、洗剤、低ランクの局所コルチコステロイド(TCS)を投与された。Primary outcomeはSCORing Atopic Dermatitis(SCORAD)indexを利用してADの重症度を評価した。
Secondary outcomeはアトピー性皮膚炎の重症度(アトピー性皮膚炎クイックスコア(ADQ)*2、QOL、staphylococcal aureusのコロニー形成密度、皮膚の水分補給状態、保湿剤、局所コルチコステロイドの使用量に関する評価された。

Results:
63人の小児をスクリーニングし、42人が基準を満たし、ランダム化された。(Figure1)
ADの重要度に関して、両群でWMのSCORADの平均変化がベースラインから大幅に減少していることがわかった。
WM、DM間のSCORAD治療効果のモデル推定値は21.2だった。[95%CI 14.9-27.6;P<.0001](table2 95%CI,14.9-27.6;P<.0001).SCORADの臨床的に重要な値の変化は8.7であり、この変化はその差を超えていた。
ある研究では症状の30%の減少が臨床的に重要であると見なされており、マクマネー検定で二次解析すると、WMで30%の改善を達成した患者は23人で、DMでは6人だった。WMはDMに対して大幅な改善を示していた(Figure 2: McNemar’sX2=8.83,df=1,P=.0030) 同様にWMはADQを5.8減少させ、(tableⅡ 95%CI,1.8-9.7)統計的に優位な改善を示した。さらにSCORADの変化はADQの変化と相関していた(図3r=0.66)しかし、ADQの解析ではSCORADと同様の傾向を示したが、優位性には達しなかった。(P=.061)
そのほかの二次解析では優位な変化は認めなかった

Discussion:今回の研究の限界、残された課題などを記載する。
中等度から重度のアトピー性皮膚炎の小児に対する、保湿剤やステロイド外用などの通常ケアに加え、入浴の頻度の影響を調べ、Wet methodはSCORADやADQで比較した場合に統計的、臨床的に優位に改善を示すことがわかった。これらのデータにより1日2度のSoak and seal入浴が中等度から重度のアトピー性皮膚炎の重症度を減らすことが示された。
今回の研究はsingle blind の前向き、クロスオーバーデザインのランダム化試験を使った、SSを組み合わせた入浴頻度に関する疑問における初めての研究である。SSと組み合わせて入浴頻度を評価する研究は数、サイズ、質、に制限があるが、我々の研究で見られたWMアプローチの有効性はこれまでの研究と一致している。
今回の研究の結果の説明として最も可能性の高いのはTCSの吸収の強化と潜在的なアレルゲンや刺激物の「洗い流し」が皮膚バリアの改善ではなく免疫調整不全を改善したことである。これまでのエビデンスでは乾燥している角質層より湿潤している角質層の方が局所薬はよく浸透することが示されている。その結果WMはwet wrap therapyの有効性を示されたメカニズムと同様に、TCSの有効性を高めることによりステロイドを節約することができるかもしれない。また、皮膚へのアレルゲンの暴露がアトピー性皮膚炎の炎症を引き起こしている可能性があり、WMはこの炎症の原因となる鱗屑、外皮、アレルゲン、刺激物をより効果的に除去する可能性がある。
小児ADの表現型は成人の慢性疾患とは実質的にことなると考えられており、今回は小児集団を研究しており、成人にそのまま適応することはできない。小児ADではTH2およびTH17/TH22応答の増加とTH1活性化およびINF-γ応答の低下を特徴とする。アトピー性の低い成人集団でこれらの結果が一貫しているかどうかはっきりしていない。
現実の世界で1日2回のSS入浴は手間がかかり、家族にとってはアドヒアランスが難しくなる可能性があると認識している。我々の研究では高いアドヒアランスだったが、入浴ログと患者への直接の電話連絡が必要なこともあり、これらのインセンティブは研究以外の環境では存在しない。我々の研究は患者が中等症から重症の場合に短期間(2週間)の急性治療介入であることを意味しており、1日に2回の入浴は家族により労力を強いることになるが、少ない入浴よりはより効果的であることを示した。また、中等度から重度程度の場合にウェットラップ両方を行う必要やより強力な局所ステロイドなしに、湿疹の重症度を改善する可能性を示した
ADの治療および予防におけるSS入浴頻度の役割を評価するには、より大規模な研究が必要である。 更なる研究により、TCSを使用しないWMアプローチが長期的にADのリスクを軽減できるかどうか判断される可能性があるが、中等度から重度のADの6ヶ月〜11歳の小児では、急性期治療としてWMアプローチを行うことが、標準治療のTCSへの介入として安全であり、ADの重症度を低下させ、ステロイドの節約効果がある可能性がある。

 

*1<アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2018より>
JC2020白水1

*2 ADQ
JC2020白水2

Carel K, Bratton DL, Miyazawa N, Gyorkos E, Kelsay K, Bender B, Strand M, Atkins D, Gelfand EW, Klinnert MD. The Atopic Dermatitis Quickscore (ADQ): validation of a new parent-administered atopic dermatitis scoring tool. Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Nov;101(5):500-7. doi: 10.1016/S1081-1206(10)60289-X. PMID: 19055204.

Figure 1
JC2020白水3

TableⅡ
JC2020白水4

Figure 2
JC2020白水5

Figure 3
JC2020白水6

【開催日】2020年12月9日(水)

超高齢心房細動患者に対する低用量エドキサバン

-文献名-
K.Okumura. Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation. NEJM. 2020; Oct 29; 383(18): 1735-1745.

-要約-
Introduction:
年齢とともに心房細動は増加し、年齢と心房細動はいずれも脳梗塞のリスクである。心房細動患者の脳梗塞予防ガイドラインでは、高齢者であっても抗凝固療法が推奨されるが、超高齢者には腎機能障害・過去の出血歴・過去の転倒歴・ポリファーマシー・フレイルなどの出血リスクを鑑みて、処方をためらう医師が多い。高齢化に伴い、ハイリスク・超高齢者の抗凝固療法のエビデンスが必要である。
 低用量エドキサバン(15-30mg)は脳梗塞予防には用量不足として認可外ではあるが、出血のハイリスク群である超高齢者にとっては有益であるかもしれない。
Method:
 今回のELDERCARE-AF試験は、非弁膜症性心房細動を有し、脳卒中予防に承認されている用量での経口抗凝固療法が適当ではないと判断された超高齢(80 歳以上)の日本人患者を対象に、エドキサバン15mgの1日1回投与とプラセボ投与とを比較する第3相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照イベント主導型試験(主要評価項目の発現が定められた定数に達するまで継続する試験)である。COIとして第一三共からの資金提供あり。
Patient:80歳以上の非弁膜症性心房細動を有し、CHADs2スコアは2点以上。CCr15-30、出血の既往、BW45kg以下、NSAIDs内服中、抗血小板薬内服といった理由から抗凝固療法を見送られている。
Intervention:エドキサバン15mg内服
Comparison:プラセボ
Outcome:4-48週目までは4週毎、以降は8週毎にフォローアップを行い、有効性として脳卒中または全身性塞栓症の発症、安全性として国際血栓止血学会(ISTH)の定義による大出血の発症を評価した。
Results:
2016年8月〜2019年11月に164の施設、1086名がエントリーし、984名がエドキサバン15 mg/日の投与を受ける群(492例)とプラセボ投与を受ける群(492例)に1:1の割合で無作為に割り付けられた。除外された102名は20名が同意撤回、3名が死亡、79例が基準を満たさなかった。平均年齢は86.6(±4.2)歳、平均体重は50.6(±11.0)kg、平均CCr36.3(±14.4)であった。423名が過去に抗凝固療を受けていた。追跡期間は平均466日で、681例が試験を完了、303 例が中止となった。(同意の撤回158例・死亡135例・その他の理由10例)試験を中止した主な理由は出血と関係のない有害事象と試験継続の意志喪失・能力欠如であり、人数は2群で同程度であった。
66例の脳卒中または全身性塞栓症から59例が主要有効性評価項目として認定され、エドキサバン群で15例(2.3%/人年、プラセボ群で44例(6.7%/人年)であった。(ハザード比0.34, 95%CI 0.19~0.61, P<0.001)サブグループ解析でも概ね同様の結果であったが、NSAIDs内服群のみ結果のばらつきがあった。
安全性の評価としては、22例の大出血イベントがあり、エドキサバン群で20例(3.3%/人年)、プラセボ群で11例(1.8%/人年)であった。(ハザード比1.87, 95%CI 0.90~3.89,P=0.09)消化管出血に限ると、イベント発生数はエドキサバン群のほうがプラセボ群よりも多い結果となった。全死因死亡に大きな群間差はなかった。(エドキサバン群9.9%, プラセボ群10.2%,ハザード比0.97,95%CI 0.69~1.36)
Discussion:
 本試験はENGAGE AF-TIMI48試験のデータをもとにエドキサバンを15mgに減量して使用した。
脳卒中と出血の両方のリスクが高い超高齢者に対する確立された標準治療はなく、対照としてプラセボを使用した。先行研究ではアスピリンは心房細動の患者の脳卒中の予防に効果がなく、脳卒中のリスクが高い患者には推奨されなかったため、比較対照薬として抗血小板薬を使用しなかった。
先行研究で腎機能障害があり(CCr15-30)エドキサバン15mgを投与された人と、腎機能障害がなくエドキサバン30-60mgを投与された人の血中濃度は類似しており、今回の試験と先行研究での有効性・安全性の結果が同様であった一因かもしれない。
Limitation:
 脱落患者が多かったが、出血に関連した同意取り下げは6名のみであり、多くは出血とは関係のない有害事象が理由となった。
 日本人(東アジア人)は他の人種と比較して脳卒中や全身性血栓症の発生率が高く、出血の発生率も高いため、他の集団で適応できない可能性がある。

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【開催日】2020年12月9日(水)

喫煙に依存している成人における薬物治療の開始。米国胸部学会の公式臨床実践ガイドライン

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
Leone FT, Am J Respir Crit Care Med. 2020;202(2) :e5. 
Initiating Pharmacologic Treatment in Tobacco-Dependent Adults. An Official American Thoracic Society Clinical
Practice Guideline.

-要約-
Introduction:
現在の喫煙治療ガイドラインは禁煙への介入の有効性を確立しているが、臨床で多く直面する一般的な実施に関する質問に対して、詳細なガイダンスは提供していない。
治療チームが日常的に直面するいくつかの薬物療法開始の質問に対して、根拠に基づくガイドラインが作成された。

Method:
臨床医にとって重要な質問と結果に優先順位をつけるために禁煙に関する多様な専門家たちが参加した
。エビデンス 作成チームはシステマティックレビューを行い、これらの質問に回答し推奨を提示した
。GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)アプローチを用いて、効果の確実性と推奨の強さを示した。

Results:
ガイドラインでは薬物選択に関する5つの強い推奨と2つの条件付き推奨を策定した。
強い推奨事項にはニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、ブプロピオン(日本未発売・抗うつ薬)ではなくバレニクリンの使用、精神疾患患者に対してニコチンパッチではなくバレニクリンの使用、禁煙の準備ができていない成人でのバレニクリンの開始、12週を超える延長治療期間の利用がある。
条件付きの推奨事項には、バレニクリンを単独で使用するのではなく、ニコチンパッチをバレニクリンと組み合わせたり、電子タバコではなくバレニクリンを使用したりすることが含まれる。

Discussion:
ガイドラインの推奨の数に制限があったため、全ての可能な薬物治療に対応できなかった。将来のガイドラインではバレニクリンが以前に失敗した患者、または以前にバレニクリン治療を拒否した患者に対する、最適なコントローラー戦略を検討する必要がある。

【開催日】2020年12月2日(水)

虫垂炎に対する抗菌薬と虫垂切除術のランダム化比較試験

-文献名-
The CODA Collaborative. A Randomized Trial Comparing Antibiotics with Appendectomy for Appendicitis. The New England Journal of Medicine 2020; 383:1907-1919

-要約-
INTRODUCTION
虫垂切除術は,60年以上前に代替療法として抗菌薬療法の成功が報告されていたにもかかわらず,長い間虫垂炎の標準治療だった.成人における虫垂炎に対する抗菌薬療法のいくつかのランダム化試験が行われているが,重要なサブグループ(特に合併症のリスクを高めるかもしれない虫垂石を伴う症例)の除外,小さなサンプルサイズ,および一般集団への適用性に関する疑問が,この治療法の使用を制限している.2014年には,米国の虫垂炎患者の95%以上が虫垂切除術を受けた.しかし,2019年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い,医療システムや米国外科学会などの専門団体は,虫垂炎の治療における抗菌薬の役割など,ケア提供の多くの側面の再検討を提案している.そこで,成人の虫垂炎に対する抗菌薬療法と虫垂切除術を比較するために,この比較試験(CODA)を行った.当初,参加者全員が少なくとも1年間のフォローアップを受けた後に結果を報告する予定だったが,虫垂炎の管理に関するCOVID-19関連の懸念を考慮して,ランダム化後の最初の90日間に基づいて結果を記述する.

METHODS
米国の25のセンターで虫垂炎患者を対象に,抗菌薬療法(10日間コース)と虫垂切除術を比較する実用的,非盲検,非劣性,ランダム化試験を実施した.一次アウトカムは,ヨーロッパのQOL-5次元(EQ-5D)質問票で評価した30日間の健康状態で行った(スコアは0~1の範囲で,スコアが高いほど健康状態が良好であることを示し,非劣性マージンは0.05ポイントとした).二次アウトカムには,抗菌薬群の虫垂切除術と90日間の合併症が含まれていた.その解析は,虫垂石の有無に応じて定義されたサブグループで事前に定義された.

RESULTS
合計で1,552人の成人(虫垂石を伴う414人)が,ランダム化された.776人は抗菌薬の投与を受け(47%はインデックス治療のために入院しなかった),776人は虫垂切除術を受けるように割り当てられた(96%は腹腔鏡下手術を受けた).抗菌薬は,30日間のEQ-5Dスコアに基づいて虫垂切除術に劣っていなかった(平均差,0.01ポイント;95%信頼区間[CI],-0.001〜0.03).抗菌薬群では,虫垂切除術を受けた人の41%と虫垂切除術のない人の25%を含めて,29%が90日までに虫垂切除術を受けていた.合併症は虫垂切除群よりも抗菌薬群でより一般的だった(100人の参加者あたり8.1対3.5;レート比2.28; 95%CI,1.30~3.98); 抗菌薬群のより高い割合は,虫垂石のある人(参加者100人あたり20.2対3.6;レート比5.69; 95%CI,2.11〜15.38),虫垂石のない人(3.7対3.5人100人の参加者;レート比1.05; 95%CI,0.45~2.43)に起因する可能性がある.重篤な有害事象の発生率は,抗菌薬群の参加者100人あたり4.0,虫垂切除群の参加者100人あたり3.0だった(発生率比1.29; 95%CI 0.67〜2.50).

DISCUSSION
30日でのEQ-5Dスコアは,虫垂炎治療に反応する全体的な健康状態の検証済みの尺度であり,主要な結果として選択された.虫垂切除からの回復には典型的な期間と考えられる.
別の関連する結果は,虫垂切除術を受けていない患者の悪性腫瘍を見逃す可能性が挙げられる.ほとんどすべての参加者がCT検査を受け,腫瘍性病変を示唆する所見がある参加者は除外されたが,9つの虫垂切除標本で悪性腫瘍が同定された.注目すべきことに抗菌薬群の参加者の間で発見された悪性腫瘍は少なく,早期発見が患者の転帰に影響を及ぼしたかどうかは不明である.
 今回のCODA試験の幅広い選択基準は,過去の最大のランダム化試験であるAPPAC試験(合計530人の参加者)との結果の違いを部分的に説明できるかもしれない.APPAC試験では,抗菌薬群の虫垂切除術の発生率は,90日で16%,1年で27%,5年で39%だった.虫垂切除術の術中に穿孔が認められた患者の割合は,APPAC試験では2%未満であり,CODA試験では,虫垂切除群で16%だった.CODA試験で特定された穿孔率は,虫垂炎の疫学研究で報告された割合と一致する.APPAC試験では開腹手術のみであったが,CODA試験は,ほとんど腹腔鏡下手術であったことから,APPAC試験でより入院期間が長かったことを説明していると考えられる.
5件のランダム化試験の最近のメタ解析では,虫垂切除術よりも抗菌薬治療の方が,合併症の発生率が低く,障害期間が短いことが示されている.
 今回の試験の限界としては,90日間の追跡データしか含まれていないため,再発と長期的な合併症を過小評価していることである.また,無作為化に同意した患者が約30%であり,センター間でその割合が異なり,選択バイアスをもたらした可能性がある.今回の試験は盲検化されておらず,抗菌薬群の治療レジメンは指定されていなかったことから,いくつかの結果に影響を及ぼした可能性もある.虫垂切除群の一部の患者は手術を拒否し,抗菌薬群の一部はプロトコルで指定された手術基準を満たさずに虫垂切除術を受けた.地域や患者の特性により予想される交絡を考慮して,外来または入院治療による結果を評価しなかった.そして,虫垂石の有無によるサブグループを定義したが,これらのサブグループで観察された結果は,少ないサンプル数の個別の合併症を考慮する必要がある.
 今回の試験で,虫垂炎に対する抗菌薬治療は,少なくとも短期的には,一般的な健康状態の標準化された測定の結果に基づき,虫垂切除術に劣っていないこと示した.

【開催日】2020年12月2日(水)

精神障害とその後の病状との関連

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
N.C. Momen, etc. Association between Mental Disorders and Subsequent Medical Conditions. N Engl J Med.2020;382(18):1721–1731.

-要約-
【背景】
 精神障害のある人は、精神障害の発症が無い人々よりも、他の精神障害や様々な疾患の発症リスクが高いと言われている。
【目的】
 精神障害と、精神障害発症後に発症した疾患との関連を包括的にまとめること。包括的な評価により、併存する精神障害と他疾患のスペクトル全体を比較することができる。また特定の期間にわたる精神障害の診断後のさまざまな疾患の相対的および絶対的リスクに関するデータは、臨床医および医療計画担当者が患者の主要な予防ニーズを特定するのに役立つ可能性がある(例えば、精神障害発症後の5~10年の間に循環器疾患が発症する可能性のある30歳のうつ病患者の割合など)。
【方法】
 1900年から2015年までにデンマークで生まれ、2000年から2016年に追跡された590万人以上のデータを含むデンマークの国家登録簿からの集団ベースのコホートを使用し、合計8390万人年の追跡を行なった。10タイプの精神障害と9種類の疾患(31個の特定の疾患を含む)を評価した。Cox回帰モデルを使用して、年齢、性別、暦時間、および精神障害の既往を調整した後、精神障害と疾患のペアの全体的なハザード比と時間依存ハザード比を計算した。絶対リスクは、競合リスク生存分析を使用して推定した。
【結果】
 5,940,299人(11.8%)のうち、698,874人が精神障害の診断を受けたことが確認された。全人口の年齢の中央値は、コホートへの参加時で32.1歳、最後のフォローアップ時で48.7歳だった。精神障害のある人は、90組の精神障害と疾患の組み合わせのうち、76組に関して精神障害がない人よりも疾患発症リスクが高かった。精神障害と疾患との関連のハザード比の中央値は1.37でした。最も低いハザード比は、器質性精神障害(身体疾患(ex.脳血管障害、甲状腺疾患、神経変性疾患、中枢性感染症既往)が原因で精神症状を来すもの)と多種類の癌で0.82(95%信頼区間[CI]、0.80から0.84)であり、最も高いハザード比は摂食障害と泌尿生殖器疾患で3.62であった(95%CI、3.11から4.22)。 いくつかの特定の精神障害と疾患の組み合わせでは、リスク低下を示した(ex.統合失調症と筋骨格系疾患)。精神障害の診断からの時間経過によってリスクは異なった(例えばFigure2に見られるように、いくつかの精神障害と疾患のペアではハザード比が精神障害の診断直後に高くその後数年にわたって低下したがそれでも上昇したままであったり、精神障害診断の最初の年にハザード比が高かったがその後急速に減少するなどのペアもあった)。精神障害の診断から15年以内の疾患の絶対リスクは、発達障害患者と泌尿生殖器疾患の組み合わせの0.6%から、器質性精神障害患者の循環器系疾患の組み合わせの54.1%まで変動した。
【ディスカッション】
 統合失調症患者は膠原病(ex関節リウマチ)のリスクが低いことを発見した。さらに癌の危険因子(喫煙、肥満、身体活動の低下など)は精神障害患者に多く見られる傾向があるが、精神障害によっては明らかに癌のリスクが低いという逆説的な発見があった。精神障害は、ライフスタイル、日常生活、社会経済的地位に影響を及ぼし、それがその後の疾患リスクを媒介する可能性がある。このレジストリベースの研究では、サンプルサイズが大きく、リコールまたは自己報告バイアスによって引き起こされる問題に対する感受性が限られていた。選択バイアスが最小限に抑えられた。またデンマーク国民は医療に自由で平等にアクセスできるため、民間保険を提供する能力または医療へのアクセスに関連する影響は減少した。
【結論】
 ほとんどの精神障害は、精神障害発症後の疾患発生リスク増加と関連していた。ハザード比は0.82から3.62の範囲であり、精神障害の診断からの経過時間によって変化した。
【限界】
 疾患を31種類に限定したが、事故・怪我・急性疾患は含まれていない。さらに精神障害と疾患の個々のペアを分析したが、患者が複数の精神障害と複数の病状を抱えている可能性があるため、共存する状態の全範囲を反映していないアプローチである。さらに、精神障害および疾患の完全な診断およびこれらの病状の正確な発症日に関して不確実性がある。発症日が精神障害および多くの疾患の実際の発症よりも遅い可能性があり、精神障害や疾患の誤った時間的順序につながった可能性がある。加えて精神障害の発生率は20~30代でピークに達するが、研究中の多くの非精神疾患のピークは人生の後半(高齢になり)に発生する。研究の絶対リスクの計算では入手可能なデータの制限があり、精神障害診断後の15年以内の疾患の診断が必要だった。この期間はすべての共存する精神障害と疾患の状態を把握する機関としては不十分だった可能性がある。また結果をデンマーク国外で一般化するには限界があり、共存する精神障害と疾患のパターンは、他国、特に医療や社会経済構造が異なる国では異なる場合がある。

補足付録(Figure S1~142.31の記載あり):
https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1915784/suppl_file/nejmoa1915784_appendix.pdf

Figure1:カテゴリ別の精神障害診断後の疾患リスク
各パネルは、精神障害(各パネルの上部)の診断後の疾患(グラフの左側)のペアワイズリスクを示している。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および調査中の精神障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。ハザード比は対数目盛で表示されます。????バーは信頼区間を示します。
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Figure2:気分障害診断後の疾患発症リスク(気分障害診断時期別)
各パネルは、2つのモデルによる、気分障害診断後の病状の時間依存ハザード比を示しています。推定値は、基礎となる時間スケールとして年齢を使用したCox比例ハザードモデルを使用して、性別と生年月日の調整後(モデルA)、および気分障害発症前に診断された別の精神障害をさらに調整した後(モデルB)に計算されました。。単一性の線は、各プロットで破線として示されています。横軸は、気分障害診断からの期間を示しています。精神障害と病状の間の他のすべてのペアワイズ比較は、図S23からS62に示されています
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Figure3.性別および診断からの時間経過に応じた、気分障害診断後の疾患発症リスク
示されているのは、性別および病状のカテゴリーに応じた、気分障害の診断後の疾患リスク(100人あたりの累積発生率で測定)です。
パネルAは気分障害の診断からの時間に応じた研究に参加したすべての人の推定値を示しています。
パネルBは気分障害診断時の年齢に応じた循環器疾患のリスクを示し、横軸に気分障害の診断からの経過時間を示しています。95%信頼区間(曲線の周りの灰色の影付き領域で示されている)は非常に小さいため、パネルAは推定曲線によって隠され、パネルBは右端のグラフ(>80 Yr of Age)にのみ表示されます。他のすべての絶対リスク精神障害と病状のペアを図S63からS142に示します。
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【開催日】2020年11月11日(水)

アタッチメント理論(愛着理論)と継続性(医師患者関係)

-文献名-
Frederiksen, Heidi Bøgelund, Jakob Kragstrup, and Birgitte Dehlholm-Lambertsen.
“Attachment in the doctor–patient relationship in general practice: A qualitative study.”
Scandinavian journal of primary health care 28.3 (2010): 185-190.

-要約-
【目的】なぜ主治医とのinterpersonal continuityは患者にとって有用なのかを探索する

【デザイン・セッティング・対象】
22名の患者にインタビューを用いた質的研究をした。そのうち12名は毎回同じGPに診てもらっており、10名は馴染みの薄いGP(専攻医)に診てもらっていた。診察を観察後にインタビュー対象者を選択し、主訴(受診理由)、年齢、性別によって合目的に対象者を抽出した。研究テーマは心理学的理論を用いて対応した。

質的分析の方法論:*解釈的現象学的分析
「主治医との関係性を患者はどのように経験しているか?」
インタビュー逐語録の読み込み、テーマを注釈し、各テーマを連結させ、最後に、それらのテーマと
主観的な記述の理論的な意味を解釈するための適切な社会心理学的理論を結びつけた。その過程で、Attachment理論が、役立つ枠組みとして立ち上がってきた。

*Attachment理論とは:John Bowlby,1907―1990
主に幼少期における養育者などとの関係性,ことにアタッチメントattachment(愛着)が,人間の生涯にわたるパーソナリティや社会的適応性などにいかに影響を及ぼすかを問う発達理論。 愛着理論ともいう。

【結果】
患者のinterpersonal continuityの有用性の理解にとって中心的問題は、attachmentの必要性であった。患者はGPとの人間的な関係性の構築をより好み、大多数の患者は医師患者関係の中にある、ある程度の脆弱性を述べた。病気が重症だったり心配が強いほど、患者は脆弱であり、毎回同じGPをより必要としていた。更に、たとえ医師患者関係が好ましくない状況であっても、GPを変えることは困難であると述べていた。

【考察 *抜粋記載】
病気になると、自動的に医師はアタッチメントの対象となる。アタッチメント理論では、安全になることよりも、安心感を得ることへの関心が述べられているが、医師はケアを提供するためのより賢く強い個人として認識される。またアタッチメント理論は、合理的な判断が個人の関係性で説明つかないことも説明することができる。患者は弱い立場(脆弱性)なので、好ましくない医師患者関係の場合も医師を変えるに至らないのだ。

【結論】
Attachment理論は、毎回同じGPに診てもらいたい患者ニーズの原理の説明を提供するかもしれない。患者という弱い立場は、ケア提供者へのattachmentの必要性を作り出す。この欲求は根本的なものであり、病いや怖さを感じる時に活性化される。

【開催日】2020年11月11日(水)