【EBMの学び】慢性心不全と利尿薬

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年11月9日
【臨床状況のサマリー】
 78歳男性、慢性心不全、慢性心房細動あり、イグザレルト10mg,フロセミド20mg,アムロジピン5mgを内服している。当院へ定期通院を切り替えたいという主訴で受診した。初回外来で、2週前から体重が3kg増え、足のむくみが増強し、倦怠感や起座呼吸があると訴えあり。胸部レントゲンでは両側胸水貯留がみられ、心エコーでは収縮能低下(EF38%)、中等度MR、中等度ARがみられた。うっ血性心不全と診断し、フロセミド40mgへ増量したが改善なく、予定入院とした。入院日までフロセミドを60mgへ増量して処方した。入院後はもとのフロセミド60mg内服にラシックス20mg静注を追加した。1週間で著明に下腿浮腫軽減し、体重減少がみられ、起座呼吸や倦怠感も消失した。脱水傾向も認めず、静注を中止しすべて内服へ切り替えようとした。フロセミド80mg内服を検討していたが、上級医のすすめで長時間作用型のループ利尿薬アゾセミド(商品名ダイアート)の存在を知った。アゾセミドは緩徐な利尿効果を示すため、内服直後の頻尿を解消する可能性があるということであった。過去の臨床試験で、フロセミド20mgに対してアゾセミド30mgが同じ尿量排泄を促すということであったので、予定しているフロセミド80mg内服を単純換算するとアゾセミド120mgとなる予定であった。果たして患者の予後やQOL改善に良い影響をもたらすのか疑問に思った。

 P;70台の心房細動を持つ慢性心不全患者.NYHA2度.
 I(E);ダイアート120mg投与
 C;フロセミド80mg投与
 O:QOL改善

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
Superiority of Long-Acting to Short-Acting Loop Diuretics in the Treatment of Congestive Heart Failure– The J-MELODIC Study –. Masuyama T, Tsujino T, Origasa H, Yamamoto K, Akasaka T, Hirano Y, Ohte N, Daimon T, Nakatani S, Ito H. Circ J. 2012;76(4):833-42.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;年齢中間値71歳で,NYHA2〜3度の慢性心不全のある患者320名
 I(E);アゾセミド30〜60mg/day
 C;フロセミド20〜40mg/day
 O;2年間の心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による緊急入院の率を下げる
→患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が( されている ・  されていない ・ 不明
 →盲検化が( されている ・ 一部されている ・  されていない ・記載なし )
実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
 →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
 PROBE法が採用されている。
 ※PROBE法とはProspective, Randomized, Open-labeled Blinded Endpoints(前向きランダム化オープンラベル試験)の略。参加者(患者)と介入実施者(医師)の二者は、経過中、治療群と対照群のどちらに割り付けられたかを知っているが、Outcome評価者はそれを知らずにOutcomeを評価する方法である。(はじめてトライアルシートより(南郷医師のHPより))
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
1)Primary outcome
 心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による再入院
 介入群23/160,対照群34/160.p=0.03
2)Secondary outcome
 うっ血性心不全による再入院または心不全の治療薬変更が必要になった
 介入群26/160,対照群36/160.p=0.048
すべての死亡率
 介入群17/160,対照群17/160.p=0.99
3) Component events
 心血管イベントによる死亡
 介入群7/160,対照群11/160.p=0.36
 うっ血性心不全による緊急入院
 介入群19/160,対照群29/160.p=0.04
 心不全の治療薬変更が必要になったケース
 介入群7/160,対照群10/160.p=0.44

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
●ARRとNNTを計算する
 ※P値で有意差が出たものについて計算
1)Primary outcome
 心血管イベントによる死亡またはうっ血性心不全による再入院
 HR=0.55(95% CI, 0.32 to 0.95)
 ARR=CER—EER=34/160-23/160=11/160=0.069
 NNT=1/ARR=1/0.069=15
2)Secondary outcome
 うっ血性心不全による再入院または心不全の治療薬変更が必要になった
 HR=0.60(95% CI, 0.36 to 0.997)
 ARR=CER—EER=36/160-26/160=10/160=0.063
 NNT=1/ARR=1/0.063=16
3) Component events
 うっ血性心不全による緊急入院
 HR=0.53(95% CI, 0.30 to 0.96)
 ARR=CER—EER=29/160-19/160=10/160=0.063
 NNT=1/ARR=1/0.063=16

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ②参照

STEP4 患者への適用
【①論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?】
 年齢、心不全の重症度は同等。
 第一にアゾセミドの初期投与量について。本研究では30〜60mg/dayであるが本症例では120mg/dayと異なる。しかし、Methodsの欄には心不全の症状が安定しないときにアゾセミドを120mg/dayまで増量したとあり、結果が適応できないほどの差はないと考える。
 第二に他の内服薬変更歴について。本研究の除外基準には「ランダム割付する前1ヶ月以内の心血管系内服薬変更歴」が組み込まれている。本症例は、ループ利尿薬変更前にACE阻害薬を導入したり、Ca拮抗薬を中止したりしている点で除外基準に当てはまる。しかし、この除外基準はループ利尿薬の差を正確に調べるための基準であることが予想され、本症例への適応に関して大きな問題はないと考える。

【②治療そのものは忠実に実行可能か?】
<最安価を採用した場合>
 アゾセミド(アゾセミド錠)60mg×2T=34.8円
 フロセミド(フロセミド錠)40mg×2T=12.6円
<当院の場合>
 アゾセミド(ダイアート錠)30mg×4T=83.6円
 フロセミド(フロセミド錠)40mg×2T=12.6円
 アゾセミドを使用することで薬価が3〜7倍となる。また添付文書上、ダイアートの最大投与量は60mg/dayであり、120mg/dayの使用は保険をきられる可能性がある。

【③重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?】
コストは上記の通り。副作用は下記。
黒岩先生図①

 1年以内の低K血症がアゾセミド群で多いように見えるが、P値は計算されていない。副作用の発生率については差がないのかどうかわからない。
アウトカムについて。本研究によって、「2年以内のうっ血性心不全による緊急入院or心血管イベントによる死亡」がアゾセミド群で低くなることが示された。しかし、フォローアップ期間は最低2年間と短く長期的な予後については不明である。また、心血管イベントによる\\\\死亡率のみでの比較や総死亡率のみでの比較では有意差は出ておらず、生命予後に関する結果も不明である。
また、本研究は参加者(患者)と介入実施者(医師)の盲検化のなされていないPROBE法によるRCTである。Primary endpointにも含まれる「うっ血性心不全による緊急入院」やSecondary endpointにある「心不全治療薬の変更」については、介入実施者が恣意的に操作することも可能である。したがって今回のアウトカムは低めに見積もった方が良い。
デメリットについて。副作用に関する両群の比較は十分になされておらず、アゾセミドを使用することで薬価は3〜7倍となる。また保険上、使用できる容量にも上限がありそうである。
以上の考察より、アゾセミド投与のメリットは本研究で著者が主張するほど大きくないが、デメリットである薬価が患者にとって些細な問題で、かつ保険上使用可能な容量であれば、アゾセミドを使用する価値はあると考える。

【④患者の考え・嗜好はどうなのか?】
理想的には薬価の問題を議論しながら、患者およびご家族と導入について検討する必要がある。しかし、高齢の非医療従事者に以上の考察を共有することは難しい。
そこで、患者の経済状況について推測する。患者はすでに引退したが、同敷地内に居住している長男が患者の妻とともに農家と酪農を営んでいる。医療費は長男からの支出となることが予想される。更別村の農家は作付面積が広く比較的裕福な家庭が多く、経済的な問題は少ないことが予想される。
現時点ではアゾセミド120mgを導入して退院しているが、今後は電解質や脱水状況を見ながら容量を調整する必要がある。アゾセミドが60mg以下になるなら、アゾセミドを継続しても良いと考える。アゾセミドが60mgを上回る状態が続くのであれば保険適用外になるため、一部かすべてをフロセミドに変更する。その際はもちろん本人およびご家族に説明し合意形成する必要がある。

【開催日】
2016年11月9日(水)

Afに対する抗凝固薬の有効性と安全性の比較

-文献名-
Torben Bjerregaard Larsen, Flemming Skjøth, Peter Brønnum Nielsen, Jette Nordstrøm Kjældgaard, Gregory Y H Lip.
Comparative effectiveness and safety of non-vitamin K antagonist oral anticoagulants and warfarin in patients with atrial fibrillation: propensity weighted nationwide cohort study. BMJ 2016; 353

-要約-
Objective
 抗凝固薬を初めて開始する心房細動の患者さんで、ダビガトラン(プラザキサ)、リバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)といったNOACsの有効性や安全性をワーファリンと比較した。

Design
 観察的全国コホート研究

Setting
 3つのデンマークの全国データベース、2011年8月から2015年10月

Participants
 61,678人の経口抗凝固薬を初めて処方された非弁膜症性心房細動の患者で、弁膜症性心房細動や静脈血栓症の既往がない患者。治療の選択はワーファリン(n=35,436、57%)、ダビガトラン 150mg (n=12,701、21%)、リバーロキサバン 20mg (n=7,129、12%)、アピキサバン 5mg (n=6,349、10%)に分けられた。

Main outcome measures
 虚血性脳梗塞、虚血性脳梗塞もしくは全身性塞栓症の合計、死亡、虚血性脳梗塞もしくは全身性塞栓症もしくは死亡の合計を有効性の結果と定義した。安全性の結果はあらゆる出血、脳内出血、大出血とした。

Results
 分析を虚血性脳梗塞に限定すると、NOACsはワーファリンと有意差はなかった。1年のフォローの中では、リバーロキサバンはワーファリンと比べて虚血性脳梗塞と全身性塞栓症の年間発症率の減少(それぞれ3.0%と3.3%)と関連していた。ハザード比は0.83(95%信頼区間は0.69-0.99)。ダビガトランとアピキサバン(それぞれ年間2.8%と4.9%)のハザード比はワーファリンと比べて有意差はなかった。年間死亡率はアピキサバン(5.2%)とダビガトラン(2.7%)(それぞれ0.65,0.56-0.75、0.63,0.48-0.82)とワーファリン(8.5%)と比較して有意に低かったが、リバーロキサバン(7.7%)は有意差がなかった。あらゆる出血の組み合わされたエンドポイントでは、アピキサバン(3.3%)とダビガトラン(2.4%)(0.62,0.51-0.74)とワーファリン(5.0%)と比較して有意に低かった。ワーファリンとリバーロキサバンの年間の出血率(5.3%)は同じであった。

Conclusion
 通常の診療では、すべてのNOACsがワーファリンと比べて安全性も有効性も代替できるものであると考える。虚血性脳梗塞についてはNOACsとワーファリンに有意差を認めなかった。死亡率、あらゆる出血、大出血に関してはワーファリンと比較して、アピキサバンとダビガトランが有意に低かった。

-考察とディスカッション-
 この文献を読んで、NOACsについての知識が増えて、これらの薬剤が自分の中でより身近に感じられるようになった。
 今後も新しい薬剤の処方は躊躇すると思われるが、その有効性と安全性を調べて、使いこなせるようにしていきたい。

【ディスカッション】
 1.みなさんはNOACsを新規に処方する際に躊躇することはありませんでしたか?
 (使いこなしている方は気持ちの変遷などがあれば教えてください。)
 2. 新しい薬剤の知識をどのようにして手に入れていますか?

【開催日】
 2016年11月2日(水)

COPDに対する抗コリン薬:噴霧吸入は死亡率が上がる?

-文献名-
Sonal Singh, Yoon K Loke, Paul L Enright, Curt D Furberg. Mortality associated with tiotropium mist inhaler in patients with chronic obstructive pulmonary disease: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ 2011;342:d3215

-要約-
目的
 COPDの症状改善を目的としたチオトロピウム噴霧吸入の、長期使用と死亡リスクの関連について系統的に分析

情報源
Medline, Embase, the pharmaceutical company clinical trials register, the US Food and Drug Administration website, and ClinicalTrials.gov for randomised controlled trials from inception to July 2010

研究の選択
 チオトロピウム噴霧吸入とプラセボをCOPDに対して用いたRCTであり、30日以上治療を行う死亡のデータが報告されている研究を選択。全死亡の相対リスクはa fixed effect meta-analysisを用いて見積もり、不均一性はI2 statisticで評価

結果
・inclusion:5つのRCT
・全体:チオトロピウム噴霧吸入は死亡率の有意な上昇と関連
 90/3686 v 47/2836; relative risk 1.52, 1.06 to 2.16; P=0.02; I2=0%
・容量別:5μg・10μgともに死亡リスク上昇と関連
 5µg(1.46,1.01 to 2.10; P=0.04; I2=0%)、10 µg (2.15, 1.03 to 4.51;P=0.04;I2=9%)
・感度分析:全体的な概算は実質的に変わりなかった。
  random effects modelを用いた場合(1.45, 1.02 to 2.07; P=0.04)
  1年間の追跡を行った3つの研究に限定した場合(1.50, 1.05 to 2.15)
  別の1つの研究データを追加した場合(1.42, 1.01 to 2.00)
・NNT(5㎍):124
 1年間の追跡を行った研究のコントロール群のイベント発生率を基準に考えると、124人の噴霧治療により年間1人の死亡が発生

結論
 このメタアナリシスは、規制機関による安全性の懸念を説明し、チオトロピウム噴霧吸入による52%の死亡リスク上昇を示唆する。

-考察とディスカッション-
DynaMedには下記の記載があります
———————————————————————————————-
inhaled long-acting anticholinergics
◆tiotropium 18 mcg via DPI (Spiriva HandiHaler) once daily – decreases exacerbations and improves quality of life in patients with COPD (GOLD Evidence A; level 1 [likely reliable] evidence)
◆tiotropium via soft mist inhaler (Spiriva Respimat) may increase risk of death in patients with COPD (level 2 [mid-level] evidence) while tiotropium via HandiHaler dry powder inhaler does not appear to increase risk for cardiovascular events or mortality in patients with COPD(level 2 [mid-level] evidence)
———————————————————————————————-
各サイトでは、噴霧吸入は使用していますか?
すでに上記のような研究結果をもとに診療の工夫をしていることはありますか?

【開催日】
 2016年10月19日(水)

【EBMの学び】膀胱炎に抗菌薬を投与するvsしない

STEP1 臨床患者に即したPI(E)CO
【評価を行った日付】
 2016年9月4日
【臨床状況のサマリー】
 60歳女性
 転居に伴い当院を利用し始めた。
 膀胱炎の既往多数。前医で処方されたLVFXを有症状時に頓服していた。
 下腹部痛、残尿感、頻尿があり、LVFX内服したが改善しない。
 経過中の発熱なし。院内の尿検査では細菌尿、膿尿みとめており、膀胱炎と診断される。尿培養からはE.coli(R to LVFX)が検出された。CCL内服で治癒したが、膀胱炎を繰り返す既往があり、抗生剤を持っていないと心配と話している。
 患者に説明をするうえで、「膀胱炎は抗生剤がなくても治癒する」は本当か、を調べたい。

  P;膀胱炎の女性
  I(E);抗生剤を使用する
  C;抗生剤を使用しない
  O;治療成績に差がない

STEP2 検索して見つけた文献の名前
【見つけた論文】
検索したエンジン;NEJMのClinical practiceからの孫引き
見つけた論文;T C M Christiaens. Randomised controlled trial of furantoin versus placebo in the treatment of uncomplicated urinary tract infection in adult women; British Journal of General Practice. 2002 Sep; 52(482): 729–734.

STEP3;論文の評価
STEP3-1.論文のPECOは患者のPECOと合致するか?

 P;単純性の下部尿路感染症を疑う症状(急性排尿障害、頻尿、尿意切迫)と膿尿をみとめる15-54歳の非妊娠女性
 I(E);ニトロフラントイン(日本未発売)100mg 4T4x 3日間
 C;プラセボ 4T4x 3日間
 O;症状と細菌尿の消失・改善
 →患者のPECOと (合致する ・ 多少異なるがOK ・ 大きく異なるため不適切)

STEP3-2 論文の研究デザインの評価;内的妥当性の評価
①研究方法がRCTになっているか?隠蔽化と盲検化はされているか?
 →ランダム割り付けが ( されている ・  されていない )
 →隠蔽化が      ( されている ・  されていない ・ 記載なし )
 →盲検化が      ( されている ・  されていない )
 実際のTableで介入群と対照群は同じような集団になっているか?
  →( なっている ・ なっていない ・ 記載なし )
② 解析方法はITT(intention to treat)か?
 →ITTが ( されている ・ されていない )

STEP3-3 論文で見いだされた結果の評価
Outcomeについて、以下の値を確認する
【① 治療効果の有無; P値を確認する】
佐野先生図①
佐野先生図②

【②治療効果の大きさ;比の指標と差の指標を確認する】
●RR(あるいはHR・OR)を確認する
 <table1>
  Day3 RR1.35, Day7 RR1.7
 <table3>
  Day3 bacteriology: RR3.89, symptom: RR1.54
  Day7 bacteriology: RR1.5, symptom: RR1.78
●ARRとNNTを計算する
 <table1>
  Day3 ARR0.175 NNT5.7,
  Day7 ARR 0.31 NNT3.2
 <table3>
  Day3 bacteriology: ARR0.535 NNT1.9, symptom: ARR0.28 NNT3.5
  Day7 bacteriology: ARR0.256 NNT4, symptom: ARR0.24 NNT4

【③治療効果のゆらぎ;信頼区間を確認する】
 ①参照

STEP4 患者への適用
【①エビデンスの視点】
●論文の患者と、目の前の患者が、結果が適用できないほど異なっていないか?
 年齢は60歳であり、研究対象である15歳〜54歳からは外れる。除外基準である発熱や、既知の腎臓・尿路疾患はない。糖尿病を含めた易感染性疾患はない。今回の膀胱炎はCCL内服で治癒しており、次回の膀胱炎は「再発」になるかどうかはまだ不明である。産婦人科疾患の検索はされてない。
また、ニトロフラントインは本邦では発売されていないが、海外では膀胱炎の第一選択薬にもなっており、一般的な抗生剤治療と考える。

●内的妥当性の問題点は?(STEP3の結果のサマリー)
 研究はランダム化、隠蔽化、盲検化されているが、割付された2群間の特徴についての比較はなされていない。
 本研究の着目すべき点は、P<0.05と有意差をもって示されたのは臨床学的UTIの7日目の症状改善と、細菌学的UTIの3日後の細菌尿の消失だけであることだ。NNTはいずれも一桁ではあるが、プラセボ群であっても症状や細菌尿の改善症例があることがわかった。

【②臨床セッティングの視点】
●治療そのものは忠実に実行可能か?
 無治療で経過を見ることは、患者の医療機関へのアクセスの良さを考えれば可能だが、明らかな有意差がないだけで抗生剤治療群の方が症状の改善・細菌尿の改善の全てにおいて勝っていた。自然治癒することがある、というのは情報提供にはなるが、強く勧められるものではないと考える。
 生活指導としては、本研究では、「水分をしっかりとること」を両群で行っており、実行可能と考える。

●重要なアウトカムはコストや害を含めて全て評価されたか?
 3日間の観察機関の中で、プラセボ群で腎盂腎炎を疑われた人が1人、症状悪化が5人。7日間の観察機関の中で 5人の症状悪化がいた。経過が横ばいでだけでなく、増悪する可能性があることも考慮するべきである。また、抗生剤の副反応に関しての評価はなかった。

【③使う者の経験の視点】
●これまでのその治療に対する経験はどうか?
 外来で経過観察を勧めたことはないが、「経過観察したけど治らないから受診した」「実際に治った経験がある」という患者には会ったことがある。

●自分の熟達度から実行は可能だろうか?
 耐性菌の問題、抗生剤へのアレルギーなどの問題など、経過観察の適応となる症例は限られそうだ。

【④患者の考え・嗜好の視点】
●illness/contextの観点からは治療は行うべきか?あるいはillness/contextを更に確認するべきか?
 患者は抗生剤の頓服で膀胱刺激症状(おそらく膀胱炎)の治療をしてきた経験がある。膀胱炎の診断は患者の主観でも十分であると言われているが、本患者は抗生剤の内服方法への教育も必要であり、自宅に置き薬として抗生剤を常備することは望ましくない。
 しかし、情報提供として、臨床学的にも細菌学的にもUTIの症状変化は3日目までの抗生剤の優位性はないということから、頓服で自宅に薬がなくても、受診できるときに受診する、という方針をお勧めできるかもしれない。

【開催日】
2016年9月14日(水)

ニキビの最新ガイドライン(カナダ)

-文献名-
Y Asai MD MSc, A Baibergenova MD PhD, et al. Management of acne: Canadian clinical practice guideline. Canadian Medical Association Journal. 2016, 188(2) : 118-126

-要約-
Introduction
・ニキビは12-24歳の85%が経験する
・精神的ストレスや瘢痕をもたらしQOLを低下させる恐れがある
・ニキビの性状は複数の段階に分けられる(Figure 1)
・前回のカナダのガイドラインは2000年のもの
 →エビデンスに従った新しい指針が必要
・3つのカテゴリーに関して記載していく
 A:comedonal acne(面皰)
  - closed comedones(閉鎖面皰):白色
  - open comedones(開放面皰):grey–white
   毛孔の完全/部分閉塞と皮脂の貯留による
 B・C:mild­to­moderate papulopustular acne(炎症性座瘡)
    表層の炎症が見られる
 D・E:severe acne
   膿疱や結節を伴い、深く組織障害を起こす
   レアなタイプ:conglobate acne(集簇性座瘡)
松島先生図①

<GLの対象でないもの>
neonatal, infantile and late­onset acne; acne fulminans; acne inversa (hidradenitis suppurativa); and acne variants such as gram­negative folliculitis, rosacea, demodicidosis, pustular vasculitis, mechanical acne, oil or tar acne, and chloracne.

・European evidence-based guideline for the treatment of acne (2012)(ES3)に内容を合わせるようにしている
 ※2016も出ているようですが有料

Method
・Guideline panel composition
 運営委員会(C.L. and J. Tan)が選抜 他には地域の代表や疫学と皮膚科のエキスパート(Y.A. and A.B.)も
・Guideline development
 AGREE IIに準拠 適応についてはADAPTE frameworkに従う
 2007〜2013年のシステマティックレビューの中から5つ選抜(ES3とマレーシアのは質が高い)
 2010.3〜2013.3の文献を検索した 出版前に追加で2015.7までの文献を調べた
 クライテリアに合致したものを2人のレビューアー(Y.A. and A.B.)が評価
 Grade A, B, Cに評価しエビデンスレベル1-4を決めた
 出てきた推奨をパネルディスカッションした
 blinded online Delphi processで決定
・Stakeholder review
・Mitigation of competing interests
 Valeant, Galderma, Cipher, Bayer and Mylanの援助あり
 バイアスを受けないよう工夫した

Recommendations
・アルゴリズム(Figure 2)を掲載
・full guidelineはAppendix 4参照
・面皰のみに関するエビデンスはなかったため、軽症の炎症性座瘡の結果を元にしている

◎comedonal acne
外用薬が基本
・レチノイド(一般名 アダパレン,商品名ディフェリンゲル)
  ・benzoyl peroxide(BPO):過酸化ベンゾイル(商品名: ベピオゲル)
 ※カナダではOCTとして販売
・レチノイド+BPOまたはクリンダマイシン

乾燥肌や刺激に弱い肌にはクリームやローションを
脂っぽい肌にはゲルを

効果不良の場合、女性では経口避妊薬の併用も検討する
松島先生図②

松島先生図③

◎mild­to­moderate papulopustular acne(限局性)
・BPO単独
・レチノイド
・併用

◎severe acne
・経口抗菌薬の併用
 テトラサイクリンorドキシサイクリンを推奨
 ミノサイクリンはdrug-induced lupusやhepatitisのリスクが上がる
 ただし耐性菌の誘導には気をつけなければならない
・女性の場合は経口避妊薬の併用も検討
・経口イソトレチノイン(日本では未承認)
 催奇形性があるので避妊を!

Implementation
5年以内に改定する予定

Gaps in knowledge
・体幹の座瘡への有効性のエビデンスがない
・minimal effect sizeがはっきりしない
・座瘡の重症度の国際的標準が決まっていない
・QOL低下に対する補助療法(心理療法など)の知見がない
・耐性菌を防ぐために抗菌薬内服期間をどれくらいにすればいいのか決まっていない
・よく使われている治療(erythromycin–tretinoin、spironolactone、isotretinoin)の効果

Conclusion
早期発見、早期治療により、瘢痕などの後遺症を防げる。

【開催日】
 2016年9月7日(水)

LDLは空腹時採血でとる必要がない

-文献名-
Børge G. Nordestgaard. Fasting is not routinely required for determination of a lipid profile: clinical and laboratory implications including flagging at desirable concentration cut-points—a joint consensus statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine. European Heart Journal (2016) 37, 1944–1958

-要約-
【目的】
 空腹時脂質データよりも随時脂質データの臨床への影響の批判的評価と、空腹時と随時脂質データ異常値の検査報告に関するガイダンスの提供のため

【方法・結果】
 空腹時と随時の脂質を比較した多量の観察データは、食後1−6時間で臨床的に重大な変化を認めなかった(TG+26mg/dl, 総Cho-8mg/dl, LDL+8mg/dl,計算で求めたremnant Cho-8mg/dl, 計算で求めたnon-HDL-Cho, HDL, apoproteinA1,apoproteinB, Lipoproteinは差はなし)。更に空腹時と随時で脂質濃度は時間経過に応じて同様に変化し、心血管病の予測は同等であった。患者の脂質検査に対するコンプライアンスを改善するため、TG>440mg/dlを超えることを想定しない限り、随時脂質のデータを使用することを推奨する。随時脂質の異常値の範囲は、TG>175, 総Cho>190, LDL>115,計算で求めたremnant Cho>35, 計算で求めたnon-HDL-Cho>150, HDL<40, apoproteinA1<125,apoproteinB>100, Lipoprotein>50。空腹時脂質の異常値の範囲はTG>150で、生命に危険を及ぼすパニック値は、膵炎のリスクとしてTG>880、ホモ家族性脂質異常症としてLDL>500, ヘテロ家族性脂質異常症としてLDL>190, 高い心血管疾患リスクとしてのLipoprotein>150であった。

【結論】
 私たちは、随時血液(非空腹時)での脂質の血液検査を推奨した。検査室からの報告として望ましい検査値のカットオフ範囲が示された。空腹時脂質と随時脂質は双方が補い合うべきであり、どちらか一方という訳ではない。

佐藤先生図①

佐藤先生図②

【開催日】
 2016年9月7日(水)

脂質測定は空腹時に行うべきか

-文献名-
Fasting time and lipid levels in acommunity-based population A cross-sectionai study. Arch Intern Med. 2012;172(22):1707-1710.

-要約-
【背景】
 現在のガイドラインでは脂質測定は空腹時(最終食事から8時間はあけて)に行うように推奨しているが、最近の研究では非空腹時の脂質は食事の影響はほとんどうけないどころか、随時の方が心血管アウトカムを予測するのではないかと考えられている。この研究の目的は空腹時間と脂質測定値の関係を調査することである。

【方法】
 空腹期間(時間単位)と脂質測定値を含んだ検査値を調査したCross-sectional研究が、2011年中の6ヶ月間に大規模な住民レベルのコホートで行われた。データは、カナダのカルガリーにある人口140万人を包括する検査データセンターで抽出された。
 プライマリアウトカムは、HDLコレステロール値とLDLコレステロール値、総コレステロール、中性脂肪の測定値で空腹後1時間から16時間までが調査された。個別の年齢調整などは行い、それぞれの空腹時間毎に平均脂質測定値が評価され線型モデルを用いて評価した。

【結果】
 合計20万9180人(11万1048人が男性、98132人が女性)が組み入れられた。平均のT-Cho・HDL-Cは空腹時間によっても差はほとんど見られなかった。平均の算出LDL値はグループ間で10%程度異なっており、平均中性脂肪は20%程度の差を認めた。
榎原先生図

【結論】
 住民レベルの横断研究では、空腹時血糖と脂質測定値にはほとんど差は認められなかった。おそらく脂質測定をルーチンで空腹時に行う必要は無いだろう。

-考察とディスカッション-
 脂質検査を空腹で行う必要性については絶食時間に関わらず総コレステロールとHDLに関しては2%未満、LDL値の変化については10%未満、TGの変化については20%未満の範囲ということであった。最近は高脂血症の治療について一次予防の段階で内服治療になることは多くない。一次予防の患者さんに対しては変化率を知った上で大きな差が出るわけでもなさそうなので空腹での採血を推奨しなくてもいいのではないかと感じた。中性脂肪については余程高値でないと介入もしないのでこちらについても空腹である必要はないかと感じた。二次予防患者さんについては、個別の基礎疾患や合併症の交絡を排除しているかは不明であったこともあり、今回の文献だけで二次予防や薬の効果判定のためでの空腹採血を変更するだけの材料にはならないと感じた。

ディスカッション
 ・みなさんは空腹時採血を行っていますか?それはどうしてですか?
 ・この文献を読んで何か行動は変わりますか?

【開催日】
 2016年8日24日(水)

尿管結石に対する薬物的排石促進療法

-文献名-
Robert Pickard et al. Medical expulsive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial . Lancet. 2015;386:341-349.

-この文献を選んだ背景-
 尿管結石患者を久しぶりに自分で診る機会があった。
 自然排石を期待する際、本疾患は疼痛が強いため効果が期待される薬剤は極力提案したい。ガイドラインでタムスロシン(ハルナール)やニフェジピン(アダラート)の推奨の記載もあるが、3〜4年ほど前に同薬剤は効果がなかったという論文を読んだ記憶があり、再度確認し直そうと思い選んだ。

-要約-
Introduction
以前のランダム化比較試験のメタ分析ではタムスロシン・ニフェジピンは自然排石の効果を報告していた。小規模・単施設であり、さらに低〜中等度の試験の質であった。また試験デザインのバラつきがあり、評価指標も異なっていた。にも関わらずガイドラインでもこれらの薬剤が推奨されていた。このため、質の高い研究が必要とされており、筆者らが検証した。

Method
多施設(英国の24の病院)、ランダム化、二重盲検、プラセボコントロール、RCT
尿管疝痛を来した18歳〜65歳の、CTで10mm以下の1個の尿管結石を認めた患者。
ランダムにタムスロシン(400μg/日)、ニフェジピン(30mg/日)、およびプラセボに割り当て4週間内服してもらった(排石や処置を要した際にはその時点で中止)。
処置を要さなかった患者の割合で評価。

Result
・2011年1月11日〜2013年12月20日までに1167人が割り付けられ、1136人が分析された(17人:不的確・14人:追跡不能)。Figure 1論文参照
・処置不要であった割合はプラセボ群(379人)の80%に対しタムスロシン群(387人)は81%であった。
 プラセボ群との調整リスク差は1.3%(95%信頼区間-5.7から8.3、P=0.73)だった。
 ニフェジピン群(379人)も80%で、プラセボ群との調整リスク差は0.5%(95%信頼区間-5.6から6.5,P=0.88)であった。
 タムスロシン群とニフェジピン群を合わせてプラセボ群と比較したが、差は有意では無かった(P=0.78)。タムスロシン群とニフェジピン群の
 比較においても、有意差は見られなかった(P=0.77)Table 2
・性差、結石のサイズ、結石の位置によるサブグループ解析も行われたが同様の結果であった。Figure 2
・副次評価項目(鎮痛薬使用日数、排石までの期間)にも有意差なし。Table 3
・重大な副作用ニフェジピン群で「一例は右腰部痛・下痢・嘔吐、一例は不快感・頭痛・胸痛、一例は重度の胸痛・呼吸困難・左腕痛」の
 3例が報告された。またプラセボ群で「頭痛・めまい・ふらつき・慢性腹痛」の一例が報告された。

貴島先生図①

貴島先生図②

貴島先生図③

discussion

今回の結果ではタムスロシンとニフェジピンは排石に対し有効性を示せなかった。
他の試験では石のサイズの下限(3〜5mm)を設定されており、これらの患者群では、薬物的排石促進療法の恩恵を受ける可能性が高い事が考えられる。

-考察とディスカッション-
・ニフェジピンは有効性と副作用の観点から処方しないでよいのでは。
・他の論文では5mm以上の結石に対しタムスロシンの効果を報告しているものもある。今回の副作用との兼ね合いから処方検討してもよいのでは。
 (処方するにしての、そもそも日本ではタムスロシン200μg/日の用量で男性に)
・保存的治療が対応となる尿管結石の患者に対してタムスロシンやニフェジピンを処方していましたか?タムスロシンを処方しているなら
 その対象患者や用量はどうしていますか?
・この結果を受けて、あなたの処方に変化がありますか?

【開催日】
 2016年8月3日(水)

脳卒中2次予防の合剤に対する患者、介護者、総合診療医の考え

-文献名-
James Jamison, Jonathan Graffy, Ricky Mullis, Jonathan Mant, Stephen Sutton
Stroke survivors’, caregivers’, and GPs’ attitudes towards a polypill for the secondary prevention of stroke: a qualitative interview study. BMJ Open 2016 6 : doi: 10.1136/bmjopen-2015-010458

-要約-
Introduction
 脳卒中や一過性脳虚血発作を起こした患者では2次予防が必要となるが、それに必要な薬剤は抗血小板薬、抗凝固薬、高脂血症薬や降圧薬などの複数の薬剤を内服することになる。しかし、エビデンスに基づいたガイドラインが存在しているにも関わらず、その治療は推奨される基準を満たしていないことが多い。そのため、この研究では合剤についての患者、介護者、総合診療医の考えについて調べるために、インタビューを行い、質的に研究することを目的とした。

Method
 東イングランドの5つの診療所で質的インタビュー研究を行った。28名の患者、14名の介護者、5名の総合診療医にインタビューを行い、合剤に対する考えや将来の使用について分析した。

Results
 合剤の利点、合剤への心配、内服のための説明の3つのテーマが同定された。患者は合剤に対して肯定的に捉えており、飲み忘れが減って、治療を中断することが減るのと考えていた。介護者は薬を飲ませることが楽になると感じていた。総合診療医は心血管リスクの高い患者への処方には前向きであった。しかし、合剤に同等の治療効果があるのか、薬剤を組み合わせた時の副作用はどうか、ノンアドヒアランスの結果はどうなるのか、容量を調整する時に融通が利かないのではないか、現在の治療が中断してしまわないか、より広く脳卒中の患者に適応できるのかが懸念材料として出てきた。

Discussion
 サンプルサイズが限られているため、今回の結果が脳卒中患者に広く当てはまるかは不明であり、すべての総合診療医の考えを反映できていない可能性がある。 また、今回出てきたような懸念材料を解決するような研究が期待される。

【開催日】
 2016年6月22日(水)

PPIが高齢者の認知症リスクを上昇させる可能性

-文献名-
Willy Gomm et al. Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of dementia: A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis. JAMA Neurol. 2016;DOI: 10.1001/jamaneurol.2015.4791.

-要約-
【背景・目的】
 ドイツではPPIの使用量がここ10年で4倍となった。そのうち40-60%が不適切な使用とみなされている。一方で、PPIが認知機能の低下に関連していることを示唆する研究が報告されている。
 先行研究(AgeCoDe研究 約3000人対象)では高齢者においてPPI使用による認知症発症のハザード比はHR1.38[95%CI 1.04-1.83]であった。そこで先行研究の結果を確認するために大規模な前向きコホート研究を実施した。
【方法】
 対象はドイツ最大の健康保険であるAOKの 2004-2011年の診療記録を用い、入院患者と外来患者の診断名とPPI内服歴を調査した。(AOKは全ドイツ人の1/3、高齢者の1/2をカバー)
 PPI内服の定義:各四半期でPPIの処方歴をもって「PPI内服」と定義。最初の18か月の内、すべての四半期で「PPI内服」である患者を「PPI定期内服群」とした。すべての四半期でPPI処方歴がなかった患者を「PPI非内服群」とした。
 先行研究にならい認知症の評価は18か月毎。その時点で認知症と診断されなかった人は引き続き次の18か月も観察対象とした。追跡は2011年末まで行った。
 主要アウトカム:認知症の新規診断として、先行研究から推測される交絡因子(table1参照)はCox回帰モデルにて調整してPPIの使用と認知症の関係を解析した。
島田先生図

【結果】
 対象集団(Figure1)
  ・「PPI定期内服群」は2950人「PPI非内服群」は70729人 (Table1)
  ・PPIのハザード比 1.44(95%CI 1.36-1.52)
島田先生図2
 サブ解析
  オメプラゾール(オメプラール®)   1.51(1.40-4.64)
  パントプラゾール(国内未承認)    1.58(1.40-1.79)
  エソメプラゾール(ネキシウム®)  2.12(1.82-2.47)
【研究の限界】
 ・他の既知の認知症の危険因子(ApoE4や教育レベル)という因子を調整できていない。
 ・認知症の病型を区別していない
【結論】
 PPIの服用回避で認知症発症を抑制するかもしれない。PPIにより脳内アミロイドβが増加したというマウス実験や薬物疫学の一次データの裏付けになるだろう。さらなる検討のためランダム化前向き臨床試験が待たれる。
【参考】「高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015(案)」
 ・STOPP::H2RA(高齢者において認知機能低下、せん妄のリスクあるため可能な限り使用を控える)
 ・START:PPI (GERD/NERDに対して。但し1年以上わたる常用量を越える投与は避ける)

【開催日】
2016年3月16日(水)