膝変形性関節症に対するヒアルロン酸関節注射の効果(SR、メタアナリシス)

-文献名-
Tiago V Pereira, Peter Jüni, Pakeezah Saadat, et al. Viscosupplementation for knee osteoarthritis: systematic review and meta-analysis BMJ 2022;378:e069722

-要約-
Introduction:
世界中で5億人を超える人が変形性膝関節症(OA)に罹患している。ヒアルロン酸の関節注射(Viscosupplementation)は50年以上前からよく行われているが、その有効性や安全性については不明である。イギリスでは一部の人に行われているが、アメリカではMedicareのOA患者の7人に1人は関節注射を施行されている。このSRでは膝OAの間接注射の臨床的効果と安全性について調べる。
Method:
 PRISMAに基づき、PROSPEROに登録された上で行われた。
対象論文の選択;RCT、quasiRCTのみ対象。
痛み、機能、有害事象のうち少なくとも一つをアウトカムにしているOAの人を対象。
2021年9月11日までの期間で、Medline、Embase、CENTRALを言語制限なしで検索。そのほか学位論文、個人通信、書籍、パンフレット、学会抄録、臨床試験登録、メーカーの報告書、規制関連文書から適格な臨床試験を特定した。検索語はappendices参照。
評価者:8人中2人ずつデータ抽出、主解析に関連する試験についてはROB2.0に基づいて2名で行った。意見が分かれた場合は協議、あるいは3人目が決定。
 アウトカム:primary outcome:痛み secondary outcome 機能と有害事象
評価基準はSMD(standardized mean difference)で行なった。最小の臨床的意義のある差を-0.37 (VAS 9mm)と設定。
統計解析はStataとRを用いた。random effect modelを解析に使用。出版バイアスはfannel plotsで考慮。
サンプルサイズは両群100以上の研究を対象(small study effectを考慮して)

上記のフローの通り、169の研究 (21163人) が対象となり、そのうち24の研究 (8997人) が主解析の対象となった。

25の対象論文の一覧

日本の論文は1983年に一つのみ。出版されていないものも5つ含まれる。

Primary Outcome

痛みは臨床的に重要な差は認めなかった(SMD-0.08 (95%CI -0.15 to -0.02))
VASでは (-2mm (95% CI -3.8 to -0.5))
サブグループ解析では、臨床的意義を超えたのは英語以外、アウトカム測定に大きなバイアスが懸念される研究のみだった。

また1983年に出版された論文のみ臨床的有意となるが、その後の差は小さくなり、2012年以降からは0.2の同等性マージンの中に入っている (VAS 5mm)。
Secondary outcome:機能 19の研究が対象となり、SMDは-0.11 (95%CI -0.18 to -0.05)だった。
Secondary outcome:有害事象 RR 1.49 ( 95%CI 1.12 to 1.98) 関節注射群が3.7%、プラセボ群では2.5%だった。

Discussion:
 本研究の結果としては、関節注射はプラセボと比較して、痛みの強さのわずかな減少に有意に関連していたが、その差は臨床的に重要な最小の群間差未満であり、VAS5mmの同等性マージンを持って同等という結果であった。またプラセボ群と比べて有意な有害事象の増加を認めた。またアウトカムについて選択的な報告がされていたこと、不利な結果の報告がされていなかったことがわかった。
Strength
OAに対するレビューとしては最大、以前のものと比較すると包括的で2倍の試験数となっている。
最小の臨床的意義のある差をVAS9mmとした点は先行研究と比べても保守的である(20mmとした文献もあり)。
Limitation
統合した結果なので対象を絞れば、恩恵を受ける集団がある可能性がある。
有害事象に対して有意差は出たが、正確にはIPDmetaやすべての有害事象を分類して検討しなければ本当に関係があるかは言えない。

【開催日】2022年9月14日(水)

アロプリノールはCKDの進行を抑制するか?

-文献名-
Sunil V. Badve, Elaine M. Pascoe, M.Biostat, et al. Effects of Allopurinol on the Progression of Chronic Kidney Disease. N Engl J Med.2020; 382(26):2504-2513.
-要約-
Introduction
 血清尿酸値の上昇は、慢性腎臓病(以下CKD)の進行と関連している。しかしアロプリノールによる尿酸値低下治療が、進行リスクのある慢性腎臓病患者における推定糸球体濾過量(eGFR)の低下を抑制できるかどうかは分かっていない。
Method
オーストラリアとニュージーランドの31施設において無作為化比較試験を実施。Stage3または4(eGFR15~59 mL/分/1.73 m2)のCKD患者で痛風の既往がなく、尿中アルブミン/クレアチニン比が265mg/g・Cre以上、または前年から3.0mL/分/1.73 m2以上のeGFR減少が認められた成人に、アロプリノール(100~300mg/日)またはプラセボをランダムに割り付けた。主要アウトカムは、無作為化から104週目までの、慢性腎臓病疫学共同研究(CKD-EPI)のクレアチニン式(★)を用いて算出したeGFR変化であった。
(★)

Results
 620例のうち369例がアロプリノール(185例)またはプラセボ(184例)に無作為に割り付けられた後、募集が遅れたため登録が停止された。各群3名の患者が無作為化後すぐに脱落した。
残りの363例(平均eGFR31.7 mL/分/1.73 m2、平均尿ALB/Cre比中央値716.9mg/g・Cre、平均血清尿酸値8.2mg/dL)を主要評価項目として組み入れた。eGFRの変化は、アロプリノール群とプラセボ群で有意差はなかった。
(それぞれ、-3.33 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-4.11~-2.55]、および-3.23 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-3.98~-2.47]であった:平均差、-0.10 mL/分/1.73 m2/年[95%信頼区間{CI}、-1.18~0.97];P=0.85)。アロプリノール群の平均血清尿酸値は,12週目に5.1 mg/dL(95% CI, 4.8 to 5.3)に低下し,104週目まで5.3 mg/dL(95% CI, 5.1 to 5.6)で維持された。一方でプラセボ群の12週時点の平均血清尿酸値は8.2 mg mg/dL(95% CI, 7.9 to 8.5)で、追跡期間中は8.2 mg/dL(95% CI, 7.9 to 8.4)で維持された。ベースライン値を調整した血清尿酸値の平均差は-2.7 mg/dL(95% CI, -3.0 to -2.5)だった。重篤な有害事象はアロプリノール群では182例中84例(46%)、プラセボ群では181例中79例(44%)で報告された。

患者のベースライン特性は、腎臓病の主原因を除いて、割り付けられた治療群間でバランスがとれていた。平均(±SD)eGFRは31.7±12.0ml/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比中央値は716.9mg/g・Cre(四分位範囲、244.3〜1857)、血清尿酸値の平均は8.2±1.8 mg/deciliter(490±110μmol/L)であった。

図1. アロプリノールの推定糸球体濾過量(eGFR)に対する効果。
eGFRに対するアロプリノールとプラセボの効果を示す。Iバーは95%信頼区間を示す。
eGFRの変化は、アロプリノール群とプラセボ群で有意差はなかった。

図2. 血清尿酸値とアルブミン尿に対するアロプリノールの効果
血清尿酸値(パネルA)および尿中アルブミン:クレアチニン比(パネルB)に対するアロプリノールとプラセボの効果を示す。

Discussion
登録が不完全であったため検出力が不十分であったこと、試験レジメンを中止した患者の割合が高かったこと、eGFRの算出に血清クレアチニンベースの式を用いたこと、代替アウトカムを用いたことなど、いくつかの大きな限界があった。またイオヘキソールなどの外因性糸球体濾過マーカーの血漿クリアランスを用いた糸球体濾過量の測定を行わなかったことも制限となった。
Result
慢性腎臓病で進行のリスクが高い患者において、アロプリノールによる尿酸値低下治療はプラセボと比較してeGFR低下を遅らせなかった。

【開催日】2022年9月14日(水)

ケアのたましい〜夫として、医師としての人間性の涵養

-文献名-
ARTHUR KLEINMAN アーサー・クラインマン THE SOUL OF CARE THE MORAL EDUCATION OF A HUSBAND AND A DOCTOR 2011年8月 福村出版

-要約-
クラインマンは、妻のジョーンが早期発症型アルツハイマー病との診断を受けた後、自ら妻のケアをはじめ、ケアという行為が医学の垣根を超えていかに広い範囲に及ぶものかに気づくことになった。彼は医師としての生活とジョーンとの結婚生活について、深い人間味ある感動的な物語を伝えるとともに、ケアをすることの実践的、感情的、精神的な側面を描いている。そしてまた、我々の社会が直面している問題点についても、技術の進歩とヘルスケアに関する国民的な議論が経済コストに終始し、もはや患者のケアを重要視していないように思えると述べている。
ケアは長期にわたる骨の折れる地味な仕事である。ときに喜びがあるけれども、たいていはうんざりすることばかりで、しばしば苦しみでもある。けれども、ケアは常に意味に溢れている。今日、われわれの政治的無関心、燃え尽きの危機、ヘルスケア・システムへの不満、これらを前にしてクラインマンは、自分たちと医師にいかに気まずい質問を投げなければならないのかを力説する。ケアをすることを、われわれを必要としている人のために「そこにいる」こと、そして慈しみを示すことは、深く情緒的で人間的な経験であり、われわれにとっての本質的な価値観の実践であり、職業的な関係および家族関係の中心となるものである。ケアの実践は、医学と人生においてかけがえのないものは何なのかを教えてくれる。
プロローグ:妄想状態の妻を介護するエピソード。ケアというのは不安に怯え傷ついている人に寄り添い続けることである。不安や傷つきがそれ以上深くならないように、手を差し伸べ、護り、一歩先んじて考えることである。
第一章:1941年生まれ、本人の源家族 私は子供の頃から細やかなことを気にせずcarelessnessにやってきた.ケアしてもらうことを期待してきた。影響を受けた下水道のバイトの先輩、ユダヤ人としてのアイデンティティー
第二章:影響を受けた自分の家庭医、医学部5年次の火傷の少女の対応「こんな大変な状況に来る日も来る日も耐えられる理由を教えて欲しい」→患者が危機的状況にあるとき、おそらくその時にこそ、患者の人生にお
      いて何がもっとも大切なのか話し合うことができる、医師と患者の両者を、ケアの核心へ導く情緒的で人間的な共鳴関係を築くことができる。診察室と自宅での患者の違い。客観化による失われる人間性。
第三章:ジョーンとの出会いと結婚。変わる自分。気をつけることができる、慎重になることができる、そしてケアすることのできる人間にしてくれた。臨床家として、燃え尽きに陥らないように自分を守りながら、より効果的であるために、目的を貫くために、そのためには癒し手には何が必要だつたのであろうか
第四章:初めての台湾訪問。人間は個ではなく、一種のスペクトラムや連続性の上に存在しているという中国文化の視点。人格は、主に家族や社会ネットワーク内の人間関係によって定義づけられる。中国文化への暴露とその視点の影響。
第五章:ケンブリッジに戻る。小児精神科レオンとの出会い「何がもっとも現実の人々の役に立ち社会を改善させるのか」専門職にとっていかに挑戦的な手のかかる患者だとしても、その患者の苦悩の方があなたの苦悩より重い。1974年、代表的なケアに関する4本の論文を出す:医療の実践は、はるかに広範囲のケアの実践のほんの一例に過ぎない。患者と臨床医にとって、ケアのそのものは病の経験および治療経験の中で、真の重要性に基づいて行われる。この患者志向アプローチは、様々な国や文化で当てはまる。
第六章:シアトルにあるワシントン大学准教授(精神医学・行動医学)へ。慢性疼痛の診療を通じて、痛みは患者が感じているのに、家族や医師に信じてもらえず相互不信というひどく厄介で非治療的な関係に患者が巻き込まれていること。実際に癒し手として機能するためには、目の前の患者の苦悩の経験と治療されたい願望を肯定し、承認しなければならない。この種の敬意、深い敬愛の念が、信頼を再建できる。6年後、ハーバードに戻る。さらに忙しくなり、健康状態が悪化。ただ妻ジェーンがまわりのことを全て円滑に調子よく進むようにしてくれたからこそだった。
第七章:ジェーンが50代後半になると視力障害や記憶障害から後頭葉からくる初期アルツハイマー病と診断され
た。二人の不安や人間性など気にも留めない専門職に次々と診察されることによって、二人は困惑し無力
感に襲われていくのである。「生きながらえたくないの、尊厳を失って死にたくない。あなたとチャーリーは人生
の終わらせ方を知っているわね」。全てのケアを一人でやってきたが、それを変えなければならないと思い始め
た。神経内科医たちは、病の経験ではなく、疾患の経過だけをみていた。
第八章:ジェーンの病気の初期段階は、本人を非常事態に追い込んだが、必要とするケアを注意深く続けている間
に、恐怖と不安は次第に薄れていった。ケアを必要とする人が私の人生や心の中心にいなければ、認知症
ケアという延々と続く作業を責任を持ってやり通すことはできなかっただろう。ジェーンが幸せで安心した姿を、
いや、少なくとも不幸せでも不快でもない姿を見たいという本能的欲求からだった。ホームヘルパーを利用
し、主たるケアの担い手とケアの受け手双方にかかる重圧が弱まり、相応する関係が作られ、その一方で家
族で一緒になってジェーンを在宅ケアすることができるようになった。ケアとは「やれなければならないことがそこ
にあるから、それをする」自分にとって大きな意味を持つ人が助けを求めており、そして自分がここにいてケアを
する。更に必要とされる限り、できる限りケアを提供し続ける。それだけのことなのである。
第九章:ジェーンの病の後半、私がケアの担い手であった最後の時期である。病との戦いは、感謝されている気がしないという日常の些事から始まる。それから次第に失望感が増し、目の前に山積みになっていく膨大な作業に圧倒され、途方にくれ、無力感に苛まれ、それらがないまぜになりほぼ完全に疲労困憊してしまう。終いにはケアは素人の家族で手に負えなくなる。夫のことがわからなくなり、半世紀以上培った強靭な絆が、瞬く間にボキッと音と立てて切れたようなものだった。愛する人の生活機能が低下して、排便管理などをするようになり、身のすくむ経験をしたという人がいる。私が約束を交わした女性は、認知症の進行により約10年後には同じ女性でなくなってしまった。私が愛し世話になってきたジェーンはいってしまった、ただ私はそのことを受け入れることができなかった。またケアを続ける思考は、罪悪感に支えられてもいた。36年もの間ジェーンのケアを受けてきた自分が、10年たっただけでジェーンを見捨てることなどどうしてできようか。ただ私がケアをする中心的役割は終わった。
第十章:施設入所の選定とヘルスケアシステム、医学教育絵への問題意識
第十一章:入院、施設、永眠、その後 
エピローグ:ケアのたましいから、たましいのケアへ

【開催日】2022年9月7日(水)

成人の不眠症治療薬のネットワークメタアナリシス(NMA)

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。

-文献名-
De Crescenzo F, D’Alò GL, Ostinelli EG, et al. Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Lancet. 2022 Jul 16;400(10347):170-184.

-要約-
Introduction:不眠症は一般人口に非常によくみられる疾患で、慢性的な経過をたどり、患者および医療制度に大きな負担をかけている。 非薬理学的介入と薬理学的介入の両方が利用できるが、薬物はかなりの有害事象(すなわち、転倒[特に高齢者])と関連しているにもかかわらず、利用しやすいためしばしば処方される。薬理学的治療は、ほとんどがプラセボ対照試験で調査されているため、その比較効果についてはほとんど情報がありません。科学文献の中で、我々は5つのネットワークメタ分析を見つけたが、これらは非常に特定の集団(例えば、高齢者または自己免疫疾患と診断された人)にのみ焦点を当てているか、重要な方法論の制限(例えば、プラセボ対照試験のみまたは薬理療法の小さなサブセットを含む)があった。このギャップを埋めるために、我々は、急性および長期治療の不眠症障害に対する認可および非認可薬を含む体系的レビューとネットワークメタ分析を行った。

Method:この系統的レビューおよびネットワークメタ分析では,データベース開設から2021年11月25日までにCochrane Central Register of Controlled Trials,MEDLINE,PubMed,Embase,PsycINFO,WHO International Clinical Trials Registry Platform,ClinicalTrials.gov および規制機関のウェブサイトを検索し,公開および未発表のランダム化対照試験について明らかにした。特定の診断基準で診断された成人(18歳以上)の不眠症障害に対する治療として、薬物療法またはプラセボを単剤で比較した研究を対象とした。NMAではクラスター無作為化試験またはクロスオーバー試験、および二次性不眠症(精神疾患または身体的な併存疾患による不眠症、薬物またはアルコールなどの物質による不眠症)患者が含まれる試験は除外した。信頼性ネットワークメタ解析(CINeMA)フレームワークを用いて、エビデンスの確実性を評価した。主要アウトカムは、急性期治療と長期治療の両方で、有効性(すなわち、任意の自己評価尺度で測定した睡眠の質)、何らかの理由および特に副作用による治療中止、安全性(すなわち、少なくとも1つの有害事象を示した患者数)であった。標準化平均差(SMD)およびオッズ比(OR)は、ランダム効果によるペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析を用いて推定した。本研究はOpen Science Framework, https://doi.org/10.17605/OSF.IO/PU4QJ に登録されている。システマティック・レビューには170試験(36介入、4万7,950例)、ネットワーク・メタ解析には無作為化二重盲検比較試験154試験(30介入、4万4,089例)が組み込まれた。

Results:
・急性治療においてベンゾジアゼピン系(短時間作用型、中間作用型、長時間作用型)、ドキシラミン、エスゾピクロン、レンボレキサント、ゾルピデム、ゾピクロンは、プラセボより有効であり、SMD(標準偏差(SD)の単位として介入効果を表す)は0.36から0.83の範囲だった(証拠の確実性は中程度から高度である)。
・長期治療では、エスゾピクロンおよびレンボレキサントはプラセボよりも有効であった(エスゾピクロン。SMD 0.63 [95% CI 0.36-0.90;非常に低い]、レンボレキサント 0.41 [0.04-0.78; 非常に低い])。
・直接比較では、投与4週間後、短時間作用型ベンゾジアゼピンはダリドレキサント、レンボレキサント、ザレプロンより効果が高く(SMDs 0.47-0.64[高〜中])、エスゾピクロンとゾルピデムはザレプロンより効果が高く(エスゾピクロン: 0.33[0.08-0.58; 中]、ゾルピデム: 0.27 [0.08-0.45; 中]、図3)、短時間作用型ベンゾジアゼピンは、ザレプレクサントに比べ有効でした(SMDs 0.42[1.42])。
・急性期治療において、中時間作用型ベンゾジアゼピン系、長時間作用型ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロンは、ラメルテオンよりも何らかの原因による中止が少なかった(図3)。 (中作用型ベンゾジアゼピン系。OR 0.72[95%CI:0.52-0.99;中程度];長時間作用型ベンゾジアゼピン。0.70[0.51-0.95;中等度]、エスゾピクロン:0.71[0.52-0.98;中等度])
・長期投与では、エスゾピクロンとゾルピデムはラメルテオンよりも投与中止が少なかった(エスゾピクロン:OR0.43[95%CI]、ゾルピデム:OR0.98[95%CI])。OR 0.43[95%CI0.20-0.93;非常に低い]、ゾルピデム:0.43[0.19.0.95;非常に低い]、図3)。
・ゾピクロンとゾルピデムは、治療4週間後にプラセボよりも有害事象による脱落が多かった(ゾピクロン:2.00[1.28-3.13、非常に低い]、ゾルピデム:1.79[1.25-2.50、中等度])。
・ゾピクロンでは、エスゾピクロン、ダリドレキサント、スボレキサントに比べて有害事象による脱落が多かった(エスゾピクロン1.82[1.01-3.33]、低)(ダリドレキサント3.45[1.41-8.33、低)(スボレキサント3.13[1.47-6.67、低])、図4)。
・試験終了時に副作用を報告した患者数では、ベンゾジアゼピン系、エスゾピクロン、ゾルピデム、ゾピクロンが、プラセボ、ドクセピン、セルトレキサート、ザレプロンより副作用の報告が多く( OR 範囲 1.27-2.78 [high to very low] )、ゾピクロンもレンボレキサント、メラトニン、ラメルテオン、スボレキサントより多くなりました (図4)

Discussion:
・急性期および長期治療におけるすべての結果を考慮すると、レンボレキサントとエスゾピクロンは有効性(臨床的に関連する主要アウトカムである睡眠の質)、受容性(何らかの原因による中止)、および忍容性(何らかの有害事象による中止)の点で最高のプロファイルを有していた。しかし、エスゾピクロンはかなりの有害事象を引き起こす恐れがあり、レンボレキサントに関する安全性(少なくとも1つの有害事象)データは結論に至っていない。ベンゾジアゼピン系薬剤(短時間作用型、中間作用型、長時間作用型)は急性期の治療には非常に有効であるが、忍容性と安全性のプロファイルは好ましくない。最も重要なことは、長期間の試験データがないため、これらの薬剤の臨床効果を適切に評価することができないことであった。
・我々の分析では、レンボレキサントは短期、長期ともに睡眠を改善する最も有効なオレキシン拮抗薬であり、セルトレキサントとスボレキサントはより良い忍容性プロファイルを有していた。
[限界]
・CINeMAによると、特に長期のタイムポイントでは、多くの比較を質が低いか非常に低いと評価し、多くの試験が無作為化と割付隠蔽に関する十分な情報を報告していないため、これらの結果の解釈には限界がある。
・身体的併存疾患および治療抵抗性不眠症の患者を除外したため、これらの臨床サブグループへの結果の適用性が制限されるかもしれない。
・我々は平均的な治療効果のみを分析し、個々の患者レベルでの治療反応の潜在的に重要な臨床的および人口統計学的修飾因子(例えば、性別、症状の重症度、および罹病期間)を調査することができなかった。また、正式な費用対効果分析は行わず、特定の有害事象に関するデータは個々の研究間で一貫して報告されていませんでした。このことは、患者や臨床医が治療の有効性や受容性だけでなく、副作用の発生率や重篤度も考慮して自ら判断するため、重要な制約となります。

【開催日】2022年9月7日(水)

患者中心性(人間中心性person-centredness)の教育 何が有効で何が失敗するのか

-文献名-
Bansal A, Greenley S, Mitchell C, Park S, Shearn K, Reeve J. Optimising planned medical education strategies to develop learners’ person-centredness: A realist review. Medical Education. 2022;56(5):489–503.

-要約-
背景 人間中心性(※1)は医学教育の目標として掲げられているが、既存の研究がこれが達成されていないことが示唆している。人間中心性を育成することを目的とした医学教育への介入は、どのように、なぜ、どのような状況で成功するのかについて、十分にわかっていない。
方法 リアリスト・レビュー(※2)の方法論に基づいて、「医学教育」「人間中心」および関連する同義語を用いてMedline、Embase、HMIC、ERICの各データベースと、未出版文献を検索した。医学教育における計画的な教育介入を含み、人間中心性に関連するアウトカムのデータがある研究を対象とした。分析は、さまざまな教育戦略が学習者の生物医学的な視点とどのように、そしてなぜ相互作用し、人間中心性の視点への変化につながる、あるいはつながらないメカニズムを引き起こすかに焦点を当てた。
結果 最終的に、53の介入を表す61の論文が含まれた。データ統合から生成された9つのContext-Intervention-Mechanism-Outcome configuration(CIMOc)についての記述から、修正されたプログラム理論が構成された。教育的介入が人間中心性の理論を用いずにコミュニケーションスキルの学習や経験に焦点を当てた場合、学習者は生物医学的視点との不協和を経験し、学習の重要性を最小限に抑えることで解決し、(生物医学的)視点の維持に終わっていた。教育的介入が人間中心性の理論を有意義な経験に適用し、意味づけのためのサポートを含む場合、学習者は人間中心性の切実さを理解し、(人間中心性の)学習に伴う自ら反応に対処できると感じ、人間中心性への視点の変容(※3)がもたらされた。
結論 本研究の結果は、なぜコミュニケーションスキルに基づく介入は、学習者の人間中心性を育成するのに不十分なのかについて、説明を与えるものである。人間中心性の経験学習と人間中心性がなぜ臨床実践において重要なのかを説明する理論を統合し、学習者が学習に際して生じる自分の反応を意味づけできるようにすることは、人間中心性への視点の変容を支援する可能性がある。私たちの知見は、人間中心性を支援することを目的とした医学教育戦略の開発に情報を提供する上で、プログラムや政策立案者に検証可能な理論を提供する。
※1:人間中心性:患者中心性の4つの概念的枠組み(BPS、patient-as-person、権力と責任の再分配、治療的関係の構築)に加えて、doctor-as-personを加えた5つの枠組みに基づいた、健康および臨床医の役割に対する視点
※2:リアリスト・レビュー:ある介入がなぜ、どのようなメカニズムで、どのような状況で有効なのか?(あるいは有効ではないのか)を研究するための文献レビューの研究方法論。はじめにprogram theory(介入がなぜどのようにして有効なのか?)についてのモデルを作り、それを踏まえて文献をレビュー、さまざまな介入のCIMO(Context=どのような状況で、Intervention:どのような介入をすれば、Mechanims:どのような過程を経て、Outcomes:どのような成果につながるのか)をレビューしていき、CIMOのセットを結果として提示する。
※3変容:原文ではTransformationと書かれているが、おそらくは変容的学習(メジロー)などで言われている世界に対する根本的なものの見方の変化を指している。(McWhinneyが家庭医療学で述べている「パラダイム・シフト」を起こす学習のこと)

【開催日】2022年8月10日(水)

16カ国におけるヒトのサル痘ウイルス感染

-文献名-
John P. Thornhill. et al. Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022. NEJM. July 21, 2022

-要約-
Introduction/Background
2022年4月以前は、ヒトのサル痘ウイルス感染は、流行しているアフリカ地域以外では、ほとんど報告がなかった。現在は、世界中で症例が発生している。しかし、伝染、危険因子、臨床症状、および感染の転帰は十分に定義されていない。

Method
私たちは、臨床医の国際共同グループを結成し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で確認されたサル痘ウイルス感染症の症状、臨床経過、転帰を説明するための国際症例シリーズ作成に貢献した。

Result
 2022年4月27日から6月24日の間に16か国の43か所で診断された 528 件の感染を報告する。全体として、感染者の98%が、ゲイまたはバイセクシュアルの男性で、75%が白人で、41%がヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染していた。年齢の中央値は38歳だった。伝染は、感染者の95%で性行為を介して発生した疑いがあった。この症例シリーズでは、95%の人に発疹があり(64%は10個未満の病変)、73%は肛門性器病変、41%は粘膜病変 (54人は単一の性器病変)だった。発疹に先行する一般的な全身的特徴には、発熱 (62%)、無気力 (41%)、筋肉痛 (31%)、および頭痛 (27%) が含まれていた。リンパ節腫脹(56%)も一般的だった。検査を受けた377人中109人 (29%) で性感染症の併発が報告された。暴露歴が明らかな23人のうち、潜伏期間の中央値は7日 (範囲:3~20日) だった。サル痘ウイルスDNAは、精液を分析した32人中29 人で検出された。全体の5%の人に抗ウイルス治療が施され、70人 (13%) が入院した。入院の理由は疼痛管理で、主に肛門直腸の重度の痛み(21人)であった。軟部組織重複感染 (18人); 経口摂取を制限する咽頭炎 (5人); 眼病変 (2人); 急性腎障害 (2人); 心筋炎 (2人); および感染制御目的(13人)。死亡例は報告されていない。

Discussion
 性行為は、主にゲイまたはバイセクシュアルの男性の間で最も頻繁に疑われる感染経路だった。性的感染の可能性が高いことは、接種部位を表す可能性のある原発性生殖器、肛門、および口腔粘膜病変の所見によって裏付けられた。精液を検査した32例中29例で精液中のPCRによって検出されたサル痘ウイルスDNAは、この仮説をさらに支持する。しかし、これらの標本で検出されたウイルスDNAが複製可能であったかどうかは不明であるため、精液が感染を伝達できるかどうかはまだ調査されていない。セックスパーティーやサウナに関連する集団発生の報告は、性的接触が伝染の促進因子として潜在的な役割を果たしていることをさらに強調している。海外旅行や現場での性行為に関連する大規模な集会への参加は、性的ネットワークを通じて増幅されたサル痘感染の世界的な広がりを説明するかもしれない。
私たちが説明する臨床症状には、国際的に受け入れられている症例定義には含まれていないいくつかの明確な特徴がある。これらの定義は最近、ゲイまたはバイセクシュアルの男性、およびリスクグループとして男性とセックスをする他の男性を含むように拡大されたが、粘膜または直腸の症状を特に強調していない。また、最初の単一病変の症状の可能性について警告していない。既存の定義では、異常な発疹の文脈でサル痘を考慮することを推奨しているが、考えられる症状の全範囲をカバーしていない。孤立性生殖器の皮膚病変や手のひらや足の裏の病変は、梅毒やその他の性感染症と誤診されやすく、検出が遅れる可能性がある。付随する検査室で確認された性感染症も、検査を受けた人の29% で報告された。したがって、伝統的な性感染症の症状を呈するリスクのある人には、サル痘を考慮することを勧める。
私たちのシリーズでは、サル痘の診断は、皮膚または生殖器の病変から採取された綿棒標本から最も一般的に確認された。喉または鼻咽頭の綿棒標本と血液はあまり一般的に検査されていない。肛門の痛みや直腸炎を呈する人には、肛門または直腸のスワブを考慮する必要がある。
この症例シリーズの臨床転帰は心強いものだった。ほとんどの症例は軽症で自然治癒し、死亡例はなかった。患者の 13%が入院したが、入院した患者の大半で深刻な合併症は報告されていない。入院の一般的な理由は、痛みと細菌の重複感染だった。ただし、まれに深刻な合併症(心筋炎と喉頭蓋炎)が観察されたため、フォローアップ期間が短いことを考えると、特に長期にわたって、疾患と合併症の全範囲をさらに研究する必要がある。サル痘の臨床症状と重症度は、HIV感染の有無にかかわらず似ているように見えたが、HIVに感染した私たちのシリーズのほとんどすべての人で、HIVは十分に制御されており、CD4細胞数の中央値は1立方ミリメートルあたり680細胞だった。
ごく一部の人(5%)が抗ウイルス療法を受け、ほとんどの場合、シドフォビルまたはテコビリマットが使用された。ヒトにおけるこれらの化合物の有効性に関するデータは限られているが、動物での研究および症例報告は、それらが有効である可能性があることを示唆している。この症例シリーズでは、56人が50歳以上で、全体で9%が以前に天然痘の予防接種を受けたと報告しているため、その効果についてコメントすることはできない。
医療の専門家は、サル痘の症例を認識して管理するための教育を受ける必要がある。危険にさらされている集団の検査や教育を慎重にサポートする的を絞った健康増進が必要である。公衆衛生介入の実施を形成する際にコミュニティを最初から関与させることは、それらが適切で偏見のないものであることを保証し、アウトブレイクを地下に追いやるメッセージを回避するために不可欠である。病変が消失した後の潜在的な感染性ウイルス排出の期間は不明である。UKHSA のガイドラインでは、感染後8週間はコンドームを使用することを推奨しているが、精液中のウイルス排出の潜在的な期間と感染性については、さらなる研究が必要である。曝露前予防におけるワクチンの潜在的な役割についても研究が必要である。
現在のアウトブレイクは、ゲイまたはバイセクシュアルの男性、および男性とセックスをする他の男性に不均衡に影響を及ぼしているが、サル痘は「アフリカの病気」ではなく、もはや「ゲイの病気」でもない。誰にでも影響を与える可能性がある。9人の異性愛者のサル痘患者を特定した。異性愛者の診断を見逃さないように、特に発疹が全身症状と組み合わされている場合は、異常な急性発疹を検査する際に注意を払うことをお勧めする。

今回の限界としては、私たちの症例シリーズは、さまざまな (現地で承認された) PCRプラットフォームで感染が確認された観察的な簡易の症例シリーズである。この症例シリーズの人は、医療を必要とするようになった症状があった。これは、無症状の人、症状が軽度の人、または無症候性の人を見逃す可能性があることを意味する。暴露前のHIV予防を受けている人とセクシュアルヘルスに関する医療機関、およびHIV 感染者と医療機関の間の関係性や距離感は、特にこれらのグループで早期にケアを求める可能性があることを考えると、紹介バイアスにつながった可能性がある。他の集団への拡散が予想され、警戒が必要である。症状は発症時から記録されているため、初期の症状は過少報告されている可能性がある。
ウイルスには国境がないため、知識のギャップを埋め、流行を封じ込めるために、世界は団結して迅速に動く必要がある。広く利用可能な治療法や予防法がない場合、封じ込めには迅速な症例の特定が不可欠である。臨床医学ではよくあることだが、病気がどのように現れるかには多様性があり、サル痘も例外ではない。

Conclusion
この症例シリーズでは、サル痘はさまざまな皮膚科学的および全身的な臨床所見を示している。サル痘が伝統的に風土病であった地域以外で同時に症例が特定されたことは、さらなる地域での感染拡大を封じ込めるために症例の迅速な特定と診断の必要性を浮き彫りにしている。

【開催日】2022年8月10日(水)

骨粗鬆症に対するビスフォスフォネート治療の5年以上の継続について

-文系名-
Leslie L.Chang, M.D. Continuation of Bisphosphonate Therapy for Osteoporosis beyond 5 Years. The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE. 2022 Apr 14,386;15

-要約-
<症例>71 歳の閉経後女性が、主治医であるあなたのもとを定期受診した。66 歳のとき,定期検診の骨密度検査(DXA)で大腿骨頸部の T スコアが -2.7 となり,骨粗鬆症と診断された.これまで骨折、転倒の既往はない。喫煙歴はあったが、10年近く前に禁煙しており、その他は健康である。市販のカルシウム・ビタミンDサプリメントを服用し、アルコール摂取を控え、毎日1時間近所を散歩している。身体所見では、バイタルサインは安定しており、BMIは25で、全身所見も異常はない。骨折リスク評価ツール(FRAX)のスコアを計算すると,10年後の骨粗鬆症性骨折のリスクは17%,大腿骨頸部骨折のリスクは5.1%と推定される.彼女は5年間のアレンドロネート治療を終了したばかりで、副作用はなかった。DXA検査では、大腿骨頚部のTスコアが-2.6となり、骨密度の改善は軽微であった。このままアレンドロネートの服用を続けるか、少なくともしばらくは中止するか、決断しなければならない。骨折リスクとビスフォスフォネートの副作用のバランスを考慮し、ビスフォスフォネート治療の継続について、あなたはどのような助言をしますか?

この患者さんに対して、あなたは次のどちらのアプローチをとりますか?文献、あなた自身の経験、ガイドライン、その他の情報源に基づいて選択してください。
1. ビスフォスフォネート療法の継続を勧める。
2. 骨密度の定期的なモニタリングを行いながら、ビスフォスフォネート療法の中止を勧める。

あなたの意思決定を助けるために、この分野の専門家2名に、エビデンスについて聞いた。この問題についてのあなたの知識と、専門家が説明したエビデンスを考慮した上で、あなたならどちらのアプローチを選びますか?

<オプション1>
ビスフォスフォネート治療の継続を推奨する(Richard Eastell, M.D.)
ビスフォスフォネートによる治療を5年以上受けている患者の骨粗鬆症管理に関する現行のガイドラインでは、骨折のリスクが高くない場合は治療を中断(いわゆる薬物休暇)することが一般的に推奨されています。しかし、「高くない」という言葉を定義することは難しい。FLEX(Fracture Intervention Trial Long-term Extension)試験は、アレンドロネートの長期投与に最も関連する試験です。Fracture Intervention Trialを拡張したこの無作為化臨床試験試験では、平均5年間アレンドロネートを投与された閉経後骨粗鬆症女性1099人が、さらに5年間アレンドロネートを2用量(毎日5mgまたは10mg)またはプラセボ投与にランダムに割り付けられたものです。プラセボ投与を受けた女性は、アレンドロネート治療を継続した女性に比べて骨量が著しく減少し、臨床的椎体骨折のリスクが増加しました(ただし、形態的椎体骨折や非椎体骨折は認められませんでした)。 個々の患者へのアプローチを考えるために、著者らはポストホック解析を行い、FLEX試験開始時の骨折の既往がない女性において、大腿骨頚部のTスコアが-2.5以下の場合、アレンドロネートの継続投与により非椎体骨折のリスクが低下することを明らかにしました。この情報は確定的なものではありませんが、大腿骨頚部Tスコアが-2.5以下で骨折の既往がない患者には適用できるかもしれません。
経口ビスフォスフォネートを5年間投与した後に休薬する主な理由は、この期間を過ぎると非定型大腿骨骨折のリスクが高まるからである。これらの骨折は、大腿骨転子下または骨幹部領域で発生し、大腿骨近位部を侵す典型的な股関節骨折よりも頻度は低く、典型的な股関節骨折よりも罹患率と死亡率が低い。一旦、ビスフォスフォネートを1~2年以上中止すると、非定型大腿骨骨折のリスクは大幅に減少し、ビスフォスフォネートを再開することができます。この患者は、これらの骨折の重要な危険因子であるグルココルチコイドも内服していないし、非常に痩せている(BMI<18.5)ということもないため、非定型大腿骨骨折のリスクが特に高いとは思えません。したがって、5年間の治療継続による骨折リスクのさらなる低減は、彼女の場合、非定型大腿骨骨折のリスクを上回ると思われます。しかし、アレンドロン酸を5年間投与しても、Tスコアが0.1(約1%)しか上昇しないため、ビスフォスフォネートの継続投与を勧める前に、彼女の治療へのアドヒアランスを評価したいと思います。国際骨粗鬆症財団と欧州石灰化組織学会は、治療開始後数ヶ月の間に骨代謝マーカーを測定することを推奨している。もし、マーカーが抑制されていない場合は、アドヒアランスが低い事になる。患者が治療を受けている間に骨代謝マーカーを測定していなければ、それらを測定し、マーカーが抑制されていなければ、治療を経口ビスホスホネートからゾレドロンの静脈内投与に変更し、アドヒアランス向上を図る。

<オプション2>
ビスフォスフォネート治療の中断と定期的な骨密度のモニタリングを推奨する(Paul D. Miller, M.D., H.D.Sc.)
この 71 歳の患者は、股関節の T スコアが -2.7 で、骨折の既往がなく、現在 5 年間のアレンドロネート治療を終了している。私は、アレンドロネートを中止し、ビスフォスフォネートの休薬期間を開始することを支持します。ビスフォスフォネート(P-C-P)結合は、天然に生成されるピロリン酸(P-O-P)結合の生物学的類似体である。炭素原子が酸素原子に置換されているため、代謝されることがない。すべてのビスフォスフォネートは骨に結合し、物理化学的、細胞学的効果により骨吸収を抑制する。さまざまなビスフォスフォネートは、骨との結合の強さ、リモデリングプロセスでリサイクルされるまでの剥離速度(または速度)が異なる。リセドロネートはそれほど強固には結合せず、最も早く剥離するが、ゾレドロン酸は最も強固に結合し、最もゆっくり剥離する。
ビスフォスフォネート系薬剤が発売された当初は、どれくらいの期間使用すればよいのかわからず、無期限に使用し続けることが一般的でした。しかし、長期使用者(8年以上)の非定型大腿骨自然骨折の症例報告が出始めた。2011年、食品医薬品局(FDA)諮問委員会は、使用期間を制限しないことを決めたが、これらの骨折に関する懸念から、FDAを含む複数の専門家が、ビスフォスフォネートの使用を3~5年に制限するよう主張するようになった。この患者の股関節骨折のリスクは、介入を推奨する3%を超えているが、FRAXが定義する主要骨粗鬆症性骨折の10年リスクは20%未満である。
これらのFDAの意見に欠落していることは、ビスフォスフォネート治療を継続した場合の有効性、あるいは中止後の有効性の消失をどのようにモニターするかという勧告である。それは、ビスフォスフォネート治療を再開する時期、または代替療法が妥当であるということに関して決定する判断材料となる。臨床においては、骨密度および骨吸収のバイオマーカー(例えば、C-テロペプチド)のモニタリングが、ビスフォスフォネートの骨吸収抑制効果が減弱した時期を判断する論理的な手段である。骨密度の最小有意差以上の低下と、血清C-テロペプチドの最小有意差以上の上昇は、リモデリングが進行していることを示すシグナルであり、ビスフォスフォネートまたは他の抗骨吸収療法を再開する時期であることを示唆する。最近の研究では、リセドロネートの中止(2年)の方がアレンドロネートの中止(3年)よりも骨折のリスクが早く上昇することが示されたが、骨密度や骨マーカーに関する情報は含まれていない。ビスフォスフォネートの休薬期間に関する決定は、患者のベースラインの骨折リスクによるかもしれない。この症例の女性のように、脆弱性骨折の既往がない患者においては、3年から5年の治療後にビスフォスフォネートを中止しても、その後の脆弱性骨折のリスクは非常に低くなります。しかし、非定型大腿骨骨折や顎骨壊死のリスクから、私はこの女性のアレンドロネートを中止し、骨密度や骨代謝のマーカーをモニタリングして再開すべきかどうか、またいつ再開すべきかを決定することを支持します。

【開催日】2022年7月13日(水)

COVID-19罹患後の精神障害について

※この時期のUpToDateにある”What’s new in family medicine”のTopicで参考にされている文献です。
-文献名-
Xie Y, Xu E, Al-Aly Z. Risks of mental health outcomes in people with covid-19: cohort study. BMJ. 2022;376:e068993. Epub 2022 Feb 16.

-要約- 
【Introduction】
・短期間の追跡調査(6カ月未満)に限定し、精神的な健康状態のアウトカムを狭く選択した研究では、covid-19患者は不安やうつ病のリスクが高い可能性があることが示された。
・1年後のcovid-19患者における精神的な健康状態の包括的な評価はこれまでになされていない。
【目的】Covid-19急性期の生存者における精神疾患発症リスクを推定すること。

【デザイン】コホート研究
【セッティング】米国退役軍人省
【対象者】2020年3月1日から2021年1月15日の間にSARS-CoV-2のPCR検査結果が1回以上陽性だった患者で、感染後30日間生存した153,848人と、2つの対照群:SARS-CoV-2の証拠がない現代群(n=5,637,840)とcovid-19パンデミック以前の歴史的対照群(n=5,859,251)からなるコホート群。 追跡開始日はcovid-19群で検査結果が陽性となった日とし、追跡終了日は2021年11月30日とした。主なアウトカム評価項目は、1年後の1000人当たりのハザード比および絶対リスク差として算出された、事前に規定された精神衛生上の転帰のリスク、およびそれに対応する95%信頼区間。事前に定義された共変量とアルゴリズムで選択された高次元の共変量は、逆重み付けによってcovid-19群と対照群のバランスを取るために使用された。

【結果】
まとめ:
・Covid-19感染者は、精神健康障害(例:不安障害、うつ病性障害、ストレスおよび適応障害、オピオイド使用障害、その他の物質使用障害、神経認知機能の低下)の発症リスクが上昇していることが示された。
・精神健康障害のリスクは、入院していない人でも明らかであり、病気の急性期にcovid-19のために入院した人で最も高かった。
・covid-19患者は、季節性インフルエンザ患者よりも高い精神健康障害のリスクを示した。
・covid-19で入院した患者は、他の原因で入院した患者と比較して、精神健康障害のリスクが高いことが示された。

詳細:
・covid-19群は現代対照群と比較して、以下の発生リスク上昇を示した。(Fig 2)
不安障害(ハザード比1.35(95%信頼区間1.30~1.39),1年後の1000人当たりのリスク差11.06(95%信頼区間9.64~12.53)),
鬱病(同 1.39(1.34~1.43),15.12(13.38~16.91) ),
ストレス・適応障害(1.38(1.34~1.43)、1.29(11.71~14.92)),
抗うつ薬の使用(1.55(1.50~1.60)、1.59(19.63~23.60)),
ベンゾジアゼピンの使用(1.65(1.58~1.72), 10.46(9.37~11.61))
オピオイド処方(1.76(1.71~1.81)、35.90(33.61~38.25))、
オピオイド使用障害(1.34(1.21~1.48)、0.96 (0.59~1.37))、
その他の(オピオイド以外の)物質使用障害(1.20(1.15~1.26)、4.34(3.22~5.51))
神経認知機能の低下(1.80(1.72~1.89)、10.75(9.65~11.91))
睡眠障害(1.41(1.38~1.45)、23.80(21.65~26.00))
メンタルヘルスにおける何らかの診断や処方のリスクも増加した(1.60(1.55~1.66);1年後1000人当たり64.38(58.90~70.01))。(Fig 3)
・各リスクは,入院していない人でも増加し,covid-19の急性期に入院した人で最も高かった。
・上記の結果は、歴史的対照群における結果とも一致した。
・精神疾患の発症リスクは、covid-19で入院しなかった人と季節性インフルエンザで入院しなかった人、covid-19で入院した人と季節性インフルエンザで入院した人、covid-19で入院した人とその他の原因で入院した人を比較すると、いずれもcovid-19群で一貫して高かった。 (Fig 8)

【考察】
強み:
・covid-19患者の大規模な全国コホートを選択し、2つの対照群(SARSCoV2感染の証拠がない現代のグループおよびパンデミック以前の歴史的グループ)と比較して、事前に指定した精神保健アウトカムの包括的セットのリスクを推定した。
・Covid-19群では、入院した人と入院しなかった人のリスク推定値を提供し、これらの集団におけるリスクの大きさをより理解しやすくしている。
・covid-19 と季節性インフルエンザを比較し,covid-19 で入院した人とそれ以外の理由で入院した人を分けて,精神的な転帰のリスクを比較した.
・高度な統計手法を用い,診断コード,処方記録,臨床検査結果などの高次元のデータ領域から,これまでの知見に基づいて選択した定義済みの共変量と,アルゴリズムで選択した100個の共変量を逆確率重み付けによって調整した.
・複数の感度分析で結果を精査し、ポジティブおよびネガティブアウトカムコントロールを適用して、我々のアプローチがテスト前の予想と一致する結果を生み出すかどうかを評価した。

弱み:
・コホートの人口統計学的構成(ほとんどが高齢の白人男性)は、研究結果の一般化可能性を制限する可能性がある。
・コホートの選択に米国退役軍人省の膨大な全国電子医療データベースを使用し、いくつかのデータ領域にわたって事前に定義されアルゴリズムで選択された高次元変数について研究群のバランスをとるために有効な結果定義(診断コードおよび処方記録を含む)および高度統計手法を使用したものの、誤分類バイアスおよび残留交絡を完全に排除することはできない。
・Covid-19群を、SARS-CoV-2検査陽性後最初の30日間にCovid-19で入院した者と入院しなかった者に分類した。入院しなかった参加者の疾患の重症度のスペクトラム(例えば、Covid-19の症状があるかないか)を考慮したものではなかった。
・精神的なアウトカムの重症度については調査していない。
・ベースライン時の医療資源利用によって研究グループのバランスをとり、追跡調査中の医療資源利用の時間的変化を調整するために感度分析を行ったが、covid-19患者への関心が高まった結果、現代および過去の対照群と比較して、精神衛生状態の確認が多くなった可能性を完全に排除することはできない。
・パンデミックが進化し続け、ウイルスの新しい亜種が出現し、急性期のcovid-19の治療戦略が改善し、ワクチンの接種量が増加するにつれて、covid-19の急性期後の精神衛生上の成果の疫学も時間的に変化する可能性がある。

【結論】本結果は、covid-19の急性期を生き延びた人々は、さまざまな精神健康障害の発症リスクが高いことを示唆している。covid-19の生存者における精神的健康障害への取り組みは優先されるべきである。

【開催日】2022年7月6日(水)

COVID-19ワクチンとVZV再活性化の関係

-文献名-
M Hertel. Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Apr 26;10.1111

-要約-
Abstract
背景
帯状疱疹の原因となるVZVの再活性化は、ワクチンの副反応として稀に認められることがある。最近、COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹が報告されている。
目的
本研究の目的は、COVID-19ワクチン接種後に帯状疱疹の頻度が増加することが認められるかどうかを、大規模コホートにおいて実測データに基づき評価することであった。仮説として、COVID-19ワクチンを接種した対象者(コホートI)の方が、未接種者(コホートII)よりも帯状疱疹の発生率が有意に高くなると仮定した。
方法
TriNetXデータベースからワクチン接種者1,095,086人とワクチン非接種者16,966,018人を検索し、交絡因子バイアスを軽減するために年齢と性別をマッチングさせた。
結果
マッチング後、各コホートは1,095,086人となった。ワクチン接種群(コホートI)では、COVID-19ワクチン接種後60日以内に2204名が帯状疱疹を発症し、ワクチン未接種群(コホートII)では、その他の理由(ワクチン接種以外)で受診後60日以内に1223名が帯状疱疹と診断された。帯状疱疹の発症リスクは、コホートIが0.20%、コホートIIが0.11%と算出された。その差は統計学的に極めて有意であった(P < 0.0001; log-rank検定)。リスク比は1.802(95%CI=1.680;1.932)、オッズ比は1.804(95%CI=1.682;1.934)であった。 結論 COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹の発症率が高くなることが統計的に検出された。したがって、帯状疱疹の発疹はCOVID-19ワクチンのまれな副作用であると考えられる。VZV再活性化の分子的根拠はまだ不明であるが,VZV特異的T細胞媒介免疫の一時的な低下がワクチン接種後の病態形成にメカニズム的に関与している可能性がある。なお、VZVの再活性化は、感染症でも他のワクチンでも確立された現象であり、COVID-19に特異的なものではない。 Introduction:著者たちがなぜこの研究を行ったのか、これまでに分かっていること、分かっていないことなど前提となった事柄を記載する。 VZVを含むヘルペスウイルス科の再活性化は、黄熱病、A型肝炎、狂犬病、インフルエンザなどのワクチンが引き金となる可能性が報告されている。COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹の関連は、症例報告やケースシリーズおよびBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の安全性に焦点を当てたレトロスペクティブスタディで世界的に報告されている。 本研究では、実世界データの統計解析に基づいて、大規模な国際コホートにおいてCOVID-19ワクチン接種と帯状疱疹の間に関連性が見られるかどうかを判断することを目的としている。仮説として、帯状疱疹の発生率は、COVID-19を接種した人では接種していない人に比べて有意に高くなると考えた。被験者データの収集には、TriNetX Global Health Research Networkを使用し、COVID-19ワクチンと帯状疱疹との関係性を統計学的に調査した。 Method:どのような方法を用いたのか、特殊な方法であれば適宜解説を入れる。 データベースへのアクセスは2021年11月25日であり、対象期間はアクセス日から2年間を遡った期間に限定した。この期間内に医療機関を訪れたすべての患者を対象とした。主要評価項目は、臨床的に診断された「帯状疱疹」であり、その条件は、①COVID-19接種後1~60日以内(コホートI)または②その他の理由で患者が医療機関を受診してから1~60日以内(コホートII)と定義した。次に、この枠組みを用いてKaplan-Meier解析を行い、リスク比(RR)およびオッズ比(OR)を算出した。 Results:表やグラフがあれば適宜紹介する。 コホートIおよびIIを構成する1,095,086人および16,966,018人の患者が対象とされ、マッチングプロセスの結果、各コホートは1,095,086人となった。コホートIのうち,2204人がCOVID-19接種後60日以内に帯状疱疹を発症した。一方、コホートIIでは、1223人が他の理由で医療機関を受診した後、60日以内に帯状疱疹と診断されたことがわかった。  帯状疱疹の発症リスクは、コホートIとIIでそれぞれ0.20% vs. 0.11%と算出された。0.09%のリスク差は統計的に非常に有意であった(P < 0.0001;95%CI= 0.079%;0.100%)。 RRとORの計算値はそれぞれ1.802(95%CI = 1.680; 1.932)、1.804(95%CI = 1.682; 1.934)であった。

【開催日】2022年7月6日(水)

心血管リスク低減のためのPCS9阻害薬およびエゼチミブ

-文献名-
Safi U Khan, Siva H Yedlapati, Ahmad N Lone. PCSK9 inhibitors and ezetimibe with or without statin therapy for cardiovascular risk reduction: a systematic review and network meta-analysis. BMJ 2022; 377: e069116

-要約-
Introduction:
AHA/ACCガイドライン、ESC/EASガイドラインはどちらも、心血管リスクを低減するための第一選択薬としてスタチンを推奨している。エゼチミブは、スタチン不耐症、または最大量のスタチン治療を受けているにも関わらず、目標のLDL-Cを達成できない患者の二次治療として推奨されている。PCSK9阻害薬はLDL-Cをさらに下げる必要がある場合のステップアップアプローチとして推奨されている。
 これまで、エゼチミブとPCSK9阻害薬の、単独または組み合わせによる絶対的な心血管リスク低減効果を検討した大規模試験やメタアナリシスはなかった。この知識ギャップを埋めるため、システマティックレビューとネットワークメタアナリシスを実施した。このレビューは、2つの脂質低下薬のリスク層別推奨を伴う並行臨床診療ガイドラインの心血管転帰に対するエゼチミブおよびPCSK9阻害薬の効果を定量的に通知した。

Method:
 2020年12月31日まで、Medline、EMBASE、Cochrane library、ClinicalTrials.govの電子データベースを使用して、言語制限なしで詳細な文献検索を実行した。追加のオンラインソースには、主要な心臓血管および医学雑誌のWebサイト、および関連する研究とメタアナリシスの参考文献が含まれた。検索方法は「lipid」「LDL」「cholesterol」「statin」「ezetimibe」「proprotein convertase subtilisin/kexin type 9 inhibitor」という幅広い検索用語の組み合わせが含まれていた。
 選択基準:ベースラインの心血管リスクに関係なく心血管リスクの低減を求めるベースラインLDL-C値の中央値が70mg/dLの患者をランダム化して、PCSK9阻害薬と対照、エゼチミブと対照、PCSK9阻害薬とエゼチミブを投与したランダム化比較試験、信頼できる推定値を生成するための500人以上の患者のサンプルサイズと6ヶ月以上のフォローアップ、関心に合致したアウトカムが報告されている試験。介入群(PCSK9阻害薬またはエゼチミブ)が対照群とは異なるスタチン投与量を体系的に受けた試験は除外した。重複を削除し、研究の選択基準に従って、残りの記事をタイトルと要約レベルでスクリーニングし、次に全文レベルでスクリーニングした。研究の検索と選択のプロセスは、2人のレビューアーによって独立して実行された。対立は全て、話し合いと相互の合意によって解決された。
 結果指標:致命的でない心筋梗塞、致命的でない脳卒中、すべての原因による死亡、および心血管系の死亡について5年間治療された1000人の患者あたりの相対リスクおよび絶対リスクが含まれた。様々なベースライン療法と心血管リスクの敷居値にわたって一定の相対リスクを想定して、絶対リスクの差を推定した。PREDICTリスク計算は、一次および二次予防における心血管リスクを推定した。
Results:
 スタチンを使用している83,660人の成人を対象にエゼチミブとPCSK9阻害薬を評価する14件の試験を特定した。スタチンにエゼチミブを追加すると、心筋梗塞(RR 0.87、95%信頼区間0.80-0.94)および脳卒中(RR 0.82(0.71-0.96))が減少したが、すべての原因による死亡(RR 0.99( 0.92-1.06))、心血管死亡率(RR 0.97(0.87-1.09))は減少しなかった。同様に、PCSK9阻害薬をスタチンに追加すると、心筋梗塞(RR 0.81(0.76-0.87))および脳卒中(RR 0.74(0.64-0.85))が減少したが、すべての原因による死亡(RR 0.95(0.87-1.03)、心血管死亡率(RR 0.95(0.87-1.03))は減少しなかった。心血管リスクが非常に高い成人では、PCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(16人/1000人)と脳卒中(21人/1000人)が減少する可能性があった(中等度から高い確実性)。一方、エゼチミブを追加すると脳卒中が減少する可能性があったが(14人/1000人)、心筋梗塞の減少(11人/1000人)はMIDに達しなかった(中程度の確実性)。PCSK9阻害薬とスタチンにエゼチミブを追加すると脳卒中が減少する可能性があるが(11人/1000人)、心筋梗塞の減少(9人/1000人)(低い確実性)はMIDに達しなかった。スタチンとエゼチミブにPCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(14人/1000人)と脳卒中に(17人/1000人))(低い確実性)が低下する可能性がある。心血管リスクの高い成人では、PCSK9阻害薬を追加すると、心筋梗塞(12人/1000人)と脳卒中(16人/1000人)が減少した可能性がある(中程度の確実性)。エゼチミブを追加すると、脳卒中(11人/1000人)が減少した可能性があるが、心筋梗塞の減少はMID(8人/1000人)を達成しなかった(中程度の確実性)。エゼチミブをPCSK9阻害薬とスタチンに追加しても、MIDを超える結果は減少しなかったが、PCSK9阻害薬をエゼチミブとスタチンに追加すると、脳卒中が減少する可能性がある(13人/1000人)。これらの効果は、スタチン不耐性の患者で一貫していた。中程度~低心血管リスクのグループで、PCSK9阻害薬またはエゼチミブをスタチンに追加しても、心筋梗塞と脳梗塞への利点はほとんどなかった。
Discussion:
 エゼチミブまたはPCSK9阻害薬は、心血管リスクが非常に高いまたは高い成人の致命的でない心筋梗塞および脳卒中を軽減する可能性があるが、心血管リスクが中等度または低い患者では効果がみられなかった。エゼチミブまたはPCSK9阻害薬を追加しても、すべての原因または心血管系の死亡率に有意な影響はなかった。したがって、心血管リスクが最も重い患者で利益が最も大きい可能性があり、中程度から低い心血管リスクの患者での致命的でない心筋梗塞および脳卒中の減少はわずかである。同様に、スタチン不耐性の患者におけるエゼチミブまたはPCSK9阻害薬は、心血管リスクが非常に高い患者と高い患者の心筋梗塞と脳卒中を軽減する可能性がある。

【開催日】2022年6月8日(水)