小児の風邪の夜間咳嗽に対するハチミツの効果

-文献名-
Cohen HA, et al. Effect of honey on nocturnal cough and sleep quality: a double-blind, randomized, placebo-controlled study. Pediatrics. 2012 Sep;130(3):465-71.

-この文献を選んだ背景-
 小児の風邪に対して処方される抗ヒスタミン薬・鎮咳薬等のいわゆる風邪薬の効果は証明されておらず、小児科研修で御指導いただいた小児科専門医の先生は、ペリアクチン®はもう処方しないと明言していた。一方で、小児の風邪の鼻汁・咳嗽は一般的に長引くことが多く、就寝中に悪化し親子の睡眠も妨げられ、お互い「何とかしてあげたい・してほしい」との思いを込めて風邪薬が処方されることも実際は多いのではないだろうか。また、薬局で発行される説明書を見て、「鼻汁=抗ヒスタミン薬」「咳=鎮咳薬」という一対一対応で親も認識しており、症状に応じてこれらの処方を指定されることもしばしばある。
 そこで、最近よく教科書や雑誌で取り上げられており、UpToDate®やDynaMed®でも一定推奨されている「小児の風邪の夜間咳嗽に対するハチミツの効果」に関して、風邪薬に頼らない診療・セルフケア指導の一助になると考え、原著論文を一度読んで見ることにした。

-要約-
【背景】
 ハチミツはWHOでも鎮咳薬として推奨されており、181以上の物質が含まれ抗酸化作用やサイトカイン放出により抗菌作用をもたらすと考えられている。これまで2つのRCT施行され、1つはソバハチミツをデキストロメトロファン(メジコン®)と投薬なしとで比較したもので、もう1つは盲検化されていなかった。

【目的】
 小児の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠困難に対する、3種類のハチミツ(ユーカリ、柑橘系、シソ科)の効果をプラセボ(水酸化ケイ素含有エキス)と比較した。

【方法】
 6箇所の地域の小児科クリニックにおいて、1歳から5歳までの急性上気道炎と診断され、夜間咳嗽があり、罹病期間が7日間未満の小児300名を対象とした(Table.1)。尺度はCough Severity Assessment Questionnaire(Figure.1)を用いた。対象者は二重盲検化のうえ4群(ユーカリ、柑橘系、シソ系、プラセボ)にランダムに割り付けられた(Figure.2)。一次アウトカムは連続する二晩において投薬を行わない日(1日目)と就寝前30分に投薬を行う日(2日目)における咳の頻度の変化、二次アウトカムは咳の重症度、咳の煩わしさ、親子の睡眠の質の変化とした。

【結果】
 プラセボを含む4群すべてにおいて、連続する二晩において咳の頻度は有意に改善した。また、ハチミツ群においてアウトカムの改善度はより高かった(Figure.3)。

【結論】
 親は子供の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠の妨げに対して、プラセボと比較しハチミツにおいてより高い評価をつけた。ハチミツは小児の急性上気道炎による夜間咳嗽や睡眠の妨げに対して好ましい治療となるかもしれない。

【考察】
 過去の研究による風邪薬の有害性、FDAの推奨、1歳未満の乳児にはボツリヌス菌感染リスクのため推奨されないこと、齲歯の原因にならないよう短期間の投与を推奨、等について触れられている。

【開催日】
 2016年6月15日(水)

早期教育と幼児の発達

―文献名―
須森りか、鈴木克明:早期教育が幼児の発達に与える影響と今後の在り方.東北学院大学教養学部総合研究論文:1999

―要約―
【研究方法】
 文献とインターネットを使った研究論文。国会図書館での雑誌検索、インターネットにて早期教育を検索し独自に書籍やインターネットからの情報をまとめた。
 この論文における早期教育の定義は「胎児から小学校以前の教育でできるだけ早い時期から開始するという志向性を持ち、知的な教育、主にIQを高めることを意図し、働きかけに対する子どもの期待される反応を強く期待して行われる幼稚園や保育園を除いた教育」と定義づける。ここではお稽古ごとや、スポーツ教室は除外する。

【早期教育側の考え】
 知的早期教育の特徴は大脳生理学の考えである「才能逓減の法則」と「右脳教育」という2点がある。
 大脳の発達を年齢で見ると、第1の段階が1歳頃まで、第2の段階が3歳頃まで、第3の段階が6歳から7歳まで、そして第4の段階がそれ以降となっている(三石、1990)。脳が急速に発達を遂げているのは第2の段階までで、3歳頃まで が環境から与えられる刺激により脳の働きの可能性を大きく左右してしまうといわれている。「才能逓減の法則」とは、教育は早く始めるほど 高い能力が育ち、才能が伸びる可能性は年齢とともに急速に減っていくというものである(村松・吉木、1990)。また、「右脳教育」では右脳の働きが活発なのは幼児期で、0歳に近ければ近いほど高度の能力があり、学習意欲も旺盛であると考えている。右脳にはたくさんの能力が隠されており、開発できるのも右脳優位である3歳までが決め手になるのだという(七田、1993)。脳が急速に発達する3歳までの間に外からの刺激を受け止め、パターン化し、記憶するという最も基本的で重要な情報処理の仕組みができる。そのため右脳の働きも3歳までの間がもっとも活発である。上記2つの視点から、早期に教育することで幼児の才能を最高にひきだせるとしている。
 早期教育の教育内容の一つは、パターン認識を利用した「パターン教育」がある。特徴は「理屈抜きに見せる」「繰り返す」「結果は忍耐強く待つ」の3つであり、遊びの形態にしやすく左脳教育と比較し脳の負担が少ない。具体的にはカードを使うことが最良で、カードの使い方は一枚一秒の間隔でパッパッとめくって見せていく。するとこの速さに左脳はついていけないので引っ込んでしまい、右脳に働きを任せる。すると子供たちが生来持っている右脳の働きが優位に働くと説明している。
 アメリカのギルフォードが発表した知能構造論においては、脳には120の知能因子があるという。この知能構造論に基づいての教育法は、言語中枢と密接な関係があるという指先を司る脳を発達させることである。つまり言葉や文字の暗記などのひとつのことに偏らず、指を使うことで脳のいろいろな部分に刺激が与えるので子供の知能が全脳的に開発されるといっている。
 また、親子関係も深まる。早期教育をすることは子供への働きかけの時間が多くなるので、以前よりも子供とのふれあい、スキンシップが増えて、親子関係が深まると主張している。

【早期教育反対派の意見】
 幼児教育には「子供は遊びの中で育つ」という。早期教育でもその遊びを中心とした教材を開発しているが、本来の遊びと早期教育の遊びを取り入れた教材をすることでは本質が違うという。幼児の遊びの世界は、意味や価値の世界と無関係なところで展開される世界である。それに対して早期教育の世界は、この社会がもっている価値や意味の世界を体系化・記号化して子供の中に入れて行くことで成立する世界である。遊び体験は、自分の感情や要求に従いながら、子供自身が「内的ルール」を作り上げることで成立する世界であるのに対して、早期教育の場合は、外部で準備された活動を受動的に受け入れることで成立する世界である(加藤1995)。
 遊びを体験しなかった幼児は、体力がつかず幼児同士のコミュニケーションがないので社会性や協調性も育たず他人の気持ちが理解出来なくなる。遊びに熱中した経験がないと、集中力も育たなくなる。
 また山口(1994)は、早期教育で受動的な学習をしている幼児は自発性、創造性の領域の発達が抑圧されるのではないかと懸念している。幼児は親からの評価を気にして親の期待に沿おうと努力し続けてしまうという「依存的」なパーソナリティーが育ってしまう (高良、1996)。自主性が無く依存的な性格では、自分で自分の道を切り開いて行くことは出来ない(小宮山、1995)。
 早期教育では子供の知能をIQで測定するが、本当の賢さとは子供たちはその年齢にふさわしい形で対象に主体的・能動的に働きかけていく存在にほかならない。自分が体験したさまざまな事実を自分なりの論理でつなげ、それらのあいだに共通性を見つけだし、自分なりの「主観的な概念の枠組み」を形成しながら知的能力を伸ばしていくのである。賢さの本質はこの点にある(加藤、1995)。
 早期教育機関が挙げている大脳生理学の「合理性」に対しては、3歳までの脳の重さが急激に重くなることは確かであるが、それは脳の「構造」ができるだけであって「機能」が発達するわけではないと反論している。乳幼児期には子供自身が興味をもって広義の学習活動を行うことで、その後の脳の発達に影響する。早期教育機関の教材の遊びでは、なんのために覚えなければならないのか本人の自覚がないものでは学習の効果は一時的なものになる(汐見、1996)。
 加藤(1995)は、現在進められつつある早期教育はもっとも現代的な形で組織された管理主義保育の典型であるといっている。早期教育には基本原則が存在し、しかもその原則には一定の方向と順序を認める。その原則は「もっと早く、もっと高く、もっと正確に」である。早期教育が考える「能力観」には、「人間観」が欠如している。

【開催日】
 2015年12月2日(水)

子どもの風邪に抗生剤を処方しないためには

―文献名―
Rita Mangione-smith, et al. Communication practices and antibiotic use for acute respiratory tract infections in children.Annals of family medicine. 2015;3(13):p.221-227.

―要約―
【目的】
 この研究では、小児の風邪(急性呼吸器感染症acute respiratory tract infection;ARTI)の診療における、医師のコミュニケーションと抗生剤処方および親による診療評価との関係について調査した。

【方法】
 ARTIの症状を主訴に受診した小児の診療1285件について横断研究を行った。対象となった小児は2007年12月から2009年4月までの間にワシントン州シアトル市の10の診療所に勤務する28人の小児科医のいずれか1人の診療を受けた。医師は小児の症状・身体所見・診断・治療を診察後調査票に記入し、親は医師のコミュニケーションと診療の評価を診察後調査票に記入する。多変量解析を行い、ARTIに対する抗生剤処方および親の診療評価に対してキーとなる予測因子を特定した。

【結果】(Table 1-4参照)
 子どもの症状をやわらげるために親ができることを提案すること(positive treatment recommendations)は、それ単独で、またnegative treatment recommendations(抗生剤の必要性を否定する)と組み合わせるとさらに、抗生剤処方の減少と関連することがわかった(adjusted risk ratio(aRR) 0.48; 95%CI, 0.24-0.95; and aRR 0.15; 95%CI, 0.06-0.40, respectively)。positive/negative treatment recommendationsの組み合わせを提示された親は診療に対して最高の評価をする傾向にあった。

【結論】
 positive/negative treatment recommendationsを組み合わせることが、ウイルス性のARTIの小児への抗生剤処方のリスクを減らし、同時に診療の評価を高めうる。コミュニティ・個人レベルで抗生剤耐性化の脅威が高まっており、コミュニケーションのテクニックは最前線の医師がこうした問題に取り組む上で助けとなるだろう。

―考察とディスカッション―
 今回の研究では、親が診察前に抗生剤の処方を期待しているかどうかについては評価していなかった。このため前医からの継続処方を期待している親に対象を絞ると結果が変わる可能性はあるが、第1子の風邪での初診などの機会にpositive/negativeを組み合わせて親の教育を行っていくことは重要と思われた。
 positive treatment recommendationsとしてどんな情報提供を行っていますか?

【開催日】
2015年6月3日(水)

ピーナッツアレルギーのリスクのある乳児へのピーナッツ負荷試験

―文献名―

George Du Toit M.B, et.aRandomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergyl. N Engl J Med 2015; 372:803-813February 26

―要約―
背景:
 西欧では小児のピーナッツアレルギーの有病率がここ10年で倍増している。また、ピーナッツアレルギーはアフリカやアジアでもみられるようになってきた。そこで筆者らは、ピーナッツアレルギーのリスクが高い乳児におけるアレルギー発症の予防に対して、ピーナッツを摂取する方法と摂取を回避する方法のどちらが有効かを調べた。

方法:
重度の湿疹、卵アレルギー、またはその両方を有する乳児640人を、生後60ヶ月までの間、ピーナッツを摂取する群(ピーナッツ群)と、摂取を回避する群(回避群)にランダムに割り付けた。対象となった小児は、生後4ヶ月以上11ヶ月未満だった。プリックテストによるピーナッツ抽出物への反応の有無によって、測定可能な膨疹が観察されなかった群と、直径1~4mm膨疹が観察された群に層別化し、ランダム化した。プライマリアウトカムは、生後60ヶ月時点でピーナッツアレルギーを有する参加者の割合とし、群ごとに独立に評価した。

結果:
プリックテストがベースラインで陰性だった530人では、生後60ヶ月時のピーナッツアレルギー有病率は、回避群13.7%、ピーナッツ群1.9% であった(P<0.001)。プリックテスト陽性であった98人では、同様に回避群35.3%、ピーナッツ群10.6%であった (P=0.004)。重篤な有害事象には群間差はなかった。
ピーナッツ特異的IgG4抗体の上昇はピーナッツ群でみられ、回避群では同IgE 抗体価の上昇がみられた。プリックテストでの膨疹がより大きいこと、ピーナッツ特異的IgG4/IgE比がより小さいことは、ピーナッツアレルギーの発症と関連していた。

結論:
ピーナッツに対するアレルギーのリスクが高い小児において、ピーナッツの摂取を早期に開始することで、アレルギーの発症頻度が有意に低下する。

【開催日】
2015年4月15日(水)

ペアレント・トレーニング

―文献名―
「むずかしい子を育てるペアレント・トレーニング」 野口啓示著 明石書店

―要約―
はじめに
 しつけとは、親の愛情を子どもに伝えるための方法である。しかし、しつけには子どもの成長に悪い影響を与えるものと、良い影響を与えるものの2つがあることが分かってきた。子どもに悪い影響が出てしまうしつけは、多くの場合叩いたり、怒鳴ったりといった罰を伴うしつけである。これらは、子どもにしてはいけないことを伝えるというより、親は怖いといった恐怖心を伝えてしまう。それにより子どもの成長に一番大事な親子関係にダメージを与えてしまう。親子関係が悪くなると、親と子のコミュニケーションが悪化し、その結果子どもの問題行動は増加する。その状況は親の苛立ちを強め、罰を伴うしつけを生み出しやすくなる。それによって親子関係はさらに悪化するというバッドサイクルに陥ってしまう。このサイクルが始まると、抜け出すのはなかなか難しく、抜け出すための方法が必要になる。
 この本では、アメリカで生まれたペアレント・トレーニングを日本流にアレンジした10の方法を紹介する。

1.わかりやすく伝えよう [具体的な言い方のすすめ]
 例えば、「今からレストランに行くから、ちゃんとしているのよ」「今日はいい子にしていてね」という表現はどうか。これで子どもが親のしてもらいたいことを理解するのは難しい。「レストランでは走り回らないで、座って食べる」というように、具体的にしてほしい行動を伝えることが重要である。

2.ほめることで悪い面をやっつけよう [良い面を増やして悪い面を減らす方法]
 人はほめられると嬉しくなる。その体験は行動を維持するのに大きな力を発揮する。ほめ方のコツは、①ほめ言葉をかける、②何が良いかを伝える、③理由を説明する、④もう一度ほめ言葉をかける、というステップを意識すると良い。

3.がんばり表を使って子どものやる気を引き出そう
 ほめることに役立つのが「がんばり表」である。具体的な行動を取り上げ、目標をはっきりさせる。それができたら表に○をつける。①子どもが喜んでする行動、②ときどきする行動、③ほとんどしない行動、の3つに分ける。がんばり表を作るポイントは、①子どもが喜んでする行動をうまく取り入れることである。子どもが達成しやすい目標をあげて成功体験をさせて、本当にできてほしい②や③の行動を少しずつ達成させていく。

4.前もってのお約束 [ころばぬ先の練習]
 何かが起こる前に、前もって子どもに言ってきかせる方法を紹介する。ここでは4つのステップで、子どもと約束をする。①子どもにしてほしいことを説明する、②理由を説明する、③練習、④お約束、である。練習をすることで、ただ口で説明するより子どもが教えられたことをするようになる。また、親がしてほしいことを子どもが理解しているのかを確認することができる。

5.まずは落ち着こう [不安感を減らして落ち着きを取り戻すプラン]
 親の苛立ちが強くストレスの高い状況から抜け出すため、落ち着きを取り戻すヒントを紹介する。叩いたり、怒鳴ったりするような状況の時は、我を忘れた状態になっていることが多い。それは状況にうまく対処できないのではないかという不安感が強い時に起こる。そのため少しでも不安感を下げるためのリラックス方法を考えておく。ここでは3つのステップを使う。
①状況の整理   「次に(       )が起こったとき」
②体の変化を察知「私が(       )を感じたら」
③リラックス     「私は(       )をして落ち着きを取り戻します」
この( )を埋めて、落ち着きを取り戻すプランを作成する。

6.行動を分析しよう
 子どもの問題行動を分析する。ポイントは、子どもの問題行動が起こった前後の状況を観察し、何が起こっていたのかを見ることである。子どもの行動が起こる前の状況はどんな状況だったのか、どんな刺激があったのか。それによってどんな行動に至ったのか。行動の後にどんな結果があったのか。結果によって行動は強められたり、弱められたりする。
 実際に行動を変えるためには、良い結果と悪い結果をうまく使い分ける。良い結果を使うのは、前述した「ほめる」「がんばり表を使う」という方法でできるが、悪い結果を使うのはどうか。叩く、怒鳴る、という方法は多くの場合有効ではなく、子どもが「しまった」と思えるものを使う。①特権を取り去る方法(子どもの楽しみに制限を加える)、②責任を取らせる方法(汚したら掃除をするなど、したことを償わせる)などが有効である。

7.怒鳴ったり叱ったりしないで子どもをしつける方法
 これまで紹介した方法を用いて、子どもをしつける。①共感的な表現を使って、問題行動をやめさせる、②悪い結果を使い、「しまった体験」をさせる、③子どもにしてほしいことを説明する、④練習、という4つのステップを使う。

8.危機介入 [親子で身につけるセルフコントロール]
 親が落ち着くための方法は5で説明したが、そのテクニックを子どもにも教える。興奮してくると人の言うことは聞こえなくなるので、親とともに子どもも落ち着きを取り戻す必要がある。ここでのステップは「まずは落ち着く」の第1ステップと、「セルフコントロールを教えるフォローアップ」の第2ステップの2つからなる。

9.子どもの発達と親の期待
 子どもの発達と親の期待がぴったりと合っていれば、そこにストレスはない。しかし、なんだか怒ることが増えているなと感じたら、一度立ち止まって、親としてどのような期待を子どもにしているのか考えてみると良い。
 子どもが言われたことをできない状況には、言われたことが理解できていない状況、実行する力がない状況の2つがある。具体的な表現を使って親の期待を詳しく教えること、そして教えたことを実際にさせてみて、教えたとおりにできるのか確認することで、その期待が適切なものであるのか確認できる。

10.問題解決法 [子どもとの話し合いをうまく行うための方法]
 問題を解決するために、子どもとの話し合いをうまく行うための方法を紹介する。ここでは①子どもが抱える問題を整理する、②どうしたら良いかの案を整理する、③メリットを考える、④デメリットを考える、⑤どうするかを決める、というステップを使う。

【開催日】
2014年12月17日(水)

子どもの運動はどの時期にどのようなことをしたらよいのか?

―文献名―
智原江美:幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方. 京都光華女子大学短期大学部研究紀要 49, 7-17, 2011-12

―要約―
はじめに
 近年、子どもの体力・運動能力は著しく低下しているといわれている。大人にとって便利になった社会環境の変化は子どもが環境に対応する機会や動きを習得する機会をことごとく奪ってしまっている。このような子どもを取り巻く環境の変化の中で、子どもにはどのような遊びや動きを経験させることが望ましいのであろうか。

子どもの体力・運動能力の現状
 愛知県での調査および神奈川県教育委員会による報告書のデータがある。これを用いて幼児の体力・運動能力の変化を概観すると、1969年から1999年の30年間の幼児の体力・運動能力の変化は、一概に低下しているとはいえなかった。特に、体格に関する測定項目である身長は5歳後半男児で1.1cm、体重は1.2kgの増加が見られ、体格が良くなって体格の向上が結果に直接影響するような20m走や、瞬間的に力を発揮すればよいような立ち幅跳び、反復横跳びなどもむしろ向上しているといえる。しかし、苦しい思いをして持久力を測定する懸垂や繰り返し練習をして初めて習得できる動きである投球能力を測定するテニスボール投げなどは大幅な低下傾向が見られた。
 一方、神奈川県教育委員会教育局スポーツ課は1986年、1997年、2002年、2006年の20年間に4回にわたり幼児の運動能力測定を行った。5歳後半男児の測定結果によると、「25m走」では0.25秒、「立ち幅跳び」は約1cm の低下、「テニスボール投げ」と「両足連続跳び越し」はほとんど変化がなく「テニスボール投げ」は高年齢になるほど個人差が大きくなり、記録の二極化傾向が見られる。また「立ち幅跳び」の主要素である「1回動作の強いキック力」は高いが、全力で走るときにはそれをうまく使えておらず、四肢を素早く、力強く、繰り返し動かす「身のこなし」の能力の低下を示している可能性がある。
 これら2 つの報告から考えると、幼児の体力・運動能力のすべてが低下しているとはいえないが、「身のこなしの不器用さ」、「持久力の低下」といった現代の子どもの運動経験がいかに少ないかということが浮き彫りになってくる。

乳幼児期の運動能力の発達
 ガラヒューは運動を発達的な視点からとらえて分類した。ガラヒューが表した「運動発達の段階とステージ」(1999)では、人間の運動は胎児期から1 歳ごろまでは「反射的な運動の段階」、3 歳ごろまでは「初歩的な運動の段階」、10 歳ごろまでは「基本的運動の段階」、10 歳以降は「専門的な運動の段階」とそれぞれのステージを経て発展していくと述べている。
 一方、身体の発達についてみてみると、スキャモンの発育曲線(1930)では身体の各器官、臓器の発育は大別すると四つのパターンに分類される。そのうち運動能力の発達に大きく関わるものは、一般型と神経型であり、特に乳幼児期の特徴として神経系型の発達が非常に顕著である。
 また、ブラウンは「子どもの運動技能発達のピラミッド」(1990)を表し、1~5歳頃までの「基本動作」を習得する段階と、5~7歳頃までの「より複雑な動作への移行」する時期との間には『運動技能熟達の障壁』が存在すると述べている。「基本動作を5歳ごろまでに経験しないと、成長にともなう向上に障壁ができ、新しい『技術』の獲得が困難になる」と警告を発している。また「幼児のうちにさまざまな動きを体験する機会を、親を中心とした周囲の人たちが積極的に与えなければ、潜在的には獲得可能なはずの運動の『技術』が身につきにくくなってしまう」とも述べている。
 このように、3~6歳までの幼児期は、運動発達の過程から見ても非常に重要な時期であり、その環境を整えることも重要である。

幼児期の3つの運動課題
 第1点はさまざまな「体位感覚」を経験することである。体位感覚とは自分の体が現在どのような状態であるかを把握したうえで、どのようにすれば通常の状態に戻ることができるかを考え実行できる能力である。たとえば頭部が腰の位置より下になるような逆立ちの状態から通常の頭部―胴体―脚部といった体位に戻すことができるような逆さ感覚や、マット上での前・後転の際に、また、鉄棒での逆上がりや前転の際に、自分のからだの状態を正確に把握し身体を回転させて通常の状態に体位を戻すことのできる回転感覚といった能力である。これらは体全体に占める頭部の割合が大きいため重心が上部にあり、また、神経系の発達する時期である幼児期に比較的容易に習得することのできる感覚である。これらの逆さ感覚や回転感覚などは器械運動や園庭・公園の固定遊具で遊ぶことで習得しやすい動きである。
 第2点は「歩く・走る」量の確保があげられる。移動の手段を車にたよっている今日の社会において大人も子どもも運動量が格段に減少している。子どもの体をつくるための運動量確保のためにも、日常の活動でできる限り歩いたり走ったりする量の確保が大切である。これは幼稚園や保育園に通う子どもにとっては保育環境の整備や、自然と子どもの活動量が多くなるような興味ある教材の提供が鍵である。
 第3点はいろいろなリズムで動くことの経験である。人間の通常の動きは歩くという2拍子の動作が基本となると考えられるが、例えばスキップやギャロップ、3拍子の動きなどの体全体でさまざまなリズムを体験、表現することがあげられる。これも神経系が達する幼児期がもっとも習得しやすい時期である。
 幼稚園・保育園や家庭における日常の遊びの中で幅広い運動遊びを経験することにより自然に多くの動きを習得することが望ましい。また、運動遊びの中で重要なことは、運動の楽しさを味わい自発的に運動に取り組む意欲が持てるような環境の設定、教材の提供、保育者のかかわりが重要になる。体を動かすことの楽しさや爽快さを経験することが生涯にわたって運動する習慣の基本となるであろう。

【開催日】
2014年9月3日(水)

小児在宅医療の展開

―文献名―
「改訂2版 医療従事者と家族のための小児在宅医療支援マニュアル」MCメディカ出版 2010年  船戸正久、高田哲 編著

―要約―
推薦のことばより抜粋
子どもの本質は成長と発達にあるが,その基盤は家庭・社会の場における人間交流と生活・学習体験である.病院や施設で提供できるものには大きな限界があり,そのため入院生活を極力避けることが子ども医療の鉄則である(「病院における子どもに関するヨーロッパ憲章 第1項」,EC議会採択,1986).つまり在宅医療の推進は小児医療提供のあり方の原点とつながっている.

P15 表 病院(医療)と在宅(家庭)の利点と欠点

140702

これらのリスクとベネフィットをよく理解したうえで,在宅への移行を行うか否かの「自己決定」または「子供の最善の利益」に基づく家族の判断が重要となる.

 P24 小児の在宅医療
患者調査によると,小児(0~14歳)の通院・往診を含む外来受診数は全年齢の10.2%であるが、往診に限ると全年齢の1.7%に過ぎず、訪問診療に限ると全年齢の0.5%に過ぎない.
また、小児の在宅医療に関する医療機関側の認識は,71.4%がその供給体制は「不十分」であるが、約88%が「ニーズがある」と答えている.実際に小児の在宅医療を提供する医療機関がとっている連携については,「緊急入院に対応するための連携」(65.6%),「夜間・24時間診療体制を確保するための連携」(56.3%)が多く,在宅医療を行う医療機関の約6割が「小児のほうが成人に対する在宅医療より困難な点がある」と回答している.一方,患者側の認識は,一般の患者と比べて小児患者の「在宅療養できる」割合が78.1%と高く、「在宅療養できない」割合は7.5%とかなり低い.

P168 家族が望む援助より抜粋
私たちの望みは,たんの吸引等の「医療行為」が必要な子どもたちの「命」と「思い」を大切にしたサポートであり,どんな障害があっても地域の中で自立して当たり前に生活できる社会の実現である.

P191~ 在宅療養支援診療所の役割より抜粋
超重症児のうち,70%が在宅療養中であるが,訪問診療を受けている子どもはわずか7%,訪問看護を受けている子どもでも18%で,ホームヘルパーを利用しているのはわずか12%に過ぎない.また,全体の15%が,急性疾患で入院した後,そのまま入院を続けていると報告されている.

全国の11,928ヶ所の在宅療養支援診療所に小児在宅医療に関するアンケートを実施したところ,1409ヶ所からの回答があり,その中で19歳までの小児を在宅で診療したことのある診療所は367ヶ所で,26%であった.19歳までの小児を10人以上診療したことのある診療所は31ヶ所で,2.2%であった.まだまだ小児在宅医療が,在宅療養支援診療所の中で浸透していないのが現状といえる.

困難な問題を多く抱えた小児在宅医療だが,その困難さを超えて実施する意義は,どのようなものか.それは子どもが自宅で家族とともに生活することを実現するということに尽きる.多くのケースで,自宅で家族とともに生活するとき,子どもたちから,病院では見られない成長,発達の力が引き出され,家族は安定する.小児在宅医療が,病院の稼働率や,医療財政の面からのみでなく,第一義に子どもと家族のQOLの面から推進されるべきであると考える.

【開催日】
2014年7月2日(水)

発達障害児に対するアプローチ

―文献名―
岩間真弓、市河茂樹.かかりつけ医がみていこう common diseaseとしての発達障害.治療.2014;4.Vol.96.増刊号:556-557ページ

―要約―

【はじめに】
2012年度の文部科学省の統計では、発達障害がある児童は全児童の6~9%であることが示された。発達障害は、診断や治療において専門性の高い判断が必要な場合もある。一方、発達障害児の日々の生活のアドバイスや健康相談については、なかなか受診できない専門施設だけでなく、児の住む地域のプライマリ・ケア医が積極的に関わっていくことは大切であり、今後ますます求められていくだろう。

【発達障害とは】
自閉症、アスペルガー症候群その他の汎用性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの(2004年の発達障害者支援法)。
特性に応じた支援が受けられれば、十分に能力を発揮できる可能性がある。

a.自閉症
自閉症の児は発語が遅い、対人意識が弱い、かんしゃくが強いということで保護者から相談を受ける事が多い。成長発達の中で、児の言語、運動、社会性の発達にはマイルストーンがあるが、そこから外れているようであれば、まず1~2ケ月後に、成長が認められるかをしっかりとフォローする。そして表1(言語評価を行うべきred flags)に当てはまるようであれば、耳鼻科、言語聴覚士、地域の発達障害者支援センターに紹介しながら言語評価を開始する。対人面やこだわり、コミュニケーションの取り方について早期に関わっていくことで、児がより安心して成長することが可能となる。

b.注意欠陥多動性障害
じっとしていられない、順番が待てない、忘れ物が非常に多いといったことに、保育園や幼稚園などの集団生活の中で気付かれ、相談される事が多い。ただ、「落ち着きのない子」で終わるのではなく、どうしてそのような行動になっているのかを見極め、周囲にも伝える事が大切。伝える情報はなるべく少なくシンプルにする等、本人に合わせた情報の入力の仕方をすることで生活しやすくなる。

【適切な支援】
発達障害とは児の生まれ持った特性であり、治療して治す疾患ではない。また、決まった対応方法があるわけでもなく、児の特性とライフステージに合わせた支援を、医療、保健、福祉、教育および労働などの各関係機関が連携を図りながら提供していく必要がある。各都道府県に、発達障害者支援センターがあるほか、各自治体の子育て支援課が相談を受け付け、近くの療育機関を紹介してくれる。支援における医療の役割としては、医師による診断、特性に合わせた育児方法のアドバイス、薬物療法、言語聴覚士・作業療法士や児童心理士による言語・行動療法や感覚統合訓練などが挙げられる。ADHDに対して治療薬もあり、注意力の向上に一定の効果が期待出来る。発達が気になる児やその育児者の相談に乗り、児にあったリハビリ、子育て支援機関を紹介し療育を開始する。診断が困難な場合は発達支援外来に紹介している。専門医、言語聴覚士、作業療法士、保健師、教員などが集まって児の事を話し合うカンファレンスを実施する。

【おわりに】
発達障害児の診療といっても医師1人の力だけでは出来る事は限られている。日常診療の中で、かかりつけ医が児やその育児者の悩みに気づき、その児にあった支援につなげていく流れをリードしていくことで、児1人ひとりが生まれ持った特性を安心して十分発揮するためのお手伝いができるのである。専門医に紹介した後も、かかりつけ医としてこまめに関わり続けていけば、常に「その児の専門家」として近くで成長を応援し、児がのびのびと成長出来る地域づくりを推進していく事が出来る。

―ディスカッション―

発達障害児に対するアプローチ、支援方法が紹介され、我々家庭医の関わりについても述べられている。寿都での最近の取り組みとしては、5歳児健診前に、家庭医、役場保健師、保育園保育士が集まり、情報の共有をするようにして、すでに診断されている児の最近の動向や、疑いがある児に対する対応策を検討し、健診での対応の改善につなげた。疑わしい児は、家族と相談し、専門医に紹介し、診断がつけば、その後の支援につながっている。しかし、その後、我々家庭医が、紹介した専門医や療法士、児童心理士とうまく連携して、児の特性に合わせた対応が統一して出来ているとはあまり感じられない。今後、このような専門家との密接な連携がより求められるのはないかと感じた。

開催日:平成26年4月16日

① 小児期の肥満,その他の心血管リスクファクター,そして早期死亡 ② 炭酸飲料消費量の減量による小児期の肥満予防:クラスターランダム化試験

- 文献名 -
① Paul W. Franks, Ph.D., Robert L. Hanson, M.D., M.P.H., William C. Knowler, M.D., Dr.P.H., Maurice L. Sievers, M.D., Peter H. Bennett, M.B., F.R.C.P., and Helen C. Looker, M.B., B.S., 
Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death, 
N Engl J Med 362;6 nejm.org February 11, 2010
② Janet James, Peter Thomas, David Cavan, David Kerr, Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial, BMJ. 2004 May 22; 328(7450): 1236.

 - この文献を選んだ背景 -
上川町の保健師さんとの定例会議で小学生の肥満が話題になり,北海道ブロック支部の地方会でも別海町における小児の肥満対策の発表があったので,小児期の肥満について自分なりに調べてみた.まず,小児期の肥満が介入すべき問題なのか?ということと,介入する方略として論文にまとめられているものを調べてみた.研究デザインとしても興味深かったので,今回は2つの文献を取り上げた.

 - 要約 -
① Childhood Obesity, Other Cardiovascular Risk Factors, and Premature Death
BACKGROUND
The effect of childhood risk factors for cardiovascular disease on adult mortality is poorly understood.

METHODS
In a cohort of 4857 American Indian children without diabetes (mean age, 11.3 years; 12,659 examinations) who were born between 1945 and 1984, we assessed whether body-mass index (BMI), glucose tolerance, and blood pressure and cholesterol levels predicted premature death. Risk factors were standardized according to sex and age. Proportional-hazards models were used to assess whether each risk factor was associated with time to death occurring before 55 years of age. Models were adjusted for baseline age, sex, birth cohort, and Pima or Tohono O’odham Indian heritage.

RESULTS
There were 166 deaths from endogenous causes (3.4% of the cohort) during a median follow-up period of 23.9 years. Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of BMI were more than double those among children in the lowest BMI quartile (incidence-rate ratio, 2.30; 95% confidence interval [CI], 1.46 to 3.62). Rates of death from endogenous causes among children in the highest quartile of glucose intolerance were 73% higher than those among children in the lowest quartile (incidence-rate ratio, 1.73; 95% CI, 1.09 to 2.74). No significant associations were seen between rates of death from endogenous or external causes and childhood cholesterol levels or systolic or diastolic blood-pressure levels on a continuous scale, although childhood hypertension was significantly associated with premature death from endogenous causes (incidence-rate ratio, 1.57; 95% CI, 1.10 to 2.24).

CONCLUSIONS
Obesity, glucose intolerance, and hypertension in childhood were strongly associated with increased rates of premature death from endogenous causes in this population. In contrast, childhood hypercholesterolemia was not a major predictor of premature death from endogenous causes.


② Preventing childhood obesity by reducing consumption of carbonated drinks: cluster randomised controlled trial
OBJECTIVE
To determine if a school based educational programme aimed at reducing consumption of carbonated drinks can prevent excessive weight gain in children.

DESIGN
Cluster randomised controlled trial.

SETTING
Six primary schools in southwest England.

PARTICIPANTS
644 children aged 7-11 years.

INTERVENTION
Focused educational programme on nutrition over one school year.

MAIN OUTCOME MEASURES
Drink consumption and number of overweight and obese children.

RESULTS
Consumption of carbonated drinks over three days decreased by 0.6 glasses (average glass size 250 ml) in the intervention group but increased by 0.2 glasses in the control group (mean difference 0.7, 95% confidence interval 0.1 to 1.3). At 12 months the percentage of overweight and obese children
increased in the control group by 7.5%, compared with a decrease in the intervention group of 0.2% (mean difference 7.7%, 2.2% to 13.1%).

CONCLUSION
A targeted, school based education programme produced a modest reduction in the number of carbonated drinks consumed, which was associated with a reduction in the number of overweight and obese children. 

 - 考察とディスカッション -
①の文献では,対象が限定されたコホート研究であり,一概に日本人の小児に適応することはできないが,人種の系統としては近いと考えられるため,小児期の肥満は介入すべき問題と考えられた.②の文献は,フェローで行う研究のヒントになりそうな研究デザインで,地域コミュニティケアの取り組みとしても興味深く感じられた.
そこで,各サイトでの小児期の肥満に対する取り組みなどについて,共有やディスカッションをしたいと思った.

開催日:平成25年12月18日

子供はCTによる被曝によって、どのような影響を受けるか?

- 文献名 -
 Mark S Pearce et al:Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study.Lancet. 2012 August 4; 380(9840): 499-505.

- この文献を選んだ背景 -
 当診療所ではCT検査が可能である。年に数人は小児のCT検査を施行することがある。今回CT検査から受ける放射線により、白血病、脳腫瘍の発生に対する影響を評価するコホート研究が発表されたため、紹介したい。

- 要約 -
【背景】
 CTは臨床的に非常に有用である一方で、電離放射線に関連した潜在的な発癌リスクが存在する。しかも大人よりも子供は放射線への感受性が強い。今回子供と若年成人のコホートでCTスキャン後の白血病と脳腫瘍の存在を評価したい。今までCT施行後の患者における発癌リスクの直接的な研究はなかった(新奇性)。
【方法】
 後ろ向きコホート研究で、1985年から2002年にイングランド、ウェールズ、スコットランドのNHSにおいてCT検査を受けた、当時22歳以下の方で、過去に癌の診断を受けていない患者を対象とした。1985年1月1日から2008年12月31日までにNHS名簿から癌発現率、死亡、フォローアップ不能のデータを採取した。CTスキャンごとに脳と赤色骨髄に吸収された線量(mGy)を計算し、ポワソン相対危険モデルで白血病と脳腫瘍の過剰発現を評価した。癌を疑った際の診断目的に施行されたCTの算入を避けるため、初回のCT検査から白血病の診断に至った期間が2年間、脳腫瘍であれば5年間以下の者は除外した。
【結果】
 追跡期間中に178,604人の患者のうち74人が白血病と診断され、176,587人の患者のうち135人が脳腫瘍の診断に至った。CTスキャンと白血病に関連のある放射線濃度はERR/mGyは0.036(95%CI0.005-0.120;P=0.0097) であり、脳腫瘍では過剰相対リスク0.023(0.010-0.049;P<0.0001)であった。5mGy以下の線量を受けた患者と比較して、少なくとも累積30mGy(平均51.13mGy)の被曝をした患者では白血病の相対危険度は3.18(95%CI1.46-6.94)であった。また累積50-74mGy(平均60.42mGy)の被曝をした患者では脳腫瘍の相対危険度は2.82(1.33-6.03)であった。 【解釈】  小児が約50mGy(脳CT5~10回)の累積被曝をした場合、白血病のリスクが約3倍で、脳腫瘍においては約60mGy(脳CT2~3回)で3倍になる。これらの癌はまれなものである故、累積寄与危険度は低い。10歳以下の小児で初回のCT検査から10年間において考えてみると、10,000回の頭部CT検査で1人の白血病、1人の脳腫瘍が生じる計算となる。臨床的な利点が相対危険度を上回ることは確かだが、CT検査の放射線濃度は可能な限り低く保つべきあり、妥当性があるのであれば電離放射線を生じない他の方法を考慮すべきである。 参考 相対リスク(RR)と過剰相対リスク(ERR)       一般的な疫学研究において2つ以上の集団でリスクを比べる時、非曝露群と比べて曝露群が「何倍」のリスクがあるのかをみるのが相対リスク(RR: relative risk)で、1以上であれば曝露群のリスクが高く、1以下であれば曝露群のリスクが低い。例えば、被曝線量がゼロの集団における疾患Aの発生リスクが10万人あたり2人で、被曝線量が1 Svの集団では10万人あたり5人だった場合、単純なRRは5/2=2.5倍となる。しかし、放射線被ばくのリスク評価では、放射線を浴びることによって単位線量当たりどのくらい過剰にリスクが上昇したのかをみる過剰相対リスク(ERR: Excess relative risk / 1Sv)という指標が用いられることが多い。上記の例では、単純なERRは(5-2)/2=1.5となり、被曝線量1 Sv浴びると1.5倍過剰に発生リスクが上昇することを意味する。しかし、実際の被曝者集団における解析では、被ばく線量、被ばく時年齢、被ばくからの経過時間、現在の年齢、性別などの、様々な因子を考慮して解析されている点に注意が必要である。 開催日:2012年8月29日